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10さい
54話 だいっきらい
しおりを挟むその日の夜、俺は1人でお風呂に入った後パール様から貰ったもこもこの寝巻きを着ると、午後の授業で学んだ文字の復習としてノートへと書き写していた。
一通りノートへと書き写した時、タイミング良くラディが部屋のドアを開けた。
「あ!らでぃおかえり!」
「あ、あぁ……ただいま」
俺は出来るだけ明るく声を掛ける。
だがラディは変わらず俺と目を合わせようとしなかった。その様子にズキッと胸が痛くなる。
「リツ……それどうしたの?」
ラディが俺の着ている服を見つめる。
「あぁこれ?ぱーるさまがおれのためにってつくってくれたんだ!!みて!しっぽもちゃんとでる!!」
俺は少しだけお尻を突き出して尻尾を揺らす。
するとラディはビクッと肩を揺らして動かなくなり、不思議に思った俺はラディに近づき身長差のあるラディを見上げる。
「ん?らでぃどうしたの?どこかいたい……?」
心配してラディの頬に自身の手を伸ばすも、ラディはスっと避けてしまい俺の手は行き場を無くす。
……あぁ、触られるのも嫌なのかな……。
また胸が痛くなる。
「すごく…似合ってるよ……それよりリツ、話があるんだけどーーー」
「……ん?なぁに?」
落ち込んだ俺に気付いたのか、ラディは優しい声音で伝えると真剣な顔つきに変わる。
「いきなりだけど、明日からは部屋を別々にしようと思うんだ。リツも1人の方が過ごし易いだろうし」
「え!?……なんで?」
ラディの想像もしなかったその言葉に目を見開く。
……1人は怖いし寂しい。
俺はラディと一緒にいたい。
……え?ラディは…違うの……?
俺がリスの時は、獣人化出来ても出来なくてもずっと一緒ってラディ言ってたのに……俺の事が嫌いになった?
「な、なんで?おれはひとりべやいらないよ……?」
「剣術稽古がある時は、今日の様に帰ってくるのが遅くなるし、そうしたらリツを起こしてしまうかもしれないから……」
「だいじょうぶだよ!そんくらい!だからーーーーーーーーーー」
……あ、ラディの表情……これはあれだ……ラディ自身が1人になりたがっているんだ。
思えばラディは、リツも1人の方がーーーって言ってたリツもって。
……そうか、俺とは居たくないんだ。
「……わかった」
胸がチクチクと痛い。
目頭も熱くなってきて雫が溜まる。
でも、泣いたら面倒くさいって思われそうで……嫌われそうで……だから俺は顔を見られない様に俯いた。
「……リツ?」
途端に大人しくなった俺に違和感を覚えたのかラディが顔を覗き込もうとするが、俺は近づいたラディを押し返す。
「……おれ、らおのへやでねる」
「……え?」
俺は一言そう言うと、唖然としたラディに背を向けてドアへと歩き出すが、瞬間ラディに手首を掴まれる。
「ーーーーそれは駄目」
「……な、んで」
ラディの怒りを含んだ瞳に、俺は訳が分からなくなる。
なんでラディが怒ってるんだよ……。
自分勝手に俺を避けて、俺が邪魔で1人になりたいからって勝手に部屋のことも決めたくせに……。
どんどん胸が痛くなり……悲しくなる。
でもそれと同時に怒りも湧いてきて抑えることが出来ない。
瞳からは我慢が限界に達した涙がボタボタと大量に溢れてきて、俺は声を上げる。
「なんで……なんでだめなんだよ!!いまのらでぃ、なにかんがえてるのかぜんぜんわかんない!!!!」
「ちょ、リツ……落ち着いて!」
ラディが俺の肩に触れようとして、俺はその手を強く振り払う。
「ずっと……ずっとおれのことさけて!めもあわせてくれなくて……おれのこときらいになったんならそういえばいいだろ!!!!」
「違うリツ……話を聞いーーーーーー」
「らでぃ……ずっといっしょにいてくれるっていったのに……おれ、らでぃのことだいすきだったのに……」
「……っっ!……リツ……」
「もう!!!らでぃなんてだいっきらいだ!!!!!」
「待って!!話を聞いーーーーー」
「っっ!!……いたいっ!!」
ラディがいきなり俺の手首を力強く握りしめたせいで、俺は悲鳴に近い声を上げギュッと眉を顰めた。
俺の声にハッとしたラディがすぐさま手首を離す。
でもそのタイミングで俺はラディに背を向けて走り、勢いよくドアを開けると部屋から出て行ったのだ。
後ろから緊迫した様子で俺を呼ぶ声が聞こえたものの、怒りと悲しみに覆われた俺は、もう振り向かなかったーーーーー。
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