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2巻
2-2
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コーヒー味のマカロンに、コーヒークリームのシュークリーム、そしてコーヒー生地のロールケーキ。これら三種をバランス良く配置したコーヒーミックスタワーです。
紅茶バージョンのティーミックスタワーを軽食のブースで提供したところ、男性に限らず皆様に喜ばれ、かなりのリクエストを受けてしまいました。
今回特にリピートしたいと言われたのが、クッキーとコーヒー豆トリュフです。
クッキーはコーヒー味の普通のクッキーですが、形が可愛らしくコーヒー豆を模しています。この形のクッキーは巷でも普通に販売されていますが、コーヒー味ではなくプレーン味なのです。皆様コーヒー味を気に入ってくださり、ぜひ売店での販売をと言われました。
コーヒー豆トリュフは洋酒を加えたチョコに砕いたコーヒー豆を混ぜて成形し、粉砂糖を振りかけたもので、完全に大人向けのお菓子です。ワインと一緒に食べたいと言われましたが本日はお茶会のため、残念ながらお酒は提供されていません。ご自宅で奥様とご一緒に楽しまれてはいかがでしょうか?
お客様のお声は大切な宝物です。新商品の企画と開発を早め、早々にテイクアウトでの販売をいたしましょう。
お茶会も無事に終了し、皆様への挨拶も済ませました。スタッフはすでに解散しています。辺境伯様もお孫さんであるお嬢様のお子さんを抱いて、先ほどお部屋に戻られました。それでは荷物をしまい、私たちも帰宅いたしましょう。
「アリー、この荷物で最後のようですね」
ルイスが次々と箱を運んできてくれます。
「ありがとう。まとめてしまうから、この上に置いてくれる?」
順に重ねられた箱たち。では順番にインベントリにしまいましょう。
「お嬢様が、アリーと話がしたいので帰宅する前に部屋に寄ってほしいと仰っていましたよ。何か大事な用でもあるのでしょうか? なければ城下町に、あなたの下着類を買いに行こうと考えていたのですが……」
「ならこの荷物をしまう前に会いに行ってくるよ。今日はもう用事もないし、買い物くらいなら行く時間はあるよね? ザックとミリィちゃんたちにも、何かお土産を買っていこうよ」
「そうですね。ではさっさと済ませましょう。初デートを楽しみましょう」
「下着を買いに行くのがデートなの?」
「異性と外出するのがデートです。私に全てお任せくださいね」
「下着はわからないから任せるしかないけど、ルイスとデートってのは……」
「そんなつれないことを言わないでください。アリーをお守りするのが私の使命です。あなたの行くところにはどこへでも行きますよ。ではさっさとお嬢様のところへ参りましょう。お手をどうぞ」
キザすぎる……
「ルイス、なんか変だよ。普通にしてよ」
「私は普通ですよ。アリーこそどうかなさったのですか?」
こら! ち、近すぎる。顔を近付けるな! そんなに覗き込まないでー。
「普通じゃないです! 顔が近すぎます! ルイスの顔は綺麗すぎて、あまりに近いと恥ずかしいの!」
「……」
沈黙しないで普通に話をしてください。
「……それはまた可愛らしい恥じらい方ですね。つまり私を意識してくださっているからなのではありませんか? ほら……耳まで真っ赤ですよ」
ル、ルイスのバカ! 意識なんてしてないってば! わー首に腕を回さないでー! な……なんでいきなりこんな状態に……
「赤くありません! 違います! 女の私より綺麗で美人さんだから恥ずかしいの! なんだか自分がいたたまれないじゃない……」
「……」
とにかくキザすぎるの! いちいち間を置かないで! 何も考えなくていいから、とにかく早く離れてほしいです。
「男に対して綺麗や美人は褒め言葉ではありませんし、いたたまれなくなんてないですよ? アリーは可愛らしくて食べちゃい――」
「あっ! いたー!」
ルイスがふざけている間に、お嬢様ご本人が来ちゃったじゃない!
「アリー? 遅いから迎えに来ちゃった。少しお話をしてもいいかしら? ルイスに頼んだのだけど、まったくの役立たずね」
「……」
「だけど、ルイスも同席してほしいわ。デートはあとで良ければプランを考えてあげるわよ」
「……」
私とルイスはお嬢様のお部屋に通され、お茶をご馳走になることになりました。何か不都合が出たのかと心配してしまいましたが、どうやらそうではないようです。
「我が家で真っ先に新しいものを披露してくれてありがとう。感謝するわ。お礼は何がいいかしら」
今回のお茶会で使用したダンジョン産の食材たちは確かに今日が初お披露目となりましたが、辺境伯家やお嬢様を贔屓しているからではありません。
しかも、聖なるダンジョンはこれから大々的に売り出されていくので、ビッグフルーツも海産物も、これからはお手頃に出回ると思います。
「まったくアリーは欲がないのね。流行の先取りは貴族のステータスよ。更にはみんなに今日のお菓子のレシピを伝授してくれたのでしょ? 我が家の料理人たちが大喜びしているわ。レシピは料理人にとって大切なもの。そのお礼くらいさせて。でないともう、アリーにお仕事を頼めなくなってしまうわ……」
お嬢様……
今回のお茶会では、スイーツタワー以外のところでも、ダンジョン産のフルーツの特性を大いに活用しました。特にその大きさを活かし、遊び心を表現したのです。
ロングバナナのそのままチョコレートがけに、巨大リンゴの丸ごとアップルパイ、大きなメロンをくり抜いて器にしたフルーツポンチ、大きなベリー類は凍らせてシャーベット風に。
もちろんフルーツそのものもそのまま飾り、ご希望に合わせてカットして盛り合わせ、数種のアイスクリームや生クリームと組み合わせてフルーツパフェやデザートプレートとしてもアレンジしました。特にプリンアラモードは大好評だったのです。
しかしレシピを喜ばれたというより、単にダンジョン産のフルーツが珍しかったのではないでしょうか? レシピ自体は普通のものです。
しかしお嬢様曰く、重要なのは発想の転換だそうです。
例えば大きなフルーツですが、普通なら小さくカットしていつもと同じお菓子を作ります。私も、バナナを刻んでシュークリームに入れました。しかしそれをせずに本来の大きさを生かすという発想が、とても斬新だと喜ばれたそうです。
更にはその場でパフェを作ったり、焼きたて丸ごとアップルパイを切り分け、冷たいアイスを添えたりと、いわゆるパフォーマンスと言われるものも行いました。これは今までのお茶会ではなかったことで、好みに合わせて楽しめると、会場では大盛り上がりしていたそうです。
