Rotstufen!!─何もしなくても異世界魔王になれて、勇者に討伐されかけたので日本に帰ってきました─

甘都生てうる@なにまお!!

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第5章 堕天使は聖教徒教会の

31話7Part 晴耕雨読⑦

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「え、ああ、いや......向こうの死体も確認しようかなーと思って......あはは、そうよね、あっちのはもうあんた達が確認したんだものねー......」


 アズライールが少年......ルースに気付いて近付いてきたので、聖火崎は慌てて足を止めて取り繕おうとしたが怪しさ全開の答弁となってしまった。


「センパイ、オレ達来たっすけど、もう色々終わってないすか?」


 騎士達の遺体が大量にある中で、ルースがアズライールに視線を向けつつそう訊ねかけると、


「うん、領主モブは死んだし、何か応援でこっち来た南方地方騎士団もこんな感じで............活きが良すぎたから、黙らせたぁ」


 そんなに悪びれもせず、アズライールはさらっとそう答えた。その瞬間、ルースの眉がぴくりと動き、ゆっくりと口が開かれる。


「ちょっとセンパイ!!悪戯に人は殺すなっていっつもオレ達に言う癖に、センパイが1番さくっと悪戯に人殺っちゃってるじゃないっすか!!」

「あーあー、聞こえません聞こえませーん」

「人間が何を言ってきてもどれだけ苛立っても時が来るまでは泳がしとけって、これもセンパイが言ってたんすよ!!」

「えーだって、生意気だったんだもん彼奴らぁ......」

「言い訳すんなっす!!」

「えぇ~......」


(な、なにこれ......とりあえず、今のうちに離れとこうかしら)


 突如始まった敵組織の代表と副代表による言い争いに若干引きつつ、聖火崎は2人から距離を取るべく後ろに1歩、また1歩と歩みを進める。

 だが、


「あず、此奴らは......」


 戸惑いを滲ませた困り顔で、或斗が数人を引連れてやってきたので再び足を止める羽目になってしまった。


「あれ、もう方が付いとるやつやんこれ。ほんなら帰ろうや、腹減ったわぁ......」

「ほらぁ、だから言ったでしょぉ?代表が行ったんだから片付いてない訳ないって。あ、ホノンはステーキがいいなぁ」

「主人殿、もうやること済んだのならレストランにでも行きましょう!自分はぱふぇとやらが食べてみたいであります......!」


 わやわやとアズライールに向かって何かしらを言いながら近付いてくる見知らぬ3人......アズライールと同じ隊服を着ている事から、NeutralGriffの残りメンバーだと思われる人達を、聖火崎はぽけー......っと見つめる事しかできない。


「あ、貴方達も着きましたか」


 ......そこで、3人に気付いたアズライールが次に言った一言に、聖火崎は慌ててポータルスピア転移魔法を展開せざるを得なくなった。


「この方はジャンヌ·S·セインハルトさん。聖弓勇者で、今回南方領主の館を襲った張本人です」

「っ!!転移魔法《ポータルスピア「《ディーエントラッスング》」

「......え?」


 ......しかし、展開しかけたポータルスピアはアズライールの手によっていとも簡単に破られ、聖火崎は目を丸くする。

 そして、それと同時に背中をつつー......っと、悪寒が筋を描くように通っていった。


「......大丈夫ですよ、」


 あ、まずい。聖火崎の方にゆっくりと向き直るアズライールの口許が不敵に歪んだのを見て、聖火崎はそう直観的に感じた。

 ひくりと無自覚の内にひくついた聖火崎の表情に、アズライールはますます笑みを深めていく。


も言った通り、今の僕達に貴方達をすぐに殺すつもりはないですから」

「......」


 ......今、この状況じゃなければ、アズライールのにっこりとした笑顔は凄く人好きのする素敵な表情に見えるものだっただろう。

 ただ、先程圧倒的な異才を見せられた上に、今は完全に此方側が不利。

 聖火崎は、にこやかな笑みから微かに滲んでくるアズライールの"強者"たる貫禄に気圧され気味なのを必死で隠しながら、沈黙を破る。


「......それ、本当に信じていいんでしょうね?」

「はぁ......ベルさん、疑わしいのなら僕をもっと分かりやすく怪しんで下さいよ~。胸の内で渦巻いて表に出てこない疑心暗鬼ほど、良好な人間関係を阻害するものはないんですから」

