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14話・誘惑の甘い果実

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 使用人たちの朝は早い。



 毎朝、日が上がる前には起きて仕事を始める。主人たちが起きる前にしておくルーティンはたくさんある。簡単な朝食を取りながら申し送りをした後が、もっともあわただしい時間だ。



 庭師のジャンは、室内係ほど早く起きる必要はないのだが、屋敷内の人の働く気配で目が覚めてしまう。そのまま起きだし身支度を整えると、ひとまずは屋敷から近い花壇や植え込みの世話を始める。



 植え込みから伸びた葉を綺麗にカットし、美しい曲線を描くように刈り込んでいく。彼自身は綺麗に刈り込まれた植物より、無造作に伸び生命感があふれた姿の方が好きだ。しかし屋敷をぐるりと取り囲む植物たちは、この豪奢な屋敷を引き立てる額縁のようなもの。少しでも乱れがあると、この屋敷の厳しい家令に見とがめられてしまうだろう。



 三十分もすると朝食が始まる。家令から主人たちや来客の予定などが知らされる。素早く食べたらまた仕事だが、女たちは短い時間も惜しいとばかりに噂話に花を咲かせている。そんな様子を横目にジャンは温室に向かった。そこにはこまめな手入れが必要な新しい苗もあるし、作業場でもあり、ジャンの拠点のような場所だ。



 屋敷の裏手をでて花壇の見事な広場を、ひっそり迂回するように引かれた小道を歩く。朝の清浄な空気を吸い込むと、体中が喜んでいる気がする。植物たちに「おはよう」と声をかけながら、必要があれば手入れしながら歩く。みずみずしい花や葉は声はなくとも喜んでいてくれるのがわかる。ジャンはこの仕事が大好きだ。



 温室の苗たちの様子を見た後は、まずは人目につきやすいところから庭園を回って世話していく。二時間ほどたっただろうか、気温が上がり日は高く明るくなってきた。ジャンは一度花園に寄っておこうと思った。今日はアシュリーが様子を聞きに来るかもしれない。



「おはよう」

 フェアリーたちに声をかけると空気がキラキラと光る。しかし、いるのは留守居役の者たちばかりのようだ。情報収集に飛び立ったフェアリーたちはまだ帰っていない。



 ざっと花園を回って様子を見てみる。すると、一部土が掘り起こされたようになって乱れているところがあった。



(動物たちの仕業か?)



 野趣あふれるこの花園はフェアリーだけでなく、近くの森から鳥や動物もたくさん訪れる。荒らされたのは小さな白い花がたくさんついていたリンデの植え込みだ。花も可愛らしいが、動物にとっては根っこが甘くて美味いらしく、一度味を知ると狙われやすい。花が萎れかけており、このまま置いていくと枯れてしまう。花園から温室は近い。ジャンは布袋を取り出してリンデを土のついた根元から移しとると、それを持って一旦戻ることにした。



 温室の扉を開けようとした時だった。



「——ジャン!!!」

 道の反対側からアシュリーが走ってくるのが見えた。



「アシュリー」

 そのままの勢いで、アシュリーはジャンの横腹に飛びつくようにしがみついてくる。



「……!? どうした、アシュリー」

「……」



 アシュリーは無言で抱きついている。何事かあったのだろうか。ジャンはハッとして両手に抱えたリンデの袋を軽く持ち上げた。

「アシュリー。汚れてしまう。少し離れてくれないか。今、土だらけなんだ」

 顔を上げたアシュリーの頬にはすでに土がついていた。



「待っててくれ」

 リンデをいったん鉢に移し、肥料と水をやると日当たりのいいところに移す。おいで、というとアシュリーは素直についてきたので、温室の裏のポンプで水を出し、ふたりで手を綺麗に洗う。汚れた前掛けや腰巻の道具入れをを外して、石造りの小さなテーブルに乗せた。



「何があった?」問いかけながら手巾でアシュリーの顔の土を拭いてやると、みるみる涙を浮かべて抱きついてくる。一仕事終えて汗をかいていたので匂わないか気になったが、アシュリーは何も言わず抱きついているので、ジャンもしばらく黙ってじっとしていた。



 ただならぬ様子の彼女に何かいい知らせをあげたいと思うが、それもない。人間になってしまったフェアリーの話なんて聞いたこともないし、ジャン自身に調べるすべもない。

「ごめんな」とアシュリーの頭を撫でるしかできない。



「……ジャンは拒絶しないで……」

ジャンの胸に顔をうずめていたアシュリーが少し顔を横に向け、小さな声で言った。

「ん……?」

「エルナンもディーンも私のこと突き放すの……」



(喧嘩でもしたのだろうか)



「お願い、約束して……お願い……」

 アシュリーが切実な声でいうので、わかった、と答えるとさらに強く抱きついてくる。ジャンは少し困ってしまい「座らないか」と近くの椅子をすすめた。

 先ほど作業道具を乗せた石造りのテーブルセットだ。東屋で使わなくなったものを仮に置いているだけだが水回りで作業するときは重宝している。



 しかし、アシュリーは微動だにしない。困り果てたジャンはアシュリーの肩に手を置きやさしく引き離すと、大きな背を丸めアシュリーの顔を覗き込んだ。

「何があったのか話してくれ」

するとアシュリーは「お願い……拒絶しないで……」とつぶやいた後、ジャンの首に抱きついてくちびるを重ねてきた。



「……!!」

 ジャンは驚いて身を引いたが、アシュリーも必死でぶら下がるようにしがみついてくる。アシュリーの腰を掴み一度は引き離すが、泣きながら懇願され、しがみつかれると、困り果てて動けなくなってしまった。



