セーラーキャプチャー

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叙爵式

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 我々『セーラーキャプチャー』の風呂場を覗いていた連中の目的が判明。
「ボディソープがほしい?」
 匂いが気になったらしく、貴族や富豪のお嬢様が求めているらしい。
「作り方を教えても大丈夫かな?」
「石鹸はあるんだから、香料付きの石鹸の作り方を教えれば?」
 冒険者ギルド経由で商業ギルドにレシピを送った。
「こう言うモノは、まず、あたしに見せろ」
 試作した石鹸を『ギルドマスター』が半分くらいの大きさになるまで使い込んでいた。

 さて、騒動はあったモノのついに叙爵式‼
 あたし達は馬車に乗り、街の中心部にある議事会館に向かう。パーティを開くのだから大きな場所が必要になる。だが、個人の屋敷では開けない。この街で、公的に一番大きな施設はあたしがライブをやった公会堂だけど、あそこは野外だし、叙爵式なんて一般に見せる式典ではないので、屋内で最も広い場所が取れる議事会館に決まった。偉い人を迎えるパーティを開催するには定番の場所らしい。
 距離的には二キロくらい?事前に告知があったらしく、沿道には馬車の車列を見送る人が…溢れるほどではないにせよ、そこそこ見物人がいた。人だかりが多かったのは、拠点周辺と議事会館前だったけど…って言うか、澄ました表情が似合わないって誰だよ⁈こっちだって分かってんだよ‼あと、啜り泣いているのは誰⁈嫁に行くわけじゃないから‼ちゃんと戻って来るから‼だから、拠点の皆、『ドナドナ』を歌うなぁ‼
 会館に到着して、まず降り立つのは『魔法少女』さん。大人の色気が漂う胸元の大きく開いたドレスで胸がカップから零れそうだ。周辺にどよめきが走る。次に降りるのは『会計』さん。右肩を露出したドレスだ。凛とした佇まいで清冽な雰囲気を漂わせる。次は『プレジデント』さん。愛らしいお姫様ドレスで首元までフルカバー。場を和ませる。最後はあたし『マネージャー』。『魔法少女』さんのドレスに似ているがあの人の様に胸を強調した衣裳ではなく、デコルテ周辺を強調したドレス。場が一層盛り上がる‼…でも、あたし効果ではない。隣の『第二王子』効果だ…悔しくなんかないやい…‼
 実は、この降車順で揉めた。本来、叙爵される爵位が低い順に降りるのだが、あたしのエスコート役が『第二王子』なのが揉める原因だった。今回、あたし達に与えられる爵位は『プレジデント』さんが『男爵』、『会計』さんが『準男爵』、『コマンダー』さんとあたし『マネージャー』は『騎士爵』…つまり、『騎士爵』の人物を先に降ろすと『第二王子』に無礼ではないのか?と言った意見が噴出。その上、『プレジデント』さんの見た目が幼く見える事で『セーラーキャプチャー』は子供が指揮官を務める組織なのか?との誤解が生じるといけないとの事で、この降車順になった。ちなみに揉めたのは我々叙爵される者ではなく、その周辺がわちゃわちゃしていただけだった…実際、我々には降りる順番なんてどうでも良く、エスコート役の男性の警護的な立ち位置と言う認識が強かった。だって、聞けば、国政を担っている侯爵家の長男とか、結構大きな領地を抱えている伯爵家の若手の御当主だとか…『プレジデント』さんのお相手なんか王様の弟夫婦の御長男とか…釣り合いが取れねぇよ‼と全員が一喝した所で気持ちを切り替え、重要人物の警護と言う立場で振舞おうと一致団結した…おかしいと思ったんだ…
 御相手役の素性を知り、冒険者ギルドに怒鳴り込んだら『ギルドマスター』が「済まん」と頭を下げた。そんな訳で、『セーラーキャプチャー』の面々が受けていた冒険者ギルドの仕事は一旦中断‼王様御一行の行幸の障害排除を第一に動いてもらった。もちろん冒険者ギルドからの緊急指名依頼と言う事で依頼料もきっちり頂く。
「がめついな」
 黙っていたそっちが悪いんです‼まぁ、最近、あたし達の依頼が薄かった理由も納得しましたが、あたし達が気付かなかったら、どうしたんですか?
「襲撃があれば、お前らで勝手に動くだろ?その分の費用が浮く」
 せこ‼
 あたし達の直衛は『剣士』コンビと、『魔法使い』コンビ。『剣士』コンビは詰襟が似合っているが、『魔法使い』コンビは襟元をやたら気にしている。
「『騎士』さんとかに変わってもらえなかったんですか?」
 『騎士』さんは周辺警戒。『聖騎士』さんは拠点の留守番。拠点留守番組以外は周辺を警戒している。
「…王国側の隠密とかち合ったらどうします…?」
 問答無用‼無力化して放置‼あとは巡回の衛兵さん達に任せる‼
 …この方針で『セーラーキャプチャー』は活動すると、冒険者ギルドと『第二王子』には宣言した…こっちのやり方を邪魔しないでほしい…

