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1.後宮に上がることになりまして

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 夜も更け、人々が灯りを落とし始める頃。女達がひしめいている後宮では、まだ煌々と灯されたままだ。
 贅を尽くされた後宮にしては簡素な一室で、今日後宮に上がったばかりのミアは小さくため息を吐いていた。


(まさか、私が後宮に呼ばれるなんてね)


 未だに信じられない、とミアは静かに眉を寄せる。
 一応貴族の令嬢といえどミアの父は男爵であり、皇子のお相手をしてお世継ぎを生むべくして集められる後宮に相応しいとは言えない。
 例年通りの後宮であれば、もっと位の高い娘を入れるのが習わしである。

 おかしなことになったものだ、とミアは思考を巡らせた。
 一週間前、突然後宮に上がるようにと使者が送られて来て、父と共にこれ以上ないほどに仰天としたことをミアは思い出す。
 父はまだ幼い後継の弟の代わりに長女のミアを信用して仕事をたくさん任せていた。ミアも喜んで仕事をするような性格で父を助けていたものだから、数日間は随分と右往左往したものだ。
 本当のことを言えば行きたくなかったが、もちろん後宮に向かうことは断れないことであるから、慌てに慌てて基礎的なことだけを学んでここに来たのだ。

 少しだけ習った後宮作法と今まで学んできたこと。それがここでどれだけ役に立つのだろう。
 ミアはそんなことを考えながら、用意されていた装いに袖を通して鏡の前に立つ。
 切り揃えられた黒々とした髪は意志の強さを象徴としているようだし、大きな瞳は目尻が上がっていて凛々しい。おまけに女性にしては背は高い方だ。可愛らしい、というより綺麗だという言葉が似合う。
 美人だとは評価されてきたものの、とっつきにくいタイプであることはミア自身把握していた。これでは皇子のお眼鏡に叶うどころではないだろう。

 意外とすぐに帰れるかもしれない、とミアは密かに笑みを零した。後宮に上がれるなんて名誉なことだと祝われたが、ミアはそうだとは思っていなかった。


(毎夜来るかどうかも分からない皇子を待つだけの日々なんて御免被る。一体なにが楽しいんだか。少なくとも私には向いていない)


 女だらけの場所というのも慣れないし、自分が何の為に存在しているのか分からなくなりそうだ。家で父の仕事の手伝いなんかをしている方がよっぽどマシだろう。
 幸い今日は初日ということもあり、皇子が通ってくる予定だから、少なくとも暇ではない。
 夜、というものがどうなるかはミアには深いことは分からなかったが、こんなことはなってみないと分からないと腹をくくっていた。
 後宮に上がった以上、清らかなままで出られるとは思っていない。仕方のないことだ。一応の教育は受けて来たのだから、後は神のみぞ知るというやつだろうと思っていた。


(それにしても、やはり今の第一皇子はどこかおかしい)


 決して口に出しては言えないことをミアは頭の中で巡らせていた。
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