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しおりを挟む正国は半島の下部に位置し、オムレツ型の横に細長い国土をしている。オムレツ型の下側は外海に面した断崖絶壁であり、海の恵みの恩恵にはあやかれない。私の住むクローブ皇国も国土に面する海の半分以上が、正国と同等の外海にあたる。まあ国土が地続きなんだから当然よね。
しかし我が国には、少ないけれど内海に面し、砂浜まである地域がある。つまり海を暮らしの糧としている人たちもいる。もちろん海にも魔物はいるわ。だからこそ資源に価値があるのも事実。しかしこの半島では完璧に内海に面している、チャービル公国が海の覇者なの。大がかりな港を有し、たくさんの屈強な大型船や漁船を有している。またたくさんの国と接しているから、貿易の中継地点としてかなり栄えているの。
キャラウェイ王国やフェンネル国は、チャービル公国に港の一部を賃貸して貰っている。フェンネル国は完璧に内陸だし、アリーのいるキャラウェイ王国は、ヒョウタンを縦に立て少し左に傾けた様な少し縦長な形の国土。その先端部分がチャービルの国土の、切れ目部分の内海に接している。
ここは内海ではあるのだけど、そこに港を作るには、お城からは距離がありすぎる。そこまで道を整備するだけでも大変。もちろん大がかりな漁港の設備はないけれど、近隣の住民は色々と策を労して利用しているそうよ。鎖国を解いたばかりのクミン帝国が初めてキャラウェイ王国に訪問した際、チャービル公国の港に入らず、迎えがいなくて大騒ぎしたらしいわ。
その後もアリーの新婚初夜の邪魔をしおって……しかも無理やり新婚旅行先を帝国に変更させ、策略を計り皇帝の側室だと?
皇帝とやら……もしも顔を合わせたら……成敗してくれるわ! まあ帝国も反省して仲良くなったみたいだし、私にもアリーにも利はないので黙殺しよう。
だが……もちろん次はない!
「エリー? 考えごとですか? 場所はどうでしょう。孤児院の裏手にあたるので、効率も上がると思うんです」
「そうね。畑の場所は完璧だと思うのだけど、左側に面している、魔の森が気になるわね」
「たしかにそうですね……魔物避けと柵で魔物の侵入は防いでいますが、何かの拍子にこちらから迷い込んだりしたら……」
うーん。すでに廃坑である資源も乏しい裸の山々。これらは魔法大国との国境となっている。大きな孤児院はちょうどこの山々に囲まれた、盆地のようなところに今回建てられた。私たちは本当に、あまりに孤児たちが多くてビックリしたの。正国も慌てて自活出来ない子供たちのための施設を作り集めたの。
クーデターが終了して……正国の現状を知り、近隣諸国の誰もが驚き後悔した。
ここまでなる内に何かできなかったのかと……
城下町には子供がほとんど居なかった。ユリウス様の幼少時のように、大神殿に連れ去られてしまったから。城下町には大人と……本当に小さな子供だけ……しかし外に出るとそれが逆転した。圧倒的に子供が多く大人がいない。大人は子供を生かすために、己はたべずに与える。やがてその大人が死ぬと次の子が……
さらには城下街から、近隣の村へ子供が捨てられた。生産性のないあてのない配給に縋るよりも、草の根でも食べられる地方へと……
しかしこれらは先が見えている。大人がいなくなり、やがて子も産まれなくなりいなくなる。もと聖国はすでに内部から腐れおちていた。このままでは先がなかった。だからこそのクーデター。私はそんなつもりはなかった。全ては私の行為に便乗した国々が行ったこと。でもそれでも構わない。
子供たちの笑顔は全国共通にしなくちゃね。
「魔の森のことは後にしましょう。最悪結界をはりましょう。私のスキルでの結界ならば、魔力を使用しないので長持ちします。魔除けの魔道具との併用なら、かなり守りは強固になります」
「ありがとう。そうなる場合は、冒険者ギルドを通して依頼の形を取るわね」
「はい。お任せします。では植物の説明をします。この山の麓沿いに果物を植樹します。まずはオレンジを数種に後は試しながらですね。野菜はトマトと玉ねぎとアイスプラントです。どれも大きくは実らないそうですが、小粒ながらに旨味が凝縮するそうです」
アリーがお料理のサンプルを出してくれる。これらはシーグリンダンジョンの内部で育成実験したもの。ダンジョン内部の植生は、外界にだしては育たない。それが一般常識。しかしフェンネル国の研究者は頑張った。
外界から持ち込んだ品々が、何か特別な影響でダンジョンに根ずく。これをダンジョン化と名付けた。ならば逆の外界化あり得ないのかと。
「ダンジョン内での不思議な植生を、地上で同じ状態にして育成してみたようです。私もまだ説明を聞いただけで、実際には見ていません。近々ダンジョンへ視察に行く予定なので楽しみのんです」
つまり今回植樹する果樹類と野菜類は、地上では敢えて試みない、シーグリンダンジョンの海辺に自生していたのね。