確かに、通常のお茶会でスタッフがお客様のお皿に取り分けることはありますが、個々に好みを聞いてパフェにしたり、デザートをプレートに盛り付けてデザインしたりはしませんね。しかし、まさか初めての試みだとは気付きませんでした。食堂ではお客様のお好みに合わせてアレンジするのは当たり前、貴族様にも通用して良かったです。
実はこちらの厨房の方々に、このパフェとデザートプレートの盛り付け方を聞かれました。特に小さなお子様向けのデザートは、食べられる食材が限られてしまうので、どうしても盛り付けが簡素になってしまいます。それをなんとかしたいと相談されたのです。
そこで提案したのが、お皿の空いたスペースを活用する方法です。チョコレートで動物の絵を描いたり、フルーツでお花を模しても素敵ですね。子供たちも喜んでくれるでしょう。
このお茶会でのパフォーマンスは、後の辺境伯家のお茶会名物となり、聖なるダンジョン産の食材人気にも寄与したそうです。
「ではお礼は後ほど、楽しみにしていてね。そしてこれからの話が大切なことなの。まずはこの袋を確認してくれるかしら?」
私はお嬢様から、大きめの袋を受け取りました。
袋を開き、あまりの驚きに息が詰まります。こ、これらは……
お嬢様は唖然とする私の手に、もう一つ箱を手渡してきました。促されて箱を開けると、百合をデザインした宝石箱らしき小箱が入っています。
お嬢様が小箱の鍵を開けてくれました。中には、白と黄色の百合の花がデザインされた銀色のブローチと、同じデザインの指輪が納められています。どちらも、花の中心には橙色の石が数個はまっています。
先に手渡された袋の中身は見覚えのある品ばかりでしたが、こちらの品には心当たりがありません。
「こちらの袋の中身はアリーのものよね? 実は、この宝石箱もこの袋に入っていたの。それはご両親からアリーへのプレゼントよ。まだ完成してはいないんだけどね」
なぜお嬢様はこれらが私のものだったと知っているの? この袋の中のものは、かつて私から両親を奪ったとある女の子が、私の部屋から持ち去ったものたち……。彼女は辺境伯家に勤めていたそうだから、お嬢様は彼女と面識があるし、私と知り合いだということも知っているでしょう。しかしどんな関係かまでは知らないはずです。どうして…………
「私ね、彼女には命を助けられたから、その命を大切にしなくちゃと今まで生きてきたの。でもね? 社交界に出るようになって、たくさんの噂が耳に入ってきたわ。どれもこれも、信じたくないようなことばかり……」
辺境伯様からは、お嬢様には真実を伝えていないと言われていました。今のお嬢様が幸せならば、辛い過去の真実は必要ない。彼女の本性は内緒にしてほしいと、そう頼まれていたのです。だからお嬢様は、彼女が辺境伯家にいたときも、彼女の本性を知りませんでした。
「彼女は私を騙していたそうよ。私と父の前では、献身的な介護者で侍女だったの。でも裏では私のものを全て奪い、私に成り代わるつもりだった。私の婚約者すら懐柔されていたわ。父は途中で気付いたそうよ。知らなかったのはマヌケな私だけ。少しは疑ったのよ? でも信じたかったの。騙されているとしても、友達でいてくれるならそれでも良かった。でも私は死にたくはなかったの……」
ずっと車イス生活だったというお嬢様。それを献身的に介助してくれた侍女。だからこそ、お嬢様は彼女の心を信じたかったのね。そして彼女は献身的な介護者を演じたまま、危うく死にかけたお嬢様を庇って死んだ。
私にとって親の仇だったあのズルい彼女は、実はお嬢様にとっては命の恩人だったのです。
死んだ人間にはもう仕返しはできません。私は自分が幸せになって、彼女に見せつけてやりたかった。あなたなんて私の中にはもう存在していないと、再び出会ったならそう知らしめてやりたかった……
私はこんな風に考えてしまう、自分の醜さが嫌いです。
「突然ごめんなさいね。それでね? 今更ながら私も現実を見なくちゃと、彼女の遺品を片付けていたの。そうしたら、それらが出てきたわ。アリー、あなたのものよね? 彼女の趣味とは違うし、鍵がかかっている品もある。気になって父に尋ねたの。父は重い口を開いてくれたわ。彼女は私にしたことをアリーにもしていたと、更にはそれ以上の罪深い行いをしたのだと……」
お嬢様……とうとう真実を知ってしまったのですね。
「私はしばらく立ち直れなかったわ。彼女に裏切られていたのが衝撃だったの。でも私も大人になった。しかも二児の母親よ。いつまでも父親に保護される泣き虫じゃいられないわ。父も旦那様も応援してくれたし、今日のお茶会ではアリーも疲弊した私を元気付けてくれたでしょ? だから私もアリーを応援したいの」
この宝石箱には鍵がかかっていました。お嬢様は中身の確認のため、専門業者に鍵開けを頼んだそうです。中には折り畳んだ紙が数枚と、先の百合のアクセサリーが入っていました。この紙を見て、お嬢様はこの小箱が本来私に贈られるはずのものだと知ったと言います。
百合のアクセサリーをよく見て気付きました。
袋に入っていた見知らぬアクセサリー類は、たぶん母の若い頃のものだったのでしょう。母は百合の花が大好きでした。ここにあるアクセサリーには、全て百合がデザインされています。彼女は母の品にまで手を付けていたのですね。
私の誕生石のカーネリアン。ルビーは高くて残念ながら使えなかったけれど、成人するまでにはイヤリングとネックレスを用意したいと、両親は城下町の宝石店で積立てをしてくれていたようです。その領収書が一緒に入っていました。
「その宝石店に連絡をしたら、キチンと積立て記録が残っていたわ。ご両親がお願いしたデザインも保管されていたから、父が今回のお礼として続きを作らせているところよ。本当は今日間に合わせたかったんだけど、さすがに無理だったの。もう少し待ってね」
もう驚きすぎて……何がなんだかわかりません。頭の中がグチャグチャです。
両親のことを思うと悲しい……だけど私のためにと残してくれた宝石箱は嬉しい……お嬢様の気持ちが……辺境伯様の気持ちが嬉しくて……とても心が温かいのです。なのに胸が締め付けられるように痛いのです。目頭が熱くて……
「アリー、お願い泣かないで。私はアリーに勇気をもらったの。私は真実を知るのが怖くて逃げてた。彼女が私のヒーローでなくなるのが嫌だったの。でもね、人の口に戸は立てられないから、聞きたくなくても耳に入るの。それに……、私はアリーを傷付けていたでしょ?」
え?
