Rotstufen!!─何もしなくても異世界魔王になれて、勇者に討伐されかけたので日本に帰ってきました─

甘都生てうる@なにまお!!

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第5章 堕天使は聖教徒教会の

31話2Part 晴耕雨読②

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 刹那、未だに宙に浮かされ動こうにも動けないままの領主が、口元をぴくぴくと痙攣させながら沈黙を崩した。


「............は、......お前、勇者にたぶらかされたんだろう」

「はぁ......?」『は?』


 ......今現在、別に不機嫌ではなかった......何なら血を浴びられた事で少しだけ上機嫌だった或斗の顔を、一瞬で歪ませるような言葉を発しながら。


「俺は別に、そういうのには一切興味がないから誑かされたなんてことはない。自分の意思でここへ来たんだ」


 自分の声に重なって聞こえてきた、聖火崎の不快さをありありと滲ませたテレパシーに耳を傾けてからそう答える。

 先程までとは正反対の事をのたまう或斗は置いておいて、苦しげな呻きと咳混じりに領主は続ける。


「けふっ、あ゛っ......あんな奴よりも胸も大きくてそそられる女を、沢山用意してやろう......っごふ、ぅ゛......」


 要するに、夜の相手としてこれ以上ないと評されるような人を沢山用意するから助けてくれ、という事だ。


「どうだ?......ん゛ぼぇ......」

「、......」


 或斗は、その申し出にどこか小馬鹿にされているような感じがして、領主のにんまりとした脂っぽい笑みも相まっての気味の悪さに身震いし、聖火崎の方は、


『はあ゛ぁ゛ぁ゛ん゛?』

「ヤンキーかお前」


 怒気を孕みすぎて逆に嘘臭い声で威嚇しながら、音声だけなのに睨む視線すら届いてきそうな程イライラを乗せたテレパシーを或斗に送ってきている。

 今は頭の中が割とクリアな或斗は、聖火崎に対して冷静にツッコミを入れてから領主の体をまじまじと見つめた。


『私だって結構胸大きい方ですけどぉ?』

やかましい」

『何なら今からでも抱かれにいって逆に意識トばしてやろうかぁ?最中で挿入しいれたたまま気絶してる所をくびり殺してやるよこの中年自己中薄らハゲッ!!』

「ああもう変なとこで煽られるな煩いっ!!」


 聖火崎にはテレパシーでやけに生々しい恨み節を聞かされ、話の内容は理解してないにしろ何かしらを悟ったような顔でニヤニヤしている領主には舐め回すように体を見られ、


「......」


 そんな居た堪れない感じに、ただただ或斗はその場で沈黙していた。

 暫し訪れた場の静寂を崩したのは、またもや領主だった。


「とにかく......男なら誰しも、裸婦を見れば興奮するもの......だから、儂がいいオモチャを......「お前はさっきから何の話をしてるんだ?」

「っ......」


 何か言い遺す事はと訊ねてやったものの、あまりにも想像の斜め上を行く話が、予想以上に長かった。一言二言どころではなく、さらに続けそうな領主の言葉を或斗はすっと遮った。