 ちゅっ、ちゅっ、ちゅうっ……



 吸いつかれるままにじっとしているジャン。アシュリーは口を離すと、腕を引いて先ほどの椅子へ誘導する。



「座って……」



 呆然と導かれるまま座ると、アシュリーはその膝に乗り上げるようにしてキスを再開する。舌を差し込まれても応えることができず、ただただ戸惑ってしまう。



  アシュリーは焦れたようにジャンの顔を胸の中に抱え込んできた。思ったよりたっぷりとしたふたつの膨らみに挟まれ、「うう……」と呻き声が出る。



「お願い……触って……触って……」

 アシュリーは胸を擦り付けてくる。そこに、ジャンは興奮してきてしまい息が上がり、はぁはぁと吐息を吐きかけてしまう。アシュリーはその息にさえ感じたように身をよじらせ、自らボタンを外しはじめた。



「ああっ……」

 ジャンは驚いて声を上げる。アシュリーは中に何もつけていなかった。固くなったピンク色の蕾がピンと立ち上がっていた。それを目の前に突き出され、押し付けられると、ジャンは思わず口を開き、チュッと吸い上げてしまった。



「あんっ」

 アシュリーが可愛らしい声で喘ぐ。



 乳房がふるふると目の前で揺れる。ジャンはその膨らみを鷲掴み、果実を齧るようにぱくりと口に含ませた。そのままぐにぐにと甘噛みをするようにして、先端は舌で擦るようにすると、アシュリーはあえぎながらさらに胸を押しつけてくる。



「ジャン……ジャンッ……んんっ」



 ジャンはじゅばじゅばと音を鳴らしながら、膨らみごと必死に吸い上げる。そして少しずつ口から引き抜き、最後に先端を歯で挟みながら離すと、はぁっとアシュリーが吐息を零した。



「ねぇ、こっちも……」

 アシュリーがもう一方の胸に手を当てて差し出してくる。



「う、はぁっ、はぁっ」

 ジャンは興奮して声を荒らげながら食らいつく。さっきまで舐めていた乳房を右手で掴むようにして揉むと、アシュリーが嬌声をあげる。そのまま脇腹や背中に手を差し込み撫でてみる。



 ジャンの荒れた手と違って、アシュリーのなめらかでしっとりとしていて吸い付いてくるような肌はジャンを夢中にさせた。膨らみを丹念に揉みほぐし、舌ですくい上げるようにペロペロと舐めると、喘ぎながら体を震わすアシュリーは普段のあどけない様子と違ってとても艶めかしい。



「はあっはあっはあっ」



 ジャンは我を忘れてアシュリーの胸を愛撫し続けた。アシュリーはジャンの髪に指を差し込み、いつまでもねだるように胸を突き出し、待ち望んでいた快感を享受していた。



「ジャン……ジャン……」

 アシュリーの呼ぶ声に目を上げる。アシュリーはこんなに赤い目をしていただろうか。



「ねぇ……ここも……」

 スカートを捲り上げると、ほのかに蜜の香が漂う。ジャンにまたがる足の間からレースの白い下着が見え、透けるほどびっしょりと濡れていた。



「はっ……!!」

 かぁっと頭に血が上るようになると、ジャンはアシュリーを抱えあげテーブルに押し倒した。上に置いてあった腰巻や作業道具がバラバラと落ちる。



 ジャンはアシュリーの足を両手で大きく広げると、蜜で濡れそぼるその場所に顔を近づけ、下着の上からべろべろと舐め上げ始めた。割れ目に沿って何度も上下させると、布越しにもそこがヒクヒクしているのがわかる。



「ああっ……!あんっ……あんっ……あっ……!!」

 性急な刺激にアシュリーが声をあげる。ジャンはしつこくそこを舐めた後、今度は舌でほじるようにして感じる場所を探す。



「ああっ!!」

 アシュリーが一際大きな声をあげた時、ぷっくりと膨らむ突起を探し当てた。そこを重点的にグリグリと押しつけるように動かすと、更に下着の染みが広がり濃い匂いがしてくる。



「あんっ……あんっ!ジャン……あぁあ……!!」



 じゅっじゅっじゅっと吸い上げると、あっという間にアシュリーは達してしまい、ビクビクと体を震わせた。息を荒げて上下しているアシュリーのお腹の上に、ジャンは呆然として頭を乗せる。



 はぁっ……はぁっ……



 頭に血が上り、ジャンの中に欲望が膨れ上がっている。ああ、この中に入れたくてたまらない……

 蜜の溢れる入口をこじ開け、中をこすり上げて、奥まで突いて、全部吐き出して……

入れたい、入れたい、入れたい、下半身が熱い……爆発しそうだ……



「ううっ……ううっ……」

 呻くような誰かの泣き声が聞こえる。



「……ジャン……泣いてるの?」

 アシュリーがびっくりしたように言うので、それが自分の声だったとわかった。顔をぬぐうと涙で頬が濡れていた。



 起き上がったアシュリーがジャンの頬に両手を添え、涙を舐め取るようにくちびるを当ててくるが、涙を抑えることができない。



「ううっ……うぅうっ……」

「そんなに嫌……? 気持ちよくなかった……? ジャン……」

 アシュリーもほろほろと涙を流している。



「そうじゃない……許してくれ……君にこんな……。こんなことは許されない。俺は……護らないといけないのに……」

「ジャン……」

「アシュリー、こんな事をしたらだめだ……これはフェアリーの世界にないものだ……こんなこと……これ以上したら……戻れなくなってしまう……」

 ふり絞るように言うと嗚咽がこみ上げ、また泣いてしまう。



 アシュリーは傷ついた顔でジャンを見ていた。その顔を見るのがつらくなったジャンは、「帰ってくれ…」そう言って温室の中へ入っていった。
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