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ライゼン通りの錬金術師さん2 ~人情物語~
十四章 疑心暗鬼の錬金術師
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ミラの葬儀が終わり、それぞれが心に闇を抱えたまま今回の事件は幕を閉ざす。
「……」
「ソフィー……」
ずっと暗い顔のままのソフィアの様子を気にかけながらポルトは工房までの道を帰っていた。
「……」
「遅くなっちゃったけれど、今から夕飯作るね。今日は何を食べたい?」
家に帰りついた時は既に夜の帳が降り始めており、薄暗い室内で無言で佇む彼女に彼が口を開いて声をかける。
「私……ミラさんを助けたくて必死に錬金術をおこなって、それでも助けることが出来なかった」
「ソフィー?」
ぽつりと呟かれた言葉にポルトが彼女の顔を見詰めた。
「何が王国一の錬金術師よ。何が自分の腕を試すために隣国に行くよ。……大切な人の命も助けられなかったくせに! 私……私は凄くもない何にも出来なかった。駄目な錬金術師じゃないのっ!」
「お姉さん!」
震える声で呟いていた彼女が喚くように叫ぶと涙を流ししゃがみ込み震える。その様子を見ていられなくてポルトが必死に抱き締めた。
「っ……ポルト?」
「お姉さんはダメな錬金術師なんかじゃない。お姉さんは凄い錬金術師だ。ミラの事は仕方なかったんだよ。あんな大怪我を負って一度でも息を吹き返したことの方のが奇跡だったんだ。だから……おいらお姉さんの錬金術が大好きなんだ。誰かの為に必死に頑張るお姉さんの錬金術はっとっても暖かくて優しくて凄いと思う。この町の人達だって皆お姉さんの錬金術が大好きなんだよ。皆から頼りにされる立派な錬金術師だ。だからお姉さん自分を責めないで……ね」
小さな体で抱き締められ驚くソフィアに彼が必死に言い聞かせるかのように優しい声音で語り掛ける。
「ポルト……ぅ……ぅっ……うわぁ~ん!!」
今までずっと耐えてきた涙が堰を切ったかのようにとめどもなく溢れだし大きな声で泣いた。そんな彼女の背中を優しくあやしながらポルトは全てを受け止めてくれる。
この日ソフィアは大きな声で子供のように泣き続け、ポルトは側でずっとあやしてくれた。
そうして落ち着きを取り戻した彼女は気持ちを切り替えるかのように静かに瞳を閉ざし深呼吸する。
「…………ポルト有り難う。もう、もう大丈夫よ」
「本当に?」
泣き止んだ彼女が静かな声で言うと彼が首をかしげて問いかけた。
「えぇ。私決めたの。もう二度とミラさんのように悲しい思いをすることが無いように。どんな怪我も病気もたちまち直してしまう凄い錬金術のアイテムを作って見せる。もう二度と誰もが大切な人を喪って悲しまないように……そんな錬金術の薬を必ず作り出して見せるわ」
「ソフィー……それならおいらもお手伝いするよ。一緒に一杯考えて、一杯錬金術をしてそしてどんなに時が経ったとしても必ず作り出してみよう」
決意のこもった瞳で語るソフィアにポルトも笑顔で答える。
「えぇ。どんなに時間がかかったとしても必ず成し遂げて見せるわ。ポルト、さっそく作るわよ」
「分かった! 緑の薬がいい? それとも青……それとも赤?」
彼女の言葉に彼が首をかしげて尋ねる。
「ぜ~んぶ。試すよ」
「は~い」
こうして二人はどんな怪我でも病でもたちまちのうちに直してしまう薬を生み出すために錬金術漬けの毎日を過ごすこととなった。
作っては失敗。作っては失敗の連続で研究ノートはすぐに山と積まれるほどの量となる。
それでも二人は諦めずに毎日錬金術を行い続けた。
そんな彼女達の頑張りを見ていた皆もミラの死を引きずりながらも日々の生活に戻っていったのである。
そんなある日。ソフィアは研究を休んでイクトの様子を見に仕立て屋へと向かう。
「イクト君、あれから大分経つけれど仕立て屋の方はどうするの」