「......!」

「俺はお前を殺そうと思えばいつでも殺せる。......が、俺が拷問官だということを忘れるなよ」


 もう聞く気もなくなった、それがありありと伝わってくるやや険のある声で堂々と脅しをかけて、領主の首を絞める。

 かふっ......そんな呻きにもちゃんとした呼吸にも成り損ねた空気を吐き出す領主の尻を、鋭い剣の先がつんっとつついた。


「っ......」


 そう言って、指先をくるくると回して大量の武器を操りながら悪戯っぽく笑う或斗は、血塗れなのを除けば可愛らしい小悪魔には見える。

 ......だが、魔王軍で魔王側近の補佐官をやっていて、先程も大量の人間を肉塊にばらしていた大悪魔にはとても見えない。


「、......」


 或斗の、温度の感じられない冷たい視線で射抜かれた領主は、最早もはや口すらも開けなくなった。

 先程剣がつついた領主の尻から血が垂れて、1番最初の雫が地面に落ちて弾けた頃、


「......何も言うことはないな?なら、そろそろ俺達は帰るとしよう。拘束魔法《アインシュクリン》」


 或斗は領主の体を離屋敷の外壁に押し付けて拘束魔法を掛けてから、ゆっくりと領主に歩み寄り始めた。


『ちゃんと領主は片付けてきてよね!!留めは譲ったんだから!!』


 聖火崎の小言を耳に挟みつつ、肩で苦しげに息をする領主の1mほど手前まで移動する。

 そして、


『ちょっと、そこから距離はあるけどそっちに神気媒体の何かがいるわ!警戒してっ!!......ねえちょっと聞いてる!?』

「っ!?」


 聖火崎からの警告を頭にインプットしながら、或斗は領主の唇に思い切り噛み付いた。


「......ふ、」


 目を見開いて固まる領主を横目に或斗は息継ぎを素早く済ませて、獣の捕食のような荒い接吻を領主に送る。


「~~~、ぅ゛っ、~っ!!」

「っぷは、はっ......」

「~~~~~~~!!!!」


 じたばたじたばたと暴れる領主を息継ぎついでに恍惚と眺めてから、再び口を戻す。


「っふ、ぅっ......」

「っ、!!」


 自身の唾液を領主の口内に送るように大量に舌で押して、そのまま領主の口腔に押し入って器用に領主の赤を自身の口内に招き入れる。

 入ってきた舌を軽く甘噛みして、或斗は領主の歯列を内側からゆっくりとなぞってやった。

 ぬちゃ、もちゅ......そんな如何わしい音は盗聴器越しに聖火崎の耳にしっかりと届いており、


『ね、ねえ......あんた今何してんの......?』


 震えた声のテレパシーが頭の中に響いて、僅かだが冷静さを欠いていた頭が冷えて或斗は少しだけ頬を赤く染める。


「......っ、はぁ......はぁ......」

「っぐ、......」


 それから数10秒した後、もう助からないだろう......と、何かに見切りをつけてから或斗は領主の口を完全に解放した。

 互いの口を伝う銀糸をうざったそうにさっと手で断ち切った或斗は、領主の両肩に手を置いてから早々に息を整える。

 そして、目の前で息を荒らげたまま、"何がしたいのか分からない"そう書いてある顔で呆然としている領主へと向けて、冷たく、けれども愉快そうにこう言い放った。


「......ふふふ♪お楽しみ本番は、これからですよ......?」

「っ!?」


 まだこれから殴られるなり蹴られるなりやられるのか、それとも魔法で......いや、それとも今の続き......背筋を走る電流が消え去るまでの0.1秒程で、領主の頭の中はそんな考えが7周は軽く巡った。

 ......火照ほてった顔で妖美な笑みを浮かべられて、目の前で顔の整った17、8歳くらいの青年に、こてん......と首を傾げながら溺惑できわくした表情で言われるのは、同性愛者でない男の領主ですら興奮させられるような光景である。

 そのくらい、場合が場合であれば嬉しい言葉であるような事を言われて、領主は拘束魔法を何とか解かせられないものか、と目の前の青年に対してお願いするべく口を開こうとした、その時だった。


「っぷ、」


 ピシャッ、という音と共に、領主のような口から錆色が飛び出した。

 若干の鉄の匂いと生臭さを帯びたその錆色は白い泡を伴って、こぷ......と口から溢れて顎まで垂れ、その錆色と泡の伝う感覚が領主に液体の存在をありありと認識させてくる。


「がっ、べ!?」


 刹那、領主の心臓がばくばくと強く主張をし始めたかと思うと、次いでズキッと刺されたような痛みが胸に走った。

 手足ががくがくと震え、身体中を絶対零度の悪寒が蝕んでいく。

 汚物の入った事後のトイレに顔を突っ込まれてそのまま殺されるような、ありえないくらいの不快感が伴った息苦しさと胸の圧迫感。

 ......どう考えても、目の前の青年に何かしらやられてこの感覚は襲ってきている。

 なんとかそんな結論を導き出した領主だったが、そんな思考は一瞬で徒労と化してしまった。


「......ふふ♪......楽に、それも比較的短時間で逝かせてあげるんですから、いい所を見せて下さいね......?」

「ぎ、あ゛っ......うお゛ぇぇぇ......」


 青年の言葉が断続的に耳に入ってきて、そちらに意識を向けたくとも向けられない。

 それでも何とかこの苦しさから逃れたくて身をよじって床を這い、領主はいつの間にか拘束魔法を解かれている事にも、無様にも失禁する姿を晒してしまった事にも気付かぬまま、その場に胃の内容物をビシャビシャと嘔吐した。


