リス獣人の溺愛物語

天羽

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10さい

55話 一人ぼっち

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「ひっく……うぅ、ふぇ……らでぃのばかやろー……」


靴も履かずに外に出た俺は夜の庭へと走った。
屋敷の使用人が少ないお陰でここまで来るのに誰一人として会う事はなく、屋敷内も庭も……シンと静まり返っていた。
夜の暗い庭は、外灯の淡い光と月明かりが照らしているだけで周りはよく見えない。



俺は涙で歪む視界の中、庭の一角にある花壇の前でしゃがみこむ。



……何も植えられていない土だけの花壇。

これは先日獣人化した俺に、アドルフさんとヘレスがパール様に提案してプレゼントしてくれたものだ。


何を植えようか……どうせならラディが好きなものにしたいな……なんて思ってたのに……。





「うぅ……かぁちゃん、おれ……またひとりぼっち……なのかなぁ……」



1人は寂しい。
話す相手も、笑い合う相手も、慰め合う相手も、温もりを感じる相手も居ない。

でもその状況を作ったのは俺だ。
ってラディに言ってしまったのだから……。
本当はそんな事思っていない……なのに感情が昂って、つい口から出てしまったのだ。



「ひっ……く、うぇぇ……どぉしよぉ……」



ラディの事を考えると、今よりもっと涙が出て…止まらなくなる。
胸がズキズキと痛み、悲しみに耐えられない俺は、ポケットに仕舞っておいた宝物を取り出そうと手を入れるーーーーーーーー。




「ーーーっ!え、あれ……あれ!?……な、ない…」



サーっと身体から血の気が引くのが分かる。
反対のポケットを探してもどこにも無い。


ーーーーーーー無いんだ……大切なスカーフが。
母ちゃんとのただ一つの繋がりである宝物が……。



「え?……どこ?どこいったの!?……」



ラディの部屋にいる時は確かにあった……きっとここまで走って来た時にどこかに落としたのだろう。
屋敷内に落としていたら誰かが拾ってくれるかもしれない……でも外に落ちていたら、風で吹き飛ばされてしまうかもーーーーーーー。



「ふ……うぅ……」



泣いてる場合じゃない……。
早く探さないと……。


そう思うが涙は一向に止まらない。



俺はゆっくりと立ち上がり庭を探し始める。
ラディに嫌われ、大切なスカーフすらも失ったら俺はーーーーー。



「ひっく…ふぇ……どこいったの……おねがいでてきてよ」



庭の奥は草木も多く、俺はそれらを小さな身体で掻き分けながら様々な所を探す。
だが、何処を探しても見つからない。


「うぇ……どうし、よ……いやだ、いやだよぉ…………っっ!!ーーーーうわぁっ!!」


涙で視界が歪んでいたせいか、走りすぎて足が疲れていたせいか……俺は何も無い所でバタッと躓き倒れ、地面に身体を強く打ちつける。


「ふ……うぅぅ……」


強い痛みを我慢してゆっくりと起き上がった俺は、顔面から勢い良く転んでしまったせいで鼻血がポタポタと垂れ、おでこにも擦り傷を作る。
パール様から貰った寝巻きは転んだ拍子に膝の部分が解れ、腕や足もヒリヒリと痛い。
裸足で外を走り回ったから、足の裏の皮も所々剥がれているし、もう俺は身も心もボロボロだった。


……なんだかすごく、惨めな気持ちになる……。


いや、自業自得……なのかな?


母ちゃんの事もラディの事も……スカーフの事も全部……俺が悪かったのかな?



……なんでこうなったんだろう。


……俺はただ、ラディと一緒に居たいだけなのに。




「うぅ……ふぇ…ひ、くっぅ……はぁ、あぁぁ!!」



涙が止まらない。
俺はただ傍にいて欲しいだけなのに……。
ラディの傍に居たかっただけなのに……。












「ーーーーリツっっ!!!!!」



背後から声がしてギュッと抱きしめられる。
大好きな匂いと温もり。



「はぁはぁ……良かった、やっと見つけた!……どこにも居なくて本当に焦った」



ドクドクと早い心音が俺にも伝ってくる。
ずっと走り回って探してくれていたのだろうか……息も切れ、汗だって沢山かいている。



「ふぅぁ……ら、らでぃ……なん、で?」



なんでラディはそんなにも焦って、嫌いな俺を探していたのだろうか。
そう思い呟くと、ラディはふわりと俺を抱き上げて近くのガゼボに向かい、ベンチへと降ろすとそのまま俺を見上げる様に腰を落とす。



「リツ……これ」


「あっ!!おれの……すかーふ……よかったぁ……」


ラディの手から刺繍の入った大切なスカーフを受け取りギュッと抱きしめる。


「玄関先に落ちていたんだ。きっと無くして焦っているだろうとは思っていたけど……こんなに怪我をして……」


酷く辛そうな顔をしたラディは、自分の服の袖口で俺の顔につく血を優しく拭き取りーーーーーー。



そしてまたギュッと俺を抱きしめた。

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