「っ」


 アズライールの言葉にぴくり、と体が反応してしまう。

 ......察されている。此方が完全に気圧され気味なのも、聖弓·ミストルティンと弱くなっているが一応聖剣·リジル(今は折れた部分を瞬間接着剤で固定してある)を持っているものの、実力的に到底適いそうにないことも。

 自分よりも圧倒的に"強い"人物を目の前にして、本能的な恐怖に震えそうになるのをなんとか堪えていたが、


『......聖火崎?』

『ぁ、あると、よかったぁ......!』

『えぇ......』


 聖火崎の様子を見兼ねた或斗から飛んできたテレパシーに、綿にも縋るような思いそのままに返信していた。

 震える声から本気で安心したような様子が伝わってきたのか、若干引き気味な或斗の嘆声が返ってきて、聖火崎が目の前のアズライールから少し視線をずらすと、心配そうな表情を浮かべる或斗と視線がかち合った。


『聖火崎、お前......大丈夫か?』

『............一応、大丈夫では、ある、けど......』

『けど?』


 小さな針で刺されたような錯覚すら起こしそうな程ピリッとした空気の中、聖火崎は或斗に本音を吐き出すように零す。


『......怖い』

『怖い?』

『......えぇ、怖いわ。何で皇帝みたいなクソ野郎に大人しく雇われてるのか分からないくらい、粗方の敵なら万単位で束になられようが1人でも余裕で殺せるわよ、こいつ。それに、周りにいる奴らも並の兵士なんか準備運動にすらならないレベルの化け物揃いじゃない。ここにいる奴らだけでも、一国の軍に匹敵するぐらいには、化け物』

『......俺も、会ってなかった8000年の間に、まさかここまで変わってるとは......』


 或斗がそう言ったのに、改めて"8000年"という期間が、アズライールと或斗の関係の間に何かしらの"記憶違い"を起こしている事を実感させられる。

 ......1代目聖剣勇者と1代目魔王が戦った壱弦聖邪戦争。"伝説"とも語られる遥か昔から会っていないのなら、何かしらの変化があるのだって自然な事だろう。

 勇者とはいえ、悠久の時を生きる天使よりも、とつてもなく短い一生を抱えた"人間"である聖火崎は、記憶の中では、分かたれた時分のまま止まっていた"相棒"の思いがけない変化に分かりやすく動揺している或斗にそっと同情した。


『......そう、あんたも知らない領域なのね。まあ、そりゃそうか、そうよね。人、3日会わざれば刮目して見よってあるものね』

『......それ、男子、3日会わざれば刮目して見よ、じゃないか?』

『人の変化に男女差なんてないと思うけど......っていうか、細かいことはどうでもいいのよ』


 滲む冷や汗をありありと肌で感じながら、聖火崎はアズライールの方に視線を戻す。


「あ、そういえばあすたろは、僕の異才がなんか前と違うな~って思いませんでした?」

「え、あ、思ったぞ」


 そんな聖火崎の視線の変化に気づいたのか、アズライールが突拍子もなく或斗にそう訊ね、或斗は慌てて頷いた。


「実は僕の異才、"自分が怪我させた相手"じゃなくて"同じ世界線のどこかにいる相手"になら、行使が可能になったんですよ~♪」

「............え?」


 一瞬何を言われたのか分からなくて、或斗は思わず声を上げた。その視界の中で、アズライールを挟んで反対側にいる聖火崎が何かを察して顔をサー......っと青ざめさせているのが分かった。

 或斗が"同じ世界線"、というよく分からない言葉を口の中で反芻させていると、アズライールが再び口を開く。


「いやぁ~、異才って変化するんだなぁって思いましたよ~......だって、"本"にはそんなこと一言も書かれてなかったんですもん」

「同じ世界線、って......」


 聖火崎からの確認のようなぼやきに反応したアズライールは、顎に手を添えて難しそうな表情を浮かべつつ、どこか楽しそうにしている。


「あ、それに関しては僕も完全に理解してる訳じゃないんですけどー......まあ分かりやすく言えば、今僕が全世界の人間を異才不幸付与を使って殺したいな~って思ったら、いつでもできるってことです♪やりませんけど」