「アリーにあの子の話をすると、いつもキラキラしている目から生気がなくなるの。私は知らずに彼女の話をたくさんしていたわ。その度に辛い思いをさせたわよね。私のために黙っていてくれてありがとう。私はもう大丈夫。だからアリーも頑張りましょう!」
お嬢様が私の手を力強く握り締めます。
「彼女を許す必要なんてないわ。私だって許せない。だから私たちは彼女ができなかったことをたくさんしましょう。アリーも家族を作って、絶対に幸せになるの。まずはお洒落をして外出しましょう。良かったらこのあとお買い物に行きましょうよ。私がおすすめのお店を案内するし、お礼もあるから奮発しちゃうわよ!」
「お、お嬢様がですか? それにお礼は、形見のアクセサリーの続きを作ってくださっていると……」
「それと私からのお礼は別よ。それよりアリー! お嬢様ではなくライラと呼んでと言ったじゃない。子供は旦那様と父が見てくれているし、護衛にはうちのが二人と、ルイスもいるでしょ。何か買いたいものとかはあるのかしら?」
「そ……それなら……」
「女同士じゃない。ハッキリと言いなさいな」
「では……下着を買いに……」
は、恥ずかしいです。今までこういうことってなかったし……あら? お嬢様が私をじっと見ている? 特に上半身を……どうしたのでしょうか?
「了解よ。アリー、もしかしなくても、下着を付けてないでしょ? せっかく大きいのにもったいないわよ。まずは下着の採寸ね。しかし周囲の男性はウハウハだったわね……ルイス?」
「わ、私はそんな不埒な考えは……」
「いえっ! ルイスは下着はキチンと付けろと……全身コーディネートするから、早めに買いに行こうと言われていたのです。女性としての慎みがないからと……」
「ふーん。でも下着はやはり女同士で買いに行きましょうね。可愛いのを選んであげる。ルイスでは変な心配をしちゃうわ。さあ今から行きましょう」
「では急いで荷物をしまってきます。少しお待ちください」
やはりわかる方にはわかるのですね。パンツしかはいていないのは、そんなに変なことなのでしょうか? お店に行けばわかるかもしれません。
荷物をインベントリへしまって戻ってきたのですが……あら? お嬢様とルイスはまだお話ししているみたい。扉を開けても気付かないし、声をかけた方が良さそうです。
「お二人ともお待たせしました! ずいぶん話し込んでいましたね。もしかしてお二人は知り合いだったのですか?」
「アリー、お疲れ様です。ええ、私が神殿預りだった頃、お嬢様はよく辺境伯様に連れられて参拝されていたのです。歳が近いため、私がよく話し相手を任されていました」
へえー。
「さあ! さっそく行きましょう。下着のあとはお洋服に雑貨屋さんね。食材なんかも見たいわよね。美味しいスイーツに、夕食も食べて帰りましょう。楽しみだわ」
お嬢様の選ぶお洋服……お値段は大丈夫でしょうか? し、心配です……でもルイスもいるから大丈夫かしら?
さあ! 気分を変えて出発です。城下町の食べ物も楽しみですね。お料理やお菓子にも流行があり、日々の勉強が大切なのですよ。あ! 本屋さんにも寄りたいですね。
さて、久々の城下町です。仕事でちょこちょこ来てはいるのですが、いつもはリターンアドレスでとんぼ返りなのでゆっくり買い物なんて本当に久しぶりです。
私が修業していた頃と町並みは変わりませんが、お店はすっかり様変わりしていて寂しいですね。ですが城下町は全体的に華やかで賑やかで、町はもちろん行き交う人々までがお洒落な雰囲気です。
やはり若い方が多いからでしょうか、特に若い女性向けのお店が目立ちます。お洋服のお店だけでもたくさんあり目移りしてしまいます。そして目的の下着ですが……もちろん雑貨屋さんにパンツは売っていませんでした。下着類はランジェリーショップとして別にありました。所変われば品変わるということですね。
さあ未知なるランジェリーショップに突撃です! ……なんて勇気もなく尻込みしていた私は、お嬢様にグイグイと手を引かれての入店です。だってショーウィンドウのマネキンが着ている下着ってば……さすがにあれはないですよね?
「支払いは私に任せなさい!」
などといういきなりのお嬢様の宣言で、私はただいま着せ替え人形状態です。ここはランジェリーショップ内の採寸用のお部屋です。
とにかく恥ずかしいです。パンツ一枚の姿で周囲を取り囲まれ、至るところにメジャーを当てられています。穴があったら入り込んで泣きたいくらいです。でもルイスってバカなの? これについてくるつもりだったの?
