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42話
しおりを挟むツキカゲが真彩さんにアプレパイを届けに行かせている間に私は帰る準備をしていた。
と言ってもマントを羽織ってフードを深く被り、まだ残ってるアプレパイを包んでいるだけだ。
まあ…ついでにいい情報を手に入れてくれたら夕食を豪華にするって言ったから帰りは遅いだろうな
それなら先に帰って夕食の準備をしていると念話で送るだけ送るか…
〈ツキカゲ…私は先に帰って夕食の準備をしてるから
今日はフィットチーネを使った濃厚カルボナーラとあんたの好物の刺身をつけてあげるよ〉
まあカルボナーラと刺身は合わないと思うけどね…
ケラケラと笑いながら念話を切ると私は厨房を出ていった。
そういえば…ナザンカと明後日会う約束はしたけど
どこに集合するとか全く決めてなかった
アホだろ私…あれじゃあたまたまあってまた会える日に会いましょうねみたいなすごい軽い女に見られてもおかしくないだろぉ…
「私って…抜けてるよなぁ」
「そうか?
あんなダガーの使い方をするやつは抜けてるとは言わないと思うぞ」
よく言うよねあんたも…
………隣にいるこいつは誰だ?
「…ってナザンカ!?」
「よっ…明後日会う約束はしたけど場所は教えてなかったからな
尾行して職場を突き止めて終わるまで待ってた」
ナザンカはさも当たり前のように言うけどさ…
それってストーカーじゃん
被害届出したら変な目で見られるかな?
「まさか城の厨房で働くなんてな
あそこはとある条件を満たした者からの推薦が無ければ雑用の仕事すらできない場所だぞ
お前が何者なのかわからなくなってきたな」
へー…ナザンカでもわかるってことは常識なんだろうな
まずナザンカのことをよくわかってないから彼をバカにすることは出来ないんだけどね
「何故だろう…誰かにバカにされたような気がするのだが
カーニャ、知らないか?」
「ウンシラナイナー」
カタコトな口調で私は何も考えてませんと主張すれば「そうか…」と呟きながらもこちらをじっと見つめるナザンカさん
あらヤダ怖い
「そうだ…明後日に会う約束はしたけど、場所を決めてなかったね
どこにしようか?」
「そうだな…この都市のメインストリートの真ん中にある噴水が一番わかりやすいかもな
そこでいいか?」
噴水か…そこなら見たことがあるしいいかもな
結果この都市の大通りにある一番大きな噴水が目印となった。
楽しみになってきたな
「あっそうだ…
ナザンカにこれあげる」
ポケットに入っていたある物の存在を思い出してそれを取り出すと私は紙ナプキンに包まれたそれを彼に渡した。
彼の大きな手に乗せられた小さな包みを開くとそこにあったのはまだ温かいバラのアプレパイだった。
「…さっきから強いアプレの実の匂いがすると思ったがそういう事だったのか」
今朝ナザンカに会った時に美味しそうにアプレの実を食べていたのを私はよく覚えていた。
「ありがとうな
俺、昔から甘いものが好物なんだよ」
子供のような笑みを浮かべて美味しそうにアプレパイをその場で食べているナザンカ
甘い物好きは本当のようだ
「気に入ってもらえてよかった…私はこの後夕食を急いで作らないといけないからこれにてドロン…
また会いましょう、ナザンカ」
去り際に顔だけを彼に向けて笑いかけると私はまっすぐ宿に向かって行った。
「おいちょっと待て…宿までついて行く」
「…へァ!?」
不意に肩を掴まれてそう言われたものだから当然声が裏返るほど驚いてしまった。
何故ついて行くんだこいつ…!
ツキカゲはまだ城で情報収集しているからまだ宿にはいないとは思うけど、さすがにこいつの匂いが宿に残ってそれで勘づかれるに決まってる…
あいつ犬よりも嗅覚が優れてるんだもん
「だっ…大丈夫です!
あなたを護衛として雇えるほどのお金を払えませんし…」
「対価?
そんなのこれで十分だ」
私がなんとか言い訳を探したというのにもう十分に払ってもらったと言って前に出したのはアプレパイを包んでいた紙ナプキン
あんなので良かったんか
そうだな…今インベントリにある材料の他に足りない物ってあったか?
卵や乳製品は電子世界で買ってるかるし野菜もお使いのついでに自分達の分も買ったからな…
足りないものは肉だな
「最近、冒険者としての仕事が出来ずに肉とか狩ることが出来なくてね…
だからこれから肉を買いに行かない?」
ニヤリと笑った彼のその表情は一瞬幼く見えた
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