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15さい
61話 人気者
しおりを挟む「リツ、大丈夫?」
「う……うん」
先程まで王城の大きさにテンションが上がっていた俺だが、いざ中のエントランスホールへ通されると緊張して身体が強ばる。
カオン様とパール様を先頭にして一際大きなドアの前へ足を進めると、中から沢山の人の声が聞こえて来る。
グラニード家で暮らしてきて10年……。
俺はラディやライオネルの様に頻繁に王城へ出向いたこともなければ、屋敷の人以外と話した経験だって数少ない。
……だから、こんなにも沢山の人達の居る場所へ行くのなんて人生で初めての事なんだーーー。
「大丈夫だよリツ……僕が着いてるから。絶対に傍を離れてはダメだよ?」
「そうだよリツ!お菓子も沢山あるから全種類食べような!」
「う、うん!……2人ともありがとう」
ラディとライオネルを見上げて微笑むと同じタイミングで顔を赤らめた2人は「……絶対に目を離さないようにしよう……」と呟いた。
「グラニード公爵家御一行様ご到着でございます!!」
大きな声量でそう伝えられたと共に開く大きなドア。
少しずつ開かれると、沢山のシャンデリアに照らされる大きく煌びやかなメインホールが現れ、俺はゴクリと息を飲む。
貴族のパーティーは爵位の低い者から会場へ入るという決まりがあり、公爵家であるグラニード家が到着する頃には既に殆どの貴族がホールに集まっていた。
「グラニード公爵様……素敵ですわ」
「奥様もとても綺麗で、流石社交界の華ですわね……」
「御子息のラディアス様とライオネル様も凛々しくなられて……はぁ、家の子をもらってくれないだろうか……」
小声で呟く周りの人達の言葉は、きっと人間であるラディ達には聞こえていないが、獣人の俺の耳にはハッキリと聞こえる。
それは、俺の存在を不思議がる声も聞こえてーーーー。
「あの子はどこの子なんだ……?」
「グラニード家の正装を着ているのだから……公爵家の子なのよね?」
「でも獣人だぞ?」
ヒソヒソと俺の事に対して話し合う声は居心地が悪い。
俺は繋いでいたラディの手をギュッと握った。
カオン様やパール様はホールへ入るなり俺達に一声掛けて離れると、沢山の貴族の大人達に囲まれ挨拶を交わしていった。
その様子を唖然と眺めていると、ラディやライオネルの所にも同じ年頃の貴族の子供達がゾロゾロと挨拶の為に押し寄せ周りを囲んだ。
それはラディと手を繋いでいる俺も一緒に囲まれているわけで……。
「うぅ……ぐるじ……」
ずっと屋敷に居た俺は、ラディやライオネルがこんなにも人気だったなんて知らなかった……まぁ、イケメンだし、いい身体してるし公爵様だしイケメンだし!!当たり前か……。
そんな事を思いながらも、みんな俺の事なんか見えていないかの様にギュウギュウと押し寄せてきて、小さい俺は直ぐに飲み込まれそうになる。
「リツ、おいでーーーーー」
「むぐぅぅぅ……へ?ーーーーうわぁっ!!」
ラディの優しい声が聞こえたと共にふわっと身体が持ち上がる。
いきなりの事で咄嗟にギュッと首に掴まると目の前には優しく微笑むラディが俺を見つめていた。
「え?……ラディアス様が、笑った?」
「そ、そんなはず……だって」
「ラディアス様はーーー」
ラディの様子に周りの子供達は状況を飲み込めないのか、皆が呆気にとられながらもヒソヒソと話し始めた。
その様子に俺は悟る。
ーーーあぁ、ラディは外でも無表情なのか……と。
「リツ、痛かったよね」
「え?あぁ…ぜ、 全然大丈夫」
周りの様子など気にせず俺を心配するラディ。
その光景にも過敏に反応する貴族の子供達は俺をじぃーと見つめてきて居心地が悪い。
そして、所々睨んでる子も居てちょっと怖い……。
「挨拶が済んだのでこれで失礼する」
無機質にそう告げると俺を抱いたままスタスタとその場を去るラディ。
呆然とする貴族の子供達に、ライオネルが人のいい笑みを浮かべてお礼を言うと足早に俺達に着いてくる。
「ラディ、あんなに素っ気なくして大丈夫?」
「あんな奴らに興味無い……それよりリツお菓子全種類食べるんだろ?後で何を食べるか今の内に選びに行こうか」
「お菓子!!うん!ラディも後で一緒に食べよ!」
そう言って微笑むと、ラディも笑った。
「はぁ、もう兄さんは……」
その様子にライオネルが呆れた声を出す。
……皆ラディが笑うと不思議がるけど、俺にとってはこれが普通なんだよな。
そう思うと俺だけがラディの特別である様な気がして、嬉しくなるのだった。
それからスイーツの並べられるテーブルへと行くと、ラディに降ろしてもらい、キラキラと輝く美味しそうなスイーツに俺も目を輝かせる。
「わぁ~!!どれも美味しそー!」
「リツの好きなピーナッツマフィンがあるね」
「なぁ、これなんかどうだ?リツいちごも好きだろ?」
「おぉ!あれもそれも美味しーーーーーーーーーーー」
「ラディアスさまぁ~~ーーーーーーーー!!!!」
ライオネルが指さすケーキやクッキー、マカロンを色々見ていると、不意に背後から大くて甲高い声が聞こえて俺たちは振り返った。
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