もちろんルイスは入口で待ったをかけられ、護衛のお二人と共に別室にて待機中です。当たり前ですよ!
私は今もパンツ一枚のみの姿で、次々に違う生地を当てられています。かなりの時間が経っているのですが、まだ下着の生地を決めているんですよ。生地が肌に合わないと肌が荒れるとか……私にはよくわからないので、お任せしてされるがままです。更にはサンプルの下着を当てられ、着用の仕方まで教わりました。
ようやくパンツ一枚から解放されました。ルイスたちとも合流し、私はお茶をいただきながら休憩しています。
別の大きなテーブルには、何やらたくさんの本が積まれています。その本をああだこうだと捲りながら、お嬢様とルイスが真剣な顔で討論しています。
お二人の顔だけを見たら真面目に見えますが、話している内容は私の下着類と服についてです。下着のみならず服も仕立てると言われ、既製品で十分だと抗議したのですが……もうどうにでもしてください。
「アリー、必要な下着類と洋服は注文したわよ。サイズはこのカードね。カードは城下町周辺では共通だから、既製品でもこれを見せれば合うサイズを出してくれるの。今回のオーダー分は十日ほどで自宅に届くから、それまではこれを着用してね。一週間分が入っているわ」
お嬢様から袋を受け取ると、中には下着のセットが七組と、シンプルなワンピースが数枚、他にシャツやスカートにショールまで入っています。私の普段着にしてはかなり高価なお品ですが、シンプルながらも素敵なデザインです。
あれ? 別の袋に、パジャマや前掛けが入っています。それからこの可愛い小袋の中の石は、温石でしょうか?
「アリーは食堂ではいつも前掛けをしていますよね。そちらは私からのプレゼントです。パジャマは暖かそうでしたので、これからのシーズンにちょうどいいかと。温石は魔石です。保温の魔法が込められていますから、寝る前にポケットに入れてください。湯たんぽ代わりです。女性は体を冷やしてはいけませんよ」
うわー。モコモコパジャマは気持ち良さそう。確かに夜は冷えるから、湯たんぽ代わりは嬉しいです。色々あるんですね。でも前掛けに付いたフリフリは恥ずかしいかも……
「それから私の名誉のためにも言い訳させてくださいね。いくら私でも、女性が採寸をするお部屋にまではお邪魔はしませんよ。既製品を買うだけなら洋服を着たまま採寸をしてもらえます」
……確かにそうよね。私もつい失礼なことを考えていました。
「お気遣いにプレゼントもありがとう。何かお礼しなくちゃね。それに、失礼なことを考えてごめんなさい。確かにルイスなら、わざわざ私のことを覗かなくても見慣れてるわよね……」
「デートで男性が贈るプレゼントにお礼はいりませんが……はて? 見慣れているとはどういう意味でしょう? まさかザックがいらぬことを吹き込んだのですか?」
いきなり肩を掴まれてビックリ。ル、ルイスッ! い、痛いよ! 肩をガクガク揺すらないでー! 目が回るー!
「うっ……ザックは関係ないよ。だってルイスは綺麗だから、わざわざ覗かなくても自分で見慣れてるのかと……」
「はぁ……アリー? これはまた妙な方向へいきましたね。私はナルシストではないのです。己の顔や裸体を愛でる趣味はありません。おかしな誤解はしないでくださいね」
ふーん。
「アリー、ルイスは変態ではないから大丈夫よ。傷一つ残してたまるかと、回復魔法の精度を上げまくっていたときは、正直私も疑ったわ。このナルシストが! ってね。でも確かに覗く必要はなかったわよ。見かける度に裸同然の痴女に服を破かれて、追いかけ回されていたもの。逃げ切ったあとのあの一言! 『くそババアは死ねばいいのに!』は忘れられないわー」
「その追い回されるいたいけな少年を、トイレの扉の陰からニヤニヤと覗いていたのはどなたでしたか? 神殿のトイレに車イスは入りましたっけ? しかも当時はまだ腰かけ式ではなかったはずですよね? 中で這いずったら穴に落ちますよ」
お嬢様とルイスは、とても仲良しさんなのですね。
さて、ランジェリーショップを出て城下町を歩いています。私とお嬢様が並んで歩き、その後ろにルイス、やや離れて、お嬢様の護衛二人が続きます。
「さあ、お次は宝石店へ! と行きたいところだけど、アリーは絶対に首を横に振るわよね? 無理やり連れていってもつまらないし、ダンジョンでもかなりドロップしたようだから、今回はウィンドウショッピングといきましょう。アリーのお菓子には負けるけど、城下町には美味しいスイーツ屋さんもたくさんあるの。さあ行くわよ!」
「はい。お嬢様、ありがとうございます。ルイスも色々とありがとう」
「ライラよ。いつもそう呼んでとお願いしているのに……駄目なの?」
「……」
「呼ばないと返事しないんだから!」
「ライラ……ありがとうございます」
「くぅーっ。やっぱりアリーは可愛らしいわね。私には兄弟姉妹がいないから、特にそう感じちゃうのかしら? 本当に食べちゃいたいくらいだわ。ルイスにはあげません!」
ラ、ライラ! 苦しいです。むっ、胸に押し潰されてしまい息が苦しいです……っ。
「こら!」
ぷはー。すぐにルイスが引きはがしてくれて助かりました。
町歩きを再開しましょう。
雑貨屋さんにお花屋さん。どこも品揃えが豊富で、あれもこれもと欲しくなってしまいます。城下町の市場は他国の品もたくさん扱っていて、見知らぬ食材の宝庫でした。でも気を付けていないといつの間にか、ライラにあれもこれも買われてしまうのです。
「アリーはもう欲しいものはないのかしら?」
「本当に十分です。これ以上見ていたら、更に買われちゃいそうで怖いです。本当に今日はありがとうございました」
夕食はレストランを予約してくれると言われたのですが、屋台の並ぶ広場で色々と食べまくり、もう入りません。
紅茶バージョンのティーミックスタワーを軽食のブースで提供したところ、男性に限らず皆様に喜ばれ、かなりのリクエストを受けてしまいました。
今回特にリピートしたいと言われたのが、クッキーとコーヒー豆トリュフです。
クッキーはコーヒー味の普通のクッキーですが、形が可愛らしくコーヒー豆を模しています。この形のクッキーは巷でも普通に販売されていますが、コーヒー味ではなくプレーン味なのです。皆様コーヒー味を気に入ってくださり、ぜひ売店での販売をと言われました。
コーヒー豆トリュフは洋酒を加えたチョコに砕いたコーヒー豆を混ぜて成形し、粉砂糖を振りかけたもので、完全に大人向けのお菓子です。ワインと一緒に食べたいと言われましたが本日はお茶会のため、残念ながらお酒は提供されていません。ご自宅で奥様とご一緒に楽しまれてはいかがでしょうか?