「俺、決めたんだ。ミラさんが守り続けてきたこの仕立て屋を守るって。息子さんにも手紙を送った。彼が帰って来るまで俺が代わりにこのお店を守り続ける。そしていつか息子さんが帰ってきた時に全てを話してここを去るつもりだ。お店は息子さんに返す。その方がいいと思うから」
店の前に立っている彼へと声をかけるとイクトが決意を込めた顔で語った。
「いや~。素晴らしい決意ですね」
「ハンスさん?」
そこにハンスの声が聞こえて二人して彼の顔を見やる。
「実はソフィーさんとイクトさんにお話があってきたのです。ソフィーさんはこのお店に商品を卸しておりますでしょう。そこで、私のお店とイクトさんの仕立て屋、そしてソフィーさんの工房の三つを連携させ私を通して物流を流通させる仕組みを考えたのです。要するに仕立て屋に納品するには私を通してしか品物を卸せない仕組みというわけです」
「なんだよそれ……あんたしか特にならない話しじゃないか」
商談を始めた彼へとイクトがぼやく。
「そうとも言い切れませんよ。私のお店を通してイクトさんの仕立て屋に素材が入る。そこで服を仕立ててもらったお客がソフィーさんのお店で扱っている素材で作っていると知り工房にお客が入る。と、このような仕組みができるのです」
「なんか、無理矢理納得させようとしてないか」
ハンスの説明を聞き盛大に溜息を吐き出す。
「商業を成功させるためにはどこかの商人と手を組んでいたほうのがいいのですよ。そこで、私と手を組んで頂きたいのです」
「まぁ、ハンスさん以外の商人さんは知らないですから。いいですよ」
彼の言葉にソフィアはにこりと笑い頷く。
「あんた……もう少しちゃんと考えてから決めなよ」
「イクト君は嫌なの?」
簡単に了承した彼女へと物言いたげに呟くイクトにソフィアは問いかける。
「商売の事はこれっぽっちも解ってないからな。あんたが色々と間に入って動いてくれるって言うなら悪い話ではないと思う」
「では、交渉成立という事で。これから長~いお付き合いどうぞよろしくお願い致します」
彼の言葉にハンスがにこりと笑うと交渉が成立する。
こうして未来まで続く三つのお店の関係が始まりを告げたのであった。
「……」
「ソフィー……」
ずっと暗い顔のままのソフィアの様子を気にかけながらポルトは工房までの道を帰っていた。
「……」
「遅くなっちゃったけれど、今から夕飯作るね。今日は何を食べたい?」
家に帰りついた時は既に夜の帳が降り始めており、薄暗い室内で無言で佇む彼女に彼が口を開いて声をかける。
「私……ミラさんを助けたくて必死に錬金術をおこなって、それでも助けることが出来なかった」
「ソフィー?」
ぽつりと呟かれた言葉にポルトが彼女の顔を見詰めた。
「何が王国一の錬金術師よ。何が自分の腕を試すために隣国に行くよ。……大切な人の命も助けられなかったくせに! 私……私は凄くもない何にも出来なかった。駄目な錬金術師じゃないのっ!」
「お姉さん!」
震える声で呟いていた彼女が喚くように叫ぶと涙を流ししゃがみ込み震える。その様子を見ていられなくてポルトが必死に抱き締めた。
「っ……ポルト?」
「お姉さんはダメな錬金術師なんかじゃない。お姉さんは凄い錬金術師だ。ミラの事は仕方なかったんだよ。あんな大怪我を負って一度でも息を吹き返したことの方のが奇跡だったんだ。だから……おいらお姉さんの錬金術が大好きなんだ。誰かの為に必死に頑張るお姉さんの錬金術はっとっても暖かくて優しくて凄いと思う。この町の人達だって皆お姉さんの錬金術が大好きなんだよ。皆から頼りにされる立派な錬金術師だ。だからお姉さん自分を責めないで……ね」
小さな体で抱き締められ驚くソフィアに彼が必死に言い聞かせるかのように優しい声音で語り掛ける。
「ポルト……ぅ……ぅっ……うわぁ~ん!!」
今までずっと耐えてきた涙が堰を切ったかのようにとめどもなく溢れだし大きな声で泣いた。そんな彼女の背中を優しくあやしながらポルトは全てを受け止めてくれる。
