Rotstufen!!─何もしなくても異世界魔王になれて、勇者に討伐されかけたので日本に帰ってきました─

甘都生てうる@なにまお!!

文字の大きさ
117 / 173
第4章 (元)魔王と勇者の憩場に

24話7Part 道化達のお茶会⑦

しおりを挟む
「......ん、と......」


 ここは......どこ?そう小さく呟いた帝亜羅てぃあらの声は、どこか心地よく禍々しい風に軽々と持っていかれた。


「......あら、随分と遅いお目覚めだこと」


 爽やかな緑の草原のど真ん中で目を覚ました帝亜羅の元に、知らない誰かの声が届いた。その方向に視線をやると、なんとも中世っぽい世界観に不似合いなパソコンを膝の上に乗せ、中背の白塔の上から帝亜羅のことを見下ろしている銀髪で色黒の少女が居た。


「......え、あ、あなたは......」


 どこか夜を達観したような大人びた雰囲気を醸し出している少女は、困惑しつつ恐る恐る訊ねてきた帝亜羅の事を見ずに、パソコンのモニターを見たままぶっきらぼうにこう返した。


「......日本、大変ですわよ。今」

「へ?」


 その少女の意味不明な返答に、帝亜羅は思わず声を上げてしまった。その反応に少女は一瞬だけ視線をこちらに向け、再びパソコンのモニターを見遣る。


「とてつもなく大きな海の化け物が、東京湾から上陸したんですの。船を壊しビルを薙ぎ倒しながら、新幹線並の速度でどんどん西に向かっていましたわ。でも岐阜辺りに差し掛かった頃に、忽然と姿を消しましたの」

「......どういうこと、ですか......?」

「......日本が、今まさに宇宙侵略を受けているんですの。化け物こそ消えたけれど、まだ終わってはいないですわよ。早く対処しなければ、さらに多くの命が犠牲になってしまう」

「っ!!」


 多くの命が、犠牲に。宇宙侵略がどうとか海から化け物がとか何1つ状況を読めていない帝亜羅にも、その言葉がどんな意味を持つのかだけははっきりと分かった。

 ......人が死のうとしているのだ。自分には理解のできない、皆にも同様に訳の分からない大きな出来事に巻き込まれて。


「それ、止めないと......!」

「お待ちなさい、奈津生 帝亜羅なつき てぃあら


 それを意識した瞬間、帝亜羅は大きな使命感に駆られ立ち上がり踵を返して走り去ろうとした。が、少女はそれをすっと呼び止めた。


貴方あなた、自分がそれを止められるほど力を持っていない、ただの無力な日本の人間だということを分かって?」

「っ......」


 そうだ。戦う力も護る力も持たないただの人間に、星の間を渡って侵略できるような強大な力を持つ敵相手に何ができるというのだ。

 自分は無力だ。

 非常に弱い存在だ。

 皆に守られるだけの、無力な───......


「......私は、無力な自分は嫌なんです」

「......」


 自分の事を嘲るような視線を向けてくる少女に向かって、帝亜羅はまるで諭すように静かにそう言い放った。

 無力は、もう嫌だ。その気持ちをその一言にぐっと込めて放たれた言葉。それに、少女は圧されも怯みもせずに、ただただこちらを見下ろしている。


「......誰がなんと言おうと、私は行きます」

「......そうですか。なら気をつけておくんなまし、ここの外は結構危険ですから」

「......」


 少女のいかにもな警告も無視して、帝亜羅は草原から歩き去っていった。その背を白塔の上から見ていた少女は、呆れつつ「はあ......」と深く息を吐いた。


「......なんで、臆病なのに変に頑固なところだけ似てしまったのか......わたくしには謎で謎で仕方がないですわ......」


 ぼそりと呟いたその声は、帝亜羅の耳に届く事はなかった。そんな呟きがあった事すら知らない帝亜羅は、深い深い森の中を10数分ほど歩いた頃に、


 ガサガサ......


「......?なに、この音?」


 ふと、近くの茂みから何やらガサガサと聞こえてきた。

 割と大きい音だったので少しビクつきながら近づき、茂みをかき分けようとすっと手を伸ばしかけた時、


 ガサガサッ!!