お客様のお声は大切な宝物です。新商品の企画と開発を早め、早々にテイクアウトでの販売をいたしましょう。
お茶会も無事に終了し、皆様への挨拶も済ませました。スタッフはすでに解散しています。辺境伯様もお孫さんであるお嬢様のお子さんを抱いて、先ほどお部屋に戻られました。それでは荷物をしまい、私たちも帰宅いたしましょう。
「アリー、この荷物で最後のようですね」
ルイスが次々と箱を運んできてくれます。
「ありがとう。まとめてしまうから、この上に置いてくれる?」
順に重ねられた箱たち。では順番にインベントリにしまいましょう。
「お嬢様が、アリーと話がしたいので帰宅する前に部屋に寄ってほしいと仰っていましたよ。何か大事な用でもあるのでしょうか? なければ城下町に、あなたの下着類を買いに行こうと考えていたのですが……」
「ならこの荷物をしまう前に会いに行ってくるよ。今日はもう用事もないし、買い物くらいなら行く時間はあるよね? ザックとミリィちゃんたちにも、何かお土産を買っていこうよ」
「そうですね。ではさっさと済ませましょう。初デートを楽しみましょう」
「下着を買いに行くのがデートなの?」
「異性と外出するのがデートです。私に全てお任せくださいね」
「下着はわからないから任せるしかないけど、ルイスとデートってのは……」
「そんなつれないことを言わないでください。アリーをお守りするのが私の使命です。あなたの行くところにはどこへでも行きますよ。ではさっさとお嬢様のところへ参りましょう。お手をどうぞ」
キザすぎる……
「ルイス、なんか変だよ。普通にしてよ」
「私は普通ですよ。アリーこそどうかなさったのですか?」
こら! ち、近すぎる。顔を近付けるな! そんなに覗き込まないでー。
「普通じゃないです! 顔が近すぎます! ルイスの顔は綺麗すぎて、あまりに近いと恥ずかしいの!」
「……」
沈黙しないで普通に話をしてください。
「……それはまた可愛らしい恥じらい方ですね。つまり私を意識してくださっているからなのではありませんか? ほら……耳まで真っ赤ですよ」
ル、ルイスのバカ! 意識なんてしてないってば! わー首に腕を回さないでー! な……なんでいきなりこんな状態に……
「赤くありません! 違います! 女の私より綺麗で美人さんだから恥ずかしいの! なんだか自分がいたたまれないじゃない……」
「……」
とにかくキザすぎるの! いちいち間を置かないで! 何も考えなくていいから、とにかく早く離れてほしいです。
「男に対して綺麗や美人は褒め言葉ではありませんし、いたたまれなくなんてないですよ? アリーは可愛らしくて食べちゃい――」
「あっ! いたー!」
ルイスがふざけている間に、お嬢様ご本人が来ちゃったじゃない!
「アリー? 遅いから迎えに来ちゃった。少しお話をしてもいいかしら? ルイスに頼んだのだけど、まったくの役立たずね」
「……」
「だけど、ルイスも同席してほしいわ。デートはあとで良ければプランを考えてあげるわよ」
「……」
私とルイスはお嬢様のお部屋に通され、お茶をご馳走になることになりました。何か不都合が出たのかと心配してしまいましたが、どうやらそうではないようです。
「我が家で真っ先に新しいものを披露してくれてありがとう。感謝するわ。お礼は何がいいかしら」
今回のお茶会で使用したダンジョン産の食材たちは確かに今日が初お披露目となりましたが、辺境伯家やお嬢様を贔屓しているからではありません。
しかも、聖なるダンジョンはこれから大々的に売り出されていくので、ビッグフルーツも海産物も、これからはお手頃に出回ると思います。
「まったくアリーは欲がないのね。流行の先取りは貴族のステータスよ。更にはみんなに今日のお菓子のレシピを伝授してくれたのでしょ? 我が家の料理人たちが大喜びしているわ。レシピは料理人にとって大切なもの。そのお礼くらいさせて。でないともう、アリーにお仕事を頼めなくなってしまうわ……」
お嬢様……
今回のお茶会では、スイーツタワー以外のところでも、ダンジョン産のフルーツの特性を大いに活用しました。特にその大きさを活かし、遊び心を表現したのです。
ロングバナナのそのままチョコレートがけに、巨大リンゴの丸ごとアップルパイ、大きなメロンをくり抜いて器にしたフルーツポンチ、大きなベリー類は凍らせてシャーベット風に。
もちろんフルーツそのものもそのまま飾り、ご希望に合わせてカットして盛り合わせ、数種のアイスクリームや生クリームと組み合わせてフルーツパフェやデザートプレートとしてもアレンジしました。特にプリンアラモードは大好評だったのです。
しかしレシピを喜ばれたというより、単にダンジョン産のフルーツが珍しかったのではないでしょうか? レシピ自体は普通のものです。
しかしお嬢様曰く、重要なのは発想の転換だそうです。
例えば大きなフルーツですが、普通なら小さくカットしていつもと同じお菓子を作ります。私も、バナナを刻んでシュークリームに入れました。しかしそれをせずに本来の大きさを生かすという発想が、とても斬新だと喜ばれたそうです。
更にはその場でパフェを作ったり、焼きたて丸ごとアップルパイを切り分け、冷たいアイスを添えたりと、いわゆるパフォーマンスと言われるものも行いました。これは今までのお茶会ではなかったことで、好みに合わせて楽しめると、会場では大盛り上がりしていたそうです。
確かに、通常のお茶会でスタッフがお客様のお皿に取り分けることはありますが、個々に好みを聞いてパフェにしたり、デザートをプレートに盛り付けてデザインしたりはしませんね。しかし、まさか初めての試みだとは気付きませんでした。食堂ではお客様のお好みに合わせてアレンジするのは当たり前、貴族様にも通用して良かったです。
実はこちらの厨房の方々に、このパフェとデザートプレートの盛り付け方を聞かれました。特に小さなお子様向けのデザートは、食べられる食材が限られてしまうので、どうしても盛り付けが簡素になってしまいます。それをなんとかしたいと相談されたのです。
