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3章

62話:集落へ

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 周平達が野宿をした次の日の朝破った結界付近に妖精達が集まっていた。立花があの手この手を使い、結局次の日の朝までバレることなくもたすことができた。というのも結界に対して、最初に違和感を感じた段階、つまり立花がバレるだろうとふんでいた段階だが、ここで兵が派遣されないまま夜を迎えたため派遣されるのが遅くなったのだ。

 「ふむ、うまく結界の一部を無効化しただけでなくそれの隠蔽も巧妙にされているな」

 国境付近を守る妖精達の警備隊の隊長が言う。

 「隠蔽ってこの結界は国を覆うように貼ってあり少しでも異変があればすぐに気づけるはずでは……」

 面を喰らった表情のまま言うのは部下達だ。

 「無効化したところをもう一度構築させておる。しかも驚くべきことに我々がこの異変に気付いたのは、その構築がうまく絡み合いすぎたせい故だからだ」
 「どういうことですか?」
 「この国を覆う結界は広すぎる故に常に部分部分での不安定さがあるのは知っておるな?」
 「はい」
 「この再構築した部分は、周りの不安定さを是正させているのだ。つまりそれは一度この部分を別の誰かが再構築したということであり、再構築するにあたり一度無効化させているということじゃ」

 みな驚きを隠せない。何しろこんな芸当が出来るのは初代妖精王ぐらいだからだ。

 「どうして無効化した段階で気づけなかったんですかね?」
 「そこが一番の謎じゃな……無効化した段階で本来なら気づくことができる。」
 「どっちにしろ侵入者はここら辺にはもういませんな」
 「うむ、というかこんな芸当をするものと対峙するのは正直恐ろしい……」

 妖精の国の今の現状……ロードリオンの動けない今、そんな力を持つ者と戦い守ることが果たしてできるのだろうか?警備兵達はそのことに恐怖を感じていた。


 ◇


 ほぼ同時期朝食を終えた周平達は出発の準備をしていた。朝食は俊樹さんに用意してもらったハムエッグにウインナーとサラダ、納豆に海苔と味噌汁と定番の和食メニューだ。

 「しかし俊樹さんはわかってるな~」
 「ふふっ、周平の宝物庫シャッカンマーがその時の状態での保存を可能にしているのが大きいわね」
 「今日の昼も楽しみだぜ」

 次の昼も弁当だが幕の内ではなく別メニューだ。

 「それでこの後はどうするんですか総長?」
 「やはり馬車乗ったまま地竜に引っ張ってもらうのは、この先はリスキーなんじゃないかな?」

 ザルカヴァと実が言う。確かにこの先王都ヒムヤーに辿り着く前に必ず集落に行きつくだろう。できるだけ怪しまれずに王都に行きたいのに、こいつに引っ張ってもらっては悪目立ち間違いないだろう。

 「そうだね~ここからは歩きの方がいいかもね。」
 「わかったわ、馬車と地龍は転移魔法でギャラントプルームに戻すわ」

 立花はギャラントプルームへ転移陣を開く。

 「これは便利ですね」

 ザルカヴァに見せるのはこれが初めてだったな。転移魔法いつでも展開できると、旅という概念をぶち壊しかねないな。一度も行った事ない場所には当然行けないので、それがせめてもの救いだ。

 地竜と馬車をギャラントプルームに送ってから歩き始めた。

 「立花さんとの旅は全て片道になりそうですね」

 ザルちゃんごもっともな意見だ。

 「そうね、片道でも周平との愛を育む旅は出来るし問題はないわ」
 「愛を育む旅か……いいですね!私達もしましょう総長!」
 「ははっ、それはまた今度ね~」
 「むぅ~総長の馬鹿~」

 ザルカヴァは顔を膨らませて思いっきし拗ねる。まぁ俺と立花は両想いだがこの二人は恋愛という意味では両想いではないからな。九兵衛さんみたいな駄目男にはある意味いいかもしれないが……

 「九兵衛さんモテモテね、いいじゃないあなたのような人にはとてもいいしむしろもったいないわね」
 「そうだそうだ!早く私をもらえー」
 「ははははっ、君は何言ってるのかな~」

 九兵衛さんは苦笑いしているな。可愛い金髪ケモ耳からの求愛なんて断る理由がないが、九兵衛さんは子供だった頃のザルカヴァを救って育てたという過去もあるから、恋愛感情を持つのが難しいというのもあるのかもな。ただそんな光源氏を育てたいなんてことをこの男は昔言っていた気もするから、これも計画の一環で狙っているのかもしれないな。

 それかキープか?

