17 / 18
⑯
しおりを挟むやはりこの方は……
「こんにちは。まさかエリザベート嬢が来国されているとは思いもしませんでした。たしかアリーさんと懇意にされているとか? こちらもそれ故の仮出店だと聞いています。しかし今日はアリーさんは忙しいはず……あれ? もしかしなくてもお忍びでしたか? 実は私もお忍びで、こっそりかば焼きを購入しに来ていたのです」
……お忍びって……私はたしかにそうだけど、貴方が護衛も付けずに……しかも顔も隠さずに素のまんまじゃないの!
「ご無沙汰しております。まさか私の顔を知って下さっているとは思いもしませんでした。しかも認識阻害を見破るなんて……」
「ああ! これは失礼しました。面とむかいお話をするのは初めてでしたね。改めて自己紹介いたします。私はキャラウェイ王国の第二王子である、ハリスと申します。宜しければハリーとお呼び下さい」
やはり第二王子さまだったのね。しかしさすがに王子さまに名前呼びは出来ないわ。
エドワードが怖いしね……
「私はすでにご存知の様ですが、グローブ皇国の皇太子さまの婚約者です。公爵家のエリザベートと申します。本日はギルドのプリズムカードで入国しています。公式では有りませんので、正体は内緒でお願いいたします」
第二王子さまはたしかアリーたちと懇意にされているのよね。青い鳥さんが教えてくれたの。
僕の下僕だって……
いきなり鳥さんが公爵家の、私の部屋に入ってきたのには驚いたわ。だって鍵をかけていて密室だったのよ。さらには喋り出すし、姿まで人型になってしまうし……
しかし聖獸なら納得よ。グローブ皇国では幻と呼ばれている聖獣。もちろんキャラウェイ王国でも、伝承に伝わるくらいで、その姿を見たものはいないという……そんな聖獣に守護されているアリー。大きな力や貴重な才能は、人々の役にも立つし己の力にもなる。しかし悪意にも晒され易いの。
私は護衛なんていらない。己の身は自分で守れると思っている。でもそれは私が公爵家の令嬢で、皇太子さまの婚約者だから出来たたことも確かだわ。もし市井で育ったなら膨大な魔力量を狙う輩に、拐われたりしていたかもしれない。対人戦まで教え込まれた王妃教育は辛かったけど、今なら感謝できる。
しかしアリーはそうは行かなかった。普通なら両親を亡くした時点で路頭に迷ったかもしれない。だってこの時点では、貴重なスキルを持っていなかったと言うじゃない。しかしすべてはアリーの人柄というか人望よね。たくさんの人々との絆が、今のアリーを形にしている。
さらには聖獣まで懐くなんて!
青い鳥さんは、私を試していたみたい。アリーの害になるようなら、排除も辞さないと言っていたわ。大丈夫。私はアリーを裏切ったりはしないわ。だって初めてのお友だちだもの。
「ああ。もしかしたらかば焼きを食べにいらっしゃったのですか? 今日の食堂はきっと、昼休みもないくらい忙しいと思います」
「ええ。先ほど見て来ました。なので護衛にテイクアウトを頼みましたわ。あちらのスペースで食べて帰ろうと思ったのです。しかし一度しか面識のない王子さまに見破られてしまうよう様では、たとえ軽くとも心配です。持ち帰って食べますわ」
たしか第二王子さまには、魔法系のスキルは無いと聞いている。しかも魔力も微量らしいのに、軽い認識阻害でも見破られるなんて……
「もしかして認識阻害の魔法を使用されているのですか? なら心配なさらず食べて行って下さい。実はこの指輪のおかげなんです。お忍びの際に護衛は無粋ですよね? そのために使用しているのです」
魔法効力無効の指輪……身に付ける者に関わる、すべての魔法の効力を打ち消す指輪……
「これでも私は王子ですから、護身はしっかりとしているつもりです。体術も剣も人並み以上はできますし、毒耐性などもつけています。しかし魔法にだけは勝てません。そのための魔道具なのです。これで認識阻害を解除したのでしょう」
ほうほう。ならばそれに状態異常解除の魔法を付加した、魔道具を持てば最高じゃない。毒耐性はあるみたいだけど、耐性のない毒に当たったりしたら大変だし、魔法でなく薬物などで精神や体を異常状態にされたら困る。それに私の状態異常解除の魔法は、ケガや病気にも効果が有るの。つまり体が異常だと感じれば、ケガの治療までしてくれちゃう優れものよ。魔道具に込められる魔力量にもよるけど、腕を切り落としてもくっついちゃう。もちろん魔力不足なら無理だけど。
「すみません。その指輪をお借りしても宜しいかしら? 」
「エリザベート嬢は、かなり魔道具にお詳しいとか? たしかローレル魔法大国の、筆頭魔術師が師匠でしたね。あ! たしか弟君が魔法大国の姫君とご婚約されたとか。後れ馳せながらおめでとうございます」
第二王子さまは話ながら、指輪を外し手渡してくれた。その指輪をジックリと観察する。これなら大丈夫そう。魔力もかなり充填できるし、まだ数個は術式も書き込めそうね。
「ありがとうございます。不出来な弟ですが、素敵な婚約者に恵まれ、我が公爵家も安泰です。すみません。少々お時間を下さいね」
私は頭の中で書き込む魔方陣をなぞり始めた。状態異常解除の魔法を書き込み一息つく。良し成功よ。しかしかなりスペースを使ったわね。でもあと一つくらいはいけそうね。私はさらに雷撃の魔法を付加した。これは使用する魔力量次第で、雷の威力を増減できる。軽くしてスタンガンの様に気絶させたり、出力最大にして特大の雷を落としたりできるわ。アリーが使用している、殺っておしまい棒みたいなものよ。
最後にサービスで魔力を最大まで充填する。
「はいどうぞ。お返ししますわ」
「こ……これは……」
「状態異常解除の魔法と、アリーの魔道具の様な雷撃の魔法を付加しました。これで攻守ともに安全ですし、魔力量次第では治療もできます。魔力はかなり充填できる様ですので、無くならない様に補充して下さいね。今はフルに充電されています」
第二王子さまはポカンとした顔をしている。金髪青目の正統派王子さまの、イケメンなお顔が台無しですよ?
