セーラーキャプチャー

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ある『絵描き』のお話

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 貴族的な件は、とりあえず何とかなっている。
「あ。そう言えば、街であたし達の絵が出回っているって」
 巡回から帰って来た一団の声が聞こえて来る。
 …気になったので、冒険者ギルドの用事のついでに聞き込むと、
「あ、ああ…そんなのあったかなぁ…?」
 …口を濁された…怪しい…
「そりゃ、花街の看板に使われてりゃなぁ‼」
 『ギルドマスター』に笑い飛ばされた。
 …そう言うのって、規制する事って出来ないんですか…?
「無茶を言うなよ。男のロマンってやつさ‼」
 具体的にどんな所で使われているのか?なんて分かります?
「そうだな…お前らの巡回地域の中なら…」

 教えてもらった場所に向かうと、そこかしこにセーラー服カラーの看板があった。
 いや、ちょっと待って。このままだとセーラー服の紺・白・臙脂の三色が、いかがわしいお店の定番カラーになってしまう…
「お姉ちゃん。別嬪だねぇ‼ウチで働かないかい?」
 スカウト?いや、結構です‼ちょっと気になって見に来ただけです‼
「え?こっちの業界が気になったから、ここに来たんだろ?」
 …ああ。そうか。女の子一人で花街に来たら、そうなるか…
 事情を話して見たけど信じてもらえないので、どうしたモノかと困惑していると、
「あれ?『マネージャー』。こんな所で何やっているの?」
 ああ‼巡回中の皆‼ちょうど良い所に‼
「へ?『マネージャー』って…子爵様⁈」
 あの…ご理解いただけましたか?
「あはは‼『マネージャー』はこの辺、巡回してなかったっけ?」
 いや、あるけど。この人とは初対面で…ってか、『陰陽師』さぁ。多分、見てただろ?
「いや、子爵業がイヤになって夜の商売でも始めるのかと思ったよ」
 そんな訳ないでしょ?いくら困っていても、夜の商売は…
「そ、それで子爵様‼どう言ったご用向きで‼」
 ああ、そうだった。何でも、あたし達の絵がこの辺りで出回っているって言うんで、どんなモンか、確認したかったんですよ。
 見せて貰ったら…あれ?これ、誰?『セーラーキャプチャー』の中に、こんな髪色の子は居ませんけど?…あ、本人そのままを描くと、後で揉めると…お客の方が…ん~…でも、この顔って…美人に描いているけど誰がモデルですか?
 店主に土下座された。あたしのつもりだったか…悪い気はしないが、あたしはここまでグラマラスじゃないからなぁ…いや、訂正はしないで構いません…あたしの身体ではお客が減ると思います…

 看板描きの職人さんのアトリエの場所を聞いて向かってみる。
 大分改善されたけど、この街に残っているスラムの中でも最貧困の人達が住む地域に『絵描き』さんは住んでいた。何度か巡回に来たけど、衛生状態があまり良くない…うん。言いたくないけど、臭い…ドブ臭い上に腐敗臭っぽい臭いも混じっている…誰かが死んでいる可能性もある…今度、巡回のついでに生存確認の訪問もするべきかな…?
 目印のカラフルな戸板の玄関をノックする。
「まだ、出来てねぇよ」
 ぶっきら棒な声が返って来るだけで、出てくる気配がない。もう一度、ノック。
「ワリィな。金はまだ出来ねぇ」
 同じ対応。もう一度ノック。
「…ったく、何だよ?」
 あ、こっちに来る。でも、足音がおかしい。
「誰だよ?」
 戸板が開けられると、髭面の男性が出て来る。痩せているけど、出来上がった身体だ。筋肉が付いていたら、それなりに闘える体形…いや、無理か…左足がないから…
あ、あなたが夜のお店の看板を描いているって聞いて。
「あ?ああ。あんたの姿を描いて欲しいのか?」
 …こっちが何者か?知らないのか。世事にも疎そうだ…あ、でも、セーラー服を見ても特に反応しないな…こっちに来た頃は『変な格好』って良く言われたからなぁ…
 …事情を話したら、家の中に入れてくれた…
「ははは。子爵様になったのかい?」
 彼は元冒険者で主に探索系を請け負っていた『前衛』だったらしい。
 『前衛』とはその名の通り、ダンジョン内でパーティの最前線で戦う者。『中衛』・『後衛』や、その後に続く『ポーター』職も守る壁であり、敵を屠る剣である最も勇敢なる人達。得物に拘りを持たず、刃の着いた武器以外も使いこなし、時には拳や盾、その辺に落ちている石でさえ武器に変えて敵を倒す、冒険者と言えば‼の物理攻撃系の花形職。初めてダンジョンに入った時に、その威圧感に慄いた事を未だに覚えている。
だからダンジョンに潜る時は、胸に刻んでいる。
 …ここは。そう言う人達の世界なんだ…と…
「実はあんたらの事を見掛けた事があるんだ」
 気さくな笑みを見せる『絵描き』さんに描いている途中の看板を幾つか見せてもらった。うん。美人さんが煽情的なポーズで誘っている。躍動感のある絵もあるが、そっちは人気がないと突き返された看板だそうだ。惜しいよなぁ。
「こんな場所でダンジョンの事を思い出させるなって、文句を言われたんだと」
 ああ。これは女性の『前衛』の人を想定して描いたんですね?
「いい女だったよ」
 …そうですか…
 聞けば、彼が足を失った時に守り切れなかった女性らしい…
「…うん…やっぱりな…」
 あたしを眺めながら、彼は呟く。
 どうしました?
「いや、あんた、『万能』型なんだろ?」
 ?あまり、意識してませんけど?
「…いや、それにしちゃあ、骨格も肉付きも闘う身体じゃないな…」
 『狭間の女神』様の加護のお陰なんです。
「だから『マネージャー』なのか」
 そういう事です。羨ましいですか?
「いや。色々と大変そうだ」
 お陰で『子爵』になりましたからねぇ。
 お互いに苦笑い。そして、あたしからの提案。
 ここで会ったのも何かの縁です。何かして欲しい事はありますか?もちろん、実現可能な範囲でお願いできれば…ですが…
「…実は…」
 聞けば、今度、少し遠い領地で絵師を募集しているらしい。貴族のお抱え絵師になれば貧困から脱する事も出来るが、募集に集まる者の中には、貴族や大商店の子供もいるらしく、いくら構図や精緻さに拘っても、彼らの使う高価な絵具の発色には霞んでしまうと…
「絵具その物じゃなくて良い。原料があれば、こっちでなんとかする」
 どんな色が欲しいですか?
「まず青だな。空の色が理想だ」
 他にも原色系を注文された。要するに何もかも足りない。キャンバスさえない状態。あるのは『絵』で身を起そうとする情熱と、少しばかりの才能…
「この色を出せる素材?知ってますけど…・どうして?」
 『錬金術師』ちゃんに、メモを見せると、不思議そうな顔をされた。
「何なら、絵の具にして出しますよ?」
 少し詳しく説明すると、ニヤニヤされた…いや、あんたが考えてる事情じゃないから‼
 …とは言え知っている人物に、重なった事は間違いないが…

