667 / 687
9章 雪解けと弟たちと新店舗
57
しおりを挟む「一応工夫して美味しくしたつもりだったんですけど、干し肉は干し肉です……」
「……私も、今年の干し肉は飽きないだろうと思ってたが――人間の慣れと欲には際限が無いようだな?」
「……慣れというか飽きというか」
私がそう言いながら肩をすくめると、クスリと笑っていたエルベルトさんだったが、ふと真面目な顔つきになって私の方に向き直った。
「ダリア、だが干し肉を作らないという選択をしてはいけない。 ――この街では過去に何度も雪深い冬籠りになり、食糧難に陥っている。 その時、人々の命を繋いできた食材の一つが干し肉だ。 ……余らせたら後悔すると言うことはみんな覚悟の上で作り続けるのは、餓死が怖いからだ。 たとえどうなってしまったとしても家族が生き延びられるだけの蓄えをしておくように」
「……分かりました。 ――……でもその考えでいくと、宿舎で準備する干し肉の量、大変なことになりません……?」
「――なる。 だが、多くは非常事態の場合に備えて保存しておくものになる。 宿舎でだけの消費にはならない、というのが唯一救いだな」
「……え、じゃあうちの干し肉も持って行きます?」
もうこの際、お金にならなくても干し肉を処分できるならその手段を喜んで選びますけど?
捨てるのは忍びないから却下として、私がタダで配るのも商品価値を下げそうでイヤ。
スラムとかで炊き出しをやってるところに寄付とかするのも――とかいう考えもチラッと浮かんだけど……
この世界の炊き出しって、貴族が自発的に好き勝手やる……いわゆる平民たちの人気取り、好感度UPのためのツールでしかないから、平民のしかも孤児の女の子が少しの干し肉差し出して『炊き出しとかすごいですね! 私も手伝いたいんでこれ良かったら使ってください!』とか言ったって、絶対に有効活用なんかしてくれないだろう。
……運が悪かったら私の身が危ないし、運良くすんなり渡せたとしても、おそらくゴミとして扱われるんだろうな、って思ってる。
つまりどっちに転んでもこの手は使えない。
しかし兵士たちに、西門に寄付すればどうにか処分してもらえるっていうなら、私はうちに残る全ての干し肉を寄付することだってやぶさかではありませんよ!
「……ダリア、全てを消費するわけではないと言っただけで、消費しないとは言ってない。 そもそもこのミンチ肉に混ぜてしまえば兵士たちの不満を大きく減らすことができる、という話をしていただろう?」
「あ、そうでしたね……? ――すいません。 引き取ってもらえたらうちの干し肉の処理が一気に終わるんだ! って嬉しくなっちゃって……」
私の言葉にエルベルトさんは困ったように笑い、小さく肩をすくめた。
1
あなたにおすすめの小説
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです
志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑!
10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。
もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。
(頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
この度、青帝陛下の運命の番に選ばれまして
四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
【完結】婚約者なんて眼中にありません
らんか
恋愛
あー、気が抜ける。
婚約者とのお茶会なのにときめかない……
私は若いお子様には興味ないんだってば。
やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?
大人の哀愁が滲み出ているわぁ。
それに強くて守ってもらえそう。
男はやっぱり包容力よね!
私も守ってもらいたいわぁ!
これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語……
短めのお話です。
サクッと、読み終えてしまえます。
【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい
マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」
新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。
1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。
2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。
そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー…
別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる