セーラーキャプチャー

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異世界でも、麻薬ダメ‼絶対‼

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 『絵描き』さんは、あたし『マネージャー』が買った絵のお金でスラムから脱出できた。が、引っ越し先はスラムの近くだった。彼にとってスラムの環境は創作活動に最適らしい。看板の注文以外にも肖像画を描く依頼も少しだが受け始めている。もっとも、客の大半が『セーラーキャプチャー』の面々だが…
「新しい脚はどう?」
 『絵描き』さんに、義足をプレゼントした。『鍛冶師』トリオの傑作だ。彼の場合、足がないと言っても、膝から下がない状態…なので、少々問題があった。
 医療行為に抵触する可能性だ。つまり、『曲げて伸ばす』が人の意志による行動か?と言う所で、神経を接続する必要があるのではないか?と言った可能性。だが、
「向こうの世界でも、電動じゃない義足はあるじゃん」
 戻すだけならバネで充分らしい。『義足に体重を乗せ過ぎない様に』と注意をして、『絵描き』さんに装着してもらうと、数分で補助なしで歩けるようになり、三日程で完璧に歩けていた。運動神経ハンパないです‼
「余計な事しやがって…‼」
 と言いながらも、『絵描き』さんは嬉しそうに散歩に出掛けた。最近の日課らしい。

 そうそう。暴行を受けていた形跡のある遺体については進展がない。スラムの中でも人の寄り付かない場所に遺棄されていた為か、目撃者もいない状況だった。ただし、餓死でないとの事。着ていた衣服は上等とは言えないまでもスラムの人間が着ているボロ着ではない上に、遺体からは麻薬の成分が検出されたからだ。
「この世界でもドラッグか」
 吸入式…いわゆるタバコタイプの麻薬で常習者の可能性があった。
 この世界の麻薬は医療用の麻酔としての利用は認められており、規制も取り扱いも、国の許可と何枚もの誓約書、月に二回の立ち入り検査を経て、ようやく栽培できる程に厳重に取り扱われている。採取も国や地域によって規制されており、許可なく採取した場合は重罪。最悪、極刑もあり得る危険な代物である。まぁ、知らないで採取した場合は没収の上、厳重注意程度で済むらしいけど…
「この魔物、肝臓に麻薬に似た成分を含んでいるから扱いは注意してください」
 『冒険者ギルド』で受けた依頼を『錬金術師』ちゃんに見せると指摘された。実は、依頼を受ける時、違法性が疑われる場合は関係各所に問い合わせて、問題がないか?を確認しているのだ。下手な事をして、この街を出て行くのは気が引けるからね。
 この依頼は指名依頼で、受けない訳にはいかないと『ギルドマスター』に頭を下げられた依頼だった。最近、羽振りの良い商会からの依頼で、『商業ギルド』を通さない形式だったらしく、その分の手数料を割高に貰っているとの事。あたし達は基本、指名依頼は受けていないと言う事を知らないのだろうか?
「商会としての箔を付けたいんだろう。『セーラーキャプチャー』に指名依頼を出せる立場の商会だってな」
 分からないでもないが、お金に目が眩んで、あたし達を売った?
「まさか‼お前らなら、上手くやれると思ったからさ‼」
 あ、そういう事ですか?じゃあ、どうなっても良いと?
「…出来る限り、穏便に頼むぞ…」
 あたし達は、穏便に済ませるつもりですよ。

 さて、今回の依頼は特定の魔獣の全身素材が欲しいとの事。目的の魔獣は、見た目はアルマジロっぽく堅い外皮が一般的には素材として扱われている。攻撃手段はこの手の魔物ではお馴染みの身体を丸めての回転突進攻撃。毒を使った攻撃はしない。まぁ、何度か相手をしているが中堅冒険者向けの魔物だろう。回転を解いた瞬間に柔らかい内面を斬って斃すのがセオリーらしいが、あたし達は構わずに外皮ごと、何なら、回転状態のままでも斃せた。あたし達の敵ではないが、全身となると厄介だ。何しろ、あたし達は外皮ごと斬ってしまったからなぁ…この実績を知っているのだろうか…?…それとも、あたし達が、その素材を卸したって実績だけを見て、指名依頼を出したのだろうか…
 向かってくれたのは『モンク』コンビと『司教』ちゃん。『モンク』コンビは無手の使い手で格闘センスも抜群‼『気功』の使い手でもあり、触れた相手を生かすも殺すも自由自在だそうだ。ちなみに『書記』ちゃんでもある『モンク』ちゃんは蹴り技が得意でテコンドーの全国大会準優勝者、あたしの一年先輩の『モンク』さんは殴り方面が得意でフルコンタクト空手の全国大会年齢別優勝者らしい。
「じゃあ、『司教』ちゃんは打ち合わせ通り」
 今回の依頼に際して、必要個体の数は最低限狩猟に向かった人数分で、多ければ多いだけ報酬を上積みするとの事。つまり、今回は三体持って帰れば問題ない量である。欠損状態については特に記載がなかったが、これは素材を扱う者としては頂けない。おそらく、依頼を受けたギルド側からも確認をしている筈だが、『全身素材』と言う縛りを設けるとなれば、必要部分を傷付けずに運ぶ事を求められる。今回の魔獣は丸まった状態でも直径八十センチから一メートル程はある為、そうそう傷付けずに持ち運べる訳がない。以前、この魔獣を狩った時も必要素材だけを剥ぎ取って、残りは焼却・埋設した程だ。冒険者の仕事を知らない素人の依頼の仕方…いや、素材の状態が悪いと文句を言って、依頼料を値引くつもりか?それを狙っての『欠損状態・特になし』って事か…意外とせこいな…
 三人は問題なく、アルマジロモドキを狩って来た。本来なら素材の扱いを慎重にする際は専門の『ポーター』さんを雇うのだが、今回の依頼料で雇うと赤字になってしまう。これは本来依頼主側が補填するのだが、初回の場合は費用明細を出しても不足分の催促はしないのが暗黙のルールとなっている。見積もりが甘い結果だから、黙って補填額を払うのが依頼主側の暗黙のルールだからだ。ただ、ウチのメンバーは全員『無限収納』がある。ただし、人様の前で使える能力ではないので、ちょっとした工夫を凝らした。
 まず、狩ったアルマジロモドキを三人で背負いながらダンジョンの入口付近まで運ぶ。そこで待機していた『セーラーキャプチャー』のメンバーにアルマジロモドキを渡し、用意した板に乗せる。アルマジロモドキのいる階層は地下二階の中央部なので、他の魔物に遭遇しても魔法で『えいや‼』と蹴散らせる。そこで遭遇した魔物の方が高級素材でも、今回は無視して、ひたすら狩っては運びを繰り返す。
 結果、冒険者ギルドに収められたのは十四体。ダンジョンから近くの冒険者ギルドの支部まで『モンク』コンビがロープ付きの板を引き摺って持ち込んだ。
「あたしが乗って押さえなくても良かったのでは?」
 魔法で落ちない様に『司教』ちゃんが拘束していたらしいけど?何かのパレードと勘違いされて、ちょっとしたお祭り騒ぎが起きたって聞いたけど?
「鍛錬の為です‼」
「十五体、倒せなかったから‼」
 いや、まぁ、分からなくはない。ウチのメンバーでは、二人の体格にあった訓練相手がいないのは事実だし、十四体ってのもキリが悪いかもだし…それ以上に『司教』ちゃんに精神的負担を強いてしまった事も、どうかと思うし…
「…お二人を従えているみたいで…言い知れぬ背徳感が…」
 …あ、『司教』ちゃんが拓いちゃいけない未開地の開拓に乗り出しそう…

 こうして文句のつけようのない全身素材のアルマジロモドキが卸された。その十四体は相手側の提示した金額での支払いが約束された。もちろん、明細書も添えて…

「例の商会が姿を暗ました」
 こっちで狩ったアルマジロモドキを商会の検査用に一体だけ持ち出したが、受け取り期日を過ぎても受け取りに来なかった為、商会の店舗に向かった所、もぬけの殻だった。
「お前ら、アレに何かしたのか?」
 え~…と…まぁ、誰にでも扱える素材に…
「正直に話せ」
 あ、はい。話すので、『ギルドマスター』睨まないで…あなたのその目はコワい…
 そんな訳で、あたしはアルマジロモドキの麻薬成分を『司教』ちゃんの『祝福エヴァンジェリン』で無効化してもらった事を白状した。この『祝福』と言う技能は『司教』ちゃんが思う有害な存在を無害に変える魔法的な技能スキルで、一般的な教会の司教級の僧侶が使える能力である。ただし、そう言った所で『祝福』を頼むと、そこそこの料金を請求されるけど…
「…アレに麻薬成分の含まれる部位があったのか…」
 現在、出回っている麻薬の成分とは、少し違うかもしれませんが、似た様な効果が得られる成分が含まれているらしいです。
「お前の所の『錬金術師』が見付けたのか?」
 何でも、昔、あの魔獣の肉を食べた冒険者が、亡くなった仲間の亡霊を見たって記録が街の図書館の本にあったそうで…
「‼街の図書館だな?本の名前は?」
 『錬金術師』ちゃんが知っていますので、聞いてきます。
「あ、いや。だったら、『錬金術師』を連れて来い。あの魔獣からどうやって麻薬成分を取り出すのかも知りたい」
 え?まさか、冒険者ギルドで生産するとか…?
「違うわ‼合成するにしても、分解するにしても、抽出に必要な触媒が要る。それが何から摂れるか?が知りたい。それと工程を検証して、麻薬成分の抽出率も知りたい」
 分かりました‼すぐにでも連れてきます。
「あ、それと、この事はしばらく内密に進める。犯罪組織が知ったら厄介だからな」
 …ちゃんと公表してくれますか…?
「どう言う事だ?」
 いえ。貴族のあたしが、こんなこと言うのもおかしいかも知れませんが、この件、貴族が絡んでいる可能性はありませんか?
「それはあるが、意図的な麻薬の製造は違法だ。貴族であろうとも法の下で裁く」
 そう言う事ならば『セーラーキャプチャー』の人員を惜しみなく貸し出せます。ただし、賃貸料はちゃんと頂きますけど。
「『錬金術師』の分は割増しで払うよ」
 この後、残りの十三体の扱いについて、冒険者ギルド内の通常価格で買い取る事が決まり、あたしは拠点に戻って『錬金術師』ちゃんを冒険者ギルドに送り届けた。

 数日後、商会の会頭を含む幹部数人と繋がりのある関係者、更に資金提供している貴族の指名手配が発布。同時にアルマジロモドキの扱いについての注意喚起がなされた。
 商会関係者はすぐに逮捕され、取り調べの結果、アルマジロモドキからの麻薬抽出と麻薬の販路拡大を狙っていたと供述。商会会頭と幹部は極刑を言い渡され、抽出した薬品が麻薬である事を知っていた者達は鉱山への強制労働が言い渡された。
「『伯爵』は逃げているんですね?」
 そうなんだよ。しぶとい事に…
 『錬金術師』ちゃんの貸し出し期間が終わったので、二人で拠点に向かっている。
道すがら、何とも色気のない会話をしているが、世間ではそれなりに話題で、冒険者ギルドの試験室でカンヅメ状態だった『錬金術師』ちゃんとしては息抜きにはちょうど良い話題だった。でも「太陽が眩しい」は良いけど、「シャバの空気はうまい」は止めようね。
 少し興味があったのでアルマジロモドキの肉を焼いて食べたらしい。どうだった?
「普段食べている料理で耐性が付いていますから、何も…鶏肉に近いでしょうか…?」
 いや、味じゃなくて…え?普段、食べてる?あたし達も食べてるの?
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