前世で魔神だった男、嫁と再会して旅をします。

明石 清志郎

文字の大きさ
62 / 109
3章

61話:結界

しおりを挟む
 ラグーサの大森林の中のエルフ領側に入った。ここからは拒絶の森といって妖精種でない者の侵入を拒む結界が貼ってある。

 四つの大陸はそれぞれファーガス王国側がクレセント、ファラリス連邦側がレガリア、妖精の国がオンラク、魔大陸側をオルメタと呼ぶが、ギャラントプルームは四つの大陸のどれにも該当しないのだ。あそこは九兵衛さんの力で無理やり作った大地で、周りを森で覆ったのは九兵衛さんとロードリオンの2人だ。これは各大陸にうまく分散し、さらに中心点になる場所にギルドを置くことで各国の監視をできるようにした為だ。

 「もうそろそろラグーサ森林を抜けるな」
 「そうだね、ここを抜けたらどこかで野宿だね~」

 妖精は人間のように街をつくったりはしない。というのも妖精は魔法適性が高く、魔法の力で森自体を一つの集落にして暮らすからだ。

 「となると野宿する場所は慎重に選んだほうがいいわね」

 認識阻害をしたとしても妖精族は違和感に対し敏感で気づかれる可能性があるし睡眠中の襲撃とこは避けたい。

 「なるべく集落から離れていてかつ森の力の影響が小さいとこが理想だね」
 「そんな都合のいい場所があればいいんだが……」

 森の一部を死滅させるのが手っ取り早いがそれはさすがに控える。

 「前来た時はどうしたんだい?ロードリオン様迎えに来てくれたのかい?」

 実が聞いた。

 「その通り。あの時は向こうから迎えに来てくれたんだよね~」
 「というかロードリオン様はなんで眠ったんだい?」
 「多分動けないルシファーさんや封印中のガルカドールの奴とコンタクトをとるためじゃないかな?」

 これはロードリオンの能力の一つで、封印中の存在や遠く離れた者と夢を通じてコンタクトをとることができる。この能力で二十柱のリーダである封印中のルシファーさんや、ガルカドール卿、別の世界にいるランスロット先生やジェラードさんとかともコンタクトをとるのが可能なのだ。ただこの世界にはいないルシファーさんやランスロット先生とかとのコンタクトをとると、膨大な魔力がかかるしそれを多用し続けると、回復の為に眠る時間も長くなる。

 「にしても十年は長くないかい?」
 「もしかしたら時が来たら起こしてくれっていう合図かもね。一応リオンが寝ていると王都ヒムヤーの光大樹の輝きは増すし国の周りの結界も強くなるからね~」

 それはかえって面倒くさいパターンだな……

 「それって入るのもダルそうな予感なんだが……」
 「たぶんラグーサ森林と拒絶の森の境目に結界があるだろうね」
 「解除はできるのか?」
 「立花ちゃんに任せたいところではあるね~」
 「やるだけやってみるわ」

 森を駆け抜け結界の張ってある境界線へとたどり着いた。馬車から降りて早速結界の解除を始めた。

 「相変わらず面倒な術式ね……」
 「魔術じゃないからな……」

 立花は文句を垂れているがこの結界は魔術ではなく妖精の使う妖術というもので解除も簡単ではない。九兵衛さんと共に立花の解除を手伝った。

 「とりあえず創生魔法を駆使して一部を無効化するけどたぶんバレるわ。でも少しの間はその無効化を隠せるからその間にとんずらしましょう」
 「さすがの立花でも妖術は難しいんだな」
 「この結界自体が広範囲すぎて隠蔽がそもそも不可能に近いってのが原因ね。結局一部分だけ解除することになるから完全隠蔽は不可能よ」
 「それでどれぐらい隠蔽できるんだい立花ちゃん?」
 「おそらく三十分程度ですね。なのでその間にできるだけ遠くへ入りましょう」

 立花がそう言うと俺達は地龍と馬車全体に隠蔽魔法を発動、さらに立花の認識阻害の異能もフル発動させその場を後にした。

 「でも九兵衛さんなら国賓待遇としての受け入れなんだし、こんなコソコソ入る必要があるのかい?」

 実が疑問に思ったのか九兵衛さんに質問する。確かに実の言うことは最もだが……

 「まぁ国賓と言ってもそれはリオンが直接迎えてくれたからだからね。それに正規の方法で入るとなると申請をとるのに時間がかかる。今俺達にそんな暇はないからね~」
 「ロードリオンを眠りから覚ませばオーケーだから、こっそり入って覚ますのが一番理想的だし早い。それに寝ている場所とか迷宮の場所がわかればあとはパワープレイでどうとでもなる」

