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二十一日目
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俺は、X国の親父宛に手紙を書いた。まさかの、今さらの見舞い返し……と短く言うと別の意味になりそうだ。ようするに、紅葉狩りの時に見舞いの花が届いたが、アレのお礼状ってヤツだ。
「二人で街へ出かけるのは、はじめてだね」
「そうですね」
馬車を降りたのは、城下町の中央広場の前だった。殿下は顔を隠すためあやしげな覆面姿だが、本人は気にしてる様子はなく、むしろ楽しんでるようにも見える。
ブラブラ歩きながら、久しぶりの外を満喫する……我ながら現金だとおもうが、これまでずっと王宮や奥離宮辺りにこもっていたから、こんな機会は滅多にないから堪能したい。
「用事が済んだら、お茶でもどう? おいしいケーキを出す店があるよ」
殿下は、俺が甘いもの好きと誤解したままのようだ。正直、嗜好品を口にすることに、まだ慣れてない。そのうち食べることに慣れちゃって、しかも可能性は低いが、好きになってしまった暁には、国に帰って苦労するはめになる。
(しかも俺、まだあきらめてねーからな)
殿下が指摘した通り、俺はいろいろあきらめてない。生きることはもとより、国へ帰って再び傭兵として次の任務に着くという、まあ実現の可能性が低いやつばっかだが。でも、俺が頭の中で何を望もうと自由だから、好きにさせてもらう。
(それに今ならまだ、引き返せそうだもんな)
殿下とは、まだ一線を越えてない。だから俺には、辞退のチャンスが残されてると思ってる。
殿下は俺にとことん甘く、待てと言えばきっといつまでも待ってくれそうだ。そもそも俺を抱くのは、戴冠式が終わってからだと言ってた。つまりあと十日は猶予がある。その間にできそうなことは、できる限り試してみたいと思った。
公園には入らず、周囲をグルリと旋回する俺に、隣の殿下は機嫌良さそうについてくる。気候はおだやかで、暑くも寒くも感じられず、とても動きやすい。
「本当に、郵便局じゃなくていいの?」
「大した手紙じゃ、ありませんから……あ、ほら郵便ポスト見つけましたよ」
親父へのお礼状なんて、何をやってんだか。でも殿下はうれしそうで、散歩がてら街のポストに投函したいと言ったら、あっさり奥離宮から出してくれた……ただし、殿下も同行してるけど。
中は本当に単純なお礼と、それからみんな元気ですかという言葉のみ。それだけで親父は察する。というか、親父の側近が開封して読んだ時、察するはずだ。
(『みんな元気ですか』なんて、ホント白々しいよな……)
これは応援を呼ぶ際の暗号で、『みんな』は直前の任務に参加してた面子を指す。だが本気で応援を呼びたいわけじゃなくて、あの任務に着いていた仲間の現状を知りたいだけだ。
俺は別に、ワイダールに協力しようと思ったわけじゃない。ただ、あの中に殿下の命を狙うやつがいるとすれば、Y国に対してとんだ裏切り行為になる。
発覚すれば、殿下の護衛としての俺の立場も、親善大使として滞在してるウルスの立場も危うくなる。でも何より、殿下が傷つくだろう。だから発芽する前に、悪い芽は摘んでしまわないといけない。
「また、難しい顔してるね」
「え、あ……いやこれは」
「僕は、君に笑ってて欲しいだけなのに、なぜこうもうまくいかないのかな。おいしいお菓子も、あたたかいベッドも、あまり君の心には響かないようだ」
「それは違います、俺はとっても癒されてますよ。今日もケーキ食べるの楽しみです」
「ふふ、嘘つき」
頭をひと撫でされた。一体殿下は、俺のことをどこまで分かっているのだろう。もしかして、何もかもバレてるのかもしれない。
(だとしても、結局は殿下にとって悪い話じゃない。すべては、あなたを守るためなんだ)
俺は心の中でそんなもっともらしい言い訳をしながら、街の喧騒を見るともなしに眺めていた。
その日の夜。たっぷりケーキを食したせいで夕食は入らないであろう腹を抱えて帰宅すると、俺宛に手紙が届いていた。
まさか今日の今日で返事が来たのかよ、と一瞬素直に信じかけたが、よく見ると差出人はウルスで、なんでもこちらへ遊びに来たいといった内容だった。
(ウルスにも、今の状況を伝えたかったから、ちょうどいいな)
自分の身が危うくなるかもしれないと知ったら、ウルスも知恵を絞って、多少なりとも動いてくれるだろう。俺はこの通り、奥離宮にほぼ軟禁状態で動けないから、なにかしら調べることが出てきたら、ウルスに頼るしかない。
「ああ、友達を呼ぶくらいは構わないよ?」
殿下に、ウルスをお茶に招いていいかと聞いてみたら、あっさり許可が降りた。てっきりもっと反対されるかと思ったから、ちょっと拍子抜けした。なんといっても、ここは……認めたくはないが……殿下と俺、二人だけのプライベート空間ぽいわけで。
(いや、ワイダールは来てたな)
だがアイツは特別枠だ。かつてアイツのおばあさんが、ここで殿下のお世話をしてたようだし、アイツも昔からここに出入りしてる口振りだった。しかも今後もきっと、仕事がらみでここへ訪れるだろう。まあ宰相補佐という立場上、Y国の表裏両方の事情に精通してても不思議じゃない。
(とにかく、返事を書くか)
夕食後、殿下が溜まった仕事を片付ける為しぶしぶ奥離宮を離れたので、その間に返事を書いてしまおうと、客間のライティングデスクに向かった。
