センシティブなフェアリーの愛♡協奏曲《ラブコンツェルト》

夏愛 眠

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15話・仲直りしたい

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 ジャンが去ってしまった後、アシュリーは呆然と散乱した道具たちを拾い集め、テーブルに並べながら考えていた。



 口づけたい、触られたい、気持ちよくなりたい、ただそれだけ。みんなは気持ちよくないの? どうして怒ったり逃げたりするの……? ジャンの荒々しい手や息遣い……興奮したように見る目……もっと続けて欲しかった……どうして泣いたの……? わからない……。



 しばらく温室の扉を見つめていたが、ジャンが出てきてくれそうにもない。アシュリーはとぼとぼと歩き出した。

 すぐそこにアシュリーの、フェアリーたちの花園が見える。「こんなことをしていたらフェアリーに戻れなくなる」——そう言ったジャンの悲壮な声が頭の中に何度も巡る。

 どのみち無理だ。あの官能、人しか得られない快楽。こんなの知ってしまったら……。



「もう、戻れない……」



 アシュリーはボソリとつぶやくと、花園から逃げるように目を逸らし走り去った。





◆◆◆





 そのつぶやきを植え込みの陰で聞いていた者がいた。



 アシュリーが昨夜も今朝も食事に出てこなかった。メイドが部屋に運んだものも手を付けてないという。エルナンは母から「この間から、あなたたち喧嘩でもしてるの?」と訊かれ、心配になり探していたのだが、花園に向かう途中でアシュリーが走ってくるのを見て、つい隠れてしまったのだ。



「もう、戻れない……か」



 アシュリーの言葉を復唱してエルナンは考え込んでしまう。フェアリーに戻る方法がないと確定してしまったのだろうか。



 思えば、今のアシュリーは家や家族を失ったも同然だ。自分とディーンがいちばん近い存在でありながら、気まずいからといって避けていた。自分はとても残酷なことをしていたのではないか……。それに、戻れる方法を一緒に探すなんて言って何も力になれていない……。



最低だ……。



「ごめん……」



エルナンはしばらくその場で立ちすくんでいたが、何か思い立つと駆けていった。





◆◆◆



 ぐぅううぅう~……



「おなか減った……」



 人間とはなんて不便なんだろう……



 こまめに食事をしなきゃ動けなくなる……



 ……しかも暑い……



 この屋敷は、夏でも比較的過ごしやすく部屋の中は割と快適なのだが、さすがに屋外で日光にさらされていると汗をかく。ジージーと鳴いている虫の声がより暑さを引き立てる。



 アシュリーはお昼ご飯も食べ逃したまま、しばらくエイプリルの温室前の芝生でうつ伏せになってもんもんと悩んでいたのだった。

 いつだって自由気ままに行動してきて、誰かにとがめられたことはなかった。変わり者のフェアリーと言われてきたけど、それが『いい』とか『悪い』とかフェアリーたちは評価しない。変わり者は変わり者、それ以上でも以下でもなかった。



 でも今は……何回「やめろ」「だめだ」って言われたかしら……意外にもフェアリーの正体を知ってる人ほど怒る気がする……エイプリルやアーネスト先生は怒らないもの……。



「なんでだろう……」



「三食も抜くからだ」



「えっ!?」



上体を起こして振り返るとディーンが見下ろしていた。



「人間は食べないとお腹が減る」

 そう言ってアシュリーから少しだけ離れたところに座り、その間に敷布を引くとバスケットをどさりと置いた。



「……いいにおい……」

「厨房でもらってきた。行き倒れてるフェアリーが見えたから」

「……あたし……?」

「食べたら? 昼食までにはまだ時間がある」

「ありがとう!!」



 がばっと起きると、ディーンがかぁっと顔を赤くする。バスケットの下から敷布を抜き取ると立ち上がり、アシュリーに巻き付ける。ブラウスのボタンをきちんと閉めていないうえに、下着をつけていないので一瞬だけ中が見えてしまった。



「ちゃんと服、着られないの……?」

「着られるけど……」



 気まずい雰囲気を察しつつ、アシュリーはバスケットの中身を取り出した。焼きたてのパンがいくつか入っている。



「いただきます!」

 さすがに空腹の方が勝ち、ディーンに触れるよりパンを食べたいと思った。



 人間ってなんて素敵なんだろう……



 こんなに美味しいものを食べられるなんて……



 はぐはぐとかぶりつくアシュリーをディーンは微笑ましく見ている。

 少し落ち着いた頃合いを見て、カップにお茶を注いで渡しながらディーンは言った。



「アシュリー、噂になってる」



「え? うわさ?」



「お嬢様とところかまわず…抱き合ったり……この前みたいなこともしてるんだろ」

 口ごもりながらディーンが言う。



「メイドたちは目につかないように控えててもよく見てるんだ」



「……。この前みたいなことって?」



「……!! 言わせるなよ! 僕にもしただろ……!!」



「……キスのこと?」



 アシュリーはキョトンとした顔で、真っ赤になったディーンを見つめる。



「あたし……またしたい……ディーンと」



「だめだ!! そこから動いちゃだめだぞ……!! じっとしてるんだ」



「どうして……? あたし、わかんない……」

 アシュリーはシュンとして言う。



「人間の社会では、結婚前の男女が……そういうことをするのは、いけないこととされている。キ、キ、キスもだけど、あんな風に服を脱ごうとしたり抱きついたり……なんて、とんでもないんだ。メイドたちは娯楽が少ないからゴシップが好きだ。そこで済めばいいけど。でも父さ……家令やメイド長の耳に入ることがあれば、当主に報告がいくと思う……」



「エルナンのお父さん? 報告がいくと、どうなるの?」



「もし僕とアシュリーが噂されるようなことになったら、アシュリーは家に帰すって言われるかもしれないし、僕は罰を受けるかもしれない。僕はいいんだ。けど……アシュリーは困るだろう?」



「そうだったの……」



(だから、ジャンも泣いたのかしら……? それを心配して……?)



 ディーンは少しの間アシュリーの目を見つめた後、思い切ったように口を開いた。



「アシュリー……僕は君が好き」

「あたしも、ディーンのこと好きよ」

「……アシュリーは……僕に会いにここに来たの?」



 アシュリーはコクリと頷く。



「ずっと人として暮らすのか?」

「……ディーンに思い出してもらえたら花園に帰るつもりだったけど、もう魔法が使えないから戻れないの……」

 ディーンは目を丸くする。



「そうだったのか……」



 しばし考え込んでいたディーンが思い切って口を開く。

「じゃあ、ずっと人でいるなら……僕が一人前になれたら……お嫁さんになってくれる?」



「ディーン……」



 じっとアシュリーの瞳を見つめるディーンは真剣な顔をしている。



「あたし……そういうのって、よくわからない」
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