十で神童、十五で天才、二十歳過ぎれば今際の際【完結】

藤好

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昨日の敵と今日も共寝

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かつて鎬を削っていた相手と同衾するなど人生とは何が起こるかわからない。



起きて直ぐ飛び込んできたヴァルターの寝顔のドアップに俺は思い切り顔をしかめた。

しかし俺という人間がどんなにこの状況を嘆き嫌悪しようとも他でもない俺の身体が俺を裏切る。

昨晩の嵐のような情交を思い出したのか腹の奥がきゅんきゅんと疼き、はしたなくも前を濡らしそうになる。鼓動はドンドコと早鐘を打って視線はヴァルターの整った容貌に釘付けである。あ~めちゃめちゃカッコ良……なわけあるか!!クソ!!ムカつく!!!

俺は衝動のまま渾身の力を込めヴァルターの額にデコピンを撃ち込んだ。



「痛ッ!?!は?!お前どういう起こし方だよ?!」

「なに虫がとまっていたんでな」

「絶対に嘘だろ」



気のせいじゃなければこいつと関係を重ねる毎に俺の中の好き度?ときめき度が上昇しているような、



「オイ、むしゃくしゃするから一発殴らせろ」

「今既に殴っただろうが」

「あれはただのデコピンだ」

「お前……」



ああ朝からまたしょうも無い口喧嘩をしてしまった。ヴァルターといると俺は完璧な自分を保てない。まあ瀕死の姿を見られおまけに魔力まで貰ってる分際で完璧もクソもないが。







朝食は街で食べた。俺にとっては初めての経験である。今まで必要もなかったし興味もなかったからだ。あと、友達もいなかったし。



「そこで大人しく座って待ってろ。知らない奴に声掛けられても付いて行くなよ」



失礼千万なことを言い残してヴァルターは市場の人混みに消えた。市場は非常に活気があった。様々な屋台が軒を連ね沢山の人間が思い思いに食事をとっている。

俺の生まれ育った国はこんな場所でこんな人達が暮らしていたのか。俺は住民情報が記載された書類だけ眺めて国のことを全て知った気になっていた。反省だ。





「適当に買ってきた。余った分は俺が全部食うから好きなの食えよ」



ヴァルターはトレイ二つを両手に持ち、様々な料理を乗せて帰ってきた。オイ何人前だ……。ヴァルターは見かけによらず大食漢である。物凄いスピードで次々と食べ物が口の中に消えていく様は見ていて中々爽快だ。



「これは何だ?」

「鳥を炭火で焼いたやつだろ。なんの鳥かは聞くなよ俺もわからないからな」

「この赤い実は?」

「これは皮は赤いけど果実は白い。剥いてやるからかしてみろ」

「これは?」

「ああ、それは……」



ヴァルターは質問責めという名の食事の邪魔をする俺に嫌な顔一つしない。それどころか買ってきたものを全て一口づつ味見するというマナーもへったくれもない行動をとる俺を笑いながら見ている。……キュン……じゃなく!!一々ときめくな俺!!!

しかしヴァルターを見てきゅんきゅんしてるのは何も俺だけではない。市場にいる女性全て(中には男も)が目をハートにしてヴァルターを見つめている。

チッ、ムカつく。

もうヴァルターにムカついてるのかヴァルターに秋波を送る連中にムカついてるのか自分でもわからなかった。





食事を終えてからヴァルターは街を案内してくれた。途中露店で飲み物を買ってお互いのものを飲みあったり、買い物をしてみたりと何だかまるでデートである。ヴァルターと二人で出掛けるなんてもっとイライラしたり殴り合いになったり殺し合いに発展したりするかと思ったが拍子抜けだ。というか基本的にヴァルターは俺から仕掛けないかぎり自ら喧嘩を吹っかけて来たりしない。朝も殴り返したりして来なかったし。





ヴァルターが心当たりがあると言った家は王宮と市場の丁度中間地点という立地のいい場所にあった。少し奥まったその場所は街の喧騒から遠く、確かにヴァルターが言うように不思議なほど静かだった。

外観は想像していたよりもずっとシンプルだ。窓が大きく、王都ではあまり見ない不思議な造りをしている。

内装もシンプルで、用途不明な豪華な調度品の類も一切ない。最低限置いてある数少ない家具はやたらとサイズがデカく上質なものばかりで、存在感のあるキングサイズのベッドや何人でも座れそうなふかふかのソファは俺の目にとても魅力的に映った。



しかしもっとも衝撃的だったのはバスルームだ。いや、これをバスルームと呼んでいいのか?だだっ広い浴場に負けず劣らず大きな浴槽は乳白色のお湯で満たされ、今もそれがこんこんと湧き出ている、ように見える。

文献でしか読んだことはないがこれはひょっとして極東の国に存在する温泉というやつではないのか?