 会場に到着すると、我々は招待客に挨拶をする。何度も直しを入れられたカーテシーをひたすら繰り返す。この時に招待客の顔と名前を覚えなければならないが、かなりの数が押し寄せ、アップアップだ。なので、最初の何人かと巡回エリアの大店の店主夫妻、それと代官ご夫妻、あと数人くらいを覚えておく。最初の数人は議会のトップでいつも『プレジデント』さんがお世話になっている人達だ。
「この場で『やだやだ』はやめてくださいね」
 釘を刺された『プレジデント』さんの笑顔が引き攣っている。
「いやぁ、四人共、見違えたじゃないか?今度ウチに寄ったらサービスするよ」
 いつも、食料品を買っている商店のおっちゃんが国内でも有数の大手チェーンの社長だったとは驚きだった。案内の人の紹介がなかったら知らなかった…
 挨拶の列が途切れ、一休み…用意された椅子に腰を降ろす。あ、お水ですか?あたしは結構…って訳にはいかないのか…ホスト側のサービスは無下に断ってはいけないんだ…
 …今更ながら気付いたのだが、挨拶している人の数に対して、会場内の人数が多くないだろうか…?うん。とりわけ、女性の数が…
「『花』ですよ」
 同じ様に休憩を取っている案内役の方が教えてくれる。
 こう言った場で招待客が暇を持て余さない様に、あらかじめ貴族のご令嬢に通達して接待して頂いている役目の人達らしい。見た目が良く、教養もあり、気配りもできて、世事にも精通している等の選考条件があるらしい。また、警護のサポートの様な事もしている様で、室内の衛兵にサインを送って警戒対象を知らせる役割も果たしているとか…ちなみに、こちらの世界でのパーティにおける『壁の花』とは会場の招待客同士が活況な談義に沸いている状況下での彼女達の事で、向こうの世界で言われる、話し相手も居ないボッチのご令嬢の事ではない。
「話し相手も居ないパーティに参列されるご令嬢は早々にご帰宅されますから」
 案内役の方が、そう言った事情に詳しいのはパーティの手配に慣れているからではなく、以前、パーティ会場でそうとは知らずに『花』の一人に声を掛けた為らしい。まぁ、若気の至りなナンパだ…で、今はその声を掛けた女性と結婚したと…惚気かよ‼
 ただ、こう言った『花』が呼ばれるパーティは格式が高く、この街でも過去に三回程しか行われていないらしい。まぁ、貴族令嬢にコンパニオ兼護衛もやらせるくらいだから、よっぽどの権力者じゃないと開けないよな…我々もその内、こう言った仕事を受けるのだろうか…?面倒だな…
「…対象はご令嬢ですので、御当主がやる事はないかと…」
 案内係さん。それを聞けて安心しました。

