君においしい料理を作りたい!

蒼キるり

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2.眠る幼馴染に

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「亜子、起きてるか?」



 食材を詰め込んだスーパーの袋を片手に持ち、俺はずかずかと亜子のいる部屋へと上がり込んだ。
 預かっている合鍵を使って亜子の住むアパートの一室に入るのも慣れた。
 さすがにこの歳になって一人暮らしをする異性の部屋に上がり込むのはどうなのかと考えたこともあるが、一人ではろくに食事もしない亜子を放っておくことなんできないのだから仕方ない。
 亜子の両親には許可を得てあるし、むしろよろしく頼むと頭まで下げられている。
 亜子が高校生の頃に遠くの美大に入りたいと唐突に宣言して、亜子が一人暮らしなんて心配だと思った俺が「じゃあ俺もそっちの大学に行きます」と言ったら泣いて感謝されたのも記憶に新しい。


「亜子、こんなところで寝るなって」


 画材道具が散らばる部屋の真ん中辺りの床に、大量のデッサンに埋もれるようにして亜子は眠っていた。
 寒い季節になってきたからか、申し訳程度に毛布に包まっているけれど、風邪でも引くんじゃないかといつも冷や冷やする。
 出来ればきちんとベッドで寝てもらいたいんだけどなぁ、という小言くらい許してもらいたい。


「亜子、亜子。もう夕方だぞ」


 肩の辺りを揺さぶると、亜子は抵抗するかのように緩慢にゆるゆると首を振った。
 亜子の寝起きの悪さには俺も慣れたものだから、亜子が精一杯の抵抗を見せようと気にも留めない。
 俺が諦めずに肩だけでなく身体全体をぐらぐらと揺さぶり始めたところで、亜子はようやく薄っすらと目を開けた。


「……うー、りょーた?」


 寝起き特有の子どもっぽい声で甘えるように名前を呼ばれた。胸がぎゅっとなる可愛さはずるいと思う。口にはしないが。
 柔らかな猫っ毛が亜子の自由奔放さを表すようにぴょんぴょんと跳ねている。
 仕方ないなぁ、と思いながら、その寝癖を直すように軽く整えてやる。
 そして二度寝をしてしまわないように再度声をかける。


「亜子、起きろ。晩飯食うぞ」


 んー、と返事だか呻き声だか分からない声を上げながら緩慢な動作で亜子は起き上がった。
 それから毛布のなくなった寒さからかもぞもぞと引っ付いてくる。猫のような仕草だ。
 その無防備さを見ていると誰にでもやってるんじゃないだろうなと俺としては気が気じゃない。
 まあ亜子は案外人見知りなところがあるから、気を許されているんだろうと思えば悪い気はしないけども。


「亜子、風呂入ってこい。その間に飯作っとくから」


 さむいー、と呻く亜子をべりっと引き離してそう言う。ちょっとドキドキするからやめなさいってば。
 亜子は不満気な顔をしながらもしぶしぶ頷いて、それからこてんと小首を傾げた。


「今日のご飯、なに?」
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