17 / 261
第13話 医師団の女傑、マリエンヌの来訪
朝の薬師局に、涼やかな風が吹き抜けた。
開け放たれた窓から差し込む光のなか、レイナは机に向かって新しい調合記録を書いていた。乾かし中の薬草が窓辺で揺れる。
すると、コンコン、と軽やかなノックが鳴った。
「レイナ局長。お客様です。……というか、けっこう偉い人です」
そう声をかけたティノの表情は、珍しくどこか緊張していた。
「え、えらい人って……?」
レイナが慌てて立ち上がると、ティノが静かに扉を開けた。
「……お初にお目にかかります。“中央医師団”所属、マリエンヌ=フォン=ロセリナと申します」
姿を現したのは、ブロンドの髪をきちんと結い上げた若き女性医師。真っ白な医師用ローブを纏い、凛とした眼差しでまっすぐこちらを見ていた。
「あなたが……レイナ=リーフィア局長ですね。王子の主治医を務めていた者として、ご挨拶に伺いました」
その声は柔らかかったが、芯の通った強さを感じさせた。
「は、はい。はじめまして、レイナです。あの、ラクリス様のご容態は……」
「快方に向かっています。薬の効果は、医師団の誰もが認めざるを得ないほどに、顕著でした」
レイナはほっと胸をなでおろした。だがその直後、マリエンヌの視線が鋭くなった。
「……ですが、私は納得していません」
「え……」
「薬草ひとつで、そこまでの治療効果が出るのなら――なぜこれまで、王都の医師団は気づけなかったのか。薬学と医学、それぞれの間に、何があったのか。それを、知りたくて来ました」
レイナは目を見開き、すぐにうなずいた。
「わたし、あなたと一緒に考えたいです。どこまでできるかわからないけど……草の力と、医学が手を取り合えたら、きっともっと治せる病気があるって思うんです」
その返答に、マリエンヌの目が少しだけ見開かれた。
沈黙のあと、彼女は小さく笑った。
「――なるほど。王子が『面白い姉上を得た』と笑っていた理由が、わかりました」
「え、ラクリス様、そんなこと……」
赤面するレイナの横で、ティノがくすっと笑いを漏らす。
「言ってたな。あの方、最近とても楽しそうな顔をしていたから」
「……おしゃべりすぎる王子様ですね」
マリエンヌが苦笑しながら言うと、レイナはふっと和らいだ笑みを返した。
その後、マリエンヌは診療所内をぐるりと視察した。
ガンじいの発酵薬の鍋を見て「……これは滅菌の概念と近い」と興味を示し、
ミリアの調香棚を見て「揮発成分の抽出……この制御精度は驚きです」と呟いた。
シエラがうっかり棚を倒しかけた時には、無言でサッと支えてくれた。
「……お、お姉さん、すごい……」
「うちの新人です。まだドジですが、真面目です」
「それが一番大事です。私は……貴女たちのやり方、嫌いじゃありません」
マリエンヌは最後に、レイナの薬草記録を一瞥し、深く頷いた。
「……レイナ局長。今後、症例情報と調合法の一部を、医師団と共有していただけませんか」
「はい。もちろんです。でも、わたしのやり方って……記録、というより感覚で……」
「それでも構いません。分析と体系化は、こちらでもできます」
「ありがとうございます!」
レイナはぱっと笑った。
――この日。薬師局と王都医学界の間に、小さな橋が架けられた。
開け放たれた窓から差し込む光のなか、レイナは机に向かって新しい調合記録を書いていた。乾かし中の薬草が窓辺で揺れる。
すると、コンコン、と軽やかなノックが鳴った。
「レイナ局長。お客様です。……というか、けっこう偉い人です」
そう声をかけたティノの表情は、珍しくどこか緊張していた。
「え、えらい人って……?」
レイナが慌てて立ち上がると、ティノが静かに扉を開けた。
「……お初にお目にかかります。“中央医師団”所属、マリエンヌ=フォン=ロセリナと申します」
姿を現したのは、ブロンドの髪をきちんと結い上げた若き女性医師。真っ白な医師用ローブを纏い、凛とした眼差しでまっすぐこちらを見ていた。
「あなたが……レイナ=リーフィア局長ですね。王子の主治医を務めていた者として、ご挨拶に伺いました」
その声は柔らかかったが、芯の通った強さを感じさせた。
「は、はい。はじめまして、レイナです。あの、ラクリス様のご容態は……」
「快方に向かっています。薬の効果は、医師団の誰もが認めざるを得ないほどに、顕著でした」
レイナはほっと胸をなでおろした。だがその直後、マリエンヌの視線が鋭くなった。
「……ですが、私は納得していません」
「え……」
「薬草ひとつで、そこまでの治療効果が出るのなら――なぜこれまで、王都の医師団は気づけなかったのか。薬学と医学、それぞれの間に、何があったのか。それを、知りたくて来ました」
レイナは目を見開き、すぐにうなずいた。
「わたし、あなたと一緒に考えたいです。どこまでできるかわからないけど……草の力と、医学が手を取り合えたら、きっともっと治せる病気があるって思うんです」
その返答に、マリエンヌの目が少しだけ見開かれた。
沈黙のあと、彼女は小さく笑った。
「――なるほど。王子が『面白い姉上を得た』と笑っていた理由が、わかりました」
「え、ラクリス様、そんなこと……」
赤面するレイナの横で、ティノがくすっと笑いを漏らす。
「言ってたな。あの方、最近とても楽しそうな顔をしていたから」
「……おしゃべりすぎる王子様ですね」
マリエンヌが苦笑しながら言うと、レイナはふっと和らいだ笑みを返した。
その後、マリエンヌは診療所内をぐるりと視察した。
ガンじいの発酵薬の鍋を見て「……これは滅菌の概念と近い」と興味を示し、
ミリアの調香棚を見て「揮発成分の抽出……この制御精度は驚きです」と呟いた。
シエラがうっかり棚を倒しかけた時には、無言でサッと支えてくれた。
「……お、お姉さん、すごい……」
「うちの新人です。まだドジですが、真面目です」
「それが一番大事です。私は……貴女たちのやり方、嫌いじゃありません」
マリエンヌは最後に、レイナの薬草記録を一瞥し、深く頷いた。
「……レイナ局長。今後、症例情報と調合法の一部を、医師団と共有していただけませんか」
「はい。もちろんです。でも、わたしのやり方って……記録、というより感覚で……」
「それでも構いません。分析と体系化は、こちらでもできます」
「ありがとうございます!」
レイナはぱっと笑った。
――この日。薬師局と王都医学界の間に、小さな橋が架けられた。
あなたにおすすめの小説
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・
トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……
王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。
普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜
神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。
聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。
イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。
いわゆる地味子だ。
彼女の能力も地味だった。
使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。
唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。
そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。
ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。
しかし、彼女は目立たない実力者だった。
素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。
司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。
難しい相談でも難なくこなす知識と教養。
全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。
彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。
彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。
地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。
全部で5万字。
カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。
HOTランキング女性向け1位。
日間ファンタジーランキング1位。
日間完結ランキング1位。
応援してくれた、みなさんのおかげです。
ありがとうございます。とても嬉しいです!
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!
向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。
土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。
とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。
こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。
土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど!
一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。