セーラーキャプチャー

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虚空から来た召喚者

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 …前回錬成した『賢者の石』はそれとは知らず『プレジデント』さんが食べた…一日だけ天才的な働きをしたが、その後の三日間抜け殻になった…副作用に合唱…

 …第二王子が王都に到着したとの連絡を受けた…道中、特に問題はなかったと連絡を受けているが、ちょっとしたゴタゴタはあったらしい…ウチの連中も出る幕じゃないと…あと、ウチの連中が王都の劇場に立ったらしい…ファンに押されて無理矢理との報告があるけど、ノリノリで歌えや踊れの大盛況だったが、メインの吉〇新喜劇的コントが爆発的に受けたらしい…第二王子プロデュース&出資で常設舞台を建設する案がある?…いや、何をやっているとは言わないが、それで良いのか?

 『セーラーキャプチャー』には純粋な魔法職の名前を冠した者は少ない。これは殆どの者が戦闘レベルの魔法を扱えるから言う事情もあるし、魔法のない世界から来ている為、咄嗟の判断を求められる局地戦に向かないと言う事情もある。それでも使っていないと勘が鈍る事もあるし、何と言っても使ってみたいと言う声もそれなりにある。
「なので、射爆場の建設を要望します‼」
 …そんな事を言っている『魔法使い』J3ちゃんとH3さんの魔法使いコンビ…
 いや、射爆場って富士山の裾野じゃないんだから‼総合火力演習とかやらないから‼
「良いじゃないですか‼総合火力演習‼やりましょうよ‼」
 場所がねぇよ‼何処でやるんだよ‼
「軍の施設を借りましょう‼」
 借りられねぇよ‼あんたらの魔法じゃ、射爆場が吹き飛ぶだろ‼
「そこは加減するからさぁ~…」
 そう言って、街の南側郊外をクレーター群にしたのは誰だよ?
「え~?それを『マネージャー』が言うのぉ~?」
 …それを言われると弱い…『会計』さん…予算あります?
「高火力魔法を使いたいなら、依頼でね」
 …とても丁寧な笑顔の『会計』さん…『セーラーキャプチャー』に寄せられた依頼の紙束をヒラヒラさせている。え~と、それは、あたしがやれと…?

