【完】まだまだ宜しくないヤツだけど、とりあえず婚約破棄しない(確実)

桜 鴬

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 うわぁ……さすがに混んでいるわね。私がここに突入して並んだら、さすがに迷惑をかけそう。チラリと後ろを振り替えると、ササッとリーダーが顔を出す。

 「ねえ。さすがにアポ無しは不味かったみたい。まさかこんなに繁盛しているとは思わなかったわ。あちらにテイクアウトの窓口があるから、リーダー買ってきてよ。私は仮出店している、自国の販売ブースを見てくるわ」

 護衛にとついてきたリーダーに声をかける。

 「おい……俺は護衛だぞ。並んでいたら護衛の意味が無いだろうが! また出直したらどうだ? 」

 嫌でーす。今日を逃したら、またエドワードがビッタリなのよ。それにかば焼きを食べたいじゃない。今回はまだ帝国で養殖を始めた本物のウナギは間に合わず、素材はシーグリンダンジョンのワニ型の魔物の幼生らしいの。でもアリーの手にかかると素晴らしいお味の料理になるから不思議よね。もちろん白米は我が領地の物です。ころポックル商会が商業ギルド経由で、我が領地から直接買い付けた形としたの。アリーの国は自国の小麦生産者を守るため、穀類は正式に輸入はしていないの。なので欲しい人は、個人的に輸入するしかない。アリーならインベントリが有るから個人での買い付けも可能だけど、商売として使用するからと商業ギルドを通した。たしかにその方が税金も天引きされるし、あとから問題が起きたりもしないわよね。

 「私はかば焼きが食べたいのです! 」

 「……本物のかば焼きが出来次第、必ず招待してくれるんだろ? それにアリーさんなら、違う日でも作ってくれそうじゃないか。 我が儘言うなよ……ってか、言わないでください。エリザベート皇太子妃さま? 」

 たしかに本物のウナギが帝国で養殖され次第、必ず食事に招待してくれるとは言ってくれたけど……本物でなくともたべたかったのです!

 「ふぅん……ここで私をそう呼ぶんだ? しかもまだ婚約者よ。皇太子妃ではないわ!でも良いわ。ならブレイブ! 皇太子妃からの命令です! あの列に並びかば焼きなどを二人前購入し、向こうのイートインコーナーで待ちなさい。もちろん飲み物付きよ。わかりましたね? 」

 「…………」

 「ブレイブ? わかりましたか? ブレイブ?これは命令です! おや?返事が有りませんよ? ブレイブ? もう一度言い直しますか? 」

 「…………」

 「私に護衛が必要ないのは理解していますよね? ブレイブはいわばお目付け役です。私は大丈夫です。ブレイブ? あなたはそこのところを理解していますか? 」

 「……ウガァー! 了解です! 並んで購入して来ます! 飲み物つきですね! もちろんエリー様は食べていかれるんですよね? もう一人前は皇太子さまのお土産用に、別の袋に分けますか? 」

 「お土産になんてしないわよ。こちらに飛んだのがバレちゃうじゃない。ブレイブと一緒に食べるのよ。これくらい奢るわ。でもブレイブってばやはり勇者よねー。と言うかマゾなのかしら? 私を弄れば倍返しよ。まだまだ理解不足なのね」

 「そんな理解したくもないわ! だからもうブレイブ呼びは止めてください。私は勇者ではありません。名前負けが恥ずかしくて……己がヘタレだからと、俺の名前を……親父の馬鹿が! 」

 ブレイブって異世界の言葉で、勇者という意味があるそうなの。我が国の集団転移とおなじくとある国で、遥か昔に今は禁忌とされている、異世界からの勇者召喚が行われたことがあった。そのとき召喚された少年は、頑として己の真の名前を言わなかった。名前には言霊が宿る。真の真名は愛するものだけに伝える。だから己のことは、勇者という意味のブレイブとでも呼んでくれ。彼はそう言ったそうよ。この世界にそんな理はないと諌めても、決して本当の名は名のらなかったという。

 たしかその勇者ももとの世界には戻れなかった。異世界からの召喚は、本当に罪深いことなのよ。召喚された側が召喚した側を、不信がっても仕方がないわよね。

 「あら格好良いじゃない。勇者ブレイブよ。さああの行列に混じり戦うのだ! 姫はお宝を所望しておるぞ。串焼きも付けてくれたら尚よろし」

 「もう勘弁してくれ……」

 はいはい。もう弄りませんよ。あら?あの売店窓口にいるイケメンは……うわっ、これはまたエドワードと違うタイプのイケメンね。さすがに女性とは間違えないけど、中性的な顔立ちだわ。あの方がたぶんアリーの旦那さまね。アリーのいうとおり、女装がバッチリ決まりそうよね……

