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14話 悪くない
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私はここで待っていてと日向に言って、一人で日向の教室にやってきた。
運の良いことにあの人たちはまだ教室にいた。
つかつかと私は真っ直ぐにその人のところへ行く。
途中で気づいたらしく、お互いに声をかけてにやにやと笑っていたけど私の知ったことではない。
「日向に意地悪するの、やめてくれない?」
この人達の前でこんなに大きな声を出せたのは初めてだった。
教室の中がしんと静まり返るのがわかった。
みんなが私のことを見ていた。
そのことを怖いと思っていないわけじゃない。
怖いけど、すごく怖いけど、私は今、引き下がるわけにはいかなかった。
「日向が貴方達に何か酷いことを一度でもした? してないなら、貴方達もしないで。もし貴方達が私と日向が一緒にいることを見るだけで嫌だと言うなら、文句は全部私に言って」
私がそう言った途端、その人が私の目の前で立ち上がった。
私よりずっと大きな人。その人が私を見下ろしている。
怖い。怖いけど私は引き下がらない。
これが日向の見ている、いつも感じている世界だから。
「お前、あいつがクラスでどんだけ浮いてるか知ってるか?」
口角は上がっていたけど、目は笑っていなかった。
静かな怒りにも似たそれが私に向けられていた。
「変なところしかないあいつと仲良くする奴なんて一人もいないんだよ。いっつも一人で、可哀想になるよ」
「だから、なに」
「俺たちは心配してやってるんだってことだよ」
なあ、そうだろう。そう仲間達に言って、その人達はけらけらと笑って、私が一人だからと、弱いからと、馬鹿にしていた。
私と日向を確かに馬鹿にしていて、この人達にとって私達はその時の暇を潰せるようなものでしかないのだろうと思った。
それがこの人達にとっての事実かそうでないかは関係ない。私はそう感じたのだ。
なら私が怒るのも、意見するのも、自由だろう。
「心配とか日向の為とかそういう建前があれば何しても許されるって思ってるの?」
あなたのために言っているという言葉が人をどれだけ人を傷つけるかということもこの人達は知らない。
もしかしたら自分がおかしいのだろうかと一瞬でも考えてしまう苦しさを、不条理さを、どうかこれ以上日向に与えないで。
「そんな貴方達が楽になるためだけの免罪符で日向を傷つけないで」
私の言葉にその人がとうとう本当に怒りを覚えたのが分かった。
一歩私に詰め寄ってくる。私は真っ直ぐにその人を見ていた。
恐怖は全部しまい込んだ。
それなのに、その時、不意に背後から強く手を引かれた。
「紗穂ちゃん、やめて。もういいよ」
聞き慣れた声に驚く。部室で待っているように言ったのに。
慌てて振り向くと、日向は真剣な顔をして、私を止めさせようとしていた。
私はまだ何も出来ていないのに。
「でも、このままじゃ、日向はずっと傷つく」
自分に言い聞かせるように私は言った。
さっきまで真っ直ぐ立っていられたのに、日向の顔を見ただけで足元が揺らぐ。心が揺らぐ。
こんなところにいるのは怖いと、心が喚く。
「僕は、紗穂ちゃんが傷つくのも嫌だよ」
日向の必死の言葉に私は目を見開いた。
思ってもいないことだった。
私が日向を守りたいと思っていて、それを日向も同じように思っているなんて。
「誰かに分かってもらえなくていいよ。何を言われてもいい。放っておけばいいよ。こんな人達」
それがいつも黙って耐えてきた日向の精一杯の抵抗だと、私には分かった。
どれだけの勇気と共に出されているか、この場にいる誰より私がわかっていた。
「紗穂ちゃんが分かってくれてるならそれでいい」
その時、私の目には日向しか映っていなかった。日向の目にも私しか映っていない。
「僕には紗穂ちゃんがいればいい」
日向の手が私の手を優しく包み込む。
その昔と違う手は、それでも間違いなく日向のものだった。
「でも日向はなんにも悪くない」
「紗穂ちゃんだって、なんにも悪くないよ」
私の泣き言に間髪入れずに返事が返ってくる。
「ただ、僕らのことを分かってくれる人達が、この世にうんと少ないだけだよ」
どうして、どうして分かってくれないの、と心の中の幼い私がどこかでずっと叫んでいて、それを日向が見つけてくれた気がした。
世間はおかしなくらい私達に非情で、違うものをすくに攻め立てて、そうして一つに纏めてご満悦に笑うのが私達には合わないというただそれだけのことを誰かに認めて欲しかった。
