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第4章 (元)魔王と勇者の憩場に
24話7Part 道化達のお茶会⑦
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「......ん、と......」
ここは......どこ?そう小さく呟いた帝亜羅の声は、どこか心地よく禍々しい風に軽々と持っていかれた。
「......あら、随分と遅いお目覚めだこと」
爽やかな緑の草原のど真ん中で目を覚ました帝亜羅の元に、知らない誰かの声が届いた。その方向に視線をやると、なんとも中世っぽい世界観に不似合いなパソコンを膝の上に乗せ、中背の白塔の上から帝亜羅のことを見下ろしている銀髪で色黒の少女が居た。
「......え、あ、あなたは......」
どこか夜を達観したような大人びた雰囲気を醸し出している少女は、困惑しつつ恐る恐る訊ねてきた帝亜羅の事を見ずに、パソコンのモニターを見たままぶっきらぼうにこう返した。
「......日本、大変ですわよ。今」
「へ?」
その少女の意味不明な返答に、帝亜羅は思わず声を上げてしまった。その反応に少女は一瞬だけ視線をこちらに向け、再びパソコンのモニターを見遣る。
「とてつもなく大きな海の化け物が、東京湾から上陸したんですの。船を壊しビルを薙ぎ倒しながら、新幹線並の速度でどんどん西に向かっていましたわ。でも岐阜辺りに差し掛かった頃に、忽然と姿を消しましたの」
「......どういうこと、ですか......?」
「......日本が、今まさに宇宙侵略を受けているんですの。化け物こそ消えたけれど、まだ終わってはいないですわよ。早く対処しなければ、さらに多くの命が犠牲になってしまう」
「っ!!」
多くの命が、犠牲に。宇宙侵略がどうとか海から化け物がとか何1つ状況を読めていない帝亜羅にも、その言葉がどんな意味を持つのかだけははっきりと分かった。
......人が死のうとしているのだ。自分には理解のできない、皆にも同様に訳の分からない大きな出来事に巻き込まれて。
「それ、止めないと......!」
「お待ちなさい、奈津生 帝亜羅」
それを意識した瞬間、帝亜羅は大きな使命感に駆られ立ち上がり踵を返して走り去ろうとした。が、少女はそれをすっと呼び止めた。
「貴方、自分がそれを止められるほど力を持っていない、ただの無力な日本の人間だということを分かって?」
「っ......」
そうだ。戦う力も護る力も持たないただの人間に、星の間を渡って侵略できるような強大な力を持つ敵相手に何ができるというのだ。
自分は無力だ。
非常に弱い存在だ。
皆に守られるだけの、無力な───......
「......私は、無力な自分は嫌なんです」
「......」
自分の事を嘲るような視線を向けてくる少女に向かって、帝亜羅はまるで諭すように静かにそう言い放った。
無力は、もう嫌だ。その気持ちをその一言にぐっと込めて放たれた言葉。それに、少女は圧されも怯みもせずに、ただただこちらを見下ろしている。
「......誰がなんと言おうと、私は行きます」
「......そうですか。なら気をつけておくんなまし、ここの外は結構危険ですから」
「......」
少女のいかにもな警告も無視して、帝亜羅は草原から歩き去っていった。その背を白塔の上から見ていた少女は、呆れつつ「はあ......」と深く息を吐いた。
「......なんで、臆病なのに変に頑固なところだけ似てしまったのか......私には謎で謎で仕方がないですわ......」
ぼそりと呟いたその声は、帝亜羅の耳に届く事はなかった。そんな呟きがあった事すら知らない帝亜羅は、深い深い森の中を10数分ほど歩いた頃に、
ガサガサ......
「......?なに、この音?」
ふと、近くの茂みから何やらガサガサと聞こえてきた。
割と大きい音だったので少しビクつきながら近づき、茂みをかき分けようとすっと手を伸ばしかけた時、
ガサガサッ!!
