セーラーキャプチャー

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『執事』さんがいらっしゃいました‼

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 …波乱の叙爵式からそこそこ時間が経った…
 あたし『マネージャー』の叙爵式は改めて教会で行われた。何でも、爵位の授与は第三者の立ち合いがないと正式に認められないらしく、叙爵は地元教会付きの司教さんが行ってくれた。本来なら王様がやるべきなのだが、王様はこの場にいない。行幸が再開され、王様一行は次の領地に向かわれたのだ。一応、『第一王子』は王都に戻り、謹慎。下っ端貴族の叙爵式とは言え、王様の前で騒ぎを起こした事で廃嫡は免れないだろうとは『第二王子』の言葉だった…そうなると、『第二王子』が継承権第一位?
「叔父上がいるからね。そう簡単には転がり込まないよ」
 今回もエスコート役を買って出てくれたが、別に今回は要らないでしょ?
「叙爵式襲撃の首謀者がまだ隠れているかも知れないからね」
 狙うのなら、あなたでしょうけど…え?あっちの人…?…‼王様⁈
「今回は女装じゃないけどね」
 …いや、お忍びって…事前に言ってくださいよ‼警備体制に問題が…
「今回はお忍び用の王族直衛も付いているから安心だ」
 …信用しますけど…後でその辺の広場とかで王様からもう一度…なんて事あります?
「提言してみるかい?」
 止めて下さい。血に塗れる覚悟はしましたが、恥辱に塗れるのはイヤです。

 こうして我々『セーラーキャプチャー』に四人の貴族が誕生した。でも、貴族が受ける恩恵のほとんどを、あたし達は放棄している。その恩恵を受ける代わりの義務に縛られたくないから。うん。正直に言おう。あたし達は『称号』だけを受け取った。この国では前代未聞と上流階級では騒がれたが、やれ利権に絡めるとか、やれ派閥抗争だとか、やれ上納金を徴収しろとかは、あたし達には無縁。年金も、領地も、本当は肩書も必要ない。ただ皆と一緒に居られればそれでいい。それを邪魔するなら敵国だろうと自国だろうと例え『神』だろうと容赦はしない‼これは事前に話し合った本当の意味での総意だ。

