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 今日は一日湖畔でまったりする予定が、急遽接待となってしまいました。しかも私たちがもてなされる側です。この繊維工場の設立にはご領主様だけではなく、レッドが個人としてもかなり食い込んでいるそう。資金面だけでなく、企画や采配までにも手をだしているそうでビックリ。奥様もいらっしゃるなら、セレモニーで混雑する前に、是非工場の見学を!てな訳です。
 「でもレッドって、剣バカの悩筋に近いのかと思っていたわ……」
 「エル……正直俺は剣より頭だ。魔物退治に必要だから剣は習った。嫌いでも無いしな。しかし悩筋はないだろ?まあ内政に関わるまでは、知識人の俺はお預けだな!」
 本当かしら?でも確かに腹黒い所はあるかも……。はーい。ごめんなさい。知識人のレッドも、楽しみにしていまーす。

 *****

 広々とした敷地のあちこちに、レンガ色の建物が等間隔に建ち並んでいる。時おり開けた中庭にベンチや日除け、噴水つきの休憩所があったりと、かなりゆとりのある設計のよう。一画には従業員用の宿舎まで準備されているのね。しかしなによりも画期的なのは、私たちが乗ってきた簡易転移門でしょう。研究職の魔法使いたちが、何年もかけて研究し開発した簡易転移門。魔道具は生活を便利にするためにと、日々研究され作られいかされています。そして今回は第一号がここに設置されました。この工場が出来たことにより地方が過疎化したりしないようにと、各地を結び色々と配慮したそうです。
 この国の全ての人々には魔力がある。これがいわゆるエネルギーというもので、人は身体中に魔力を巡らし活動している。この本来はエネルギーとして使われる魔力であり、ほとんどの人たちがトントンである。しかし希に魔力が過剰で、その過剰分を制御し魔法として使用できる人間が存在する。その人たちが魔法使いである。過剰な魔力は幼い子供には苦痛にしかならないため、制御出来ずに亡くなる子供もまだまだ多い。しかしそうならぬようにと、魔法使いになりえる子たちを、国をあげて保護し育成している。つまり魔法使いは希少。もちろん私もレッドも魔法は使えない。しかしその代わりともいえるのが、瞳に遺伝するという血統眼。特に貴族の血筋に多く、通事は父か母のどちらかの血筋の血統眼を受け継ぐ。しかしこれも希であり、必ず受け継ぐ訳ではない。また先祖がえりとして、まったく知らぬ血統眼が現れたりもする。王家などは他国の血も混じっているため、時おり不思議な血統眼が現れている。
 多分……レッドの黒ちゃんも、先祖がえりとかではないのかしら?お義父様は侯爵だというし、祖先に王家の血が混じっている可能性もある。
 あのピンクのミルキィさんには魅縛の瞳。聖女様には癒しの瞳。エドウィン様には鑑定眼です。そしてフレッド様も鑑定眼だと言われているけど……ミルキィさんとやらが、なにか意味ありげなことを言っていたわ。幼少時にどうとか……
 そして私には王家縁の鑑定眼と、公爵家縁の無力眼です。なぜか母と父の両方から受け継いでしまったのです。これは滅多にあり得ないことで、現在両眼持ちは私以外は確認されていません。