「わっ!!」
再び大きな音を立てて茂み全体が大きく揺れ動いた。人か、それぐらい大きな別の生き物か......空間内に大量に設置されている敵やトラップの存在を知らない帝亜羅は、咄嗟にそう考えた。
「え、帝亜羅!?」
「べ、鐘音くん!?それに、梓ちゃんも!?」
そしてそんな茂みから出てきたのは、下界大悪魔でありながら日本の普通の男子高校生として生活している、ベルゼブブ......こと早乙女 鐘音であった。
やけに警戒していたらしく、相手が帝亜羅だと分かってからも数秒ほど落ち着かない様子でしゃがみこんでいた。
明らかに普段とは違う格好の鐘音は、帝亜羅と同じようにばったりと会った相手を呆然と見つめている。
鐘音の背には、気を失っているのか力なくもたれ掛かる梓の姿があった。どうやら何らかの理由で気を失っている梓を鐘音が背負って移動していたらしい。
「ど、どうしたの?そんなに......け、警戒、して......?」
「あ、ちょっと......ね?......ところで、あの、体に異変とかはない?」
「え、あ!な、ないよ!たぶん......」
やけに挙動不審な問答をする鐘音に若干の疑いを向けつつ、帝亜羅はとりあえず知っている人と再会できた......それどころか、不安な状況下で想い人&親友と再会できた喜びをひしっと噛み締めた。
2人で(鐘音は違うかもしれないが)胸を撫で下ろしながら、微かな安堵感にふうっと息を着いた。
「......あら?帝亜羅ちゃんじゃない!!鐘音も!!」
「あ、聖火崎さん!!」
そんな時、今度は反対側の茂みから複数人の歩く音と声が聞こえてきて、草をかき分けて見た事ある黒紫色の頭がガサッと出てきた。
その姿を見て、帝亜羅はまたしても驚きと安堵の声を漏らした。
「全く騒がしいったらありゃしない......っだから、煩い!!」
「あんたちょっと落ち着きなさい!!」
「貴様に言われたくはない!!」
「ふ、2人とも落ち着いて下さい!!」
その後ろから続いて姿を現したのは、いつもとは全く異なる髪の色と肌の色をした或斗と、衣装以外全て普段通りの的李だった。
2人で言い争いながらやってくる聖火崎と或斗を宥めつつ、帝亜羅は3人にとことこと駆け寄った。
「じ、時間がないんです......に、日本が今......う、宇宙侵略を、受けてる?らしいんです」
そして皆に謎の少女から告げられた言葉を説明すべく、そして急かすべくつっかえながらも帝亜羅は必死で口を動かした。
「それ、誰に聞いたんですか?」
「ぎ、銀髪で、色黒の女の人......です」
「そうですか......」
帝亜羅からの返答を受け或斗はしばし考え込んだ後に、こう言った。
「ふむ、俺たちをここに閉じ込めた犯人がわかりました」
「えっ」
「ちょっと教えなさいよ!!」
その発言に、聖火崎と帝亜羅は困惑し慌てつつも或斗に詰め寄る。
「7罪、"嫉妬"のレヴィアタン」
「レヴィアタン......?」
或斗の呟いた言葉を繰り返しながら、一同は呆然としている。ただ続きを待つ事しかできない。
「はい。攻撃力も防御力も他の大悪魔よりかは低いのですが、幻影魔法と洗脳魔法、それから精神操作や隔離魔法等の特殊魔法にとても長けている大悪魔です」
「なるほど......じゃあ、これもそいつが得意な隔離魔法による誘拐ってわけね。なるほど、空気中の魔力が濃いのもそのせいか~......ってか鐘音、梓ちゃんは無事なのよね?」
うんうんと頷いたあと、聖火崎は鐘音の方に視線をやって答えを求めた。
「うん。まあ無事だよ。でも早く脱出しないとやばいかも」
「そう、なら早く脱出......そういえば、あなた個別に探索してたのよね?場所とか分からない?」
聖火崎からの期待と微かな怪しみの念が籠った問いかけに鐘音は軽く視線を泳がせた後、
「ああ......うん。でも、主がいるところは見つけたかも」