「これはまた素晴らしいですね。こうなると我が国ではもう国宝扱いですよ。とくに状態異常解除の魔法で、治癒ばかりか切断まで治せるとは……」
やだ。もしかしてやり過ぎちゃった?私の魔法はチート過ぎるから気をつけろと言われていたのに不味いわ……
「エリザベート嬢。さすがにこれをタダで貰うには……しかし指輪は返せぬし……なにかお礼になる様なことは無いだろうか? 」
「言わなければ大丈夫! というわけにはいきませんよね? 」
「それは無理だな。我が国は魔法に関しては後進国だ。魔力があっても、スキルが発現しなければ魔法は使えない。魔道具職人もまだまだ少ない。ダンジョンのドロップ品に頼っている状態だからな。本当になにか要望は無いのか? 」
……なんだか悪いことしちゃったみたいね。ならそうだ!
「ならばお言葉に甘えまして、私と皇太子様に、キャラウェイ王国への招待状を戴けませんか? 是非こちらに公式訪問をしたいのですが、皇太子さまの公務が多忙で許可がおりないのです。ですが其方からの招待状ならば大丈夫かと思うのですが……」
いきなり過ぎたかしら?第二王子さまが考え込んでしまったわね。
「それならば年末に行う予定の、クリスマスの晩餐会とパーティーの招待状を送ろう。アリーとルイスが親善として各国を回り、多種多様な文化を持ち込んでいる。クリスマスというのもその一つで、城の中庭を解放し屋台や大道芸人たちが城下にまで続く。庶民も楽しめる催しだ。その夜には近隣諸国の方々を招いて晩餐会とパーティーを行う。良かったら是非参加して欲しい」
なにそれ! とても楽しそうね。
「ご招待されても宜しいのですか? 」
「もちろん大丈夫だ。クローブ皇国とはまだ正式な友好は結んでいないが、ギルドを通じ正国の復興で協力関係にある。私も正国へは度々訪れているし、そこで知り合ったことにしよう。アリーさんとも正国繋がりで仲良くなったのであろう? 」
そうね。それまではギルドで会っても、すれ違うくらいだったもの。
「おーい! ようやく見つけたぞ! せっかくのかば焼きが冷めるだろうが! なんだよ立ち話しているのか? キャラウェイ王国に、アリーさんたち以外に話をする様な知り合いっていたか? 」
リーダー……すっかり忘れていたわよ。
「良ければ個室で食べて帰ったらどうだろうか? 私も食べて帰りたいが、さすがに外では人目につくからな。この商会には商談室がある。貴族が使用するための場所で食事もできる。私も鍵を持っているから使えるんだ」
そうね。証拠隠滅のためにも食べて帰りましょう。それに第二王子さまとも、もう少しお話したいかも。
「護衛もご一緒しても宜しいですか? 」
「構わない。中々フレンドリーで、楽しそうな護衛ではないか」
「リーダー! 待たせてごめんなさいね。個室を使わせて貰えるそうだから、そちらで食べて行きましょう」
「なんでわざわざ個室で? 」
「王子さまが堂々と外では食べられないでしょ」
第二王子さまの身分をリーダーに伝えると、余程驚いたのか顔が青ざめていた。
そんなにビックリすることかしら?
「……エリザベートさま? お忍びでなぜ他国の王子を釣り上げていらっしゃるのですか? エドワードさまに叱られますよ」
ほう? リーダーはまだ懲りない様ね。
「ブレイブ? 今日はお忍びです。エドワードは知らないはずです。なのになぜ叱られるのですか? それはつまりブレイブが、告げ口をすると公言しているということになります。しかも二人きりではありません。ブレイブも一緒に食べるのです! 」
「……」
「エリザベート嬢。もしかしてブレイブ呼びって、勇者ブレイブのこと? もしかして勇者の様に強いからの二つ名なのかな? しかし告げ口は勇者らしくないな」
「ウガー! ブレイブと呼ぶな! 本名だ! 俺に二つ名なんて黒歴史は無いわ! 」
リーダーっては第二王子と聞いて青ざめていた割には、敬語もなにも使っていないじゃない。まあ私がブレイブ呼びで意地悪したからよね。
「はいはい。リーダーごめんなさいね。さあ早くかば焼きを食べましょう。第二王子さま。お話の続きは食事のあとに……」
私たちは嫌がるリーダーを引きずり、貴族の使う商談室へと向かった。
*******
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す
RINFAM
ファンタジー
なんの罰ゲームだ、これ!!!!
あああああ!!!
本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!
そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!
一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!
かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。
年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。
4コマ漫画版もあります。
貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~
みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。
何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。
第一部(領地でスローライフ)
5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。
お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。
しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。
貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。
第二部(学園無双)
貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。
貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。
だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。
そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。
ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・
学園無双の痛快コメディ
カクヨムで240万PV頂いています。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる