成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世

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 伯爵はそう答えながらも、言外に今すぐには無理だということを伝える。
 理解はしていたのだろうが、その答えにハッキリとため息をつく夫人。
 ーーそんな二人に、ゼクスはニンマリとした笑顔を浮かべながら、そっと小声で話しかけた。

「……実はーーここだけの話なのですが……このギフト、我が国では最近まで“無用なギフト”と揶揄される部類のギフトだったんです。 お湯とはいえ匂いがキツすぎる……と」

 そんなゼクスの言葉に忙しなく視線を交わし合うタカツカサ夫妻。

「そう、なるね? お湯や水として使うつもりならば、この匂いでは……」
「アウセレでも……?」
「ーーギフト持ちの数が圧倒的に少ない我が国では、それでも仕事にできているのかもしれないがーー高待遇とはいえないだろう。 だとすれば……」
「我が家で働いてもらえるかもしれませんわね⁉︎」

 そんな夫妻にニンマリと笑いながらゼクスが言葉を添える。

「ーーどんな者でも、正当に自分を評価してくれる方に仕えたいというのは、当然の想いかと……」
「ーー上手くすれば、我が領にもスパ施設とやらが、立ってしまうかもしれませんね?」
「その時はぜひお声がけを。 ーー若輩者ではございますが、助言できる部分もあるかと存じます」
「それは心強い!」

 どこか芝居がかった様子で会話をこなしていく二人。
 ーーこれで、ラッフィナート男爵家とタカツカサ伯爵家の業務提携の話がまた一つ増えたようだった。

(……なんか急にお貴族様同士みたいなやりとり始めるじゃん……? 夫人も満足そうだし……ーー私もやっといたほうがいいんだろうか……?)

「うふふふふ……」

 控えめに微笑みを浮かべたリアーヌだったが、それが愛想笑いであることをすぐさま見破られ、タカツカサ夫妻は微笑ましいものを見るような眼差しでリアーヌを見つめた。

「本当に可愛らしいお方!」
「ははっこんな婚約者がいる男爵は幸せ者だね?」
「本当ね!」
「ーー伯爵におっしゃられてしまいますと……」

 ゼクスはニコリと笑いながら、言外に『夫人と結婚出来た伯爵も幸せ者ですね?』とリップサービスを返した。

 ーーゼクスとしてはリップサービスのお返しのつもりだったのだが……

「あらぁ、お上手ねぇ……?」
「もちろん君と結婚出来た僕こそが世界一の幸せ者さ! ……だから男爵は二番目かな?」
「やだもうあなたったら!」

 タカツカサ夫妻は思いの外その言葉を喜び、熱い眼差しを互いに送り合い、ゼクスたちからお暇の挨拶をするタイミングを奪い去っていった。

(……リアーヌ学習。 ヤツらはどこにだって潜んでいるんだーーこのバカップルがっ!)
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