「ぐ、るじ......ぃ゛、びっ......だぢゅげ、だずっ......ぉ゛え」

「ふふふ、くふっ♪」

「ぉ゛あ゛っ!?ぅ゛、ばべっ......ぃ゛ぎあ゛あ゛......!」

「......はぁ、ふっ......♪」


 惨めな領主の姿に見れて、或斗は緩みきった口許を隠すように手を当てて真面まともを装うように笑ってはいるが、上気して熱を孕んだ吐息は手のガードなどお構い無しに指の隙間から漏れ出ている。


「っあ゛、ぐ......び、ぎ、ぃ゛あ、ぶっ!......、......」

「はは......、............?」


 そんな感じで、1分強ほど領主が這いずり回る様子を眺めていたが、領主は最後に大きな血の塊を吐き出して以降、ピクッ、ピクッと先程までの余韻で体を小さく跳ねさせるだけの生命体と化してしまった。

 最早もはや虫の息で辛うじて生きている生命体に近づいて、或斗は横腹を爪先で軽く小突いてみる。


「......あれ、もう......動かないんですか......?」


 が、何の反応も示さない生命体......汚れた布をまとって血と尿に塗れているただの肉塊領主は、ピクリとも動かなくなってしまった。

 ......死んだ。それを理解した瞬間、或斗は先程までの興奮などまるで嘘のように澄ました顔をして、肉塊の傍にしゃがみ込んだ。


「......うーむ、改めて自分の体が怖くなってくるな。この効き目......」


 そして、そう物惜しげにぼやいてから、自身の手のひらをぼんやりと見つめた。

 ......血、唾液、涙、その他諸々の体液全てが他人を容易く屠る事ができる毒である。それは、或斗の食べたユグドラシルの"種子"が授けた異才のサブ能力であった。

 効果は先程の領主のように、苦痛やら吐き気やら色々で人を人じゃなくしてしまうというもの。皮膚に触れさせるだけでは効果がなく、相手の体内に入ると真価を発揮する猛毒だ。


「唾液なら10ml、血液なら1mlって所か......あ、聖火崎。奴は死んだぞ」

『分かってるわよ......』


 興奮してたり色々考えたりで忘れかけていた聖火崎への報告を済ませると、どこか呆れたような引いたような声のテレパシーがすぐさま返ってきた。

 刹那、


『終わったんなら、もう帰ー......、......』

「聖火崎?どうし「或斗、後ろ!!」

「っ!!」


 聖火崎から警告がなされ、バッと後ろを振り返った或斗の視界に誰かが轟速で突っ込んできた。

 或斗は寸でのところで咄嗟に距離を取ったので怪我こそしなかったものの、先程まで自身がいた所、そして領主の遺体があった辺りは謎の人物の襲撃のせいで砂埃に覆われている。

 数秒ほどしてから砂埃が晴れ、何かしらの文様の載った黒色のローブを身にまといフードを目深く被った人影が、自身を取り囲む黒色のもやに姿を半分ほど隠して領主の遺体の傍らに佇んでいた。

 背に携えた大きな白翼と崩れかけた天使の輪、周囲をひらひらと舞っている白い羽からその人物が天使である事は容易に判断できる。

 フードの端からは薄紫色の髪が1部だけ出ていて、風に乗せられてゆらゆらと揺れている。


『或斗!!或斗!?無事よね?無事なのよね!?』

「......ぁ、ぇ............」


 そんな天使の姿にすっかり目を奪われている或斗は、聖火崎の脳内にうわんうわんと響く呼び掛けテレパシーや、領主の遺体から首から上がなくなっている事にも意識を向けられないでいた。

 ......それ程までに、目の前にその人物がいる事が衝撃的だったのだ。


「......ったく、此奴こいつはとんだ愚か者ですよ、」


 そう言って、天使は右手に握っていた領主の頭を、地面にグシャッと投げ捨てた。


 ガッ、ミヂッ、ミヂピキバリッ、


「......だって、吊られる為とはいえ、」


 そのまま続け様に自身のミリタリーブーツの踵を立てて踏みつけ、


 バキャッ......


「僕のかぁわい~い"弟"に、キスされたんですから」

「っ、」


 頭蓋骨が割れる鈍い音と共に、領主の頭を易々と潰してしまった。



 ──────────────To Be Continued────────────


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