 それから、あたしは暇を見付けては、素材の採取に出向いた。発色の良い絵の具の素材の殆どがダンジョン素材だったのが、近場のダンジョンで採れる素材から抽出される事も分かった。『錬金術師』ちゃんに気を遣わせたかも…
「絵の具にするなら粉末にしてくれないか?」
 購入したキャンバスの状態を確認して『絵描き』さんは言った。何でも、絵の具の粘度は自分で調整したいらしい。キャンバスナイフの代わりにスプーンを使っているからか?
 彼の住む周辺の環境も少しずつ改善していった。何でも『子爵様が来るんだから少しでもキレイにしておこう』と言う事らしい。こっちも気を遣わせて申し訳ない‼この清掃活動の中で、数人の死亡が確認された。遺体の状態から餓死したらしいが、中には暴行を受けた痕跡があったとの報告も受けた。こっちは警邏の担当だな。
 いよいよ制作に入る。あらかじめ絵の具のクセを掴んでいたので、スムーズな描きだしだった。まず、構図が決まる。人の配置とある程度の背景の輪郭取り。思い描いている通りの絵が彼の手から、指先から生まれて行く。時に失敗はあったが、気にしないで塗り進めて行く姿は、まさに『前衛』だった。看板製作も同時に進めなければならなかった為、思う様に進まなかったが、それでも期日までに仕上げる為に寝食を忘れる勢いで描き上げていった。夜間はどうしているのだろうと思ったら、月明かりを頼りに屋外で描いていると言った。灯りになるランプを貸し出そうか?と提案したら拒否された。月明かりの元での色出しに慣れている事と、盗まれるかららしい。確かに、暗いダンジョンの中を照らすランプの灯りは月明かりに似ているから、慣れているのだろう。ただ、拠点の皆、顔料欲しさの詐欺じゃないって分かっただろ?さぁ、掛け金払え‼あたしの一人勝ちだぁ‼
 製作期間三十日程で、絵が完成した。A1サイズの縦書き作品。タイトルは『目の前の希望』。何処かのダンジョンの入口付近が描かれており、日の光の下で笑顔を見せている女性剣士がこちらに手を差し延べている。まぁ、何処か…なんて言っているが、見覚えがある。今回の絵の具の原材料を採取したダンジョンだ。何処で採ったのか?を絵を描く前に聞かれたので素直に答えたが…こういう事か…ってか、セーラー服って…
 絵に描かれた女性には見覚えはない。無論、あたしでもない。想像かな?と思っていたが、あの突き返された看板の女性の穏やかな時の姿らしい…変わり過ぎじゃないかな?
感慨深げな『絵描き』さんにあたしは告げる。
…この絵、売ってくれない…?

 …今回の貴族が応募している絵師は既に候補が決まっていて、絵師の箔を付ける為に広く公募した出来レースである事を『絵描き』さんに告げた。『忍者』さんからの確度の高い情報である。『絵描き』さんも予想していた様なので、思いっ切り趣味に走ったと笑い飛ばした。悔しさは微塵も感じない。清々しささえある笑顔だ。
 彼は父に似ていたのだ。父も昔絵描きを目指したが、才能の限界を感じ、筆を置いた。でも、思い付いた様にあたしの似顔絵を描いてカワイイ娘だなぁ…と自画自賛していたっけ…目の前の本人を褒めれくれよ。

 『絵描き』さんの絵は、あたしの執務室の飾られ、たまに誰が見に来ては「似てねぇ‼」とからかいに来る。だから、違う人がモデルだって言ってるでしょ‼
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