リス獣人の溺愛物語

天羽

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【本編】5さい

1話 追放

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前世の俺は普通の高校生だった。

勉強は全然ダメで友達や先生にお前は馬鹿だって笑いながら毎日の様に言われてた。でも運動はそれなりに出来て、仲のいい友達だって居た。

そう……元気だけが取り柄だった俺は下校中に突然胸が苦しくなって呆気なく死んだ。



……と言う前世の記憶を思い出したのは、小柄のリス獣人である、今世の母親が亡くなった日だった。


「ピピッ……ピー」


俺は大粒の涙を流しながら冷たくなった母ちゃんに抱きつく。

生まれてからもうすぐ5年が経つ。
俺も母ちゃんと同様小柄なリス獣人なのだが、本来なら生まれてから数ヶ月で獣人化できるのに対し、俺はこの歳になっても未だに獣人化出来ないでいる。

森に囲まれた小さな村の獣人たちはそんな俺を気味悪がって暴言を吐いたり、気性の荒い大型獣人からはたまに暴力を振るわれたりもした。

でも、母ちゃんだけはいつも俺に優しかった。

獣人化が出来ず、スムーズに話す事もできない俺を気味悪がったりしないで、いつも俺を理解しようとしてくれたただ1人の俺の家族だったのに。


(かあちゃん、かあちゃん!!おれをおいてかないで……)


何度も何度も小さなリスの俺は母ちゃんの青白くなった頬に擦り寄る。でも、母ちゃんから帰ってくる言葉はもう何も無かった。


「ピピッ……ピピピ、ピピ」


硬い床の上に仰向けに寝かせられている母親ちゃんに抱きつきながら泣いていると、大きな影が俺と母ちゃんを覆うように前に現れた。

瞬間、俺の大きな丸いしっぽを大きな親指と人差し指でつまみながら1人の男性獣人がゲラゲラと笑う。


「ガキを孕む事しか能のない小型獣人は身体も弱いのかよ!お前も災難だな、たった1人の家族が死んじまってよ」


ハイエナ獣人の男は見下すような目で俺を見下ろす。


「分かってると思うが、お前みたいな気色悪い呪われた獣人は出てってもらう。お前がいたら俺らまで呪われかねねぇーからな」


「ピッ!ピピッ!ピピピ!?」
(まっ、まって!おれをどうするの!?)


「ピピピ!ピ!」
(いやだ!かあちゃんといさせてくれ!)


「ピピー!ピピッ!」
(かあちゃん!かあちゃん!)


「うるせぇ!!!!黙れよ!!!!」


「ビッ!!」

ハイエナ獣人が大きな声をあげたと同時に、俺は強い力で投げられ壁へとぶつかり、ズルズルと力なく床へ突っ伏した。


……目の前が霞んでいく。


(かあちゃん……)


俺は大きな瞳から涙を零し、そのまま意識を失った。



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