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第二話 手を引くということ
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庭に出るのは、久しぶりだった。
芝を踏む感触が、靴底から伝わってくる。
葉擦れの音、遠くで水の流れる気配。
そして――すぐ隣にある、確かな存在。
「今日は、風が心地いいですね。レオンハルト様」
リリアがそう言うと、少し間を置いて低い声が返る。
「……ええ。穏やかな日です」
歩調は、彼女に合わせてある。
ほんのわずかな段差の前で、必ず止まるのもわかる。
(優しい……)
けれど、その優しさは決して前に出ない。
あくまで、護衛として。
数歩進んだところで、彼の気配が前に出た。
「失礼します、嬢」
そう前置きしてから、彼は手を差し出した。
「この先、段差があります。手を」
リリアは、迷わずその手に指先を重ねた。
「ありがとうございます、レオンハルト様」
一瞬のためらい。
それから、しっかりと、しかし控えめに握られる。
大きくて、温かい手。
(……安心する)
歩き出すと、彼の手は決して強くはならない。
それでも、離れない。
「怖くはありませんか、嬢」
不意に、そう尋ねられた。
「外を歩くことが、ですか?」
「……はい」
リリアは少し考えてから、首を横に振った。
「いいえ」
彼の足音は一定で、呼吸も落ち着いている。
不安が入り込む隙など、最初からなかった。
「だって、レオンハルト様がいらっしゃいますから」
その言葉に、手に伝わる力が、わずかに変わった。
「それは……務めです、嬢」
淡々とした声。
けれど、魔力の揺れがほんの一瞬、乱れる。
「ふふ。そうですね」
噴水の音が近づく。
水の跳ねる音が、涼やかに空気を満たした。
しばらく沈黙が続いた後、彼が低く呟く。
「……嬢は、不安にならないのですか」
「何が、ですか?」
「顔も、景色も……見えないことに」
リリアは立ち止まり、彼の方へ顔を向けた。
「見えないからこそ、信じられるんです」
「……信じる?」
「はい」
彼の手を、そっと握り返す。
「レオンハルト様の手は、迷っていません。
だから……大丈夫です」
長い沈黙。
やがて、彼が静かに息を吐いた。
「……そう言われたのは、初めてです、嬢」
その声は、ほんの少しだけ、柔らかかった。
手は、まだ繋がれたまま。
それが当たり前のように。
――護衛として差し出した手は、
いつの間にか、離せないものになっていた。
芝を踏む感触が、靴底から伝わってくる。
葉擦れの音、遠くで水の流れる気配。
そして――すぐ隣にある、確かな存在。
「今日は、風が心地いいですね。レオンハルト様」
リリアがそう言うと、少し間を置いて低い声が返る。
「……ええ。穏やかな日です」
歩調は、彼女に合わせてある。
ほんのわずかな段差の前で、必ず止まるのもわかる。
(優しい……)
けれど、その優しさは決して前に出ない。
あくまで、護衛として。
数歩進んだところで、彼の気配が前に出た。
「失礼します、嬢」
そう前置きしてから、彼は手を差し出した。
「この先、段差があります。手を」
リリアは、迷わずその手に指先を重ねた。
「ありがとうございます、レオンハルト様」
一瞬のためらい。
それから、しっかりと、しかし控えめに握られる。
大きくて、温かい手。
(……安心する)
歩き出すと、彼の手は決して強くはならない。
それでも、離れない。
「怖くはありませんか、嬢」
不意に、そう尋ねられた。
「外を歩くことが、ですか?」
「……はい」
リリアは少し考えてから、首を横に振った。
「いいえ」
彼の足音は一定で、呼吸も落ち着いている。
不安が入り込む隙など、最初からなかった。
「だって、レオンハルト様がいらっしゃいますから」
その言葉に、手に伝わる力が、わずかに変わった。
「それは……務めです、嬢」
淡々とした声。
けれど、魔力の揺れがほんの一瞬、乱れる。
「ふふ。そうですね」
噴水の音が近づく。
水の跳ねる音が、涼やかに空気を満たした。
しばらく沈黙が続いた後、彼が低く呟く。
「……嬢は、不安にならないのですか」
「何が、ですか?」
「顔も、景色も……見えないことに」
リリアは立ち止まり、彼の方へ顔を向けた。
「見えないからこそ、信じられるんです」
「……信じる?」
「はい」
彼の手を、そっと握り返す。
「レオンハルト様の手は、迷っていません。
だから……大丈夫です」
長い沈黙。
やがて、彼が静かに息を吐いた。
「……そう言われたのは、初めてです、嬢」
その声は、ほんの少しだけ、柔らかかった。
手は、まだ繋がれたまま。
それが当たり前のように。
――護衛として差し出した手は、
いつの間にか、離せないものになっていた。
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