そこで提案したのが、お皿の空いたスペースを活用する方法です。チョコレートで動物の絵を描いたり、フルーツでお花を模しても素敵ですね。子供たちも喜んでくれるでしょう。
このお茶会でのパフォーマンスは、後の辺境伯家のお茶会名物となり、聖なるダンジョン産の食材人気にも寄与したそうです。
「ではお礼は後ほど、楽しみにしていてね。そしてこれからの話が大切なことなの。まずはこの袋を確認してくれるかしら?」
私はお嬢様から、大きめの袋を受け取りました。
袋を開き、あまりの驚きに息が詰まります。こ、これらは……
お嬢様は唖然とする私の手に、もう一つ箱を手渡してきました。促されて箱を開けると、百合をデザインした宝石箱らしき小箱が入っています。
お嬢様が小箱の鍵を開けてくれました。中には、白と黄色の百合の花がデザインされた銀色のブローチと、同じデザインの指輪が納められています。どちらも、花の中心には橙色の石が数個はまっています。
先に手渡された袋の中身は見覚えのある品ばかりでしたが、こちらの品には心当たりがありません。
「こちらの袋の中身はアリーのものよね? 実は、この宝石箱もこの袋に入っていたの。それはご両親からアリーへのプレゼントよ。まだ完成してはいないんだけどね」
なぜお嬢様はこれらが私のものだったと知っているの? この袋の中のものは、かつて私から両親を奪ったとある女の子が、私の部屋から持ち去ったものたち……。彼女は辺境伯家に勤めていたそうだから、お嬢様は彼女と面識があるし、私と知り合いだということも知っているでしょう。しかしどんな関係かまでは知らないはずです。どうして…………
「私ね、彼女には命を助けられたから、その命を大切にしなくちゃと今まで生きてきたの。でもね? 社交界に出るようになって、たくさんの噂が耳に入ってきたわ。どれもこれも、信じたくないようなことばかり……」
辺境伯様からは、お嬢様には真実を伝えていないと言われていました。今のお嬢様が幸せならば、辛い過去の真実は必要ない。彼女の本性は内緒にしてほしいと、そう頼まれていたのです。だからお嬢様は、彼女が辺境伯家にいたときも、彼女の本性を知りませんでした。
「彼女は私を騙していたそうよ。私と父の前では、献身的な介護者で侍女だったの。でも裏では私のものを全て奪い、私に成り代わるつもりだった。私の婚約者すら懐柔されていたわ。父は途中で気付いたそうよ。知らなかったのはマヌケな私だけ。少しは疑ったのよ? でも信じたかったの。騙されているとしても、友達でいてくれるならそれでも良かった。でも私は死にたくはなかったの……」
ずっと車イス生活だったというお嬢様。それを献身的に介助してくれた侍女。だからこそ、お嬢様は彼女の心を信じたかったのね。そして彼女は献身的な介護者を演じたまま、危うく死にかけたお嬢様を庇って死んだ。
私にとって親の仇だったあのズルい彼女は、実はお嬢様にとっては命の恩人だったのです。
死んだ人間にはもう仕返しはできません。私は自分が幸せになって、彼女に見せつけてやりたかった。あなたなんて私の中にはもう存在していないと、再び出会ったならそう知らしめてやりたかった……
私はこんな風に考えてしまう、自分の醜さが嫌いです。
「突然ごめんなさいね。それでね? 今更ながら私も現実を見なくちゃと、彼女の遺品を片付けていたの。そうしたら、それらが出てきたわ。アリー、あなたのものよね? 彼女の趣味とは違うし、鍵がかかっている品もある。気になって父に尋ねたの。父は重い口を開いてくれたわ。彼女は私にしたことをアリーにもしていたと、更にはそれ以上の罪深い行いをしたのだと……」
お嬢様……とうとう真実を知ってしまったのですね。
「私はしばらく立ち直れなかったわ。彼女に裏切られていたのが衝撃だったの。でも私も大人になった。しかも二児の母親よ。いつまでも父親に保護される泣き虫じゃいられないわ。父も旦那様も応援してくれたし、今日のお茶会ではアリーも疲弊した私を元気付けてくれたでしょ? だから私もアリーを応援したいの」
この宝石箱には鍵がかかっていました。お嬢様は中身の確認のため、専門業者に鍵開けを頼んだそうです。中には折り畳んだ紙が数枚と、先の百合のアクセサリーが入っていました。この紙を見て、お嬢様はこの小箱が本来私に贈られるはずのものだと知ったと言います。
百合のアクセサリーをよく見て気付きました。
袋に入っていた見知らぬアクセサリー類は、たぶん母の若い頃のものだったのでしょう。母は百合の花が大好きでした。ここにあるアクセサリーには、全て百合がデザインされています。彼女は母の品にまで手を付けていたのですね。
私の誕生石のカーネリアン。ルビーは高くて残念ながら使えなかったけれど、成人するまでにはイヤリングとネックレスを用意したいと、両親は城下町の宝石店で積立てをしてくれていたようです。その領収書が一緒に入っていました。
「その宝石店に連絡をしたら、キチンと積立て記録が残っていたわ。ご両親がお願いしたデザインも保管されていたから、父が今回のお礼として続きを作らせているところよ。本当は今日間に合わせたかったんだけど、さすがに無理だったの。もう少し待ってね」
もう驚きすぎて……何がなんだかわかりません。頭の中がグチャグチャです。
両親のことを思うと悲しい……だけど私のためにと残してくれた宝石箱は嬉しい……お嬢様の気持ちが……辺境伯様の気持ちが嬉しくて……とても心が温かいのです。なのに胸が締め付けられるように痛いのです。目頭が熱くて……
「アリー、お願い泣かないで。私はアリーに勇気をもらったの。私は真実を知るのが怖くて逃げてた。彼女が私のヒーローでなくなるのが嫌だったの。でもね、人の口に戸は立てられないから、聞きたくなくても耳に入るの。それに……、私はアリーを傷付けていたでしょ?」
え?