「な、なんで……」

「湯の底に温石が沈んでいる」

「温石だと?!」



温石とは一見すると普通の石だが一度水につけるとお湯が無限に湧き出す魔石のことである。

この国には存在しないもので、俺自身も誰かが考えた作り話だと思っていた。



「本当に存在するとは……」

「ガルド家に伝わる秘宝の一つだ」

「そうか、ガルド家に……ん?」.

「何だ」

「ガルド家の秘宝がなんでこんなところにある」

「ここは俺の家だからな」

「何だと?!」



悪びれもせずシレッと言い放ったヴァルターに湧いたのは紛れも無い殺意だ。

だって俺は本気でこの家を気に入って幾らかかってもいいから買い取ろうとまで考えていたのにただのお家自慢だったとはッ……!!



「最悪だな貴様!!さっきまで一瞬良い奴かもと思ってたのに!」

「何急に切れてんだ。だから、お前もここで暮らせばいいだろ」

「……成る程。俺に法外な家賃を提示してここを貸すというわけか。しかし残念だったな俺は金ならあるぞ?」

「いや、別に金何て取らねェよ。俺もそろそろ寮から出ようと思ってたしな」

「……ん?お前もここで暮らすのか?つまり何か?俺はお前の棲む家に下宿すると、そういうわけか?」

「下宿て……もっと色気のある言い方しろよ」

「ちょっと考えさせてくれ」

「あの風呂の湯はおはようからおやすみまで延々とと湧き続け途切れることがない。朝でも昼でも夜中目が覚めた時でも入り放題だ。ベッドとソファも最高級の品を用意してある。一度横になればまるで沈み込むような寝心地で眠りの淵へと誘われ、」

「よし決めた。俺もここに棲むぞ」





……こうして俺は大して考えもせずヴァルターと暮らすことを決めたのだった。



話が纏まれば俺のやることはただ一つ。

温泉に浸かる、もうそのことしか考えられない。

俺はヴァルターとの会話もそこそこにサッサと服を脱ぎ捨て浴場へと足を踏み入れた。

しかしここで問題が一つ。

一人でゆっくりと入浴したかったのに何故かヴァルターまで入って来やがったのだ。はーウザ。

内心げんなりしたがこの家の持ち主はヴァルターである。



はあ、人生とは本当に何が起きるかわからない。

死に掛けた数日後には学生時代のライバルと風呂に浸かってたりする。



ヴァルターの日に焼けた褐色の肌は筋肉で覆われ引き締まっている。対して俺は何年も死の淵を彷徨っていたせいで筋肉は削げ落ち、あおく血管を透かした肌は不健康な色をしていた。

何だこいつヴァルター、お家自慢の次は肉体自慢か?卑劣な奴め。明日から死ぬほど筋トレしてやる。



「何睨んでんだよ」

「別に」

「やめろお湯掛けるな」



濡れた髪をかき上げる仕草まで様になっていて本当に嫌になる。ヴァルターの形の良い眉が顰められてエメラルドグリーンの眼が俺を射抜く。それだけのことで俺は何だか落ち着かなくなり悟られないように唇を噛み締めた。



「お前本当に嫌味な奴だな」

「……お前には負ける」

「何だと?」

「だからお湯掛けるのやめろ」





その後本格的にお湯の掛け合いになり、何がどうしてそうなったのかそのまま風呂場で繋がり、暑さで逆上せて最悪だった。

ポタリポタリとタイルに落ちる水滴が汗なのかカウパーなのか判別がつかない。

抗議のために噛み付いたヴァルターの首筋はぬくったい水の味がした。











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