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第2話 母の死
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変化は、突然訪れた。
母が、病に倒れた。
最初は「すぐ良くなる」と言われていた。侍女たちは微笑んで、「女王陛下はお強いから」と私を安心させた。
けれど、日を追うごとに、城の空気は重くなっていった。
「エレオノーラ殿下」
侍女たちの声が、少しずつ硬くなる。
触れられる手が、どこか慎重になる。まるで、壊れやすいものに触れるように。
私は、母の寝室に通った。
「お母さま……」
白い寝台に横たわる母は、以前よりもずっと小さく見えた。いつも結っていた髪が解かれて、枕に広がっている。顔色は白く、唇の色も薄い。
「エレオノーラ……」
かすれた声で、母は微笑んだ。その手が、私の頬に触れる。冷たかった。
「……感じることを、やめてはいけませんよ」
その言葉が、最後だった。
母の手が、枕に落ちた。
侍女が悲鳴を上げた。
私は、何も言えなかった。
涙も、出なかった。
ただ、母の手を握り返すことしかできなかった。
---
## ◆
女王の死は、国を変えた。
そして何より――私を変えた。
葬儀の日、私は黒いドレスを着せられた。ヴェールが視界を遮って、世界が灰色に見えた。
「王女殿下。これからは、軽率な振る舞いは慎んでください」
宰相の声は、優しくなかった。
「感情は、誤解を招きます」
「王女は、象徴です」
「国民は、あなたの強さを求めています」
誰もが、私に"正しさ"を教えた。
けれど、"心"の話をする者はいなかった。
孤児院への慰問は、いつの間にか中止になった。
「なぜですか?」
私が尋ねても、侍女は曖昧に微笑むだけだった。
「殿下には、もっと大切なお役目がございます」
理由は、聞かされなかった。
私は、笑わなくなった。
笑うと、胸の奥が痛んだから。
――あの場所に戻れば、私は、もう戻れない何かを思い出してしまう。
鏡に映る自分の顔が、日に日に硬くなっていく。侍女たちは「お美しい」と言うけれど、私にはそれが作り物に見えた。
そうして私は、少しずつ、少しずつ、
感情を持たない王女へと仕上げられていった。
それが、正しいと信じるしかなかった。
他に、道はなかったから。
---
まだこの時の私は知らない。
あの孤児院で出会った少年が、私を救うために人生を選び直していたことを。
――踊り子になる、という選択を。
母が、病に倒れた。
最初は「すぐ良くなる」と言われていた。侍女たちは微笑んで、「女王陛下はお強いから」と私を安心させた。
けれど、日を追うごとに、城の空気は重くなっていった。
「エレオノーラ殿下」
侍女たちの声が、少しずつ硬くなる。
触れられる手が、どこか慎重になる。まるで、壊れやすいものに触れるように。
私は、母の寝室に通った。
「お母さま……」
白い寝台に横たわる母は、以前よりもずっと小さく見えた。いつも結っていた髪が解かれて、枕に広がっている。顔色は白く、唇の色も薄い。
「エレオノーラ……」
かすれた声で、母は微笑んだ。その手が、私の頬に触れる。冷たかった。
「……感じることを、やめてはいけませんよ」
その言葉が、最後だった。
母の手が、枕に落ちた。
侍女が悲鳴を上げた。
私は、何も言えなかった。
涙も、出なかった。
ただ、母の手を握り返すことしかできなかった。
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## ◆
女王の死は、国を変えた。
そして何より――私を変えた。
葬儀の日、私は黒いドレスを着せられた。ヴェールが視界を遮って、世界が灰色に見えた。
「王女殿下。これからは、軽率な振る舞いは慎んでください」
宰相の声は、優しくなかった。
「感情は、誤解を招きます」
「王女は、象徴です」
「国民は、あなたの強さを求めています」
誰もが、私に"正しさ"を教えた。
けれど、"心"の話をする者はいなかった。
孤児院への慰問は、いつの間にか中止になった。
「なぜですか?」
私が尋ねても、侍女は曖昧に微笑むだけだった。
「殿下には、もっと大切なお役目がございます」
理由は、聞かされなかった。
私は、笑わなくなった。
笑うと、胸の奥が痛んだから。
――あの場所に戻れば、私は、もう戻れない何かを思い出してしまう。
鏡に映る自分の顔が、日に日に硬くなっていく。侍女たちは「お美しい」と言うけれど、私にはそれが作り物に見えた。
そうして私は、少しずつ、少しずつ、
感情を持たない王女へと仕上げられていった。
それが、正しいと信じるしかなかった。
他に、道はなかったから。
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まだこの時の私は知らない。
あの孤児院で出会った少年が、私を救うために人生を選び直していたことを。
――踊り子になる、という選択を。
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