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〈ヒーロー〉と〈悪役令嬢〉編
【65】娼妓は −2− ✕✕✕✕✕✕✕✕✕ ★
しおりを挟む乙女ゲーム【幼き頃より愛する君と、】の攻略対象のひとりである魔法士――昼の名をカール、夜の名をカルノという男。
彼は美しい少年の見目をしていながら、中身は人間の攻略対象のなかで最年長の、ショタオジサマである。
こうして異世界に転生し、生身の彼と接触していると、内心、なんだその設定はと笑けてくるが。
「――シエラ……まだ頑張るの?」
甘えん坊の少年の顔をして、色白の魔法士は娼妓に問う。彼の頬には赤みが差し、林檎のようになっていた。
「っ、貴方の望みでしょう……まだ行けます……」
ふたりがいる部屋の床には、媚薬の瓶がいくつも転がっている。
とうに下着を剥かれた彼女の秘処には、タコと似たゼリー状の魔物がくっついていた。
「じゃあ」
クリオネの捕食シーンのように、ぐわっと開いた半透明な魔物の頭へと、カルノは新たな媚薬を注いだ。その触手を通って、液は彼女の中へと流れ込む。
「はぅ……うぅ……っ」
液体そのものは冷たいのに、触れると熱くなる。穴という穴がとろけてしまいそうだった。
「いいの? また、びゅーって一気に噴出されちゃうよ? 今なら外せるけど……」
「……まだ……まだ……っう、あぁぁ――!」
「あーあ。もう始まっちゃった。あははっ」
「あー……あー……」
この魔物は、体内にある液体を触手から流し続ける他、ときどき一気に大量の液を噴出する。
今は餌として媚薬を与えられているから、彼女の中に出されるのも催淫効果のある体液だ。
「苦しそうで可愛いね。びゅーっが終わったら、またぶるぶるの時間だけど、これはどう?」
「……っ、いけ、ます……」
「頑張るね。そんなにボクとえっちしたくないの?」
「あなたが、耐えろと、いったのでしょう……!」
魔法士カルノのお願いは、こうだ。
『アリシア姫が耐えていたみたいに、ひたすらに耐えてみてほしいんだ。媚薬にも、玩具にも。もう駄目ぇってなったら、えっちで許してあげる――』
そういうわけで、娼妓シエラはこの快楽責めに耐えている。耐えようとしている。
「ああ、可愛い、シエラ」
「っぐ、あぅ」
次はと震える魔法石で乳嘴を責められ、かくかくと腰が浮いた。動いても魔物は離れないまま、彼女の大事なところにくっついている。
「でろでろでー、だらしなくてー、っ最高」
「はぁ、あぁ、あッ」
「今、飛びそうだった? 気絶したら、寝てる間に犯しちゃうからね」
「あう、わぅ、うぅ」
わかっている、と言うことすら、叶わない。口が言うことをきかない。
(兄様は、専属にさせるのを、やめちゃった。私も、わかってて、カルノ様に買われるのを許しちゃった)
この青楼は、遊女の扱いがきちんとしている。本当に無理であれば、売るのを断ることもできた。
したくないことは、できるだけ、させないように。そういうふうに、なるように、シエラはこれまでやってきた。
彼女が、花街に関わっていたのは。遊女たちを、気にして、いたのは……。
――おまえはどこも汚くない、綺麗だ。
――ただ、もう一度、伝えさせてくれ。
――愛してる。
――もう無理はさせない。ごめん。
――兄だからって、もう……
――おまえの人生を、縛ってはいけないな。
(なぜ、今、頭に浮かぶの)
過度な快楽の海に呑まれて、おかしくなっているのかもしれない。彼女が『嫌い』と言った後、あの夜のユースタスの言葉と声が鮮明に脳裏をよぎって、ぽろぽろと涙がこぼれた。
「はー……あー……おっ、ぁおぉ」
「ん、おなかが痙攣しているね。触ってあげよう」
「ぐぁっ!? おっ、あぉ」
「ふーん……。魔物くんの体液いっぱいびゅーびゅーされて、膨れてきちゃったのかな」
「あ……あ……」
「揉んだら壊れてしまうかな、どうかな」
カルノはシエラの腹に両手を触れ、ぐに、と軽く押してみせた。
