成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世

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「……お散歩とかでも?」
「おーいいね!」

 おずおずと言ったリアーヌの答えに、ゼクスは少々大袈裟に賛成してみせる。
 散歩がてら、自分の目でこの村を確認するのもいい案だと考えたためだ。

「ーー先ほどのご婦人がたが、この村を登っていった先には崖があり、そこからは見える、海に沈む夕日がとても美しいのだとおっしゃっておられました」

 アンナはゼクスに向かって軽く頭を下げながら控えめに説明する。

「夕日!」
「見にいこっか?」

(珍しく食べ物以外の単語でリアーヌの瞳が輝いたな……?)と、失礼なことを考えながらゼクスは笑顔を浮かべてリアーヌを誘った。

「ーー……ご案内は必要でしょうか?」

 リアーヌでもはっきり分かるほどに、実に面倒臭そうに、しかし自分たちの落ち度にならないよう、渋々……といった態度でディーターは質問を口にした。

 ほんの一瞬だけ、ただただディーターへの嫌がらせのためだけに案内を頼んでやろうか……と心をささくれ立たせたゼクスだったが、これ以上こちら側の印象を下げてもなんの得もないか……と、思い直し、ニコリと笑顔を貼り付けると拒絶の言葉を口にする。

「いりませんよ。 適当にその辺を散歩するだけだからね」
「……さようでございますか」

 そう答え、再び無表情のまま頭を下げたディーターだったが、その後ろに控える村人たちはその瞳に宿した敵意を隠すこともなく、リアーヌたちーー主にゼクスに向けていたーー



「なんかごめんねー?」

 ゼクスはだいぶ動きやすそうな格好になったリアーヌの手を引き、獣道とも呼べそうなほどのワイルドな山道を進みながら、申し訳なさそうにそう言った。

「謝られるほどのことでは……」

 リアーヌはゼクスの手を借りながらも、想像以上に軽い足取りで山道を登っていく。

 山道ということで歩きやすい服装ーーただでさえ、お忍び旅行として慎ましい服装だったのだが、山を登るということで、さらに動きやすい……ーーもはやこの村の住人の服装とも見分けがつかないほどのレベルの質素さのものに着替えていた。
 はっきりと足首の見えているスカートは、コルセットを使わず紐でウエストを締め上げるだけの簡易なもので、ブラウスは飾りも刺繍もない実にシンプルなもの。
 さらには汚れてもかまわないようにと、スカートがすっぽりと隠れるほど長いエプロンをつけーー
 誰がどこからどう見ても、立派な村娘の完成だった。

(ーー最初こそコルセット外して外出てもいいの⁉︎ とか思ってたけど、やっぱりコルセットなんて不要なんだよ。 なんなら紐でウエストをギュギュッて閉め上げるのですら不要にすべきなのよ……ーーはー。 めっちゃ楽)
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