【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん

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第13話 医師団の女傑、マリエンヌの来訪

朝の薬師局に、涼やかな風が吹き抜けた。

 開け放たれた窓から差し込む光のなか、レイナは机に向かって新しい調合記録を書いていた。乾かし中の薬草が窓辺で揺れる。

 すると、コンコン、と軽やかなノックが鳴った。

「レイナ局長。お客様です。……というか、けっこう偉い人です」

 そう声をかけたティノの表情は、珍しくどこか緊張していた。

「え、えらい人って……?」

 レイナが慌てて立ち上がると、ティノが静かに扉を開けた。

「……お初にお目にかかります。“中央医師団”所属、マリエンヌ=フォン=ロセリナと申します」

 姿を現したのは、ブロンドの髪をきちんと結い上げた若き女性医師。真っ白な医師用ローブを纏い、凛とした眼差しでまっすぐこちらを見ていた。

「あなたが……レイナ=リーフィア局長ですね。王子の主治医を務めていた者として、ご挨拶に伺いました」

 その声は柔らかかったが、芯の通った強さを感じさせた。

「は、はい。はじめまして、レイナです。あの、ラクリス様のご容態は……」

「快方に向かっています。薬の効果は、医師団の誰もが認めざるを得ないほどに、顕著でした」

 レイナはほっと胸をなでおろした。だがその直後、マリエンヌの視線が鋭くなった。

「……ですが、私は納得していません」

「え……」

「薬草ひとつで、そこまでの治療効果が出るのなら――なぜこれまで、王都の医師団は気づけなかったのか。薬学と医学、それぞれの間に、何があったのか。それを、知りたくて来ました」

 レイナは目を見開き、すぐにうなずいた。

「わたし、あなたと一緒に考えたいです。どこまでできるかわからないけど……草の力と、医学が手を取り合えたら、きっともっと治せる病気があるって思うんです」

 その返答に、マリエンヌの目が少しだけ見開かれた。

 沈黙のあと、彼女は小さく笑った。

「――なるほど。王子が『面白い姉上を得た』と笑っていた理由が、わかりました」

「え、ラクリス様、そんなこと……」

 赤面するレイナの横で、ティノがくすっと笑いを漏らす。

「言ってたな。あの方、最近とても楽しそうな顔をしていたから」

「……おしゃべりすぎる王子様ですね」

 マリエンヌが苦笑しながら言うと、レイナはふっと和らいだ笑みを返した。

 その後、マリエンヌは診療所内をぐるりと視察した。

 ガンじいの発酵薬の鍋を見て「……これは滅菌の概念と近い」と興味を示し、
 ミリアの調香棚を見て「揮発成分の抽出……この制御精度は驚きです」と呟いた。

 シエラがうっかり棚を倒しかけた時には、無言でサッと支えてくれた。

「……お、お姉さん、すごい……」

「うちの新人です。まだドジですが、真面目です」

「それが一番大事です。私は……貴女たちのやり方、嫌いじゃありません」

 マリエンヌは最後に、レイナの薬草記録を一瞥し、深く頷いた。

「……レイナ局長。今後、症例情報と調合法の一部を、医師団と共有していただけませんか」

「はい。もちろんです。でも、わたしのやり方って……記録、というより感覚で……」

「それでも構いません。分析と体系化は、こちらでもできます」

「ありがとうございます!」

 レイナはぱっと笑った。

 ――この日。薬師局と王都医学界の間に、小さな橋が架けられた。
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