「わっ!!」


 再び大きな音を立てて茂み全体が大きく揺れ動いた。人か、それぐらい大きな別の生き物か......空間内に大量に設置されている敵やトラップの存在を知らない帝亜羅は、咄嗟にそう考えた。


「え、帝亜羅!?」

「べ、鐘音くん!?それに、梓ちゃんも!?」


 そしてそんな茂みから出てきたのは、下界大悪魔でありながら日本の普通の男子高校生として生活している、ベルゼブブ......こと早乙女 鐘音さおとめ べるねであった。

 やけに警戒していたらしく、相手が帝亜羅だと分かってからも数秒ほど落ち着かない様子でしゃがみこんでいた。

 明らかに普段とは違う格好の鐘音は、帝亜羅と同じようにばったりと会った相手を呆然と見つめている。

 鐘音の背には、気を失っているのか力なくもたれ掛かるあずさの姿があった。どうやら何らかの理由で気を失っている梓を鐘音が背負って移動していたらしい。


「ど、どうしたの?そんなに......け、警戒、して......?」

「あ、ちょっと......ね?......ところで、あの、体に異変とかはない?」

「え、あ!な、ないよ!たぶん......」


 やけに挙動不審な問答をする鐘音に若干の疑いを向けつつ、帝亜羅はとりあえず知っている人と再会できた......それどころか、不安な状況下で想い人&親友と再会できた喜びをひしっと噛み締めた。

 2人で(鐘音は違うかもしれないが)胸を撫で下ろしながら、微かな安堵感にふうっと息を着いた。


「......あら?帝亜羅ちゃんじゃない!!鐘音も!!」

「あ、聖火崎さん!!」


 そんな時、今度は反対側の茂みから複数人の歩く音と声が聞こえてきて、草をかき分けて見た事ある黒紫色の頭がガサッと出てきた。

 その姿を見て、帝亜羅はまたしても驚きと安堵の声を漏らした。


「全く騒がしいったらありゃしない......っだから、煩い!!」

「あんたちょっと落ち着きなさい!!」

「貴様に言われたくはない!!」

「ふ、2人とも落ち着いて下さい!!」


 その後ろから続いて姿を現したのは、いつもとは全く異なる髪の色と肌の色をした或斗あるとと、衣装以外全て普段通りの的李まといだった。

 2人で言い争いながらやってくる聖火崎と或斗をなだめつつ、帝亜羅は3人にとことこと駆け寄った。


「じ、時間がないんです......に、日本が今......う、宇宙侵略を、受けてる?らしいんです」


 そして皆に謎の少女から告げられた言葉を説明すべく、そして急かすべくつっかえながらも帝亜羅は必死で口を動かした。


「それ、誰に聞いたんですか?」

「ぎ、銀髪で、色黒の女の人......です」

「そうですか......」


 帝亜羅からの返答を受け或斗はしばし考え込んだ後に、こう言った。


「ふむ、俺たちをここに閉じ込めた犯人がわかりました」

「えっ」

「ちょっと教えなさいよ!!」


 その発言に、聖火崎と帝亜羅は困惑し慌てつつも或斗に詰め寄る。


「7罪、"嫉妬"のレヴィアタン」

「レヴィアタン......?」


 或斗の呟いた言葉を繰り返しながら、一同は呆然としている。ただ続きを待つ事しかできない。


「はい。攻撃力も防御力も他の大悪魔よりかは低いのですが、幻影魔法と洗脳魔法、それから精神操作や隔離魔法等の特殊魔法にとても長けている大悪魔です」

「なるほど......じゃあ、これもそいつが得意な隔離魔法による誘拐ってわけね。なるほど、空気中の魔力が濃いのもそのせいか~......ってか鐘音、梓ちゃんは無事なのよね?」


 うんうんと頷いたあと、聖火崎は鐘音の方に視線をやって答えを求めた。


「うん。まあ無事だよ。でも早く脱出しないとやばいかも」

「そう、なら早く脱出......そういえば、あなた個別に探索してたのよね?場所とか分からない?」


 聖火崎からの期待と微かな怪しみの念が籠った問いかけに鐘音は軽く視線を泳がせた後、


「ああ......うん。でも、主がいるところは見つけたかも」


 と、少し沈んだ声で返した。その様子は気にも留めず、むしろ自分達にとっては朗報である返答に聖火崎はぱっと顔を上げる。


「本当に!?なら早く行きましょ!!」


 そしてそのまま、「え?え?」状況に追いつけていない帝亜羅と「......?」とただただ困惑する的李の手を引き或斗に着いてこいとジェスチャーして、森の奥へと歩みを進めていった。



 ──────────────Now Loading──────────────


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...