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【第1部】第1章 舞踏会

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「マーレット、もう帰るのかい?」

「うん、久しぶりにおじい様と稽古が出来て楽しかったわ」

マーレットは、息を切らして庭の椅子に座っている祖父の姿に、祖父の老いを感じていた。

「マーレット、お前もそろそろ」

「お父さん、帰ってくる度にそれを言っていたら嫌われるわよ」

伯母が、紅茶を持って庭に出てくる。

「ありがとう、伯母、お義母さん」

マーレットは、ぎこちなく言う。

王国騎士団に入団する際に、マーレットは身元を明確にするため、伯母夫婦の養女となったのである。

「マーレット、無理せず好きなように呼んでくれていいのよ」

そう言って笑った伯母の顔は、マーレットが覚えている母の笑顔そのものだった。

「なあ、マーレット。本当に結婚する気はないのかい? あれからもう2年だ。お前も19歳になるのだろう」

祖父は、少し申し訳なさそうに聞いてくる。

「お父さんっ」

伯母が、祖父をたしなめる。

「おじい様、私、心に決めた人がいるの。でも、今はその方と縁がないの。いつか、縁が出来たらおじい様にも紹介するね」

「ああ、しつこく言って悪かった。これからも、時々は元気な顔を見せに来ておくれ」

私は、妹に婚約者を奪われた日以来、男の人の好意を信じないようになっていた。

「さあ、すっかり冷めちゃったけど飲んで。マーレットのために、あの人が入れたのよ」

伯父が、屋敷の中から手を振っていた。

「お、お義父さん、美味しいかったわ」

私は、紅茶を飲みほして、伯父に礼を言った。

伯母は、微笑みながら私に言う。

「仕事の準備があるのでしょう、そろそろ帰らないと。マーレット、おじいちゃんも、私も、あなたに素敵な人が出来るのを楽しみにしているわ」

「その時は、必ず紹介するね。お義母さんも、おじい様も、楽しみにしてて」

祖父は、満面の笑みを見せている。

私は、明日の舞踏会の警護の準備のために、騎士団の宿舎へと戻った。

帰りの道中、私は祖父たちの笑顔を思い出し、申し訳ない気持ちで一杯になっていた。

なぜなら、私は結婚するつもりが無いからである。
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