セーラーキャプチャー

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結婚なんて、まだ早いんです‼

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 通過儀礼を経て『執事』さんはあたし達の仲間と認められた。あたし『マネージャー』以外の面々は『執事』さんに同情的で、むしろ、あたしの無自覚さを非難…と言う程でもないが、チクチクと痛い目線を送られる日々が数日続いた。
 「分かる‼あれは反則だよねぇ」とか、「神様が自重を忘れただけだって」等の『執事』さんを慰めるメンバーの言葉も数日聞かれていたが、『精霊術師』ちゃんとお風呂に入った時に「神は自重をお忘れになったぁ‼」との『執事』さんの絶叫が響いた時、そこかしこで歓喜と悔恨の声が聞こえて来た時はいい加減に慣れて欲しいと思えた。あと、そう言う事で、賭け事はしない様に‼…え?儲けの一部は迷惑料として払う…?…分かったよ。今回までね…あ、これは通過儀礼の迷惑料?…じ、次回までね‼
 『執事』さんの意外な一面を知った所で、あたし達は通常業務に戻る。面会の時間は取られるが、精神的な余裕は出来た。更に『執事』さんの提案で、同じ人が、あたし達三人に面会を申し出た時は三人で会う事が決まった…そんな対応をして大丈夫かな?
「お嬢様方の分断を狙っているのです。それに身分としてはこちらが上なので無礼でもなんでもありません。むしろ、こちらの事情を知っているなら連名での面会を申し出るべきです…って言うか、この方、三日前もお会いしていますね?」
 …我々のスケジュール管理の杜撰さを思い知らされた…
 面会関係はその内、収束すると思われるので、以降の『執事』さんの処遇も決めなければならない。まぁ、ここの仕事がイヤと言うなら…永年雇用を要求された…
あと貴族的な事と言えば…何ですか?
「パーティの出席とか、ご令嬢方のお茶会、軍議などの定例報告会や…お三方の特性もあるかと思われますが軍事訓練や狩りなどの交流会もあるかと…」
 分かりました。その辺の調整をお願いします…意外にあるモンだね…

 もう一つ、片付いていない問題として、叙爵式襲撃事件がある。
 この事件には幾つかの謎がある。まず、『第一王子』の奇行。あのタイミングで何故、母親である『第一夫人』に危害を加えようとしたのか?『第一王子』としては殺害するつもりだった様だが、彼のあの動きでは精々、ドレスを切り裂く程度だろうな…『第一夫人』だって、硬直していたとは言え、体勢を崩して避ける位は出来ただろうし…武器の携行を見逃したのは王族ゆえの特権だろうが、護身用とは言え、あの短剣はサイズが大き過ぎる。しかも、刃には毒まで塗り込んでいた。ただ、ドレスに付着した毒の成分を『錬金術師』ちゃんに鑑定してもらうと、切られても、その部分が数日腫れる程度の毒らしく、重要な血管を傷付けなければ死ぬ事はないとの回答。そんな血管を傷付けられたら、普通は出血多量で死ぬとも言っていたけど…つまり、毒に関しては補助的な役割で、力で殺害を決行したのだろう…それは自分の意志か?それとも誰かに唆されたのか?
 それと、タイミングを見計らった様な外部からの襲撃。予定が押したり、早まったりする可能性だってあったのにドンピシャのタイミングで襲撃があった。内部に外に通じていた者が居たのかも知れないが、その辺は王族直衛の捜査結果次第と『第二王子』から連絡が入っている。結果をこちらに知らせてくれるか?は不明だが、これは待つしかない。ついで…と言う訳ではないが、無力化した襲撃者も王都での諮問を受けるらしく、『第一王子』と共に連行された。所作や動きから戦闘訓練を受けた者だったとは、抑え込んだ皆の意見だが、何処の所属か?までは、さすがに分からない…今度、どこかの貴族の家に皆を訓練と称して派遣してみるかな…?…いや、ダメだ‼『セーラーキャプチャー』の皆はあたしの部下じゃない‼…そう言えば、今後、外交とかする時に護衛みたいな人は要る?
「対外的な問題もありますから本来は必要ですが…失礼ながら、お嬢様方の噂は国内外に響いていますから…どうなのでしょうねぇ…」
 ははは…護衛を護衛する事になり兼ねないか…そこは要検討で。
 ただ、怪しいと思っている人物はいる。例の『空間隔絶系ダンジョン』に潜っている他国の『王子』一行だ。鉱物関係の手配は付いたのに未だにダンジョンに挑んでいるのは武者修行の為らしいが、実力に見合った相手のいるエリアには行っていないらしく、どうも各エリアをただただ徘徊している様な動きをしているらしい。一応、彼らの護衛も兼ねた依頼は既に終わっているので、完全にはその動向を追えないが、見逃した襲撃者が向かった先には、その『王子』一行が定宿にしている高級ホテルがある為、油断はできない。あの『王子』の国がこの国に侵攻する可能性だってあるのだ。
「そんな心配をしていたんだね?」
 その『王子』が面会にいらっしゃいました。あたし達が爵位を賜った事に対する祝辞とせっかくならドレス姿も見たかったと言うお世辞を言う為に来た様だ。相変わらずの軽薄振りだが、これって計算だよなぁ…だって目がお祝いしていない…まぁ、叙爵式の招待状も貰っていなかった事を愚痴られても返事は困るんですが…
 あたし達三人を数言だけからかって、『王子』はお帰りになった。顔を見に来ただけの様だが、多分、叙爵式襲撃には関わっていない事を、暗に訴えていたのもかも…うん、『王子』は関わっていないけどって事ね… 

