雨鴉(あめがらす)の隠れ家 Season4

遊羽(ゆう)

文字の大きさ
4 / 6
第3話

紅い涙のプロトコル

しおりを挟む
台北の夜は、重く湿った空気が肌に張り付く。
隠れ家の狭い室内。
厳がジャマーを起動させ、窓の外に視線を走らせる。
その背後で、湊は李から譲り受けた無骨な端末を床に置き、覚悟を決めたように起動ボタンを押した。

「……湊、無理はするな。何かあればすぐに遮断しろ。」

厳の低い声が、緊張で強張った湊の肩を解く。

20cmの身長差が生む厳の影は、いつだって湊を包み込む避難所だった。

「……大丈夫。この『泣いている龍』の正体、僕が必ず暴いてみせる。」

湊の瞳に、ハッカーとしての鋭い光が宿る。

画面に浮かび上がったのは、黒龍会の紋章に似て非なる、血のような涙を流す龍。それが脈動した瞬間、警告音が部屋に響いた。

『Welcome to the Under-Dragon. The gate is open for 300 seconds.』

「300秒のカウントダウン……。厳、これは招待状であり、試験だ。僕たちが彼らの領域に踏み込む価値があるかどうか、試されてる。」

湊の指が、迷いなくキーボードを叩き始めた。

幾重にも重なる電子の防壁。湊はそれらを、冷徹なまでの正確さで1つずつ解体していく。かつての気弱な書店員だった面影はそこにはない。厳の隣で死線を越え、生き延びるための「力」を磨き続けてきた男の顔だ。

残り100秒。

深層のデータベースへ到達した湊は、そこに並ぶ戦慄のデータを目にした。

「……これ、全部マフィアの資金洗浄ルートだ。……それだけじゃない。この国や日本の、全く無関係な一般人たちの口座が……知らないうちに、巨大な犯罪の隠れ蓑に使われてる…」

「……組織の規模が、想像を超えているな」

厳が傍らに立ち、画面を凝視する。自分たちが平穏を求めて逃げ惑うその裏で、巨悪は音もなく、人々の日常を侵食していた。

「……許せない。僕たちの居場所を奪っただけじゃ飽き足らず、関係ない人たちの人生まで……!」

湊の怒りが、コードに乗り移る。

残り10秒。湊は最後の暗号化キーを解除し、ドライブに全データを吸い上げた。

『Complete』の文字。

と同時に、廊下から統制の取れた、硬い靴音が聞こえてきた。

「……湊、そこまでだ。」

厳が素早く湊を背後にかばい、愛銃あいじゅうのセーフティを外す。

「刺客か?」

「ああ。どうやら俺たちの存在が、奴らにとって致命的なバグになったらしい…」

厳が湊の腰を引き寄せ、低く、力強く囁いた。
「離れるなよ。お前を、地獄の先まで守り抜くと決めている」

ドアが内側へ向かって爆砕する。硝煙の向こう、複数のレーザーサイトが暗闇を切り裂いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

処理中です...