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駄文のヒロ

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DAY3 生きる選択

2、救出

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 三人は、闇の中へと消える。

 エデン拠点は、地下へと続く巨大な構造体だった。

 外壁に走る無数の配管。
 低くうなる発電音。

 侵入口を突破した瞬間、警報が鳴り響いた。
 赤い光が、通路を染める。

 エデン兵「侵入者だ!!」

 白い装甲服の兵士たちが、一斉に構える。

 スギヤマが前に出る。

「俺が開く」

 次の瞬間、近接戦闘が始まった。

 スギヤマの動きは、無駄がない。
 距離を詰め、関節を極め、床に叩きつける。

 銃声が響く。

 カズマが援護射撃を行い、和真は教え込まれた通り、死角へ回り込む。

 通路の奥から、低い唸り声が聞こえた。

 ――ヴィランだ。

 人の形を保ちながらも、理性を失った存在。

「……来るぞ」
「撃つな。
 必要最小限で制圧する」

 ヴィランが突進してくる。
 和真は、躊躇とまどいを押し殺し、懐へ踏み込んだ。
 拳を叩き込み、体勢を崩し、スギヤマが拘束する。

 床に伏せたヴィランの口から、意味を成さない言葉が漏れた。

「……たす、け……」

 一瞬、和真の手が止まる。

「迷うな!」

 その声に、現実へ引き戻される。

 警報音が、さらに激しくなる。
 エデン兵が増援として流れ込んでくる。

「時間がない。
 地下三層、隔離区画へ急ぐ」

 三人は、撃ち合い、殴り合い、走り続ける。

 ここは、人を守るために作られたはずの場所。
 それが今では、人を壊すための巣になっていた。

 和真は、息を切らしながら思う。

 ――この中に、博士がいる。

 ――そして、まだ戻せる“誰か”がいる。

 その思いだけを支えに、三人は、さらに深部へと踏み込んでいった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 金属床に靴音が響く。
 薄暗い通路。
 壁には、エデン・フロンティアの紋章が掲げられている。

 カズマ「通信、制限モード」

 指で合図。

 曲がり角に、ヴィラン2体が徘徊している。
 スギヤマが一瞬で距離を縮め、関節を破壊。
 和真は教わった通り、顎を打ち抜く。
 カズマがとどめを刺す。

 倒れる音が、床に吸い込まれる。
 和真の呼吸が少し荒い。

 スギヤマ「……今のは合格だ」

 エデン兵が襲撃してくる。
 警告音。
 自動ドアが開き、エデン兵が3人突入してくる。

 銃撃戦。
 火花が飛び交い、遮蔽物に身を隠す。

 カズマ「左、二!」

 和真がスライディングで視界を奪う。
 スギヤマが背後から制圧。
 和真が制御端末を破壊する。

 煙が立ち込め、静寂が辺りを包む。

【培養区画】


 重い扉が開く。
 無数の培養槽が立ち並び、液体の中に――人間がいる。



 和真、立ち止まる。
 目を逸らせない。

 カズマ「見なくていい」

 だが、聞こえる僅かな心音。
 泡。

 スギヤマが低い声で漏らす。

「……まだ生きてる」
 和真「……助けられないんですか」
 カズマ「今は無理だ。
    全員を助けるには、博士が必要だ」

 三人は、培養槽の間を進むしかない。

 一つの培養槽が激しく揺れ、ヴィランが覚醒した。
 ガラスが砕け、半覚醒のヴィランが飛び出す。

 和真が押し倒される。

 スギヤマ「下がれ!」

 ヴィランを引き剝がし、銃弾を撃ち続ける。
 ぐったりするヴィラン。

 沈んだその姿を確認し、三人は奥へと突き進む。

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 地下区画は、異様なほど静かだった。
 非常灯だけが赤く点滅し、コンクリートの壁に、長い影を落としている。
 スギヤマは、端末を扉のロックパネルに接続した。

