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13.もう一度、最初から。
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「それに今ならただ通うだけで喜んでもらえているが、正妃となればきっと次は子供だと急かされるだろう。それは嫌なんだ」
「それは、まあ言われるでしょうね」
「……知っているか。王族に生まれただけで命を狙われることがしょっちゅうある。時期国王に上げたい皇子が他にいるからと、自分も幼い頃に暗殺されそうになった事もある。あまりよく覚えていないが、とても怖かったことだけは覚えている」
その声色は怯えているというより達観しているようにも聞こえたから、ミアは遠くを見るような目をしている皇子の顔を見つめてしまった。
「自分の子供もそんな危険な目に合うのだろうと思うと、この世に呼んでいいのだろうかと思う。剣の腕も良くないし、子供を守ることも出来ない親の元に。きっと辛い思いをする」
悲しげな口調の皇子にミアは小さく笑いかけた。皇子の視線がミアに止まる。ぶつかり合った視線は逸らされなかった。
「殿下、そのお話、ちょっと待ってもらえませんか」
「もちろんだ。その、まだ気持ちも決まってないのにこんな事を言ってしまって申し訳ないと思っているし」
「いいえ、そうではなくて。私も話したいことがあるので、それを話すまでは待ってもらいたいのです」
少々不躾な事かもしれませんが、とミアが前置きすると、皇子は構わないと首を振った。
「殿下は争い事はお嫌いなのですよね」
「……ああ、嫌いだ」
眉を寄せて頷く皇子にミアも頷き返す。
「殿下のいう争いを避けるためには、きっとこの後宮制度そのものに考え直さなければいけない点があるのだと思います。そしてそれを変えられるのは国王だけでしょうし、こう言ってはなんですが、現国王には期待できないかと」
「ああ、父が後宮解体を試みることは無いだろうな」
それならばその機会は次の国王が誕生するまで待たれることになる。
「私は政治にはあまり興味がありません。そもそも女にそういうことを決める権利が残念ながらないので、無駄なことは考えません、悔しくなるので。だから誰が次期国王になるべきとか、そういうことは私には分かりません。でも、色々なことを学ぶのは好きです。それは自由ですから。今まで学んできて分かったことがあります」
「それは、なんだ」
「国王には優しい人がなるべきです。民のことを考えられる優しい人が。争い事を嫌って傷つく人を減らせるのは優しい人です」
ミアは笑って皇子を見つめた。ひどく優しい笑みだった。
「殿下は優しい人だと、私は思います」
それだけは確かだとミアは笑う。まだ交わした言葉は多いとは言えなくて、触れたこともなくて、それでもそれは確かなことでミアはそんな皇子に少しずつ惹かれていた。
「それに殿下が剣を扱えなくても、私には多少の心得があります。これからもっと学んでもいいです。自分の子供を守れるくらいは強くなれると思います」
ミアの言葉に皇子は驚きのあまり目を丸くして、それから言葉を探すように目を彷徨わせて口を開いた。
どんな言葉を告げれば気持ちに応えられるのかも分からなくて、それでも必死で言葉を紡ぐ。
「もう一度、その、最初から、あの日の夜のことから、やり直してもいいだろうか」
では約束は破棄しなければいけませんね、とミアがしれりと告げる。
皇子とミアはしばし顔を見合わせてそれから互いに小さく吹き出した。
出会った頃からは想像出来ない軽やかな笑い声がまるで後宮の隅々にまで響き渡るようだった。
「それは、まあ言われるでしょうね」
「……知っているか。王族に生まれただけで命を狙われることがしょっちゅうある。時期国王に上げたい皇子が他にいるからと、自分も幼い頃に暗殺されそうになった事もある。あまりよく覚えていないが、とても怖かったことだけは覚えている」
その声色は怯えているというより達観しているようにも聞こえたから、ミアは遠くを見るような目をしている皇子の顔を見つめてしまった。
「自分の子供もそんな危険な目に合うのだろうと思うと、この世に呼んでいいのだろうかと思う。剣の腕も良くないし、子供を守ることも出来ない親の元に。きっと辛い思いをする」
悲しげな口調の皇子にミアは小さく笑いかけた。皇子の視線がミアに止まる。ぶつかり合った視線は逸らされなかった。
「殿下、そのお話、ちょっと待ってもらえませんか」
「もちろんだ。その、まだ気持ちも決まってないのにこんな事を言ってしまって申し訳ないと思っているし」
「いいえ、そうではなくて。私も話したいことがあるので、それを話すまでは待ってもらいたいのです」
少々不躾な事かもしれませんが、とミアが前置きすると、皇子は構わないと首を振った。
「殿下は争い事はお嫌いなのですよね」
「……ああ、嫌いだ」
眉を寄せて頷く皇子にミアも頷き返す。
「殿下のいう争いを避けるためには、きっとこの後宮制度そのものに考え直さなければいけない点があるのだと思います。そしてそれを変えられるのは国王だけでしょうし、こう言ってはなんですが、現国王には期待できないかと」
「ああ、父が後宮解体を試みることは無いだろうな」
それならばその機会は次の国王が誕生するまで待たれることになる。
「私は政治にはあまり興味がありません。そもそも女にそういうことを決める権利が残念ながらないので、無駄なことは考えません、悔しくなるので。だから誰が次期国王になるべきとか、そういうことは私には分かりません。でも、色々なことを学ぶのは好きです。それは自由ですから。今まで学んできて分かったことがあります」
「それは、なんだ」
「国王には優しい人がなるべきです。民のことを考えられる優しい人が。争い事を嫌って傷つく人を減らせるのは優しい人です」
ミアは笑って皇子を見つめた。ひどく優しい笑みだった。
「殿下は優しい人だと、私は思います」
それだけは確かだとミアは笑う。まだ交わした言葉は多いとは言えなくて、触れたこともなくて、それでもそれは確かなことでミアはそんな皇子に少しずつ惹かれていた。
「それに殿下が剣を扱えなくても、私には多少の心得があります。これからもっと学んでもいいです。自分の子供を守れるくらいは強くなれると思います」
ミアの言葉に皇子は驚きのあまり目を丸くして、それから言葉を探すように目を彷徨わせて口を開いた。
どんな言葉を告げれば気持ちに応えられるのかも分からなくて、それでも必死で言葉を紡ぐ。
「もう一度、その、最初から、あの日の夜のことから、やり直してもいいだろうか」
では約束は破棄しなければいけませんね、とミアがしれりと告げる。
皇子とミアはしばし顔を見合わせてそれから互いに小さく吹き出した。
出会った頃からは想像出来ない軽やかな笑い声がまるで後宮の隅々にまで響き渡るようだった。
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