成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世

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「あんなに嫌われちゃって、男爵ってば何やらかしたんですー?」

 リアーヌの後ろにいたオリバーが、ゼクスに向かって、冗談めかしてたずねた。
 その少々失礼な物言いにリアーヌだけではなく、ほとんどの同行者たちが引っ掛かりを覚えオリバーに視線を流す。
 しかしオリバーの視線はゼクスのほうを向いておらず、護衛対象であるリアーヌを意識しながらもチラチラと後ろを振り返っているので、本来の目的はなにかをゼクスに伝えることのようだと気がついた。

 オリバーの視線の先を辿ると、そこには肩を大きく上下させながら周囲の木や草に手を伸ばし、必死に山道を登ろうとするアンナの姿があった。
 ーー使用人とはいえ、生まれた時から貴族の屋敷で暮らしていたアンナにとって、本日がはじめての山登りであり、同時に自分の体力のなさを痛感した日にもなったのである。

(……いや、むしろ草掴んでも進もうとする根性だけで十分だろ……ーー普通、貴族のご令嬢どころか、都会育ちの街娘だってこんな山道をひょいひょい進んで行けねぇぞ……?)

 オリバーはリアーヌの周囲に気を配りながらも、ふらふらになりながらも必死の形相で山を登るアンナの身体を心配した。

「あー……ちょっと休憩しよっか?」
「村出るまでも結構かかりましたもんね……?」

 ゼクスはリアーヌを基準に歩みを進めてしまったことに後悔しつつ、リアーヌは昔よく言っていた森で自分の足腰が鍛えられていたということを今更ながらに自覚しながら言葉を交わし合う。

「わ、わた……大丈、ぶ……先」
「相手の中に婚約者がいようが、れっきとしたご令嬢だろ? 女一人は流石にまずいだろー⁇」

 オリバーは息も絶え絶えに、自分のことは放って、先に行ってくれと伝えているアンナに向かい肩をすくめながら言い放つ。
 
 未婚の貴族女性はその純潔を疑われること自体が汚点となってしまう。
 リアーヌのことは子供として扱うと決めているオリバーだったが、だからと言って疎かには出来ない問題だった。

 さらに言えば、今回はラッフィナート側の護衛も同行していて、ゼクスたちの先で後ろを気にしつつ周囲を警戒しているものが一人、アンナの後ろで困ったように苦笑を浮かべているものが一人いる。
 この者たちはあくまでもラッフィナート家の従業員。
 ボスハウト家に仇なさないとは言い切れるわけもなくーーましてや、騙し討ちのように婚約をもぎ取った相手の手駒だというならば、慎重に行動することに無駄などないと考えた。
 
「ーー申し訳……」

 ゼェハァと荒い息を繰り返すアンナがリアーヌたちに向かい謝罪の言葉を口にしようとした瞬間ーー
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