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【本編4・search for my roots】
羽ばたきもがく小鳥は何処へ。
しおりを挟む将軍の刀捌きは美事な腕前だ。現れる魔物を次々と凪ぎ払う。私は後方で脇を抜ける小物に電撃を食らわす。
「そろそろ目的地です。部屋になっていたので、多分2階層のボス部屋でしょう。1階層には有りませんでしたが、通常は階層毎にボスが居ます。それを倒して次の階層です。」
私は皇帝と側妃の周囲を結界で囲む。扉を開き2人を中へ突き飛ばす。
「なっ何をなさるのか!」
将軍が慌てて私に駆け寄る。
「お2人の周囲に結界を張りました。心配は有りません。大丈夫です。鑑定した所、中央に居るボスは黒狼と白狼。Dランク。正直弱いです。私が弱らせますので、止めをお願い致します。雑魚は適当にお願いじす。では行きますよ!」
咆哮を上げ突進してくる2匹。足元へクナイを投げつけ足止めをする。怯んだ隙に、素早く白狼の背後に回る。殺ってお仕舞い棒で電撃を食らわす。
私は脇にそれ、雑魚の始末をする。
将軍が素早く駆け寄り、倒れヒクつく2匹の頭を落とす。転がる首。
やがて2匹のボスは、ダンジョンに吸収された。
「このダンジョンは、魔物が死ぬとダンジョンに吸収されるタイプです。やがて一定時間が経過すると復活します。グロく無く人に優しいダンジョンですよ。難易度も低いです。逆に魔物の死骸がそのまま残るダンジョンも有ります。この場合はグロさも難易度も上がります。内部は弱肉強食です。死した魔物は必要部位を剥ぎ取られ、残りは他の魔物の糧になります。」
私は魔物消失後に残ったドロップ品を手に取る。
「これが魔物討伐のご褒美です。弱くても一応ボスですね。宝箱が有ります。勿論雑魚も落とします。これらの確認は後に回します。さて、奥に進みましょう。」
皇帝と側妃の結界を外し、部屋の奥へと進む。やがて空気が変わり明るくなった。私は取り合えず、部屋全体に結界を張り巡らす。
今だ呆然としている皇帝と妃を横目に、私は3階層への階段を探す。人骨が積み重なっていた奥に、階下への階段を見つけた。吹き抜けから風が入って来る。下から見上げるとかなりの高さだった。
姫君はこの高さから落ちたのよね?本人はともかく、お腹の子は良く助かったわね。運が良かったのかしら?
階段の更に奥に何かが積まれている。
これらは何処から?
ふと背中に視線を感じた。振り返ると妃と視線が絡まる。私を罵倒してた時とはまるで違う顔つき。強い意思を感じる瞳。でもその奥には、揺らぐ不安げな色。
まさか私の考えは根本的に間違ってるの?でもそれなら何故?こんな事をしでかした意味が解らない。
グレイは私に甘いと言った。もしかして何かに気付いてたの?
真相は本人にしか解らない…。
*****
私は3人の元に戻る。この場所についての経緯を話す。将軍は衝撃な事実に顔を歪め、妃はあっさりと自供した。
己が寵妃で居る為に、姫君をこの場所に落としたと。この場所の場所や使い道等は、1番の寵妃が賜る部屋に書物が隠されていた。妃は入宮前に既にそれを入手していた。妃の侍女は情報収集にたけた優秀なくノ一だった。皇帝に盛った避妊薬等も、全ては侍女の手腕によるものだった。
侍女の事は過去形なの?
