元勇者で神に近い存在になった男、勇者パーティに混じって魔王討伐参加してたら追い出されました。

明石 清志郎

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43話:金貨の使い道

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 帰ろうとすると途中で三人が住民を引き連れてここまで来た。そう、三人に住民が立ち上がるよう説得させたのだ。何でそんな事をさせたかと言えばリオにその姿を見せてやりたかったからだ。確かに俺がいないでそんな事しても無駄死にだっただろうし、生贄一人で全て解決するならその方が平和的に終わるだろう。でも今回は俺が奴を倒しリオは無傷で戻るのはほぼ確定だったし、戻る時リオに街を嫌いになって欲しくなかった。

 「お、俺達も戦いに来た……魔物は何処だ?」

 先導してきたのはあの時リオの家に来て生贄にしようとしていたポルトだ。百人近くで武装してきたあたりまだましか。だが来ないよりは遥かにいい。

 「みんな来てくれたのね……」
 「この子達に説得されたんだ……一人だけに犠牲させて助かるのかってさ……」

 この時の彼は凄く申し訳なさそうな表情を見せていた。

 「お前を生贄に決めた俺達が逃げるのは人としていけないってみんな思ってた。でも恐怖からその決心がつかず来た人数も百人。すまねぇ……」
 「その決意だけでも立派ですよ。それにもう魔物は倒しましたから」
 「えっ……」

 この時、全員の顔がみんなして固まっていた。三人はそうだろうと思っていたのか普通だったがな。

 「来るとき戦いの音聞こえませんでしたか?」
 「いや、確かに聞こえたけど、リオもあんたもいるしてっきり魔物が癇癪を起しているだけかと……」
 
 三人はその音が止んだ時に戦いは終わったと理解できていたらしく、途中からは率先して引き連れて来たらしい。

 「俺は負けないって言いましたしリオも連れて帰ると言ったと思いますが……」
 「い、いや確かにそうは言ってたけどまさか本当に……」
 「ええ、私が証明するわ。ジンが私を守りながら無傷でリンドヴルムを倒してくれたわ」
 「し、信じられん……でもこれで奴の脅威は完全になくなったのだな……」

 ポルトはその場に崩れ落ち涙を流す。

 「ああ、だからもう気にする必要はないですよ」
 「そ、そうか……ウウッ……もう終わったのだな……」

 この人もリオが生贄になったとしてリンドヴルムに納得されなければ自分の娘を生贄に出す予定だった。リオが帰ってきて第一候補から外されたとしても、不安で一杯だったのだろう。この涙は娘の安全が確定した事への安堵の涙だろう。

 「折角来てくれたところあれですけど、取り敢えず街へ帰りましょうか」
 「ああ、今日は宴だ……街を救いし英雄を称える宴をやらなくてはいけないな」

 この日の夜は街中が宴で朝まで賑わっていた。そして俺はこの街の英雄となったんだ。


 ◇


 「これを受け取って欲しい」

 次の日の昼リオの家にポルト達街の重鎮が押しかけて来た。何の用かと思いきや俺達の前に金貨五万枚を持ってきたのだ。

 「うひょ~金貨五万枚……」
 「凄いよシーラ……輝いてるよ……」
 「城ではこの枚数の動きはありがちだったけど、実際に五万枚見るのは初めてね」

 シーラとミーナは金貨五万枚の前に圧倒されている。セーブルはそうでもないみたいだけど俺も間近で五万枚見るのは初めてだ。

 「リオを救い魔物を退治してくれた事、俺達の姿勢なんかも含めて約束の金貨を用意した」
 「あんたはその場で砕くみたいな事を言っていたが、旅をしているみたいだし、好きに持っていって有効活用して欲しい」

 とまぁ目の前の金貨五万枚を大人しく頂戴してもいいのだが、これを受け取ってしまえば俺は金の為にリオを救ったみたいに思う輩が出て来るかもしれない。俺のプライドにかけてそんな事思われるのは何よりの屈辱だ。