 『会計』さんの無言の圧力を受けて、あたし達は魔獣討伐の依頼を受けた。何でも今季最大の魔獣の群れが現れたらしい。場所は東側の大河と山の間にある湿地帯…既に現住と渡来の魔獣が合流している…と言っても抗争自体は散発的で、所々に魔獣同士の争う鳴き声が響き渡っていると言うのが現状…全体的に湿地帯で泥にまみれた身体を川で洗いに来た様に見受けられる…そう言えばテレビで野生動物が身体に付いた寄生虫を取るのに泥浴びや水浴びをするとか言ってたっけ…?あれ?泥浴びは日焼け対策…?とりあえず、川の東側は泥の茶色に支配されている…
「…川の水は飲み水にも使われるからなぁ…」
 今回の依頼を合同で引き受けてくれた冒険者ギルドから派遣されたパーティの一人があたし達に解説してくれた…彼の手には、あたし達の昼食用カレー特盛が盛られた皿を持っており、彼の背後にはカレーを貰えなかった敗者の山が築かれている…
 …はっきり言って、全滅状態だ…どうすんだ‼これ⁈
「…レシピは『セーラーキャプチャー』の事務方に聞けば貰えるか…?」
 カレー喰ってる冒険者さんが無神経に尋ねるが、それ所じゃねぇと思いませんか…?
「大丈夫だ‼あの大軍をこちらに渡さなければ俺達の勝利だ‼」
 秒でカレーをかき込み終えた冒険者さんが、あたし達が持ち込んだちょっと大きめの鍋に目線を向けている…まぁ、確かに、長丁場を予想して多めに作って来たけど…これは一端戻って、『調理師』コンビに追加発注すべきか…?
 あたし達が陣を構えているのは川の西側の堤防の上…川面から五メートルは高い場所で、対岸の魔獣の群れを見下ろす位置にいる…
 …結構、色々な種類が混じっているな…前の世界で見た感覚だと大型の草食獣系が大半を占めていて、肉食獣っぽいのが見当たらない…実際にはあの大型種も雑食なのかも知れないけど…見た感じ、こっちから手を出さなければ、勝手に山の方に帰って行くと思うんだけどなぁ…まぁ、何が起こるか分からんから、監視は厳重に‼
 …一時間ほどして、カレー争奪戦に敗れた冒険者の皆様が復活。カレー鍋は一時近くに建てられたギルドの簡易出張テントに預かってもらっている…ついでに『セーラーキャプチャー』本部に、ここに招集された人数分のカレーの追加調理を要請。
「…報酬はこの鍋に残っている分で…」
 …よろしくお願いします…
 監視領域に戻ってみると、魔獣の群れは相変わらず、入れ替わり立ち代わりで川に入って水浴びしている…あくまで、西側に来る気配はない…時々、泥に嵌って抜け出せなくなった魔獣を周囲が懸命に引っ張り出していたり、溺れそうになる子魔獣を親魔獣が助けるなんて感動的場面が見られた。ほっこりしてしまう…
 特に大きな騒動も起きないまま、更に一時間程が経過した頃だろうか。
 ギルドから一時的な解散が告知された。と言っても、持ち回りで指定された冒険者グループが監視しなければならないらしいが、『セーラーキャプチャー』はそれが免除された…じゃあ、カレーの追加もなしかな…レシピだけでも価値があると…
「あたし達の活躍の場が~‼」
 『魔法使い』H3さんの嘆きの声が周囲の冒険者の雑踏に紛れる。
「何事もなかったのは良い事ですよ」
 一応、あたしがフォローするも、
「…新作の爆破魔法をあの群れに叩き込みたかった…‼」
 『魔法使い』J3ちゃんが闇を纏いつつ、呟きだす。
「あたしも新しい仲間を呼びたかったなぁ」
 …と文句を垂らすのは『召喚士』。『お友達』になった存在を喚び出せるらしい。この『お友達』の定義は不明だが、「やるじゃねぇか」「お前もな」的な方法が必要らしい…
 帰りの挨拶とカレー鍋の回収に、ギルドの臨時テントに向かう。
 …そこには真剣な表情を浮かべるギルド職員とカレー争奪戦勝者の冒険者さん…彼らが囲んでいるのは、テーブル中央に置かれた空のカレー鍋…
「…あのぉ…」
 …声を掛けずらい雰囲気だが、鍋は返してもらいたい…何しろ、あの鍋、明日のおかずを作るのに必要と『調理師』コンビに言われているから…
「あ?ああ…君達か…」
 鍋を囲む職員さんの一人が対応してくれる。
「…帰って良いと言われたんで…その…」
 遠慮した口調で、鍋の方に目線を向けると、
「ありがとう…美味しかったよ」
 テーブル中央の鍋を渡してくれた。
「『調理師』の二人に伝えておきます」
 社交辞令と分っていても、お伝えしますね。
「待ってくれ‼」
 そこに冒険者さんの声。わざわざ立ち上がっての一声は焦りの表情があるが、周囲の職員さん達は冒険者さんに向けて発言を制しようと、牽制の視線を向ける。
「いいんですか?聞かなくて‼」
耐え切れず、冒険者さんは言葉を発するも、
「現状ではやむを得ない‼我慢しろ‼」
 激しい口調で抑え込む職員。
 …空気に付いて来れないのは、彼らの口元にカレーの残滓が付着しているから…
 うん。何となく事情が分かった。
「カレーの増産を断れたんですか?」
 あたしの言葉にビクッと身体を強張らせる大人たち…しばしの沈黙…
「辛さを生み出す素材が圧倒的に足りないと…‼」
 …香辛料は高価な世界だもんなぁ…市場にも見掛けなかったし…
 …あれ?あのカレーって『賢者の石』じゃなかったかな?…ひとまず、レシピを見せてもらうと…あ、改良してある…良かった…でも、相変わらず、魔獣の素材…ん?
「気付いたようだね?」
 ゆらりと立ち上がる職員さん。
「素材の全てが、あの群れで賄えるのだよ‼」
 川の西側をビシッと指差す。分かってたけど、分かりたくない‼
 あんなに懸命に生きている皆を、あたし達の美食探求の為に…‼…イカン…かなり情が移っている…確か、地域によっては凶暴な魔獣の群れだって聞いているけど…今のあたしには彼らを処分する事は出来ない…‼『魔法使い』コンビも同じで涙目だ‼
 …選択が迫られた…平穏に暮らす彼らを殲滅するか…それとも彼らの平穏を守るか…
「そんなの殲滅一択‼」
 間の抜けた声だった。声の主は『召喚士』‼
「お前は彼らを殺す事に躊躇いはないのか⁈」
 勢いのまま、あたしは掴みかかる。
「大丈夫だよ。あたしがやるから」
 と、優しくあたしの手を解くと、堤防に戻って行く…
 やがて、彼らを見渡せる場所に佇み、両手を天に向ける『召喚士』。
 目を閉じて集中すると、
「ベン〇ラ~…ベン〇ラ~…」
 それはこっちの世界で唱えてはいけない呪文‼
 そして、こっちの世界に存在してはいけないアダ〇スキー型が上空に登場‼
底部の半球部から発せられる吸引ビームが広域に広がり、見る間に魔獣の全てを吸収していく…そして、そのまま対岸に移動し排出ビームが放たれ、魔獣がキャトルミートレーション的な状態で積み上げられていく…全てが排出されると高速でジグザク飛行し、空の彼方に消してしまった…
ええええええええええ………
「はい。終わり~」
 …『召喚士』の活躍により、未曽有の危機は去った…そう言えば、あたし達ここには広域魔法ぶっ放しに来たんだったか…そんなのどうでもよくなった…
 …って、そんなんで納得できるかああああぁぁぁあ‼
「文句を言わないで、冷凍する‼」
 …あたし達『セーラーキャプチャー』で冷却系魔法が使える者総出で、アダ〇スキー型が放置した魔獣の死骸を冷凍していた…カレーの材料確保もさることながら、普通に可食部や有用素材の確保の為だ…解体そのものは素材買取業者さんがやってくれるらしいので、冷凍するだけいいよ‼と、冒険者ギルドから聞いている。
 …目の前の大型魔獣に冷却魔法を掛けながらあたしは思い出す…
 『召喚士』は言った。『お友達』は、「やるじゃねぇか」「お前もな」的な手順を踏んで喚び出せる代物らしい…って事は、『召喚士』は、あのアダ〇スキー型と殴り合ったのか?それとも、中の人(?)とやり合ったのか?…そう言えば、『セーラーキャプチャー』設立時に、あたしに、ケンカ吹っ掛けて来たけど、あたしも召喚しようとした?
 あたしはその疑問を胸に、豚汁のどんぶりを片手に冷凍作業を眺めている『召喚士』の視線を受けるのだった…ってか、お前も手伝えよ‼冷却魔法使えんだろ‼
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