「三十秒」

 画面に、解除カウントが走る。
 その横で、カズマは銃を構えたまま、微動だにしない。
 和真は、彼の背中を見ていた。

 ――近すぎる。

 電子音が変わり、ロックが外れる。

「行くぞ」

 扉が、重い音を立てて開いた。
 中は、狭い監禁室だった。

 中央に、椅子。
 手首を拘束され、うつむいたままの博士。
 和真は声を発した。

「博士……!」

 その声に、博士がゆっくり顔を上げる。

「……来たか」

 安堵よりも先に、諦観ていかんが浮かんだ表情だった。

 次の瞬間――

 金属音。

 カズマの銃口が、博士の額に向けられていた。
 和真は、凍りつく。

 カズマの目は、完全に別のものを見ていた。
 
 ――人じゃなくなった母親の目。叫ぶ声。

 和真は、反射的に叫んだ。

「よせ!!」

 全員の動きが、一瞬止まる。
 和真は、カズマの前に出た。
 銃口と、博士の間に、自分の身体を差し込む。

「博士を殺したら――」

 声が、かすれる。

「母親を、戻せなくなるだろ!!」

 その言葉が、カズマの胸を撃ち抜いた。
 指が、僅かに緩む。

「博士しか、“治療”の先を知ってる人はいない。
 ここで殺したら、アンタが戦ってきた意味が全部消える」

 沈黙。

 銃が、わずかに下がる。
 カズマの呼吸が荒い。

 スギヤマは、低く、しかしはっきりと言った。

「撃てば、楽になる。
 だが、後には何も残らん」

 カズマの手が、震える。

 やがて――銃口が、床を向いた。

 博士は、初めて深く息を吐いた。

「……恨まれて当然だ」

 和真は、拘束具に駆け寄る。
 スギヤマが、手際よく解除する。
 博士の手が、自由になる。

 博士は、和真を見た。

「……君が止めなければ、私は死んでいた。
 死んでも仕方ない命だ」

 和真は、首を振った。

「まだ、終わってません。
 あなたの命は、“必要な命”です」
「……ああ」

 博士は、カズマを見る。
 その視線から、逃げなかった。
 和真が切り出す。

「博士……α世界のあなたが、初期サンプルと組成データを完成させました」

 博士が、初めて感情を露わにする。

「……本当か」
「あなたが探していた”最後のピース”だ」
「なら――治療薬は”完成できる”」

 博士は一瞬、笑う。

「取り返そう。
 私の過ちで失われたものを」

 カズマは、何も答えなかった。

 ただ、銃を下げたまま、一歩、後ろに下がった。
 監禁室の外で、警報が鳴り始める。

 スギヤマ「時間切れだ。離脱する」

 この救出で一番重いものは――誰も、置いていけなかった。

 警報が、これまでとは比べ物にならない音量で鳴り響く。

 カズマ「最終防衛ラインが動いた」

 通路の奥から、重装備のエデン兵と、複数のヴィランが現れる。

「行くぞ。
 博士を中央に」

 三人は、即座に陣形を組んだ。

 カズマが前方を制圧し、スギヤマが側面を封じ、和真は博士を守りながら後退する。

 ヴィランが突っ込んでくる。
 和真は、歯を食いしばり、撃たずに――倒す。
 教え込まれた通り、急所を外し、動きを止める。

「……う……」

 倒れたヴィランの声が、胸に刺さる。
 だが、足は止めない。

「出口まで二百!」

 通路が開け、エデン兵の集中砲火が始まる。
 弾丸が壁を削り、火花が散る。

「伏せろ!」

 閃光弾。
 一瞬の白。

 その隙に、三人は駆け抜けた。

 ――地上。



 夜明けの光が、焼け付くように目に入る。
 装甲車が、煙を上げながら待機していた。

「博士、乗って!」

 博士が後部ハッチに押し込まれ、三人が続く。
 ハッチが閉まった瞬間、車体が激しく揺れた。
 エンジンが唸り、装甲車は一気に加速する。
 背後で、エデン拠点が警報と銃火に包まれていく。

 博士は、シートに身体を預け、震える声で言った。

「……本当に、地獄だな……」

 和真は、汗と血にまみれた手を見下ろす。

「……でも、戻れます」

 装甲車は、瓦礫の街を突き抜け、やがて広場へと飛び出した。

 そこに――クロスポータル装置がある。
 巨大なリングが回転し、不安定な光が脈動していた。

 澪が、装置のそばに立っているのが見える。
 和真が言葉を漏らす。

「……澪」

 次の瞬間、遠方から、再びエデン兵の部隊が姿を現した。

「……来たな」
「ここが、最後だ」

 追撃があり、エデン兵の銃撃が飛び交う。
 車内で息を整える三人。

 薄暗い赤色灯。
 エンジン音が低く唸る。

 壁に背を預け、和真が腹部を押さえる。

 澪がすぐに駆け寄ってきて、

「…生きてる?」

 和真は苦笑いして、

「今のところ」

 そのやり取りを見届けながらカズマは、後部を見る。

「生きてる。……それで十分だ」

 澪は胸を撫で下ろすが、手は震えている。
 博士は、装置を見つめながら、静かに呟いた。

「この先は……もう、引き返せん」

 和真は、クロスポータルの光を見据える。

 選択の場所が、もう、目の前にあった。
 世界を越える準備は、すでに整っていた。
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