 「ちょっとそこ~人を下種を見るような目で見るのはやめようね~それと俺は光源氏を育てた覚えはないし」

 九兵衛さんがこちらを見て何か言ってくるな。
 エスパーかな?

 「いや、九兵衛さんは凄い男だってのがわかっちゃってついな……はははっ」
 「それたぶん猛烈に勘違いしてるから早く訂正ね~」
 「俺はあんたを尊敬しているよ……」
 「周平さんの意見に激しく同意……」

 実も乗って言う。九兵衛さんは下種男だけど、いい意味でも悪い意味でも尊敬に値する人物である事は間違いない。

 「二人ともやめてくれ~」

 光源氏とはそのイケメンすぎる容姿で小さい頃からモテまくっていたとある物語の主人公のことだが、そんな彼を手に入れるために小さい頃から手を付けておいて大きくなったら頂戴しようとする肉食系女子が群がったわけだ。

 「みんな相手がいて羨ましいわ……」
 「バニラは美人だしそのうち見つかるデチュよ。チュウが保証するでチュ」
 「そうよ、あなたは焦る必要はないわ」

 バニラはまだ十五歳だし焦る事はない。美人だし男なんて選び放題なはずだ。

 無駄話をしながら森を進んだ。歩きとなってしまったが、昨日結界を超えてから行けるところまでかなり進んだので、そんなに遅れることなくつくことはできるはずだ。

 「結局集落をどう回避するかだなー」
 「それなんだが一応俺が昔世話になった集落があり、そこに向かおうとはしているよ~」
 「信用できるのか?」
 「ああ、あそこなら俺がいれば問題ない」

 九兵衛さんがそこまで言うなら信用に値する集落なんだろう。

 「そこまではどれぐらいかかるんだ?」
 「たぶん今日中にはいけると思うけど、いかんせん前行ったのが十年前だからね~」
 「森も十年経てば変わるからな、何より妖精の国の森は変化が激しい……」

 妖精の国は高い魔力で森を改変させてきたという歴史があり、それこそが今日至るまで妖精の国が鎖国をしたまま生き残れた理由でもある。

 「みんな一旦ストップよ!」

 立花の突然の言葉で全員の足が止まる。

 「どうした?」
 「この先に反応があるはおそらく妖精族だと思うけど……」
 「どうする?」
 「反応は一人だしその場から動いていないわ……とりあえず近づいてみましょう」

 その反応がある先まで向かうと、そこには怪我をしている妖精の男の子がいた。

 「どうする?」
 「とりあえず近づいてコンタクトを取りたい。面倒な時は最悪記憶を消せばいいさ」

 そう言って妖精の男の子に近づいた。

 「よっ、大丈夫か?」
 「わあっ!」

 俺の声を聞いた妖精の男の子は驚いたのか大きな声を上げた。

 「ハハッ、驚きすぎ」
 「あ、あなたは?」
 「俺は神山周平だ、お前さんの名前は?」
 「僕の名はダリウス……ダリウス・マンナ・エイムウェルです」
 「よろしくな、こっちから立花に、実にザルカヴァに九兵衛さんとバニラにネズ子だ」
 「あ、はいよろしくお願いします」
 
 どうもダリウスはまだこの状況に戸惑っているようだ。他種族の者と会うこと自体稀だろうし無理もないだろう。

 「それであなたがたはなぜここに?」
 「そうだな、とある目的地に向かっている途中に、怪我をしているお前さんを見つけたので傷を治してやろうと思って立ち寄ったとこだな」
 「そうでしたか、これはちょっとドジを踏んでしまいまして……」

 どうやらダリウスは両足を怪我しているようだ。

 「立花」
 「ええ」

 早速ダリウスの怪我を魔法で完治させた。

 「す、凄い、足が嘘みたいに動く……」
 「ふふっ、私は最強の魔法使いだから当然ね~」

 立花は自信満々に言う。まぁ間違ってはいないがな。

 「それでお前さんにちょいと聞きたいことがあるんだがいいか?」
 「はい」
 「俺達は王都ヒムヤーに行きたいんだが一番近いルートとかわかるか?」
 「ヒムヤーですか?あんなところになんで行くのかはよくわかりませんが、とりあえず僕の住む集落に詳しい方がいるので案内しますよ」
 「それは助かるが俺達も穏便に済ましたい。お前さんの村は他種族を受け入れは大丈夫なのか?」

 妖精は排他的な種族であるというのは有名だし、ダリウスのような子供なら兎も角、大人ならそういう考えを持つ者もたくさんいるだろう。

 「あなたがたは僕を助けてくれたいわば恩人ですし、僕の集落は恩人に対し、恩を仇で返すような者はいません。集落へ案内します」

 ダリウスは俺達を集落へ案内した。
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