と、少し沈んだ声で返した。その様子は気にも留めず、むしろ自分達にとっては朗報である返答に聖火崎はぱっと顔を上げる。
「本当に!?なら早く行きましょ!!」
そしてそのまま、「え?え?」状況に追いつけていない帝亜羅と「......?」とただただ困惑する的李の手を引き或斗に着いてこいとジェスチャーして、森の奥へと歩みを進めていった。
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ここは......どこ?そう小さく呟いた帝亜羅の声は、どこか心地よく禍々しい風に軽々と持っていかれた。
「......あら、随分と遅いお目覚めだこと」
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「......え、あ、あなたは......」
どこか夜を達観したような大人びた雰囲気を醸し出している少女は、困惑しつつ恐る恐る訊ねてきた帝亜羅の事を見ずに、パソコンのモニターを見たままぶっきらぼうにこう返した。
「......日本、大変ですわよ。今」
「へ?」
その少女の意味不明な返答に、帝亜羅は思わず声を上げてしまった。その反応に少女は一瞬だけ視線をこちらに向け、再びパソコンのモニターを見遣る。
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「......どういうこと、ですか......?」
「......日本が、今まさに宇宙侵略を受けているんですの。化け物こそ消えたけれど、まだ終わってはいないですわよ。早く対処しなければ、さらに多くの命が犠牲になってしまう」
「っ!!」
多くの命が、犠牲に。宇宙侵略がどうとか海から化け物がとか何1つ状況を読めていない帝亜羅にも、その言葉がどんな意味を持つのかだけははっきりと分かった。
......人が死のうとしているのだ。自分には理解のできない、皆にも同様に訳の分からない大きな出来事に巻き込まれて。
「それ、止めないと......!」
「お待ちなさい、奈津生 帝亜羅」
それを意識した瞬間、帝亜羅は大きな使命感に駆られ立ち上がり踵を返して走り去ろうとした。が、少女はそれをすっと呼び止めた。
「貴方、自分がそれを止められるほど力を持っていない、ただの無力な日本の人間だということを分かって?」
「っ......」
そうだ。戦う力も護る力も持たないただの人間に、星の間を渡って侵略できるような強大な力を持つ敵相手に何ができるというのだ。
自分は無力だ。
非常に弱い存在だ。
皆に守られるだけの、無力な───......
「......私は、無力な自分は嫌なんです」
「......」
自分の事を嘲るような視線を向けてくる少女に向かって、帝亜羅はまるで諭すように静かにそう言い放った。
無力は、もう嫌だ。その気持ちをその一言にぐっと込めて放たれた言葉。それに、少女は圧されも怯みもせずに、ただただこちらを見下ろしている。
「......誰がなんと言おうと、私は行きます」
「......そうですか。なら気をつけておくんなまし、ここの外は結構危険ですから」
「......」
少女のいかにもな警告も無視して、帝亜羅は草原から歩き去っていった。その背を白塔の上から見ていた少女は、呆れつつ「はあ......」と深く息を吐いた。
「......なんで、臆病なのに変に頑固なところだけ似てしまったのか......私には謎で謎で仕方がないですわ......」
ぼそりと呟いたその声は、帝亜羅の耳に届く事はなかった。そんな呟きがあった事すら知らない帝亜羅は、深い深い森の中を10数分ほど歩いた頃に、
ガサガサ......
「......?なに、この音?」
ふと、近くの茂みから何やらガサガサと聞こえてきた。
割と大きい音だったので少しビクつきながら近づき、茂みをかき分けようとすっと手を伸ばしかけた時、
ガサガサッ!!