 「ハハッ、わざわざありがとうございます」

 ちゃんと戦いに来ようとしてくれて、お金も出す誠意を見せてくれたのだから、俺としては十分だ。

 「ならこのお金であの場所に新しく祠でも作ってください」
 「えっ……」
 「一応あの戦いで俺は祠を守りながら奴を倒すことも可能でした。だけどそれをしないで周囲を吹っ飛ばしました。なのでその補填をこのお金でしてください」

 これが妥当だろう。隣にいるシーラとミーナは残念そうな顔でこっちを見てるけどセーブルなんかは納得の表情を見せている。ここいらが生まれや育ちの差と言うべきだろうか。

 「しかしそれでは……」
 「俺はリオの為に動いた。お金の為に動いたわけではありませんので」
 「わかった……ではこのお金であの場所に新しい祠を造る事を約束する。魔物を倒した英雄を永遠に称え語り継ごう」

 多分俺は金より名誉が欲しいタイプなんだろうな。名誉は人を大きくさせてくれる。英雄ならば英雄としての品格が求められる。そういう意味じゃ品格や矜持を重んじるような貴族の在り方は決して嫌いではない。だがそれにとらわれて、相手を見極められないような貴族はそれを重んじる資格はないがな。
 
 「ふぅ~一時はどうなるかと思ったけど終わって見ればあっという間だったね」
 「それはジンだから当然」
 「ですね~」
 「でもジンがどういう戦いをしたのか見れなくて残念ね……」

 セーブルがリオをジッと見つめる。あの戦いはあまり人様にお見せできるようなものじゃなかったな。反省しないと。

 「ハハッ、いつも通りよ」

 リオも苦笑いしながら誤魔化してくれる。

 「そのいつも通りが見たかったのに……ジン次はちゃんと見せて!」
 「あ、ああ勿論さ」

 
 ◇


 その頃の勇者達はティラミスを出て次なる街に向かおうとしていた。結局四人が期待したような支援は受ける事は出来なかったが、物資の支援をして貰う事は出来たので、多少は円滑に旅を進めていた。

 「もう少し支援してくれても良かったのによ……」

 松野は不満気に言う。パンナコッタ伯爵の威圧感の前に圧倒されてしまった松野はあそこでは小さくなっていた。

 「ハハッ、あの人はかなり厳格な人だったからね」
 「でも第六位階魔法の習得が出来なかったのは痛かったね……」

 光彦も不満気な表情を見せる。四人はまだ第六位階魔法を習得していない。ジンは育てながら徐々にその熟練度を上げていき、魔法を教えていく方針だったので別れていなければ今頃習得していただろう。この世界では第七位階到達人口が少なく、それはクリスタルの加護の元で魔法を使っているからで他の魔法世界に比べたら低い部類に入る。だが勇者達はクリスタルの加護で魔法の属性は縛られてはいるが、第七位階到達熟練度が他の世界の基準なので早い。

 つまり地球出身なので、魔法を使う為に加護を得て属性は縛られているが、持っている魔力はこの世界基準より高いという事だ。

 「あの領主は戦士系統の人だったからしょうがないのかもね」

 正義も残念そうな表情を見せる。パンナコッタ伯爵は第六位階魔法を習得しておらず、身の回りに習得している者もいなかったのだ。ギルドにも行ったが多額の金を要求されたので断念したのだ

 「ギルドで習得している人間探して教えてもらうのは早いけど、お金もかかりそうね……次の街の領主にも支援して貰いましょう」

 桜は物資をお金に換えて魔法を習得するという方向に考えをシフトさせようとしていた。強力な魔法を教えてくれるとされるアテノア大陸のコクトウ山脈に住む賢者に会うというのは遠征の予定に入っている訳だが、その前に少しでも多くの強力な魔法を得ようと考えていたのだ。もっともその賢者はジンと繋がりの深い人物で、第七位階魔法はその賢者に教わるという設定だった。

 「そうだね、俺達は少しでも早く強くならないといけないからね」
 「お、おい、あれは……」

 四人が進む馬車の目の前に人が倒れていたのだ。
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