 ……しかしやはりエドワードと同じ匂いが……ぜったいにエドワードと仲良くできそうよね。二人で少しは反省してくれないかしら?アリーの旦那さまはかなり抑えも効くようになったそうだし、エドに指導してくれたら助かるわ。それにはまずクローブ皇国からキャラウェイ王国に、公式訪問する手筈を確定しないと。出店ブースも仮ではなく、正式出店にしたいしね。アリーの商会は王家の庇護を受けている。だからさすがに正式出店するには、王家との面会が必要なの。早く正式に出店したいわ。でないと身バレしたら不味いから、他の店舗を堂々と見て回れないじゃない。

 皇太子夫妻での公式訪問の申請は出しているのだけど、エドワードの公務が意外に立て込んでいて、話が進まないのよ。だから今回は内緒で来ちゃった。あ!密入国では無いのよ。私やアリーの様に国からの依頼でギルドの仕事をしている者は、友好国内はフリーパスなの。プラチナランクのギルドカードが証明してくれるわ。転移で来ちゃうから、ほとんど見せる必要はないけどね。

 「はいはいっと。ではリーダー。よろしくー」

 「はいは一度だろ? 」

 「……」

 「これは余計なことを言ってすみませーん! それじゃっ! 俺は並んで来まっす! エリーは視察と展示を頑張ってきてください! 」

 まったく……エドワードの言うことばかり聞いちゃうんだから! 誰の護衛なのよ!まあ次期皇太子妃、やがては王妃が、軽々しく国を跨いで外出するのが良くないのは理解しているわ。でも王室は堅苦しいのよ。さすがに私だって普段は自粛しているじゃない。たまの休日ぐらいは自由にさせて欲しいわよ。

 自分の身くらい自分で守れるわよ。だから一々心配するな!今日だって!丸っきり遊びに来たわけじゃないの。こちらに出展している我が国の仮の販売ブースに、マーガレットブランドの新製品を届けに来たのよ。今までにも何度か来てはいるんだけど、お店は任せきりだし、他国の出展ブースも見て回っていない。各国のブースにはその国の代表が居たりするから、素顔で私がウロチョロするのは不味いわけ。

 だから早く公式訪問したいのに!

 とりあえず今は己に認識阻害の魔法をかけています。軽くだから、私をしっかりと知っている方にはバレるわよ。強くかけすぎて、リーダーが私を認識してくれなかったら困るからね。

 よし並んだな。ではでは自国のブースへ!

 最近は正国もようやく落ち着き、魔の森への素材採取にも、かなりの人々が入るようになった。綿花による織物も丈夫な布地にし、コースターなどの小物類やインテリア物を作成し始めている。それらの小物類も、こちらで展示販売して貰おうと持参したのよ。

 あの後、男爵家はお取り潰しとなった。ブライアンに言いがかりを付けた男女は、男性の一族とともに、正国へ正式に移住した。二人は正国で子連れで結婚式をあげた。現在は食堂を開き、家族で楽しく切り盛りしているという。

 二人は脅されただけ。未来ある若者のために、罪は不問とされた。

 しかし男爵はそうは行かなかった。例え辛い過去が有ったとしても、領民を苦しめ親族を蔑ろにし、己の欲望を満たそうとした。しかも公爵家の嫡子をはめようとしたのだから。下手したら婚約者の姫君との関係が悪くなり、国際問題にまで発展する恐れさえあったわけ。これらにより爵位没収の上、鉱山送りと決定したわ。一応借金奴隷扱いだけど、その借金は一生かけても払いきれる額ではないでしょう。 

 まあとにかく丸く収まって良かったわよ。ブライアンを鍛えておいて良かったわ。お陰でブライアンの無実が簡単に証明出来たもの。私は色々と考えながら、自国の仮のブースへ向かう。店員さんに新商品と展示物を手渡し、店内のディスプレイと商品説明のボードを手書きした。

 さて。一応ギルドのプラチナカードは有るけど、この辺りには長居は無用ね。やはり客層が良すぎて顔見知りに出会いそうだわ。この辺りの各国の出店ブースは高級品が多いから、客層もどうみても貴族って方が多いわよね。

 「こんにちは。貴女はもしかして……クローブ皇国のエリザベート嬢では有りませんか? 」

 え……背後から声をかけられ一瞬身構える。認識阻害魔法かけているのに気付いたの?って言うか、キャラウェイ王国で私を知っている人なんて……

 振り替えると金髪青目の青年が……

 あ……たしかに一度、正国でお会いしていますね。エドワードと同じ色彩だから覚えていました。しかしまさか私を覚えているなんて……

 しかもこの方は……

 私は曖昧な笑顔を返した。

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