遥か古から続いていた後宮内での女達の争い。たった1人の皇帝の寵愛を得る為に、何代にもかけ、沢山の女がこの穴で命を落としてきた。
それは女達の愛憎だけでは無い。女達の周囲や父親の思惑も絡む。多種多様な思惑が複雑に絡み合い、沢山の犠牲をだして来たのだ。
「貴女は確か菊姫でしたね。父上は現宰相様では?宰相様ならば地位は必要無い筈。では貴女は皇帝を愛してらしたのか?」
・・・・・。
将軍は名前を覚えてるのね。菊姫はあの皇帝寄りだという宰相の娘。宰相なら権力は余り有る筈。
「当たり前じゃない!だから邪魔な椿姫をここに落としたのよ!まさか1度で懐妊するなんて!ほぼ完璧だと言う避妊薬を使用してたのに!」
「懐妊なさってるのを知りながら落としたのか?」
「そうよ。だからどうしたと言うの?椿姫が懐妊したのも気付かなかったくせに!まだ安定期にも入らぬのに、皇帝は閨に召して乱暴に扱ったそうよ。」
「皇帝様もあれ程お子を望みながら、何故に気付かれ無かったのか…。しかし何故この様な所に椿姫を…。」
「勿論殺す為よ。まさか生きてるなんてね。他の妃が懐妊したら、私の正妃への道が閉ざされるじゃない。冗談じゃない。寵愛も正妃の座も私の物よ!誰にも渡さないわ!」
菊姫は懐妊を知っていた。にも関わらず椿姫を落とした。懐妊したら身分的にも劣る己は、正妃の座から遠ざかってしまう。ここまでは私が考えてた通り。でも何故か違和感を感じる。あれ?今の話にも矛盾が有る。何故?
「なら私を落としたのは?」
「私が入宮する前から、侍女が貴女の存在を掴んでいた。国へ呼び寄せる様な気配はしてたけど、まさか正妃として呼び寄せるなんて!しかも以降追加の妃は要らぬと言う。皇帝は貴女を愛してると言う。父で有る宰相は貴方なら血筋的にも理想だ。貴方に後継を生んで貰えば他は要らぬと言う。なら私の今までの苦労が報われない。私は正妃になりたかった。だからよ!理由なんてそれしかないわ!憎かっただけ。全て私の罪。だから…。」
菊姫が袂から短剣を取り出す。素早く喉元に刃先を向けた!
ダメ!間に合わない!
カキンっ…。金属が弾かれる音と共に、菊姫の体が崩れ落ちた。
「将軍!菊姫とやらは気を失なわせただけだ。自害出来ぬ様にして保護せよ。既に宰相の身柄は牢に拘束している。菊姫は保護だからな!間違えるなよ!」
王子?グレイが王子と共に現れた。
「アリー。まだ謎解きは出来てないみたいだけど、姫君の方が緊急事態なんだ。ルイスは治療で先に行ってる。僕も直ぐに行くから、先に料亭へ行って。」
了解!後はグレイに任せるよ。
「待って!椿姫は?お腹の子は無事なの?私も一緒に…。」
己を支える将軍を振り払い、菊姫は必死に私にすがり付く。菊姫の手が私の服の裾を掴み震えている。
・・・・・。
そうこれよ!菊姫は椿姫の生存を知っている。これが矛盾なのよ。後宮に事情徴収は入ったけど、あれはあくまでも私の事についての調査。椿姫の話も子の話もしていない筈。
なのに菊姫は…。
死んでる筈の椿姫を心配しているの?違う!生きてるのを確信してるんだ。
皇帝にすがり付いていた菊姫の姿と、私にすがり付く今の姿の違和感が凄い。
何かがパチリとはまった気がする。
そうなのね。階段の奥のあれはきっと菊姫が…。2人が再会すれば全てが解決しそうね。
「菊姫!しっかり捕まって。行くよ!」
私と菊姫は椿姫の眠る部屋に飛んだ。
*****
椿姫が眠る横で回復をかけ続けているルイス。しかし椿姫の顔色は真っ青だ。何故?
椿姫は突如苦しみだした。普通の治療では回復せず、ルイスが回復魔法を使用した。
「魔法で体の回復はするんです。しかし回復させた魔力の1部をを腹の子が吸収している。なのでまた苦しみ出す。この繰返しです。既に臨月なのに、生まれでる力が足りぬからでしょう。母体には神通力が全く無い様です。その為不足している神通力を、私の魔力から作り出しているのでしょう。だが効率が悪い様ですね。しかし私からの供給を止めると母体が弱ります。」
ならどうしたら良いの?