 正直強引だがこれが一番早い。それに今の王が俺達よそ者に対して、強い敵意を持っていて入国を遅らすようなことをされたらたまらない。別に相手がこちらに敵意を持っていようがいまいがそれは最悪どうでもいいことだが、それで正規の入国を阻まれたらやっかいなわけだ。

 結局入れさえすえばパワープレイが可能となり効率もあがるが、入れなきゃパワープレイも活用でき出来ないのだ。

 「王都ヒムヤーまであとはどれぐらいだ?」
 「そうだね、三日ってとこかな。野宿はもう少し進んだ先にしよう」

 さらにまた進み木々が生い茂る場所へと移動した。

 ラグーサの大森林を抜けたが結局領内も木々が生い茂っているのでなかなか進むのに苦労する。王都などの一部例外を除き、基本集落で過ごす妖精族の国はほとんどが森である。

 「どうやらここがよさそうだね~」
 「確かにこの周辺にはエルフの集落はない。明日になれば移動だしまぁ今日はここで問題ないな」

 俺達は森の中の馬車でそのまま一泊となった。

 地龍は目立つので餌を上げたらすぐに眠ってもらうことにした。出発前に予め、俊樹さんに弁当を作ってもらって、宝物庫シャッカンマーに入れたのでそれを取り出しみんなで食べた。

 「幕の内弁当とは粋なものを作るわね」
 「俊樹さんらしいけどな」

 またも懐かしいものを作ってくれた俊樹さんには感謝だな。特に卵焼きや煮物は家の弁当の味がするし俊樹さんはこれも狙ってやっているあたり本当に気の利いた方だ。

 「ふふっ、昨日高級料理を調理して出してくれた人と、この家庭的な味の弁当を作った人が同じ人なのはなんとも信じがたいわね周平」
 「まったくだね。まぁこれはこれで昨日とは違った美味しさがあるしこれからは長期遠征の時はあの人に頼むことにしよう」
 「そうね」

 何かの遠征の時は多目に作ってもらうよう頼む事にしよう。

 「そういえば他のみんなはどうだ?」
 「見た事のない食べ物だけどおいしい!」
 「ペットには勿体なきお食事でチュ」

 みんな口に合ってそうで何よりだ。

 「俺の時代の幕の内弁当とは随分と変わったんだね。というかこれが百年後の幕の内弁当か~」

 そうか、実が地球にいた頃も幕の内弁当があったよな。

 「当時は質素だったのかしら?」
 「父上と歌舞伎を見に行った時に食べたけどもっと豪華だったよ」
 「あらそうなの?」
 「実の時代の幕の内弁当は歌舞伎を見る時に食べる奴だもんな。」

 そもそも幕の内弁当は、江戸の終わり頃に歌舞伎が盛んな大阪で誕生したんだったな。当時の芝居は、朝から晩まで続いていて幕間まくあいという一つの場面が終わり次の幕の間に行く間が長く、その間に食べる弁当が必要になった。その時出された弁当が幕と幕の間に食べる弁当ということで、幕の内弁当という名前になったんだとか。

 「時代は変わるんだね~」

 実も地球に行くことがあったらビックリすることが多いだろうな。もちろん感動もあればショックを受けることもたくさんあるだろうけど。

 「まぁ私は美味しければなんでもいいかな~」

 ザルカヴァは特に幕の内弁当に特に思い入れもないからこんな反応だ。

 「九兵衛さんは昔地球にいましたよね?」

 実は九兵衛さんも地球出身だ。といっても凄い昔だがな。

 「ああ、だけど俺がいた時代は弁当なんかないし随分昔だよ。古墳作りとかしてたな~俺は皇族だったから眺めてたけどね~」

 最早日本ではなく倭国のころだ。

 「というか九兵衛さん皇族ってことは実とも血がつながってる感じ?」
 「まぁ一応ね。古来より続く皇族のDNAは互いにひいているからね~」

 九兵衛さんは確か向こうにいる時不老不死になっていられなくなった所をルシファーさんに誘われてこっちに来たんだったな。

 「まぁこっちきてからも色々大変だったね。変な戦争にも巻き込まれるし気づけば巨人王になってたからね~あの時を知る人もほんとごくわずかになっちゃったからね……」

 九兵衛さんは少し寂しげな表情を出す。

 千年以上生きるってのはそれだけたくさんの死と別れを見てきているってことだからな~

 俺にはまだわからない境地である。
しおりを挟む
感想 116

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました

竹桜
ファンタジー
 誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。  その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。  男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。   自らの憧れを叶える為に。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

処理中です...