 さて、そんなこんなで連日の接待攻勢が続いている。あたし達は何の権力もない、ただの美少女戦闘集団なのに…いや、これは単純に珍しいモノを見たいだけの挨拶だな…面会は拠点ではなく、街の議員会館の一室をお借りしている。もちろん賃料は払っている。ここで踏み倒す程、まだ落ちぶれていない‼…え?貴族からお金は取れない…?失礼に当たるって…だから、あたし達の爵位は名前だけ‼権力なんてないの‼…あ、あたし達が賃料を払ったら他の貴族からも頂かないといけないと…貴族せこ‼
 接待時にはセーラー服で勘弁してもらっている。いつ非常時になるか分からないのでそこは勘弁して頂いている。もちろんノーメイク…と行きたいが、ナチュラルメイクで出る位は勘弁して…リップは塗らないから…賓客は周辺の子爵家以下の貴族家から街を取り仕切っている中規模商会、商業ギルドの偉いさんも挨拶に来ているし、あたし達と同様に貴族位を持っている冒険者クランのリーダーとかとも面会している。
「貴族の権利を放棄するなんざ、正気の沙汰じゃないぜ‼」
 開口一番の豪放磊落振りに若干引いたが、冒険者ギルドで見知った顔なので少し砕けた話も出来るな…まぁ、冒険者になる者の夢は自分の腕っ節を国に認めてもらって、貴族位を得る事らしいので、その夢の一番おいしい部分を捨てるのか?って事だよな…
 本来、周辺の伯爵以上の家に挨拶に行かなければならないのだが、そこは事前に『第二王子』経由でご容赦頂いている。何のかんので忙しいのだ。任せられる部分は任せたいが、人員の配置で細かな配慮が必要な場合があるので、『君に決めた‼』みたいに赤と白のボールを投げ付ける訳にはいかないのだ。分かった?『テイマー』ちゃん?
 しかしながら面会の予定が後を絶たない。あたしだけの面会ならまだ良いが、『プレジデント』さんや『会計』さんへの面会もあるのだ。中には、あたしの面会のついで…みたいに二人と面会に来る者も居る。噂はそこそこ流れている様だ。一番上の人物に話を通すのではなく、その下の二人が実質的に『セーラーキャプチャー』を動かしているんだと…合っているけど、なんか悔しい…こう言うのって礼に失するって言うのかね?
「いや、逆に、同じ日にやってもらった方が、面倒が省けるよ」
 『プレジデント』さんは街の評議会で顔も通っているから、それ程、面会に来る人は少ないけど、あたしと『会計』さんは基本、同じ所を巡回しているだけだから、偉い人には慣れていないんですよ。
「あたしは『商業』ギルド系は苦手だな…あの脂ぎった笑顔に嫌気が差す」
 『会計』さん、我慢してください。食べ物の調達で便宜を図れるかも知れないんですから。何も、あの人達とワンナイトラブしろ、とは言いませんから。
「うわ~。出たよ。芸能界の汚いところ~‼」
「え?誰か枕営業とかしてたの?」
 元のグループには居ません‼リーダーだって行こうとして、途中でヘタレたって言ってましたし…。
「うわ‼やろうとしてたんだ⁈」
「誰に?誰に?」
 ひ・み・つ・です‼
「うわ~‼ズルい~‼芸能ゴシップ独り占め~‼」
 …こんなカンジで楽しく会話しているのは、今後の面会の調整の為だ…
 こういった業務は、本来、『執事』と呼ばれる秘書的な人が担当するのだが、さすがにウチの人員には出来ないし、やらせられない。個人の感情ではなく全体の利益になる者との面会を重視する様に予定を立てないとならないのだが、あたし達はその辺の事をあまり知らない。何しろ、今回の叙爵式に出席した大商会のご主人も、近所の食料品店の気の良い店主おっちゃんだと思っていたくらいだ。ちなみに『ミーコ』の飼い主でもあるけど…
「そんなんでは、ギルドの仕事に支障が出るぞ」
 久々に訪れた冒険者ギルドで『ギルドマスター』に釘を刺される。
 分かっているんですが…ウチの連中に『執事』は無理なので…
「だったら紹介してやるが?」
 …男性は困ります…ウチは乙女の花園なので…
「…ああ、そういう事か…それ以外の条件はあるか?」
 あ、なんか前向きに検討してくれてます?
「当たり前だ。『セーラーキャプチャー』はウチの看板なんだからな」
 その件は一旦持ち帰って…仕事の依頼の話をしましょう。

 後日、びっしり細かい字が書き込まれたメモを『ギルドマスター』に差し出す。
「お前…こんなに希望を出されても無理があるぞ」
 …分かってますので、この〇が付いている部分だけでも叶えてくれれば…
「分かった。当たってみる」
 よろしくお願いします。

