続きは第一図書室で

蒼キるり

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7.悩む

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 あの時、なんと応えれば良かったんだろう。
 家に帰ってからもモヤモヤした気持ちが晴れるはずもなく、自室でぺらぺらと教科書をめくりながら考えるのは、放課後に浩也にされた事。
……キス、されたんだよなあ、俺。
同級生の男の友達に。
 もっと全力で拒否すれば良かったんだと今なら思う。俺が全力で押し返せばあんな事にはならなかった訳だし、そもそも嫌って言ったら浩也が無理矢理するはずもないし。
いや、てか俺が練習続けろって言ったんだよ。
 なのに、あんな怒ってるような態度取って……最後なんか返事もしなくて。
 いくら浩也でも怒るよなぁ。いくらキスされてびっくりしたからってアレはない。
 そりゃまさかキスされるなんて思わなかった訳だけど……浩也なりに色々考えてくれた訳だし。
 あー、でもまた明日って言ってくれたって事は、明日も第一図書室行って良いってことか。
 ……あの時、なんて応えれば良かったんだろう。明日なって言えば良かったのか。
 そんな事より、練習続けろって言わないで冗談は程々にしろって言えば良かったのか?
 ……ぐだくだ考えるのは俺の性分じゃないな、と思い直して鞄を引き寄せる。
 英語の辞書を取り出そうとして、見慣れない本が入っているのを見つけた。

「なんだ、これ」

 中から出すと今日、放課後に浩也に見せられた例の本だった。
 ……なんで入ってるんだ?
 入れたっけと思い出してみると、そもそも俺が読んだ後は浩也の手に渡った。
 という事は浩也が鞄を手渡してくる前に入れたんだろう。何考えてるんだか。

「読めってことか?」

 淡々と俺にこの本を渡してきた浩也の顔を思い出す。何考えてるかわかんないけど、そういう所も俺は面白いと思う。この本を入れられてちょっと笑ってしまうくらいには、あいつの事気に入ってるんだな、と唐突に思った。
 だから、キスされた時も拒否できなかったのかもしれない。
 その時、廊下からぱたぱたと足音が聞こえた。一瞬母さんが帰ったのかと思ったけど、今日は夜勤だからそんな筈ないなと思い直す。
 程無くしてコンコンとノックがあって返事をする前に開けられた。
 制服のブレザーを脱いだだけの着替えもしてない様子で入って来る。

「美奈、お前それノックする意味ないから」

「お兄ちゃん、文系だっけ理系だっけ。英語で分かんないとこあるから教えて」

「……中一の範囲くらいどっちでも教えられるだろ」

 見せてみと手招きするとまだ真新しい教科書とシャープペンシルを抱えて入って来る。

「私の座るとこは?」

「お前、兄に立てっていうのか?」

 この狭い部屋で椅子が二個も三個もあると思うなよ。机と椅子とベッドで一杯一杯だからな。

「ま、いいや。……これなに」

 なにが?と尋ねる前に美奈の手にあるのが先ほどの本だと分かって、うわ!っと声を上げる。
 まずい、まずい、まずい。この本、美奈に見せたと分かったら母さんに大目玉食うぞ。
 慌て過ぎて変な所に考えが行く。
本を取り上げて誤魔化そうとしたものの、手を伸ばした途端、さっと避けられる。本は手離していない。
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