Last Lesson

駄文のヒロ

文字の大きさ
22 / 31
DAY3 生きる選択

5、卒業ーー手を離す者、掴み続ける者

しおりを挟む
 キリュウが戸惑っているその瞬間、スギヤマは何も言わず、ただ視線を走らせた。

 ――行くぞ。

 言葉ではなく、目だけで合図を送る。

 カズマが即座に反応し、体勢を低くした。
 澪は和真の腕に手を伸ばす。

 次の瞬間。

 スギヤマが、次元装置の出力レバーを一気に引き上げた。

SYSTEM音声『出力制限……解除。
 空間拘束、崩壊開始』

 低音が唸りを上げ、空間そのものがゆがみ始める。

SYSTEM音声『ポータル制御権限、喪失』

 床が震え、空気が引き剥がされるように流れ出す。

 「な、何だ――!」

 エデン兵の叫びは、途中で掻き消えた。

 装置の中心に生まれた黒い渦が、猛烈な重力反転が引き起こし、周囲の光と音を無差別に飲み込んでいく。

 スギヤマは、制御盤にしがみつく。

「うわっ――!!」

 スギヤマを取り囲んでいたエデン兵が一人、また一人と渦に引きずられる。
 銃が宙を舞い、飲み込まれる。
 光と闇が絡まり、渦が拡大していく。



 キリュウが踏みとどまり、足元の床が砕け始めている。
 その直後、スギヤマが一歩踏み出す。
 和真がそれに気づく。

「……先生?」

 スギヤマはキリュウの背後に回り、腕でがっちりと抱え上げて拘束する。

SYSTEM音声『上層ポータルの再構築を開始』

 キリュウは踏ん張って、そのコートが激しくひるがえる。

ゲートは……まだ、開いていない……!」

 渦の中心、向こう側は“未接続”で、闇と光が混ざり合うだけだった。
 エデン兵は次々に渦に飲まれ、歪んだ叫び声と共に消えた。

 キリュウ「離せ!!
     貴様まで――」

 スギヤマは低く言う。
「逃げ場は与えない」

 渦の引力が強まる。
 床が完全に崩れ、二人の足が浮く。

 「掴まれ!!」

 カズマの怒号が跳ぶ。

 澪が、迷いなく和真に体当たりするように抱きついた。

 「和真!」

 二人の身体が、渦の引力に引かれ、床を滑る。
 和真は、必死に腕を伸ばした。

SYSTEM音声『上層ポータル、共鳴開始。
 転送先ーーα世界。
 世界境界、開始まであと1分』

 視界の向こう、歪む空間の縁に、カズマの手がある。

 「カズマッ!!」
 「来い!!」

 指先が触れ、次の瞬間、強く握られる。
 衝撃が、腕を引き千切ろうとする。



 だが――
 澪の身体が、遅れて大きく引かれた。

 「……きゃっ!」

 足が浮く。
 渦が、澪をまっすぐに引き込もうとする。

 「澪ッ!!」

 和真は、咄嗟とっさに手を伸ばした。

 カズマの手を掴んだまま、反対の手で、澪の腕を掴む。

 「離すな!!
  絶対、離すな!!」

 歯を食いしばり、腕に走る激痛に耐える。

 カズマが、力を込める。

 「……っ、踏ん張れ!!」

 視界が、白く弾けた。
 世界が、音を失った。

 それでも、和真の中に残っていたのは、ただ一つ。

 ――絶対に離さない。

 その意志だけだった。

 クロスポータル装置が近い奥の方では、柱にしがみついているキリュウを強く抱えたまま、スギヤマは穏やかな声で呼びかけた。

「和真」

 今にも、ポータルの渦に引き込まれようとしている。

 和真は首を振る。

「駄目だ……やめてくれ……一緒に……」

 スギヤマが微笑む。

「もう教えることはない」

 一拍して、安らかな表情をしている。

「オレの授業は――”卒業”だ」

 そう言い切ると、最後までキリュウを離さず、渦の中に引き込まれた。
 二人は不安定になっているポータルの渦に飲みこまれる。
 光が歪み、存在が引き裂かれるように消失した。

