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西の陣Ⅰ

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 矢の雨に続いて銃声が響き渡ったると、景山と後藤は、さらに身を低くして駆けた。
 火縄銃から放たれた鉛弾は、よけることも刀で弾くことも不可能である。
 当たらないと自身に言い聞かせ、運を天に任せて走る以外に、回避する方法は無かった。
 
 銃声に紛れ、背後からメキメキと建材が裂ける音がし、ぐりふぉむの声が響いた。
 コーーーッカカカカッ。
 声が迫ってくる。
 風雷神門の大提灯を破壊し、魔獣は自由になったようであった。

 景山と後藤は、大提灯が破壊される前に、距離を稼いでいた。
 しかし、逃げ場が無かった。
 前方は、びっしりと並んだ置き盾で封鎖されていたのだ。
 左右に視線を走らせても隙間は無い。
 風雷神門を中心とした半円形の包囲陣は、どこも頑丈な置き盾で封鎖されている。

 ……どうする。
 景山が唇を噛んだとき、前方の置き盾が、ザッと左右に開いた。
 それどころか、長槍を持つ雑兵や武者が飛び出してくると、景山と後藤を守るように散開した。
 「今の内にッ!」
 「さあッ!」
 
 声を出す雑兵たちの手が伸びると、景山、後藤の腕をつかみ、一気に包囲陣の内側へと引きずり込んだ。
 外に散開していた槍兵や武者も、包囲陣の中に素早く戻ると、再び置き盾が動き、開いた穴は閉じられた。

 「怪我は無いか?」
 「ぬしら、見事であった」
 包囲陣の内に戻った、武者姿の旗本たちが、高揚した顔で、景山と後藤に声を掛ける。

 「助かりました」
 「どうぞ、口をすすいで下さい」
 景山が礼を言うと、雑兵の手から、水の入った竹筒が渡された。
 後藤も、別の竹筒を受けとり、口をつけている。
 怪物の前では、旗本も御家人も雑兵も関係なかった。

 「化け物は?」
 竹筒から口を離し、後藤が盾兵の方に顔を向けた。
 ぐりふぉむが二人を追ってきたならば、すでに盾兵と接触しているはずであった。
 が、その様子は無い。
 銃声もすでに聞こえない。
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