なるほど……。ダンジョン中の海辺に育つ植物。普通の地上で同様な土壌であれば、あまり大きくは育たないでしょう。もしかしたら塩分量次第では、枯れてしまうかもしれないわね。しかしダンジョンの中では巨大になりたわわに実っている。ならばと地上でも同じ環境を与えでみたら?試しにダンジョン外の海辺で育ててみたら、枯れもせずに育つ。さらには小ぶりとはいえたわわに実り、さらには甘くて美味しい。研究者たちは何度も実験を繰り返したという。
「ようやく実験が成功したそうです。きっと塩分の含有量の多いこの土地なら、立派に育つと思います。この辺りは雨も少ないと聞きました。水も少なくて良いそうです。残りの斜面には綿花を植えましょう。栄養の乏しい土地でも育ち繊維や綿として加工できます。糸紡ぎ機と織り機も、中古ですが用意しました」
これらはフェンネル国が後押ししてくれているという。フェンネル国は正国と面してはいない。しかし国土は完全に内陸部に属し、また山間部が多いため、やはり食材を自給する手段に乏しく貧乏で、接する魔の森に頼っていた。しかしダンジョンを次々と発見し開発して、現在はかなり裕福な国となっている。
「我が国でも綿花は、孤児院の子供たちが色々な商品に加工して販売しています。これからなら飾りですね。クリスマスリースやオーガニックリースかな? サンプルを次回お持ちします。アイスプラントもですが、将来的には土壌の改良にも繋がるそうです」
アリーが子供たちに種子を手渡しながら話をする。孤児院の職員や神官にボランティアの皆さんが、それぞれに種子をまいてゆく。育成手解きの冊子を担当者に手渡す。
「このアイスプラントの食感が楽しいわ。見た目も綺麗ね」
「はい。私はすでに出張料理のサラダに取り入れています。この粒々したところに、過剰な塩分などを蓄えているそうです。なのでミネラルが豊富です。ただ塩分には気を付けて下さいね。私はこのサラダのドレッシングには、塩は加えません。また炒めものにも天ぷらにも万能です」
「天ぷらも!? ならマリエンヌに作って貰わなきゃ! 抹茶塩か柚子塩が合いそうね! あ……でも残念……アイスプラントが手に入るのは、まだまだ先ね……」
残念がる私に天使の一声が!
「アイスプラントなら在庫がまだあります。他の天ぷらの材料も、帝国から戻ったばかりなのでありますよ。あ! ウナギは残念ながら有りませんが、穴子ならあります。魚介のキスや川魚のハゼなんてのも有りますよ。是非、マリエンヌさんへのお土産にどうぞ」
アリーってば!!本当になぜこんなに可愛いのかしら?ついつい抱き締めたくなってしまうわ。あら?もしかして……ううん。もしかしなくても……
「アリー? 体調は大丈夫なの?」
「はい。特に悪くはないですよ?」
「でも……妊娠していない? 」
「え? 」
「そうよね。まだ結婚したばかりよね?ハネムーンベビーにしては……でも……」
たしかアリーの旦那様もかなりの高魔力もちだと聞いたわ。なら胎児の成長が早い恐れもある。本人自覚なしは不味そうね。
「あのね? アリーから違う魔力の流れを感じるの。もしかしたら旦那様の残滓の可能性もあるけど、たぶん赤ちゃんかなと思うのよ……」
「えー! だってまだ! 式から二ヶ月にもならないんですよ! もちろん婚前交渉も許しませんでした! 普通はこんなに早く解りませんよね? 」
もう一度、アリーをギュッと抱き締めてみる。
「うーん。やはり違う流れが有るわ。でも赤ちゃんの魔力なら、すでに三ヶ月並みの成長速度よ。旦那様もアリーもかなりの高魔力もちだし、戻ったらキチンと調べて貰いなさいな。余りイチャイチャしすぎると成長速度も早まるから、あっという間に出産で、下手したら連続出産よ……」
「……」
「でもラブラブなのね。これがもし赤ちゃんではなくて、旦那様の魔力の残滓ならば束縛具合が良く……わかる様な……って! やだ! アリーごめんなさい! 違うの! ものすごく愛されちゃて羨ましいわって!考えすぎないでー! 」
あらやだ! アリーってば青ざめちゃってる。
「アリー? 大丈夫?本当にもしかしたらの可能性だからね? 旦那様の素敵な愛情かもしれないじゃない。魔力を持つ同士なら、俺のものだ!との、虫よけと言うか牽制にもなるのよ。安心じゃない。とにかくみて貰ってみて? 」
「……牽制に虫よけって……動物たちのマーキングじゃ無いんです!やはり普通じゃない……」
ルイスさん……アリーのボヤキが凄いことになってますよ? ……マジ? ルイスさんもエド並みじゃない! マリエンヌ曰く、ヤンデレ溺愛って奴なのね。アリーには可愛そうだけど、どう考えても普通はないわね。そんな旦那様と仲良しなアリーってば!ますます尊敬しちゃう。でも……
今は立ち直って貰わなきゃ!
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