「先生!」

 一瞬の静寂。

 その奥で、向こう側の門が、ゆっくりと光を放ち出す。
クロスポータル装置の音声ナビがほぼ囁くように返答する。

SYSTEM音声『……ようこそ。
 選択された世界へ』

 カズマが、歯を噛みしめる。

「門が開いた!」

 手すりを掴んだまま、カズマを見やる。

「……行け」

 和真、目を見開く。

「お前も来い!!」

 カズマが、首を振る。

「ここが……オレの世界だ。
 オレには、まだやることがある」

 澪、和真を見る。

「和真……」

 カズマはまっすぐに和真を見る。

「守れ、和真――人であるまま」

 和真は、涙を堪えて叫んだ。

「……生きろ!!」

 カズマがわずかに笑う。

「ああ」

 和真を掴んでいたその手が離れる。

 和真と澪は、門へと引き込まれる。
 カズマは安らかな思いを胸に、渦の前に一人残る。

 和真――
 ――お前が戻る世界で、”選ばない”ってことを、選び続けろ。

 オレは、それを見届けているよ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

あなたのいない世界に私は生まれた

駄文のヒロ
SF
 西暦2051年12月上旬。  レイヤー聖台高等学校2年生の横澤穂花は、母である智美と穏やかな日々を送りながらも、心のどこかで言いようのない違和感を抱いていた。  優しく、何不自由なく育ててくれたはずの母――  けれど穂花は、『この人だけじゃない』という感覚を拭えずにいる。  自分を見守っている“もう一人の誰か”。  声も姿も思い出せないのに、確かに存在している気配。  それが母なのか、記憶なのか、あるいはただの思春期の錯覚なのか――  穂花自身にも分からない。  そんなある日、学校で囁かれている都市伝説を耳にする。  “世界を見守る守り神”  人知れずこの世界を監視し、迷える者の問いに応える存在がいるという噂。  真実を知りたい。  自分が感じているこの違和感の正体を確かめたい。  穂花は、誰にも打ち明けられない想いを胸に、その“守り神”に会いに行くことを決意する。  ――その選択が、世界の秘密と、彼女自身の出生の真実を揺るがすことになるとも知らずに。  人々のそれぞれの愛情を紡ぐ『あな生き』シリーズ最終章、始動!

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

あなたのいない世界でバージンロードを歩く

駄文のヒロ
SF
 西暦2051年6月上旬。  一年前の「ロンドン崩壊事件」を経て、レイヤー世界は表向きの安定を取り戻していた。  だが人々の心には、「世界は壊れうる」という不安が、静かに残り続けている。  東京レイヤー総合管理塔で働く研究員・朝霧結奈(24)は、レイヤー創成期の移行実験中に亡くなった父・朝霧雅人の死亡記録に、説明のつかない違和感を覚えていた。  公式には「実験中の突然死」と処理されたその記録に、近年になって管理層による不可解な参照痕跡が残されていたのだ。  個人研究として調査を進める結奈は、父の死が単なる事故ではなかった可能性と、レイヤー世界の深層に隠された過去に触れていく。  やがて彼女は、この世界を裏側から支える存在と静かに交錯する。  それは、レイヤーの中枢に関わる、名を持たぬ“誰か”だった。  その交錯で、知られていない16年前のレイヤー移行実験暴発事故の真相が明らかになる。  これは、あなたのいない世界で、それでもあなたと歩くための物語。 『あなたのいない世界であなたと生きる』第2弾開幕!

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

【完結】新・信長公記 ~ 軍師、呉学人(ごがくじん)は間違えない? ~

月影 流詩亜
歴史・時代
​その男、失敗すればするほど天下が近づく天才軍師? 否、只のうっかり者 ​天運は、緻密な計算に勝るのか? 織田信長の天下布武を支えたのは、二人の軍師だった。 一人は、“今孔明”と謳われる天才・竹中半兵衛。 そしてもう一人は、致命的なうっかり者なのに、なぜかその失敗が奇跡的な勝利を呼ぶ男、“誤先生”こと呉学人。 これは、信長も、秀吉も、家康も、そして半兵衛さえもが盛大に勘違いした男が、歴史を「良い方向」にねじ曲げてしまう、もう一つの戦国史である。 ※ 表紙絵はGeminiさんに描いてもらいました。 https://g.co/gemini/share/fc9cfdc1d751

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...