「その必要はないよ」
「……っ!」
ありえない声に振り返ったら、後ろにウルスが立っていた。
「呼ばれる前に、来ちゃった。なあ、早く話を聞かせろよ」
「二人で街へ出かけるのは、はじめてだね」
「そうですね」
馬車を降りたのは、城下町の中央広場の前だった。殿下は顔を隠すためあやしげな覆面姿だが、本人は気にしてる様子はなく、むしろ楽しんでるようにも見える。
ブラブラ歩きながら、久しぶりの外を満喫する……我ながら現金だとおもうが、これまでずっと王宮や奥離宮辺りにこもっていたから、こんな機会は滅多にないから堪能したい。
「用事が済んだら、お茶でもどう? おいしいケーキを出す店があるよ」
殿下は、俺が甘いもの好きと誤解したままのようだ。正直、嗜好品を口にすることに、まだ慣れてない。そのうち食べることに慣れちゃって、しかも可能性は低いが、好きになってしまった暁には、国に帰って苦労するはめになる。
(しかも俺、まだあきらめてねーからな)
殿下が指摘した通り、俺はいろいろあきらめてない。生きることはもとより、国へ帰って再び傭兵として次の任務に着くという、まあ実現の可能性が低いやつばっかだが。でも、俺が頭の中で何を望もうと自由だから、好きにさせてもらう。
(それに今ならまだ、引き返せそうだもんな)
殿下とは、まだ一線を越えてない。だから俺には、辞退のチャンスが残されてると思ってる。
殿下は俺にとことん甘く、待てと言えばきっといつまでも待ってくれそうだ。そもそも俺を抱くのは、戴冠式が終わってからだと言ってた。つまりあと十日は猶予がある。その間にできそうなことは、できる限り試してみたいと思った。
公園には入らず、周囲をグルリと旋回する俺に、隣の殿下は機嫌良さそうについてくる。気候はおだやかで、暑くも寒くも感じられず、とても動きやすい。
「本当に、郵便局じゃなくていいの?」
「大した手紙じゃ、ありませんから……あ、ほら郵便ポスト見つけましたよ」
親父へのお礼状なんて、何をやってんだか。でも殿下はうれしそうで、散歩がてら街のポストに投函したいと言ったら、あっさり奥離宮から出してくれた……ただし、殿下も同行してるけど。
中は本当に単純なお礼と、それからみんな元気ですかという言葉のみ。それだけで親父は察する。というか、親父の側近が開封して読んだ時、察するはずだ。
(『みんな元気ですか』なんて、ホント白々しいよな……)
これは応援を呼ぶ際の暗号で、『みんな』は直前の任務に参加してた面子を指す。だが本気で応援を呼びたいわけじゃなくて、あの任務に着いていた仲間の現状を知りたいだけだ。
俺は別に、ワイダールに協力しようと思ったわけじゃない。ただ、あの中に殿下の命を狙うやつがいるとすれば、Y国に対してとんだ裏切り行為になる。
発覚すれば、殿下の護衛としての俺の立場も、親善大使として滞在してるウルスの立場も危うくなる。でも何より、殿下が傷つくだろう。だから発芽する前に、悪い芽は摘んでしまわないといけない。
「また、難しい顔してるね」
「え、あ……いやこれは」
「僕は、君に笑ってて欲しいだけなのに、なぜこうもうまくいかないのかな。おいしいお菓子も、あたたかいベッドも、あまり君の心には響かないようだ」
「それは違います、俺はとっても癒されてますよ。今日もケーキ食べるの楽しみです」
「ふふ、嘘つき」
頭をひと撫でされた。一体殿下は、俺のことをどこまで分かっているのだろう。もしかして、何もかもバレてるのかもしれない。
(だとしても、結局は殿下にとって悪い話じゃない。すべては、あなたを守るためなんだ)
俺は心の中でそんなもっともらしい言い訳をしながら、街の喧騒を見るともなしに眺めていた。
その日の夜。たっぷりケーキを食したせいで夕食は入らないであろう腹を抱えて帰宅すると、俺宛に手紙が届いていた。
まさか今日の今日で返事が来たのかよ、と一瞬素直に信じかけたが、よく見ると差出人はウルスで、なんでもこちらへ遊びに来たいといった内容だった。
(ウルスにも、今の状況を伝えたかったから、ちょうどいいな)
自分の身が危うくなるかもしれないと知ったら、ウルスも知恵を絞って、多少なりとも動いてくれるだろう。俺はこの通り、奥離宮にほぼ軟禁状態で動けないから、なにかしら調べることが出てきたら、ウルスに頼るしかない。
「ああ、友達を呼ぶくらいは構わないよ?」
殿下に、ウルスをお茶に招いていいかと聞いてみたら、あっさり許可が降りた。てっきりもっと反対されるかと思ったから、ちょっと拍子抜けした。なんといっても、ここは……認めたくはないが……殿下と俺、二人だけのプライベート空間ぽいわけで。
(いや、ワイダールは来てたな)
だがアイツは特別枠だ。かつてアイツのおばあさんが、ここで殿下のお世話をしてたようだし、アイツも昔からここに出入りしてる口振りだった。しかも今後もきっと、仕事がらみでここへ訪れるだろう。まあ宰相補佐という立場上、Y国の表裏両方の事情に精通してても不思議じゃない。
(とにかく、返事を書くか)
夕食後、殿下が溜まった仕事を片付ける為しぶしぶ奥離宮を離れたので、その間に返事を書いてしまおうと、客間のライティングデスクに向かった。
「その必要はないよ」
「……っ!」
ありえない声に振り返ったら、後ろにウルスが立っていた。
「呼ばれる前に、来ちゃった。なあ、早く話を聞かせろよ」
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