*****

 工場内では、色とりどりで沢山の種類の布製品が作られています。工場長が施設内の案内をしてくれています。
 「我が領は隣接している魔の森での討伐によりもたらされる、魔物の毛を繊維へ加工することが主な産業となっております。それが町ごとに行われて行われ、各地に分散しておりました。すると途中にかなりの輸送コストがかかります。そのコスト削減のために、この工場が作られました」
 透明な敷居で隔たれた広い場所。中では沢山の人々が場所をわけ、魔物の毛を加工している。なるほどね。全てをここに集め加工まで行う。確かにコスト削減には良いわよね。
 「ちなみにこの棟では繊維にするまでです。繊維に色や柄を付けたり、織物にしたり、さらには完成品の製品にしたりなどは、また別の棟となります。製品の展示棟もあり、商談や購入もできます」
 へー。これは凄いわ。似た工程をまとめ、分けるところは離す。衛生や効率を考えているのね。ふと窓から外に目を向けと、少し離れた所にガラス張りの大きな建物が見える。
 「あら?あのガラス張りの建物は?温室で繊維になる植物でも育てているのかしら?」
 「なんなら見に行くか?」
 「レッド様……さすがに妊婦の奥方様にお見せするものでは……」
 「いや?意外にエルはああいうのも平気だぞ。でもさすがに危険だから駄目だな」
 なによそれ!気になるじゃない。説明だけでもして!レッドに思いきり詰め寄って抗議する。はぁ?
 …………レッド?私をバカにしているの?いくら私でも魔物にモフモフはしないわよ!黒ちゃんは別よ!『節くれだったお尻にシマシマモフモフ?』なにそれ?えー!さすがにそれは御遠慮いたしますわ!
 「かなりモフモフだぞ?」
 「モフモフは哺乳類限定で!」
 「ならムチムチころころは嫌か?」
 「…………デカいんでしょ!しかもモフモフどころかつるッパゲ!怖いわよ!毛が生えてるのは毒もちが殆ど?って!毒がなくても嫌よ!モフモフと一緒にするな!」
 温室には巨大なクモの魔物が飼育されているそう。その温室の脇の小屋では、巨大な赤いイモ虫が飼育されてる…………。どちらももちろん魔物。でもなぜイモ虫は赤いの?しかも人間の二倍近い大きさ。なんだか血の色みたいで怖いし目立つし、潰されたら大変じゃない…………
 「まさか!赤い蛾か蝶になるの?巨大なのは微妙だけど、赤い蝶になるなら綺麗かも……」
 「残念ながら蛾にも蝶にならん。イモ虫はイモ虫のままだ。赤いのは森の中で目立ち、存在を知らしめるためらしい」
 「でも魔物なのよね?そんな図体で、よく魔の森で生き残れるわね。存在を知らしめたら殺られちゃうじゃない。へえ……吐き出す糸が栄養になるのね。だから襲われないの。ふーん……」
 私がレッドから説明を聞いていたら、工場長さんから小さな赤い巾着を数個手渡された。
 「これがレッドヤーンの糸から作られた製品のサンプルです」
 小さな赤い巾着の真ん中に、ピンクのハートが織り込まれている。中々派手な巾着である。でもかなり小さい。さらには中になにか入っている?
 「レッドヤーンとはイモ虫の名前ですが、夜になると赤い糸状のものを吐き出し体を包み眠ります。毎朝それを脱ぎますが、それを魔物たちは食べるのです。かなりの滋養があるらしく、子育て中の魔物は好んで食します。そのため魔物はレッドヤーンを襲いません。我々はそれを糸として加工していますが、現在は滋養ドリンクとしても開発中です」
 真っ赤なドリンク……正直飲みたくないわね…………
「エル?吐き出す糸は真赤だが、色は中和させるから色々な色あいになる。さすがに真白はむりだが、淡いピンクにはなるぞ。糸はもちろんだが、ピンクの滋養ドリンク!最高だな!生地の手触りもサラサラのつやつやだ。肌にも優しくてバッチリだろ?女性のランジェリーや寝間着なども色々と作られている。展示棟が楽しみだな!」
 なにが楽しみなの?真っ赤な下着なんてはきませんから!え?ピンクの?ピンクのも同様です!!
 「このミニ巾着は、女性のお土産としての一番人気なのです。レッドヤーン。つまり赤い糸です。赤い糸で結ばれた恋人は幸せになる。そんな言い伝えから、この巾着が作られました。水晶をレッドヤーンの原色で巻き、鎖を通したチャームが中に入っています」
 へーお洒落な感じのチャームね。私が触れると巻かれた赤い糸の色が変化する。赤がピンクへ。薄くなったり濃くなったり、赤やピンクへとぴかぴかと変化し点滅しはじめた。おもわずビックリしてよろけてしまう。
 「すみません!大丈夫でしょうか?申し忘れていました。レッドヤーンの糸は魔力に反応します。糸自身に魔力を含んでいるからでしょう。それを生かしてこの巾着のハート模様とチャームの糸の部分だけが、触れると点滅するのです。赤い部分からは魔力を完全に抜いています。逆にピンクと糸の部分は、魔力固定剤を使用しています。握ったり擦ったりすると点滅する仕組みです。もちろん抜いた魔力も再利用していますよ」
 よろけたから心配させてしまったのね。でもこれくらいなんともないわよ?なのにさりげなく腰に腕を回さないで下さる?ニヤケるレッドの顔が嫌よ!
 「レッド?なんとなくなにを考えてるのかはわかります。でも休憩は要りません。もうすぐお昼ですよね?」
 「でも触れただけで点滅してるぞ。エルは過剰分を貯めて置けないし使用しない。もったいないよな?だからちょこっと休憩を!」
 「…………要りません!なら手を繋ぎましょう。皮膚接触でじゅうぶんです!」
  ………………手をギュッと、痛いくらいに握りしめられた。しかむも恋人繋ぎじゃない!見られたら恥ずかしいわよ!
 「はい。ではお食事に行きましょう。工場長ー案内をよろしくーー」
 「ではこちらへどうぞ。午後からは展示棟の方へ行きます。レッド様の企画された商品も実用化され既に展示販売されております。工場の総力をあげお作りしました。奥様も楽しみにしていて下さいね。」
と前を歩き出す工場長。
 なんだか嫌な予感しかしません……

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