「僕達は悪くないよ」
日向のその言葉がずっと欲しかった。
運の良いことにあの人たちはまだ教室にいた。
つかつかと私は真っ直ぐにその人のところへ行く。
途中で気づいたらしく、お互いに声をかけてにやにやと笑っていたけど私の知ったことではない。
「日向に意地悪するの、やめてくれない?」
この人達の前でこんなに大きな声を出せたのは初めてだった。
教室の中がしんと静まり返るのがわかった。
みんなが私のことを見ていた。
そのことを怖いと思っていないわけじゃない。
怖いけど、すごく怖いけど、私は今、引き下がるわけにはいかなかった。
「日向が貴方達に何か酷いことを一度でもした? してないなら、貴方達もしないで。もし貴方達が私と日向が一緒にいることを見るだけで嫌だと言うなら、文句は全部私に言って」
私がそう言った途端、その人が私の目の前で立ち上がった。
私よりずっと大きな人。その人が私を見下ろしている。
怖い。怖いけど私は引き下がらない。
これが日向の見ている、いつも感じている世界だから。
「お前、あいつがクラスでどんだけ浮いてるか知ってるか?」
口角は上がっていたけど、目は笑っていなかった。
静かな怒りにも似たそれが私に向けられていた。
「変なところしかないあいつと仲良くする奴なんて一人もいないんだよ。いっつも一人で、可哀想になるよ」
「だから、なに」
「俺たちは心配してやってるんだってことだよ」
なあ、そうだろう。そう仲間達に言って、その人達はけらけらと笑って、私が一人だからと、弱いからと、馬鹿にしていた。
私と日向を確かに馬鹿にしていて、この人達にとって私達はその時の暇を潰せるようなものでしかないのだろうと思った。
それがこの人達にとっての事実かそうでないかは関係ない。私はそう感じたのだ。
なら私が怒るのも、意見するのも、自由だろう。
「心配とか日向の為とかそういう建前があれば何しても許されるって思ってるの?」
あなたのために言っているという言葉が人をどれだけ人を傷つけるかということもこの人達は知らない。
もしかしたら自分がおかしいのだろうかと一瞬でも考えてしまう苦しさを、不条理さを、どうかこれ以上日向に与えないで。
「そんな貴方達が楽になるためだけの免罪符で日向を傷つけないで」
私の言葉にその人がとうとう本当に怒りを覚えたのが分かった。
一歩私に詰め寄ってくる。私は真っ直ぐにその人を見ていた。
恐怖は全部しまい込んだ。
それなのに、その時、不意に背後から強く手を引かれた。
「紗穂ちゃん、やめて。もういいよ」
聞き慣れた声に驚く。部室で待っているように言ったのに。
慌てて振り向くと、日向は真剣な顔をして、私を止めさせようとしていた。
私はまだ何も出来ていないのに。
「でも、このままじゃ、日向はずっと傷つく」
自分に言い聞かせるように私は言った。
さっきまで真っ直ぐ立っていられたのに、日向の顔を見ただけで足元が揺らぐ。心が揺らぐ。
こんなところにいるのは怖いと、心が喚く。
「僕は、紗穂ちゃんが傷つくのも嫌だよ」
日向の必死の言葉に私は目を見開いた。
思ってもいないことだった。
私が日向を守りたいと思っていて、それを日向も同じように思っているなんて。
「誰かに分かってもらえなくていいよ。何を言われてもいい。放っておけばいいよ。こんな人達」
それがいつも黙って耐えてきた日向の精一杯の抵抗だと、私には分かった。
どれだけの勇気と共に出されているか、この場にいる誰より私がわかっていた。
「紗穂ちゃんが分かってくれてるならそれでいい」
その時、私の目には日向しか映っていなかった。日向の目にも私しか映っていない。
「僕には紗穂ちゃんがいればいい」
日向の手が私の手を優しく包み込む。
その昔と違う手は、それでも間違いなく日向のものだった。
「でも日向はなんにも悪くない」
「紗穂ちゃんだって、なんにも悪くないよ」
私の泣き言に間髪入れずに返事が返ってくる。
「ただ、僕らのことを分かってくれる人達が、この世にうんと少ないだけだよ」
どうして、どうして分かってくれないの、と心の中の幼い私がどこかでずっと叫んでいて、それを日向が見つけてくれた気がした。
世間はおかしなくらい私達に非情で、違うものをすくに攻め立てて、そうして一つに纏めてご満悦に笑うのが私達には合わないというただそれだけのことを誰かに認めて欲しかった。
「僕達は悪くないよ」
日向のその言葉がずっと欲しかった。
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