「わっ!!」
再び大きな音を立てて茂み全体が大きく揺れ動いた。人か、それぐらい大きな別の生き物か......空間内に大量に設置されている敵やトラップの存在を知らない帝亜羅は、咄嗟にそう考えた。
「え、帝亜羅!?」
「べ、鐘音くん!?それに、梓ちゃんも!?」
そしてそんな茂みから出てきたのは、下界大悪魔でありながら日本の普通の男子高校生として生活している、ベルゼブブ......こと早乙女 鐘音であった。
やけに警戒していたらしく、相手が帝亜羅だと分かってからも数秒ほど落ち着かない様子でしゃがみこんでいた。
明らかに普段とは違う格好の鐘音は、帝亜羅と同じようにばったりと会った相手を呆然と見つめている。
鐘音の背には、気を失っているのか力なくもたれ掛かる梓の姿があった。どうやら何らかの理由で気を失っている梓を鐘音が背負って移動していたらしい。
「ど、どうしたの?そんなに......け、警戒、して......?」
「あ、ちょっと......ね?......ところで、あの、体に異変とかはない?」
「え、あ!な、ないよ!たぶん......」
やけに挙動不審な問答をする鐘音に若干の疑いを向けつつ、帝亜羅はとりあえず知っている人と再会できた......それどころか、不安な状況下で想い人&親友と再会できた喜びをひしっと噛み締めた。
2人で(鐘音は違うかもしれないが)胸を撫で下ろしながら、微かな安堵感にふうっと息を着いた。
「......あら?帝亜羅ちゃんじゃない!!鐘音も!!」
「あ、聖火崎さん!!」
そんな時、今度は反対側の茂みから複数人の歩く音と声が聞こえてきて、草をかき分けて見た事ある黒紫色の頭がガサッと出てきた。
その姿を見て、帝亜羅はまたしても驚きと安堵の声を漏らした。
「全く騒がしいったらありゃしない......っだから、煩い!!」
「あんたちょっと落ち着きなさい!!」
「貴様に言われたくはない!!」
「ふ、2人とも落ち着いて下さい!!」
その後ろから続いて姿を現したのは、いつもとは全く異なる髪の色と肌の色をした或斗と、衣装以外全て普段通りの的李だった。
2人で言い争いながらやってくる聖火崎と或斗を宥めつつ、帝亜羅は3人にとことこと駆け寄った。
「じ、時間がないんです......に、日本が今......う、宇宙侵略を、受けてる?らしいんです」
そして皆に謎の少女から告げられた言葉を説明すべく、そして急かすべくつっかえながらも帝亜羅は必死で口を動かした。
「それ、誰に聞いたんですか?」
「ぎ、銀髪で、色黒の女の人......です」
「そうですか......」
帝亜羅からの返答を受け或斗はしばし考え込んだ後に、こう言った。
「ふむ、俺たちをここに閉じ込めた犯人がわかりました」
「えっ」
「ちょっと教えなさいよ!!」
その発言に、聖火崎と帝亜羅は困惑し慌てつつも或斗に詰め寄る。
「7罪、"嫉妬"のレヴィアタン」
「レヴィアタン......?」
或斗の呟いた言葉を繰り返しながら、一同は呆然としている。ただ続きを待つ事しかできない。
「はい。攻撃力も防御力も他の大悪魔よりかは低いのですが、幻影魔法と洗脳魔法、それから精神操作や隔離魔法等の特殊魔法にとても長けている大悪魔です」
「なるほど......じゃあ、これもそいつが得意な隔離魔法による誘拐ってわけね。なるほど、空気中の魔力が濃いのもそのせいか~......ってか鐘音、梓ちゃんは無事なのよね?」
うんうんと頷いたあと、聖火崎は鐘音の方に視線をやって答えを求めた。
「うん。まあ無事だよ。でも早く脱出しないとやばいかも」
「そう、なら早く脱出......そういえば、あなた個別に探索してたのよね?場所とか分からない?」
聖火崎からの期待と微かな怪しみの念が籠った問いかけに鐘音は軽く視線を泳がせた後、
「ああ......うん。でも、主がいるところは見つけたかも」
と、少し沈んだ声で返した。その様子は気にも留めず、むしろ自分達にとっては朗報である返答に聖火崎はぱっと顔を上げる。
「本当に!?なら早く行きましょ!!」
そしてそのまま、「え?え?」状況に追いつけていない帝亜羅と「......?」とただただ困惑する的李の手を引き或斗に着いてこいとジェスチャーして、森の奥へと歩みを進めていった。
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