 パーティ参加者の多くが陛下の行幸に参加している貴族か、周辺に領地を持っているけど、今回の行幸先に選ばれなかった領地の貴族のご一家だ。もちろん、この街を配下に置いている領主も参加している。ただ、行幸先に選ばれてホクホクかと思いきや、ストレスで参っているみたいだ。行幸ルートから上がって来る暗殺者や反王家勢力の動向に一喜一憂な毎日で食事も領地経営も手に付かない状態だったらしい…その間の領地経営は…?あ、息子さんが代行していたと…この領地の未来は明るいですな‼
 挨拶も終盤に差し掛かると、高位貴族が名を連ねて行く。今回の行幸に参加されている方々で、伯爵が五人、侯爵が二人、公爵が三人、陛下のご婦人方が三人、お子さんが二人。その二人が『第一王子』と『第二王子』だ。うん。『第一王子』は初めて見たが、マザコンの気は漂うが野心家の目も持っている。『第一夫人』の曲者感は相変わらずで、磨きが掛かった様にすら感じる…『第二夫人』は『第一夫人』とは別の雰囲気の美人さんで、どこか儚げな雰囲気がある…『守ってあげたくなる』タイプだ…問題は『第三夫人』…これから厳粛な儀式が行われると言うのに、みょ~に浮かれている…その後のパーティ目当てか?見た目の年齢も若いよな?あたしらと同じと言っても良い…は、言い過ぎかな?それでも二十代くらいには見える…あと、小さいナイフを隠し持っている。ボディチェックが温いんじゃなくて、元々王様の警護担当なのかな?最後に王様だ。ここでは最敬礼のカーテシーで出迎えなければならず、今までの人達とは違って一団と深く身体を沈ませなければならない。しかも、頭も下げる。ウィッグがズレ堕ちない角度で目を伏せなければ‼
「なかかな様になっているじゃないか?異世界の娘達よ」
「お言葉を頂き恐悦です」
 『プレジデント』さん、ナイス‼急な事態の対処も完璧‼
 その後、王様は用意されている最奥の一段高い席を背に佇むと、周囲を見渡す。その両脇に王子達、御婦人方が列挙し、会場の一同が最敬礼。もちろんあたし達もだ。
 それを確認して王は席に着くと、進行役の貴族に目配せ。
「只今より、『セーラーキャプチャー』の指揮官四名の叙爵式を開始する」
 ほんの少し会場がざわつく。無理もない。叙爵者の名前が呼ばれないのだ。ただ、事情を知っている者が知らない人に話し掛けて説明してくれている。あの『花』の人達もだ。
 しばしのざわつきが収まり、進行役の貴族が一つ咳払い。
「称『プレジデント』前へ」
 この『称』とは『こう呼ばれています』と言う意味で、名前を持たない、もしくは明かせない立場の人をこう呼びますと言う意味らしい。意外かも知れないが、この世界には名前のない人物が多く存在している。孤児だったり、名前を売ったと言う人もいるが、あたし達の様に、神様的存在に『名前』を代償とした加護をもらう人も身分の高い人物の中にはそこそこいるらしい。大抵の場合は病気を治してもらった際の代償らしいが…もちろん、犯罪者や借金取りから逃げている人も名前を公表してはいないけど…
 『プレジデント』さんが国王の前で傅く。最敬礼ではないが手はスカートを抓んでいる。これは女性が叙爵される時の姿勢で、男性の様に腕を胸前と後ろ腰に持って行く必要はないらしい。これはマナー講師の人も知らなかったらしく、疑問に思った『会計』さんの問い掛けにわざわざ『第二王子』が問い合わせたらしい。
「男爵を叙爵する」
 進行役の声と共に一本の剣が運ばれる。儀式用の剣で刃は落とされている。その剣を王様は手に取ると、傅いた『プレジデント』さんが一礼。
「励めよ」
 王様が持った剣を『プレジデント』さんの肩に乗せ。一言。
「拝命いたします」
 『プレジデント』さんの言葉と共に剣が肩から離され、『プレジデント』さんが立ち上がり、元の位置に…
 一連の叙爵の流れは習った通りで、問題はなかった。ただ、『魔法少女』さんの番では王様の前での最敬礼と代行を詫びる言葉が述べられ、あとで剣だけの受け取りとなる。
 さて、ここまでは問題なく進行している。あとは、あたしの番だけ…
 …何かが起きるとすれば、この時間だな…
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