Last Lesson

駄文のヒロ

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DAY2 希望と絶望

10、二人の和真

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 訓練所の中は、外の静けさとは別世界だった。
 広大なコンクリート空間。
 天井から白色灯。
 床には無数の傷跡。

 訓練所の中央に立つ、カズマ。
 その身体は長年の戦闘の積み重ねで、鍛錬された肉体をしている。
 グローブを締めながら、和真を見る。

 開口一番、挑発ではない提案をする。

「お前、どれくらい戦える?」
「……まだ、教わってる途中です」
「それじゃ足りない」

 彼は淡々と続ける。

「生き残るなら、今ここで測っておけ」

 二人、向かい合う。
 合図もなく、カズマが踏み込む。

 圧倒的差があった。
 速い。
 鋭い。
 和真のガードを容易く崩す。
 硬質な床に、重い足音が叩きつけられる。
 呼吸音と、衣擦れの音、肉体がぶつかり合う鈍い衝撃。

 和真とカズマは、互いの距離を一瞬で詰め、組み合っていた。
 低い姿勢からの踏み込み。肩をぶつけ、体重を乗せて崩しにかかる。

「――っ!」

 反射的に腕を差し込み、首を守る。
 床を滑るように後退しながら、体勢を立て直す。

「甘い。
 そのままじゃ、誰も守れない」

 言葉と同時に、肘が迫る。

 和真は受け止めきれず、床に転がった。
 衝撃で息が詰まる。

「……っ、く……。
 ……それでも、守ろうとする意味はあります」

 すぐに起き上がろうとした瞬間、
 カズマの膝が胸元に落ち、視界が一気に塞がれた。

「意味じゃない。
 “結果”だ。
 生き残った者だけが、正しさを語れる」

 和真は歯を食いしばる。

「……分かってる」

 痛みに耐えながら、和真が言う。

「……それ、自分を守るための言葉ですよね」

 だが、カズマはすぐには退かない。
 和真の喉元に、寸止めの拳を置いたまま、静かに言う。

「そうだ」

 その目は冷静で、感情が削ぎ落とされていた。

「感情は、人を殺す」
「違います」

 和真が、視線を逸らさず言う。

「感情を切り捨てた人が、誰かを救えるとは思えない」

 訓練所の空気が、凍る。
 カズマの手が、わずかに震える。

「感情に飲まれて、家族も街も壊した」

 彼の声は、低く平坦としていた。

「だからオレは、感情を信用しない。
 お前は、まだ“選んでない”」

 和真は、はっとする。

「……何をだ」

 カズマは拳を引き、立ち上がる。

「生き残るか、ただ巻き込まれるか、だ」

 手を差し出す。

 和真は一瞬迷い、それを掴んで立ち上がった。

 息が荒い。
 汗が額を伝う。

「……戦い方を覚えれば、守れるって思ってた」
「それは結果だ」
「覚悟が先だ」

 間合いが、再び詰まる。

 今度は和真が踏み込んだ。
 拳ではなく、肩から。
 体重を預け、押し倒す意識で。

 カズマは即座に対応するが、一瞬、表情が変わった。

「……今のは、悪くない」
「……!」

 和真は歯を食いしばり、さらに踏み込む。
 受け身も、技術も、まだつたない。

 それでも。

「……オレは、誰かに決められるのは、もう嫌だ」

 その言葉に、カズマの動きが、ほんの一瞬だけ止まった。

 次の瞬間、二人は同時に崩れ、床に転がる。

 荒い呼吸が重なる。

 天井を仰ぎながら、カズマが小さく笑った。

「……それでいい」
「?」
「そうやって、自分で選び続けろ。
 お前は守る」

 驚く和真を、カズマは見やる。

「お前は、オレと“同じ道”には行かせない」

 和真は、胸の鼓動を感じながら、
 外の方向――澪が待っている場所を、なぜか思い浮かべていた。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 同じ時刻。

 訓練所の外で、二人の澪が不安を胸に抱いていることを、和真はまだ知らない。
 ただ、身体の奥で確かに芽生え始めていた。

 ――戦う理由を、自分で選ぼうとする意志が。
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