「でもルイスだって魔力が切れたら…。次は私が変わるよ。」
「待って!私が変わります!私にも神通力が有ります。私の全てを差し上げます!」
菊姫が飛び出し椿姫の手を握り締める。握り合う掌が淡く発光する。
「やはり神通力そのものは効率が良いですね。魔力と違い全て吸収されています。ですがそろそろ止めて下さい。貴女が倒れます。」
「大丈夫です!まだまだいけます!」
「ほら。お腹の子の方が貴女を心配してます。これ以上はもうダメだと、力を押し戻してますよ。しっかり休んで食べて回復し、またあげて下さい。」
突如部屋に、グレイと皇帝が現れた。皇帝は菊姫の手を椿姫から引き剥がし、己の掌を重ねた。
重ねなれた手が光り、皇帝の体が背後に吹き飛ばされる。あ然とする周囲。皇帝は起き上がり、再度手を握る。しかしまた吹き飛ばされてしまう。どうして?しまいには周囲に結界が張られ、皇帝は近寄れもしなくなった。
結界を叩き喚く皇帝。
「どうしてもって言うから連れてきたけど役立たずだね。アンタの神通力は要らないってさ。本来なら父親の力が1番効率が良いんだ。それを許否される。つまり認められて無い訳。ほら!さっさと帰って頭冷やせ。余計に母体の体調が悪くなるよ!」
グレイと皇帝が消える。直ぐにグレイだけが戻った。
「アリー。彼方は将軍に任せて来たよ。皇帝は無知。宰相は皇室血統至上主義。皇家の純血を尊ぶ人。今回の発端は宰相だよ。後は言いなりの皇帝ね。2人共に仲良く、暫く牢屋で頭を冷やせば良いんだ。僕達は今日は此方に泊まろう。女将さんには話をつけたよ。」
椿姫の胎内の子は、神通力が充ちれば直ぐにでも生まれてくる。女将さんがくノ一の伝を頼り、神通力を分けてくれる人を集めている。産婆さんも待機し、皆で万全な体勢を整えている。
「私の魔力ではダメなの?効率悪くてもバカみたいに有るなら、少しは役に立つんじゃない?」
「そうだね。アリーの魔力を半分位変換すればかなりの神通力になりそう。手を握ってあげて。僕のを分ければ簡単なんだけど、生まれてくる子が人外になっちゃう。それだけ能力の強い子なんだよ。」
私は椿姫の手を握り締める。握る手が暖かくなる。椿姫の頬に赤身が刺す。
「あれ?殆ど吸収されてる。あ!そうだね。アリーは半分が皇家の血だ。だから魔力が神通力に近いんだよ。良い感じで吸収されてる。後ね。張られてた聖域の繭を維持してたのも子の神通力だよ。母を魔物から守る為に結界を守った。その影響でダンジョン内は仮の聖域となり、魔物の発生と吸収を止めた。その維持に力を使ってたから、成長が悪かったんだよ。」
「聖域の繭をお腹の子が維持してた。なら張ったのは誰?」
「それは菊姫が知ってるよね?もう本当の事を話そうよ。貴女は後宮の女性達を宰相、自分の父親から守っていた。後宮の中では誰も懐妊してはならなかった。だから懐妊した椿姫を隠したんだ。因みに椿姫の侍女は先に死んでる。あの遺骨じゃない。」
「なら椿姫が寄り添っていた遺骨は…。」
菊姫はしっかりと顔を上げ、周囲を見渡す。
「あの遺骨は多分私の侍女でしょう。私の聖域の繭は維持され、私からの神通力は送られてた。力が発現してるから無事だとばかり…。まさか死んでた何て…。」
菊姫は静かに涙を流していた。
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