「ァ!? やっ、やぁぁあ――!! やっ、やぁ!」
「お、うるさくなったね。つらいの? うん?」
「め、めぇぇ、らぇ、いにゅ、しなゅ」
「んー? なに言ってるかわかんないなー」
「やああ! やぁ! しなゃう、しにゃう!」
「ああ、このままだと死んじゃいそって? 可哀想に」
「ッ、ぁ」
カルノは、恍惚とした表情を浮かべると。不意に、彼女の頬にキスをした。
「へ? ぇ?」
「ほっぺにちゅーされたのが、そんなにショック?」
「?」
どうして、そう、きかれるのか。わからない。
「あは、すっごい顔してるよ。おめめまんまる。びっくりしちゃった? かわいいね」
「……あぅ?」
「ふ、はは、本当に面白い……。まんこぐっちゃぐちゃにされてるくせに、ほっぺにキスで、こんな……っ、この世の終わりみたいな顔して……可愛い……」
「……」
「ああ、でも、ごめんね。なんでだろ、まだ勃たないや。続けるね」
「?」
もう、なにがなんだか、もうわからなかった。
胸の先はずっと痺れていて、今、震わされているのか、されていないのかもわからない。
手が、重い。脚が、重い。動かせない。
下も、よくわからない。なにをされているのか、わからない。
上も、下も、わからない。どこにいるのか、わからない。
「くちびるにちゅーしたら、死んじゃうのかな」
「……」
「ほっぺだけで、こんなんだもんね。――シエラ」
カルノの紅い瞳が近づいて、色づいた唇も迫ってきた。色は、見えた。
キス、されて、しまう。
「……ん? この手は、なぁに」
「や、だ」
手? と、すぐには意味がわからなかったけれど。
「や、だ」
どうしてか喋りにくくて、ああ、自分が手で押さえているせいなんだな、と気づいた。
「もう耐えられないってこと? じゃあ、するよ?」
「キスは、やだ……」
「そう、じゃあ、えっちするから。脱ぐね」
まだ着衣のままだったカルノが、上着を脱ぐ。ベルトに手をかける。カチャカチャという音が、近くて遠かった。
「あー……やっぱ勃ってないなぁ……。ん。だるそうだし、自分でしこるから、待っててね」
「……」
しゅっ、しゅっ、とカルノは自分自身をしごきはじめる。娼館に来ているくせに馬鹿なんじゃないかしらとシエラはおもう。
「――おい、カルノ」
ドアが開いて、幻聴がした。
「なぁに、ユウくん」
カルノが、意味のわからない答えをした。
「俺の妹に、何してんだよ」
「夜をもらったんだよ」
ああ、素敵な声がする。
「……俺が、来ることを見越して、二人分……に、したのか。それで、シエラは、許したのか。こんな、媚薬、玩具、こんな……」
そんな、苦しい声、しないで。
「いつものお客様が、追加項目を入れても使わないからかな? 確認していなかったんじゃない? エグい量の媚薬とエグい玩具を頼まれていることも、三人えっちの項目を入れられていたことも。――シエラ、お兄様が来たよ」
「……にー……?」
おにいさま。にいさま。ゆうにいさま。
「にーしゃま? どこ……? ゆー、にー……?」
くるくると見回すけれど、見つからない。
「ッ、おい」
「近づいてさ、壊れてないか見てきてよ、ユウくん」
「おまえ、あとで、数回分ぶっ殺すかんな」
「きゃあ怖い」
いない。いない。ユウ兄様。ない。
「――シシリー」
「?」
「ごめん。大丈夫だって、過信して、ごめん」
「……にいさま…………?」
きらきらの青紫色が、見えた。いた。
「この世界に、おまえを任せられる男なんていない。俺が、もう……」
「にいさま」
淡い金色の髪をひっぱって、唇を押し当てる。
「ん、む」
「にいさま……ゆうにいさま……」
「いいよ、シシリー」
どうやら、触れたのは、彼の額か頬だったみたいで。
「俺がしてやる」
「ん」
待ちわびた彼のキスは、かなしくて、とても甘かった。
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