 巡回地域内の商店は数日間お祭り騒ぎだった。「我らが『セーラーキャプチャー』が貴族になった‼」って事だが、別段、あたしとしては面倒事を引き受けた程度なので、あまり囃し立てないでほしいな…え?『プレジデント』さんが浮かれて、貴族ごっこしている?
「うむ‼良きに計らえ‼」
 …あ、買い物する時の値段交渉で合意した時に言っているのね…いや、お店側から言って欲しいって言われたの?…さっき見たけど、とても様になってましたよ…?
「魔族のお姫様に色々と教わったのだよ」
 いや、あたし相手に偉ぶらなくても…いえ、偉ぶっても良いですけどね…
 議員会館でも問題になったのだが、変な勘違いをしている貴族は、庶民のお店ではお金を払わない事が多々あるらしい。これは完全な驕りで、「自分達が守っているのだから当然の権利である‼」との思考の元の行動らしい…ってか、本当に守っているのか?が怪しいが、我々はちゃんとお金は支払っている。むしろ、そっちが当然なのだ‼とさえ思っている。そもそも『守る』と言うならば、外敵の侵入を防ぐだけではなく、暮らしを支えてくれる皆様のお財布を守るべきなのではないだろうか?
 近隣の男爵家の長男様が、お金を払わずに商品を持ち出そうとした現場に出くわした。
 何でも、近々『セーラーキャプチャー』の子爵様との婚儀が決まるとか…?
「…あんなのが良いんだ…?」
 見知らぬ男性に惹かれる事などありません。それに好みのタイプでもありません‼
 見回りの同行者は『聖騎士』さんと『牧師』さん…相変わらず、見回りは続けている。
どうします?注意します?
「子爵様に任せるよ」
 …どうなっても知りませんよ…?
 …ちょっとした打ち合わせの後、あたし達はその商店で一つ買い物をする…特に入用ではなかったけど、欲しいと言っていたメンバーも居たのでお土産だ…
「店主‼そっち放っておいて、コッチお願い‼」
 『聖騎士』さんが呼び出す。通る声だよなぁ。
「え?…あ、はい‼只今‼」
 あたし達に気付いて、男爵家の長男の対応をしている店主さんがこっちに来てくれる。
「こら‼話は終わっていないぞ‼」
 お前、男爵家の長男ごときが子爵様を待たせるか?あ、あたしらの顔もどう言う格好をした集団かも知らないのか…?…まぁ、後で『執事』さんに面会人物に男爵家の御長男様が居るか?聞いてみるか…
 一応の値段交渉を始める…これは商店側のサービスで、受けないと値引きしないで購入する客と思われて、毟り取られてしまう。こうなると値引きされなかったお客は来なくなるが、値引きに応じたお客なら次回来店の期待もあるので、我々は値引き交渉を必ず行っている。もちろん、これはただの金銭事情の話ではなく、物価調査も兼ねての購入。物価が上がると犯罪率も上がるので、こまめに買い物はしている。このお店の値引きの最低価格は良心的な値段だが、購入する時は最初の言い値より少し低めで支払う。まぁ、我々程度の購入金額では微々たるモノだろうけど、庶民のお財布も守るのが『セーラーキャプチャー』なのだから‼…あ、後で、別の調査員を回して、適正価格を聞いてみないと…あたしだからその値段で売った…なんてなったら、申し訳ない…
 そう言えば、あの男爵家の御長男様にあたし達の事言わなくて大丈夫ですか?
「え?ああ。気付いていないのでしたら、気付いた時に気付くでしょう」
 ?まぁ、そうだけど…包んでもらっちゃって悪いね?
「いえ。またの御贔屓を」

