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ちょこっと物語
ボブの名前【10さい】
しおりを挟むあれは確か……俺とラディが無事に仲直りして数日が経ったある日ーーーーーーーーー。
「ボブ~!!おはよぉ~!!!!」
「ワフワフッ!!」
身支度を整えてラディと共に部屋から出ると、廊下でぐるぐると部屋の前で回るボブと目が合い、俺はギュッとボブに抱きつく。
大きなその身体を撫でると、フサフサの毛が手に当たって気持ちがいい。
俺はボブの首元に頬ずりしてその気持ち良さを堪能したのだった。
「リツは本当にボブと仲良しだね」
そう言うラディもボブの頭を撫でる。
「ワフンッ!!」
心做しかボブが凄く嬉しそうだ。
さっきよりも尻尾も揺れてる気がするし……。
「だってボブはおれのともだちだい1ごうだもん!」
ボブが俺以上にラディに懐いている事に少しムッとして、俺はグイッとボブを抱き寄せる。
そんな俺の顔をベロベロと舐めるボブ。
「リツ……リツの1番はもちろん僕だよね?」
「……え?」
急に目付きの変わるラディにビクッとして俺は今以上にボブに抱きつく。
「もういいでしょ?リツはこっちだよ……」
「ふぇ?うわぁ!!」
ラディは俺の腕を掴んでボブから引き剥がすと、ギュッと強く俺を抱きしめる。
数日前に仲直りして……今日だって先程キスしたばっかりだったからどこか恥ずかしくて顔を赤らめる俺をラディは楽しそうに見つめる。
「は、はなしてっ!ボブぅ~!!」
「ワン!ワフワフッ!!」
……ボブ……なんか楽しそう?
朝から可愛いボブを見れたのは嬉しいけど、この状況から助けて欲しいとため息を吐いた俺は、前から思っていた1つの疑問を口にした。
「そういえば、ボブのなまえってだれがつけたの?」
「ん?ボブの名前?」
前から思ってたボブの名前。
正直、艶やかな毛並みに綺麗な顔つきな……その上品な容姿に、強そうな印象を与えるボブと言う名前は少しだ違和感がある気がする。
……いや、ボブだって気に入っているみたいだし、本人が良いなら良いんだけど……。
でもやっぱり気になる……。
こんなにもセンスの無いネーミングセンスを持っているのが誰なのか……。
そう思っていると、何食わぬ顔でラディが口を開く。
「ボブの名前は……僕が付けたよ?」
……え?
俺はその一言に唖然とする。
そして、暫く部屋の前の廊下はボブの息遣いだけになった。
「ええ!!!ラディが付けたの!?」
「う、うん……どうしたのいきなり大声出して、何か問題でもあった?」
「もんだい!!あるよ!!もんだいしかない!!」
ラディが……あの何でも出来て、常に冷静な無表情で無機質なラディが……ネーミングセンスの欠片も無い男だったなんてぇ!!!!!!
ついそんな本音が出そうになって俺は口を押さえる。
勢いのままにこの気持ちを吐き出したい衝動を抑え、おずおずとラディに問う。
「な、なんで……ボブなの?」
そう聞くと、ラディは笑みを浮かべ……懐かしそうに語ったのだった。
ーーーーーーーーーーー
sideラディアス
あれは僕がまだ5歳の時ーーーー。
父様と一緒に騎士団の訓練風景を見学にと王都へと向かった時だった。
何処からか寂しそうな声が聞こえ、僕はその方向へと一直線に走った。
……そして足を止めた場所は、煌びやかな王都の町から外れた暗い路地裏。
そこに小さな小さな子犬が居たんだ。
たった1匹で、酷くやせ細っていて……身体を震わせていた。
きっと後1日……いや数時間遅かったらその子犬は衰弱死していたかもしれない。
だから僕は問いかけた……。
「僕と一緒に来るかい?」
そう言って手を差し伸べると、薄く目を開いた子犬と目が合った気がした。
「キュ……ウゥ……」
子犬は小さく鳴いた。
力を振り絞って、生きたいって……連れて行ってくれって……僕に伝えたんだ。
僕は衰弱している小さな子犬を連れ帰り、毎日毎日寝る間も惜しんで看病した。
「ねぇ、君の名前……ボブってどうかな?かっこいい名前でしょ?……強く逞しくなってほしいって気持ちを込めて……ボブ」
「キュー……」
「ふふっ……その反応は良いってこと……かな?」
「クゥー……」
「じゃあボブ……これからはいっぱいご飯食べて、大きく、逞しく成長するんだよ。
それと……今までよく頑張ったね」
「……クゥン、クゥーン……」
あの時、僕がそう言って優しく撫でると……ボブは静かに涙を流して泣いた。
そうして、その日から……ボブは穏やかな寝息を立てて寝るようになったのだった。
。。。。。。。
「まぁ、あの時はボブがここまで大きく成長するなんて想像していなかったんだけどね」
そう言ってラディが困った様に笑う。
「うぅ……そんなことがぁ……ごめん、おれなんにもしらずに、ラディのことネーミングセンスないやつとかおもってぇ……」
「ははっ、そんな事思ってたんだ」
話を聞いて涙ぐむ俺の目元にラディがハンカチを当てながら軽く笑う。
「ボブ、よかったなぁ!ほんとーに!!おれもボブのことだいすきだぞ!!ラディにたすけられたどうし!これからもなかよくいっしょにいようなぁ!!!」
「ワフ!!ワウウッ!!」
俺がボブを抱きしめると嬉しそうに激しく尻尾を振るう。
「さぁリツ、そろそろ朝食に行こうか」
「あ、うん!……ボブまたあとでな!」
「ワンッ!!」
そうして俺とラディはボブに背を向けてダイニングルームへと足を進めるーーーーーーーーーー
【ありがとう……ラディアス様】
バッと勢いよくラディが振り返り見送るボブを見つめる。
「ん?ラディどうしたの?」
「え?あ…何でもない、さぁ行こうか」
「おう!きょうのごはんはなにかなぁ~」
「それよりリツ、食事の後一緒にボブにおやつをあげに行こうか」
「え!おやつ!いくいく!!おれがわたす!」
「そうだね、今日は特別に少し多くあげようかな」
「ん?ラディなんかいいことでもあったの?」
「さぁ?どうだろう」
「むー、なんだそれ」
眉を寄せる俺とは反対に、ラディは何故か楽しそうに笑った。
【ありがとう……ラディアス様】
……こちらこそ、これからもよろしくね……ボブ。
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