「アリーにあの子の話をすると、いつもキラキラしている目から生気がなくなるの。私は知らずに彼女の話をたくさんしていたわ。その度に辛い思いをさせたわよね。私のために黙っていてくれてありがとう。私はもう大丈夫。だからアリーも頑張りましょう!」
お嬢様が私の手を力強く握り締めます。
「彼女を許す必要なんてないわ。私だって許せない。だから私たちは彼女ができなかったことをたくさんしましょう。アリーも家族を作って、絶対に幸せになるの。まずはお洒落をして外出しましょう。良かったらこのあとお買い物に行きましょうよ。私がおすすめのお店を案内するし、お礼もあるから奮発しちゃうわよ!」
「お、お嬢様がですか? それにお礼は、形見のアクセサリーの続きを作ってくださっていると……」
「それと私からのお礼は別よ。それよりアリー! お嬢様ではなくライラと呼んでと言ったじゃない。子供は旦那様と父が見てくれているし、護衛にはうちのが二人と、ルイスもいるでしょ。何か買いたいものとかはあるのかしら?」
「そ……それなら……」
「女同士じゃない。ハッキリと言いなさいな」
「では……下着を買いに……」
は、恥ずかしいです。今までこういうことってなかったし……あら? お嬢様が私をじっと見ている? 特に上半身を……どうしたのでしょうか?
「了解よ。アリー、もしかしなくても、下着を付けてないでしょ? せっかく大きいのにもったいないわよ。まずは下着の採寸ね。しかし周囲の男性はウハウハだったわね……ルイス?」
「わ、私はそんな不埒な考えは……」
「いえっ! ルイスは下着はキチンと付けろと……全身コーディネートするから、早めに買いに行こうと言われていたのです。女性としての慎みがないからと……」
「ふーん。でも下着はやはり女同士で買いに行きましょうね。可愛いのを選んであげる。ルイスでは変な心配をしちゃうわ。さあ今から行きましょう」
「では急いで荷物をしまってきます。少しお待ちください」
やはりわかる方にはわかるのですね。パンツしかはいていないのは、そんなに変なことなのでしょうか? お店に行けばわかるかもしれません。
荷物をインベントリへしまって戻ってきたのですが……あら? お嬢様とルイスはまだお話ししているみたい。扉を開けても気付かないし、声をかけた方が良さそうです。
「お二人ともお待たせしました! ずいぶん話し込んでいましたね。もしかしてお二人は知り合いだったのですか?」
「アリー、お疲れ様です。ええ、私が神殿預りだった頃、お嬢様はよく辺境伯様に連れられて参拝されていたのです。歳が近いため、私がよく話し相手を任されていました」
へえー。
「さあ! さっそく行きましょう。下着のあとはお洋服に雑貨屋さんね。食材なんかも見たいわよね。美味しいスイーツに、夕食も食べて帰りましょう。楽しみだわ」
お嬢様の選ぶお洋服……お値段は大丈夫でしょうか? し、心配です……でもルイスもいるから大丈夫かしら?
さあ! 気分を変えて出発です。城下町の食べ物も楽しみですね。お料理やお菓子にも流行があり、日々の勉強が大切なのですよ。あ! 本屋さんにも寄りたいですね。
さて、久々の城下町です。仕事でちょこちょこ来てはいるのですが、いつもはリターンアドレスでとんぼ返りなのでゆっくり買い物なんて本当に久しぶりです。
私が修業していた頃と町並みは変わりませんが、お店はすっかり様変わりしていて寂しいですね。ですが城下町は全体的に華やかで賑やかで、町はもちろん行き交う人々までがお洒落な雰囲気です。
やはり若い方が多いからでしょうか、特に若い女性向けのお店が目立ちます。お洋服のお店だけでもたくさんあり目移りしてしまいます。そして目的の下着ですが……もちろん雑貨屋さんにパンツは売っていませんでした。下着類はランジェリーショップとして別にありました。所変われば品変わるということですね。
さあ未知なるランジェリーショップに突撃です! ……なんて勇気もなく尻込みしていた私は、お嬢様にグイグイと手を引かれての入店です。だってショーウィンドウのマネキンが着ている下着ってば……さすがにあれはないですよね?
「支払いは私に任せなさい!」
などといういきなりのお嬢様の宣言で、私はただいま着せ替え人形状態です。ここはランジェリーショップ内の採寸用のお部屋です。
とにかく恥ずかしいです。パンツ一枚の姿で周囲を取り囲まれ、至るところにメジャーを当てられています。穴があったら入り込んで泣きたいくらいです。でもルイスってバカなの? これについてくるつもりだったの?