 数日後、その男爵家の御長男と面会した。
「麗しの『セーラーキャプチャー』の『マネージャー』様、本日は…」
 あああ。そう言うの良いから、面を上げて、こっち見て‼
「ご尊顔を拝謁させて頂き…⁈」
 あ、どうやら覚えてはいるみたいだね?どこぞの男爵家の御長男様?
「せ、先日は、あの店の者が無礼な態度を…」
 無礼なのはそっち‼良いか?ここはあんたのお家の庭じゃないんだ。勝手な事をされると貴族のイメージが悪くなるだろ?
「で、でしたら、こちらの品を献上致しますので…」
 要りません‼貴族の本来の役割は民を守る事でしょう‼そんな民からの強奪品など受け取れると思っているのですか?経緯は全部知っているんですよ?それともご自身の領地にはあたしに献上するに足る品がないと思われているのですか?ならば、一度…いや、何度でも領地の事を学ばれて何が必要か?何が得意なのか?何を持ってすれば領地の発展となるのかを、深く知りなさい‼それとこれは重要な事です…
「な、何でしょう…?」
 お前は、あたしのタイプじゃねぇんだよ‼顔も、声も、性格も、体形も、そのうっすらハゲそうな頭も‼だから、とっとと、あたしの前から失せろ‼
「…あ…ああ…」
 うわ、こいつ漏らしやがった…あ、会館の守衛さん呼んできて。うん。迎えの馬車に送らなくても良いから、叩き出して。あと、清掃係の人も呼んでください…あ、チップは渡しておいてくださいね…いや、必要ないとかじゃなく…こっちがダンジョン潜る時の闘気を出しちゃったんで…で、次の面会は…?…あ、急遽キャンセル…?…漏らした?

「今回の御采配、お見事でした」
 いや、逆に怒られると思ったんだけど…あれで良かったのかな?
「『マネージャー』お嬢様はどうも、当たり障りのない対応をされるので、相手方によっては良い様に解釈されてしまうのですよ」
 玉虫色の大人の対応はダメかぁ。
「何処で覚えたのかは存じませんが、イヤな相手に好かれる必要などないのです」
 …分かりました…では今後は結婚相手として面会に来る人はお断りを…
「心得ております。お嬢様の安寧の為に、この身を賭して務めさせて頂きます」
 あ、あんまり頑張り過ぎないようにね…?

 この一件を期に、あたしの面会の回数がめっきり減った。え?そこまで?
「まず、あなたは自重を忘れた神の傑作である事を御認識ください」
 …その日の半分は『執事』さんの持論を聞かされた…怨念にも似た賛美の嵐だった…
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