Last Lesson

駄文のヒロ

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DAY2 希望と絶望

9、二人の澪

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 訓練所の外は、夕暮れと夜の境目だった。
 コンクリートの壁に囲まれた施設の中から、鈍い衝撃音と短い号令が断続的に響いてくる。

 澪は、フェンス越しにその建物を見上げていた。

 ――ドン、という音が鳴るたび、胸の奥が小さく跳ねる。

「……無茶、してないといいけど……」

 自分に言い聞かせるように呟いて、指先を強く握る。
 和真は「大丈夫だよ」と笑っていたが、その笑顔の裏に、常に何かを抱え込んでいることを澪は知っていた。

 そのとき、背後で足音がした。

 振り返ると、白い救護服の上に薄手のジャケットを羽織った女性が立っていた。
 もう一人のミオだった。

「……ここにいたのね」
「……ミオさん」

 一瞬、言葉に詰まる。
 どこか似ていて、でも決定的に違う存在。

「体調はどう?
 良くなった?」
「……はい、おかげさまで」

 ミオは澪の視線の先――訓練所の扉へと目を向ける。

「まだ、やってるみたい」
「……はい。
 和真、無理しやすいから……」

 澪の声には、隠しきれない不安がにじんでいた。
 ミオは、小さく息を吐く。

「……同じ」
「え?」
「カズマも、そう。
 止めても、限界までやる」

 ミオは苦笑するように肩をすくめる。

「怪我して戻ってきて、
『平気だ』って言うところまで、そっくり」

 澪は、思わずうつむいた。

「……和真もです。
 痛いって言わないし、怖いって言わない。
 でも……本当は、すごく考えすぎる人で……」

 その言葉に、ミオの表情が柔らぐ。

「……知ってる」
「……?」
「この世界の“彼”も、そうだった」

 ミオは少しだけ間を置いてから続ける。

「だから私は、何度も救護室で思ったの。
 ――どうして、この人は
 自分の命を、そんなに後回しにできるんだろう、って」

 澪の胸が、きゅっと締めつけられる。

「……私、和真がいなくなるのが、怖いです。
 置いていかれるのも、選ばれなかった世界に残されるのも……」

 言葉にした途端、涙が滲みそうになって、澪は慌てて瞬きをした。
 ミオは、澪の隣に立つ。
 同じ方向を見て、同じ音を聞きながら。

「……私も」
「……ミオさんも?」
「うん。
 カズマが戻ってこなかった夜、何度もあった。
 そのたびに、“次は本当に戻らないかもしれない”って思ってた」

 しばらく、二人は黙って立っていた。

 訓練所の中から、
「そこだ!」
「甘い!」
 という荒い声が重なって聞こえる。
 澪は静かに言った。

「……不思議ですね」
「?」
「同じ人を想ってるのに、同じ人じゃない」

 ミオは、ゆっくりと頷いた。

「……でも。
 心配してる“気持ち”だけは、たぶん、同じ」

 澪は、そっとミオを見る。

「……一緒に、待っててもいいですか」
「ええ。
 彼らが戻ってくるまで」

 再び、重い衝撃音が響く。

 その向こうで戦う二人を想いながら、二人の澪は、同じ不安と、同じ祈りを胸に、静かにベンチに腰をかけた。

 澪「……似てますね」

 ミオは、何が、とは言わない

「え?」
「誰かさんのこと、放っておけないところ」

 ミオ、思わず小さく笑う。

「……世界が違っても、変わらないんだ」

 二人、同時に言いかける。

「和真が――」
「彼が――」

 止まる。

「……大切な人、ですよね」

 間を置いて、

「ええ」

 ミオはもう一人の彼女に向き直り、

「だから……必ず、帰してあげてください」
「……約束します」

 ミオは立ち上がりながら、意味深な一言を口にした。

「その代わり……」

 澪は振り返る。

「彼のことは、私が守ります」

 澪は、深く息を吸って。

「……お願いします」

 二人、軽く会釈する。
 同じ顔、違う世界、同じ想い。
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