もちろんルイスは入口で待ったをかけられ、護衛のお二人と共に別室にて待機中です。当たり前ですよ!
私は今もパンツ一枚のみの姿で、次々に違う生地を当てられています。かなりの時間が経っているのですが、まだ下着の生地を決めているんですよ。生地が肌に合わないと肌が荒れるとか……私にはよくわからないので、お任せしてされるがままです。更にはサンプルの下着を当てられ、着用の仕方まで教わりました。
ようやくパンツ一枚から解放されました。ルイスたちとも合流し、私はお茶をいただきながら休憩しています。
別の大きなテーブルには、何やらたくさんの本が積まれています。その本をああだこうだと捲りながら、お嬢様とルイスが真剣な顔で討論しています。
お二人の顔だけを見たら真面目に見えますが、話している内容は私の下着類と服についてです。下着のみならず服も仕立てると言われ、既製品で十分だと抗議したのですが……もうどうにでもしてください。
「アリー、必要な下着類と洋服は注文したわよ。サイズはこのカードね。カードは城下町周辺では共通だから、既製品でもこれを見せれば合うサイズを出してくれるの。今回のオーダー分は十日ほどで自宅に届くから、それまではこれを着用してね。一週間分が入っているわ」
お嬢様から袋を受け取ると、中には下着のセットが七組と、シンプルなワンピースが数枚、他にシャツやスカートにショールまで入っています。私の普段着にしてはかなり高価なお品ですが、シンプルながらも素敵なデザインです。
あれ? 別の袋に、パジャマや前掛けが入っています。それからこの可愛い小袋の中の石は、温石でしょうか?
「アリーは食堂ではいつも前掛けをしていますよね。そちらは私からのプレゼントです。パジャマは暖かそうでしたので、これからのシーズンにちょうどいいかと。温石は魔石です。保温の魔法が込められていますから、寝る前にポケットに入れてください。湯たんぽ代わりです。女性は体を冷やしてはいけませんよ」
うわー。モコモコパジャマは気持ち良さそう。確かに夜は冷えるから、湯たんぽ代わりは嬉しいです。色々あるんですね。でも前掛けに付いたフリフリは恥ずかしいかも……
「それから私の名誉のためにも言い訳させてくださいね。いくら私でも、女性が採寸をするお部屋にまではお邪魔はしませんよ。既製品を買うだけなら洋服を着たまま採寸をしてもらえます」
……確かにそうよね。私もつい失礼なことを考えていました。
「お気遣いにプレゼントもありがとう。何かお礼しなくちゃね。それに、失礼なことを考えてごめんなさい。確かにルイスなら、わざわざ私のことを覗かなくても見慣れてるわよね……」
「デートで男性が贈るプレゼントにお礼はいりませんが……はて? 見慣れているとはどういう意味でしょう? まさかザックがいらぬことを吹き込んだのですか?」
いきなり肩を掴まれてビックリ。ル、ルイスッ! い、痛いよ! 肩をガクガク揺すらないでー! 目が回るー!
「うっ……ザックは関係ないよ。だってルイスは綺麗だから、わざわざ覗かなくても自分で見慣れてるのかと……」
「はぁ……アリー? これはまた妙な方向へいきましたね。私はナルシストではないのです。己の顔や裸体を愛でる趣味はありません。おかしな誤解はしないでくださいね」
ふーん。
「アリー、ルイスは変態ではないから大丈夫よ。傷一つ残してたまるかと、回復魔法の精度を上げまくっていたときは、正直私も疑ったわ。このナルシストが! ってね。でも確かに覗く必要はなかったわよ。見かける度に裸同然の痴女に服を破かれて、追いかけ回されていたもの。逃げ切ったあとのあの一言! 『くそババアは死ねばいいのに!』は忘れられないわー」
「その追い回されるいたいけな少年を、トイレの扉の陰からニヤニヤと覗いていたのはどなたでしたか? 神殿のトイレに車イスは入りましたっけ? しかも当時はまだ腰かけ式ではなかったはずですよね? 中で這いずったら穴に落ちますよ」
お嬢様とルイスは、とても仲良しさんなのですね。
さて、ランジェリーショップを出て城下町を歩いています。私とお嬢様が並んで歩き、その後ろにルイス、やや離れて、お嬢様の護衛二人が続きます。
「さあ、お次は宝石店へ! と行きたいところだけど、アリーは絶対に首を横に振るわよね? 無理やり連れていってもつまらないし、ダンジョンでもかなりドロップしたようだから、今回はウィンドウショッピングといきましょう。アリーのお菓子には負けるけど、城下町には美味しいスイーツ屋さんもたくさんあるの。さあ行くわよ!」
「はい。お嬢様、ありがとうございます。ルイスも色々とありがとう」
「ライラよ。いつもそう呼んでとお願いしているのに……駄目なの?」
「……」
「呼ばないと返事しないんだから!」
「ライラ……ありがとうございます」
「くぅーっ。やっぱりアリーは可愛らしいわね。私には兄弟姉妹がいないから、特にそう感じちゃうのかしら? 本当に食べちゃいたいくらいだわ。ルイスにはあげません!」
ラ、ライラ! 苦しいです。むっ、胸に押し潰されてしまい息が苦しいです……っ。
「こら!」
ぷはー。すぐにルイスが引きはがしてくれて助かりました。
町歩きを再開しましょう。
雑貨屋さんにお花屋さん。どこも品揃えが豊富で、あれもこれもと欲しくなってしまいます。城下町の市場は他国の品もたくさん扱っていて、見知らぬ食材の宝庫でした。でも気を付けていないといつの間にか、ライラにあれもこれも買われてしまうのです。
「アリーはもう欲しいものはないのかしら?」
「本当に十分です。これ以上見ていたら、更に買われちゃいそうで怖いです。本当に今日はありがとうございました」
夕食はレストランを予約してくれると言われたのですが、屋台の並ぶ広場で色々と食べまくり、もう入りません。
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