世間が何を言おうとも、私たちは夫婦です。

蒼キるり

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セックスをしない夫婦

5話

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 緊張、というには些か違うけれど、他に例えようがないから緊張している、という他に例えようがない。
 そんな心地を持て余しながら、私は待ち合わせ場所に向かった。
 大丈夫?と家を出る前に、正樹に尋ねられた。大丈夫、と答えた時に上手く笑えていたかは分からない。
 でも、いってらっしゃいと告げる正樹の顔は相変わらず優しいから、そのことにひどく勇気付けられた。

 きっと大丈夫、と言い聞かせながら、ふわりふわりと落ち着かない自分を宥める。
 その場に着いた時、自分でも不思議なのだけど、この人だと一瞬で分かった。
 こういう格好をしている、と教えられていたからだけではなく、ああきっとこういう人だと腑に落ちる瞬間だった。


「あ、田辺亜子さん。ですか?」


 それはどうやら、相手も全く同じだったようで、目が合った時にすぐさま声をかけられた。
 はい、と存外、するりと声が出た。大丈夫だ、と自然に思える。


「はじめまして。藤崎美香です」


 予め聞いておいた名前を聞かされ、ほっと肩の力が抜ける。
 大丈夫。きっと上手く話せるだろう。いや、上手く、というのは違う。でも、きっと私は思うことを話せるだろうと、その時確信した。


「今日はよろしくお願いします」


 丁寧に頭を下げられる。こちらこそ、と私も慌ててぺこりと頭を下げた。
 藤崎さんに促され、近くのカフェに入る。個室タイプになっていて話を聞かれる心配はないから大丈夫だと言ってくれた。
 出口が近いから、嫌になったらすぐに出てくれて構わないと気遣われる。


「好きにお話ししてもらって大丈夫ですよ」


 各自、注文した飲み物が届いたところで、そう声をかけられる。
 藤崎さんはひどくはっきりと話す人だったけど、それがむしろ心地よい。
 メモを取っても大丈夫かと、丁寧に丁寧に一つずつ尋ねてくれることに安心以外に何をすればいいのか。


「少し尋ねることはあるかもしれないけど、嫌だったら答えなくていいし、自然に思ったことを話してください」

「自然に?」

「ええ」


 藤崎さんが柔らかく笑う。ほんの少し正樹の笑い方に似ている気がした。


「私は自然な人たちを書きたい」


 その笑顔に背中を押された。大丈夫。私はきっと自然な私を晒け出せる。
 ここがどこで、いま目の前にいる人が初対面だということも全部忘れているような気持ちだった。
 昔から、と自然に口が開いた。正樹にもこんなに詳しく話したことはない。怖かったから。でも今なら言える。
 私は今なら、自然な私を受け入れられる。
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