 …後日、『執事』さんが来た…その時、あたし達三人はボロボロで崩壊寸前だった…マンガ的表現であるところの、抽象画的線画デッサン状態だった…
「来てくれて、ありがとうございます~‼」
 平伏した。神を崇めるが如き姿勢と勢いで平伏した‼
「良く頑張られました。お嬢様方。私がお嬢様方に安寧をもたらしましょう」
 あああ。注文通り、『ご主人様』じゃなく、『お嬢様』って言ってくれる~‼
 泣き合った。三人で肩を組んで泣き合った。人目も憚らずギャン泣きした。
 『執事』さんは見た目はあたし達より少し年上と言ったカンジの女性で、何処で買って来たのか黒地に白のラインが入ったセーラー服に真っ赤なスカーフ、それに併せた黒のスラックスを穿いておられました…あ、セーラー服はお家の使用人さんが縫ってくれた…キリッとした表情が似合う出来る女性で、まさに『女執事』と言った雰囲気を醸し出しておられました。聞けば、男爵家の次女で、文武両道を旨として自らを鍛えておられたとか…
「私は貴族の花嫁として子供を産むより、主君と呼べる方に仕える事を至福‼と愚考しておりました。高潔なる志を持たれるお嬢様方に忠誠を誓います」
 キラリと光る笑顔が眩しい‼その笑顔で何人か殺している筈だ‼素のままでタカ〇ジェンヌの男役に紛れても、知らない間にトップに祭り上げられる天然さんだぁ‼
 そんな訳で、『執事』さんに拠点で生活してもらう事になった。どこかの間諜の可能性もあるので、来てもらう前に『第二王子』に問合せしたら『問題なし』との返事を頂いた。疑り深いかも知れないが、『セーラーキャプチャー』の拠点は乙女の花園と言う以外に、こっちの世界ではオーバーテクノロジー級の製品がそこかしこに転がっているので、秘密を外に漏らさない人を招き入れなければならない。この件は『第二王子』にも冒険者ギルドの『ギルドマスター』にも打ち明けており、こっちの世界で使用している製品の類似品は二人の許可を得てから他に見せる様に忠告されている。
 そんな訳で、拠点に人を招けない影響は買い物に出ている。中でも食料品は大変で、一度に大量購入しては何人かで持ち運ばなければならない。だって、人前で『無限収納』を使う訳にはいかないから。一応『セーラーキャプチャー』は冒険者クランと言う事で所属団員は一般人扱い。あんな『血に塗れよう』宣言を打ったけど、別段、あたし達の私兵でも家臣でもない扱いだし、『プレジデント』さんも『会計』さんもあたしの寄子と言う立場でもない。強いて言うなら、あたし達は『第二王子』派閥の新興勢力となるのだろう…それはそれで面倒だな…あ、ちなみに、冒険者ギルドの『ギルドマスター』もあたしと同じ子爵位を持っているが、『冒険者ギルド』派閥と言う貴族としては特殊な派閥に組しているらしい…例の挨拶に来た冒険者クランの見た目山賊チックなリーダーさんもそこの所属だそうだ。あたし達もそっちに鞍替えすべきか?
「お立場的には名前だけかもしれませんが、その様な行為をすると、ご自身の悪い風評が広まりますし、『第二王子』にも悪評が立ちます」
 …自分が貴族にした人物が、別の傘下に行くのは『魅力がない』もしくは『旨味のない』って宣伝している様なものかぁ…
 とにかく、買い物が面倒なのだ。『執事』さんにもオーバーテクノロジー系の事情を話した所で、お知恵を借りたい‼でも、
「申し訳ありません。私は貴族位を得たお嬢様方の賓客対応のみを仰せ付かっていますので、『セーラーキャプチャー』の方々の対応は致し兼ねます」
 キッチリと線引きされました。でも、貴族としての用向きに必要な品々の購入には街の議員会館を使わせて頂こうと言う事になった。これは今まで通り。
「…とは言え、私も何もしない訳ではありません。手の空いた時は買い出しに付き合いますよ。ここの食事は本当に美味しいですからね」
 あ、『調理師』コンビと『栄養士』さんが感激している。
「では通過儀礼と行きましょう‼」
 え?『受杖』さん。そんなのありました?

 食後のお風呂場で『執事』さんと遭遇…一応、『プレジデント』さんと『会計』さんも一緒で、自動的に魔族のお姫様も一緒だ。『幼女』もね。もちろん全員裸だ。
 最後に入って来た『執事』さんは拝みながら頭を下げていた。彼女も裸だ。
 どうしました?
 『幼女』の全身を洗いながら、あたしが問うと、
「眼福です‼もはや死んでも構いません‼」
 いや、『執事』さん。生きて仕事してください。あたしと『幼女』が尊いって叫ばない。
 そして、あなたは側の人間でしたか。よく頑張りました。今後も耐えて下さい。
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