この日ソフィアは大きな声で子供のように泣き続け、ポルトは側でずっとあやしてくれた。
そうして落ち着きを取り戻した彼女は気持ちを切り替えるかのように静かに瞳を閉ざし深呼吸する。
「…………ポルト有り難う。もう、もう大丈夫よ」
「本当に?」
泣き止んだ彼女が静かな声で言うと彼が首をかしげて問いかけた。
「えぇ。私決めたの。もう二度とミラさんのように悲しい思いをすることが無いように。どんな怪我も病気もたちまち直してしまう凄い錬金術のアイテムを作って見せる。もう二度と誰もが大切な人を喪って悲しまないように……そんな錬金術の薬を必ず作り出して見せるわ」
「ソフィー……それならおいらもお手伝いするよ。一緒に一杯考えて、一杯錬金術をしてそしてどんなに時が経ったとしても必ず作り出してみよう」
決意のこもった瞳で語るソフィアにポルトも笑顔で答える。
「えぇ。どんなに時間がかかったとしても必ず成し遂げて見せるわ。ポルト、さっそく作るわよ」
「分かった! 緑の薬がいい? それとも青……それとも赤?」
彼女の言葉に彼が首をかしげて尋ねる。
「ぜ~んぶ。試すよ」
「は~い」
こうして二人はどんな怪我でも病でもたちまちのうちに直してしまう薬を生み出すために錬金術漬けの毎日を過ごすこととなった。
作っては失敗。作っては失敗の連続で研究ノートはすぐに山と積まれるほどの量となる。
それでも二人は諦めずに毎日錬金術を行い続けた。
そんな彼女達の頑張りを見ていた皆もミラの死を引きずりながらも日々の生活に戻っていったのである。
そんなある日。ソフィアは研究を休んでイクトの様子を見に仕立て屋へと向かう。
「イクト君、あれから大分経つけれど仕立て屋の方はどうするの」
「俺、決めたんだ。ミラさんが守り続けてきたこの仕立て屋を守るって。息子さんにも手紙を送った。彼が帰って来るまで俺が代わりにこのお店を守り続ける。そしていつか息子さんが帰ってきた時に全てを話してここを去るつもりだ。お店は息子さんに返す。その方がいいと思うから」
店の前に立っている彼へと声をかけるとイクトが決意を込めた顔で語った。
「いや~。素晴らしい決意ですね」
「ハンスさん?」
そこにハンスの声が聞こえて二人して彼の顔を見やる。
「実はソフィーさんとイクトさんにお話があってきたのです。ソフィーさんはこのお店に商品を卸しておりますでしょう。そこで、私のお店とイクトさんの仕立て屋、そしてソフィーさんの工房の三つを連携させ私を通して物流を流通させる仕組みを考えたのです。要するに仕立て屋に納品するには私を通してしか品物を卸せない仕組みというわけです」
「なんだよそれ……あんたしか特にならない話しじゃないか」
商談を始めた彼へとイクトがぼやく。
「そうとも言い切れませんよ。私のお店を通してイクトさんの仕立て屋に素材が入る。そこで服を仕立ててもらったお客がソフィーさんのお店で扱っている素材で作っていると知り工房にお客が入る。と、このような仕組みができるのです」
「なんか、無理矢理納得させようとしてないか」
ハンスの説明を聞き盛大に溜息を吐き出す。
「商業を成功させるためにはどこかの商人と手を組んでいたほうのがいいのですよ。そこで、私と手を組んで頂きたいのです」
「まぁ、ハンスさん以外の商人さんは知らないですから。いいですよ」
彼の言葉にソフィアはにこりと笑い頷く。
「あんた……もう少しちゃんと考えてから決めなよ」
「イクト君は嫌なの?」
簡単に了承した彼女へと物言いたげに呟くイクトにソフィアは問いかける。
「商売の事はこれっぽっちも解ってないからな。あんたが色々と間に入って動いてくれるって言うなら悪い話ではないと思う」
「では、交渉成立という事で。これから長~いお付き合いどうぞよろしくお願い致します」
彼の言葉にハンスがにこりと笑うと交渉が成立する。
こうして未来まで続く三つのお店の関係が始まりを告げたのであった。
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