「は......?」「え......?」


 とんでもない事をさらっと伝えられて、聖火崎と或斗は困惑をぽろりと口から零してしまった。


「まあ、それは今はどうでもいいんです」


 しかも、そのとんでもない事を"どうでもいい"で片付けながら、アズライールは先程或斗が連れてきた3人の方に視線を向ける。

 戸惑いつつもアズライールの視線を追って、聖火崎も3人の方に視線を向けた。


「んで、彼らが僕の仲間で、NeutralGriffのメンバーです。あと1人は諸事情があってちょっと今来てないんですけどー......」

「ちょ、ちょっと待って」


 そして、当たり前のようにメンバー紹介をし始めようとしているアズライールに、聖火崎は慌てて"待った"をかける。


「はい?どうしました~?」


 にこやかな笑顔のまんま、アズライールは聖火崎の方に向き直った。


「聞きたいこと沢山あるけど......なんであんた、初対面からそんな感じなの?あんたは皇室に雇われてる政府側の人間で、私は、仮にも政府から狙われてる敵なのよ?」

「だからどうしたんです?」

「いや、だって......」


 聖火崎の"何故仮にも敵である私達に対してそんな風にフレンドリーなのか"という問に対して、アズライールは"まるで分からない"という風に首を傾げている。

 よくよく見れば、或斗も特に気にした様子はなく、NeutralGriffの他の面子も今のアズライールの行動というよりかは、聖火崎が何故そんな事を気にしているのかを疑問に思っているらしい。

 聖火崎が周りを見回してみると、或斗やアズライール達はどちらかというと"そこに対して聖火崎が疑問を持っている事が分からない"といった表情を浮かべていた。


「............えぇ......?」


 一同の態度や思考がよく分からず、腑に落ちないような表情の聖火崎に返ってきたのは、


「皇室に雇われている、といっても仕事上の話ですし、別に僕達は皇国政府の意向や方針に対して賛成している訳でも、彼らに完全に肩入れしている訳でもないんですよ」

「え、そうなの?」

「ええ。ほら、例えば......仕事は好きだけど上司は嫌い~とか、学校は嫌いじゃないけどあの先生はちょっと......とか、そういう感じのやつです」

「あー、なるほど」


 アズライールからの結構ちゃんとした弁解と、簡潔な分かりやすい例えだった。

 それに聖火崎は驚きつつも、強い強いと謳われる組織が完全に政府自分の敵の味方と化していない事に少しほっとした。


「はい。寧ろ個人的には、皇国政府の方針にはどうにも納得がいかない部分もありますし......」

「なら何で大人しく雇われてんのよ......」


 聖火崎が純粋な疑問をぽろっと零すと、


「仕方ないんです、色々」

「そう、みたいね......」


 アズライールから"本当は嫌だ"という気迫というか思念というか、そういったものがありありと伝わってきて、聖火崎は本当に嫌なんだな......と痛感する。


「んーまぁ、細かいことはいいじゃないですか!」

「え、めっちゃ気になるんですけど......」

「まぁまぁ、お気になさらず~」


 軽~く流されたのに若干むっとしつつも、聖火崎はアズライールが続きを話すのを待った。

 アズライールの視線は再び先程或斗が連れてきた3人の方へと向けられ、3人のうちの1人......頭に兎の耳が生えた、聖火崎のあまり馴染みのない人種の女性が、視線に気づいてばっと口を開いた。


「あ、ホノンはホノン·ペパルラッタって言いまぁす♪そんなに会うことないとは思うけど、よろしくねぇ」


 そして、それに続いて、


「ウチはアーネスト·グラージェいいます、今後ともよろしゅう......なぁ、この自己紹介いるん?」


 長身でブレザーの学生服のような服を肩から羽織った、白みがかった黄色いねり色の髪の青年と、


「自分はエドワード·オスカーであります!自分もホノンさん同様あまり会うことはないと思いますが、お会いした時には何卒よろしくお願いします!」


 ビビットなネオンブルーの髪にホワイトとレモンイエローのメッシュを入れた青年も、己の名前に軽く1文付け足したものをさらっと述べる。


「は、はあ......よろしく......?」


 戸惑いつつも、聖火崎は一同の顔をもう一度見てから、アズライールの方に向き直った。


「センパイ、終わってるんならオレ達先に戻るっすよ」

「分かりました。僕はもう少ししてから帰りますね」

「ほな、また後でな」

「会議までには戻ってきてねぇ~♪」

「ぱふぇはまた今度食べに行くであります。なので、今日はお土産にちょこれーと、なるものを買ってきて下さい......!では、また後で~!」


 すると、アズライールは丁度NeutralGriffのメンバーを帰している所だったので、聖火崎は彼らの見送りが終わってアズライールが自分の方を見るまでの数十秒程、今日の出来事を頭の中で軽く整理していた。



 ─────────────To Be Continued─────────────


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